June 4 〜 June 10 2018

”SATC 20th Anniversary & 2 Tragedies”
SATC 20周年の週に起こった2つの悲劇



1998年6月6日に初めてHBOで放映されたのが「セックス・アンド・ザ・シティ(以下SATC)」。 今週の水曜日はその20周年とあって多くのメディアが様々な企画を組んでいたけれど、 そのインパクトが一気に薄れたのが、バッグ・デザイナーのケイト・スペイド(55歳)、セレブ・シェフ/TVパーソナリティの アンソニー・ボーデイン (61歳) の自殺のニュース。
ケイト・スペイドはパーク・アベニューの自宅で、アンソニー・ボーデインはCNNのトラベル番組の収録のために 訪れたフランスのホテルで それぞれ首を吊っているところを発見されているのだった。 ケイト・スペイドについてはファッション・ブランドとして日本に進出して久しいけれど(詳細は特集記事でご覧ください)、 アンソニー・ボーデインは ニューヨークのレストラン、レアールのシェフであるものの 料理の腕よりも 作家&TVパーソナリティとして知られた存在。 2000年に出版された レストラン業界の裏側を描いた著書、「キッチン・コンフィデンシャル」がベストセラーとなったのが そのサクセスのきっかけで 一流のグルメ・レストランもさることながら ストリート・フード、エスニック・フード、ラーメン、居酒屋等 値段に関わらず優秀なフードやそのカルチャーにスポットを当てながら、 多数のフード&トラベル番組を収録。 ベトナムのハノイでは、オバマ大統領と屋台でビールを飲みながらヌードルを食べるなど、セレブリティとのコラボレーションが多かったのが彼。
また昨今では ハーヴィー・ワインスティンからセクハラ行為を受けた女優であり、ガールフレンドでもある アジア・アルジェント(写真下、右側の女性))の#MeToo ムーブメントをサポートしてきたのも彼で、周囲は「まさか彼が自殺を図るとは…」 というリアクションを見せていたのだった。




ケイト・スペイドとアンソニー・ボーデインで唯一共通していた点があるとすれば、 2人とも長く自殺願望を持っていたことに加えて、うつ病に苛まれていたこと。
特にアンソニー・ボーデインは、エクスタシーでハイになった状態で レアールのキッチンに立っていたことを自ら告白しており、 営業時間中に 店のスタッフがイーストヴィレッジのドラッグ・ディーラーのところに走ることは珍しくなかったとのこと。 彼はヘロイン、コカインの中毒を認めており、自殺願望は2005年に妻と離婚してから抱くようになったと伝えられるのだった。
一方のケイト・スペイドは 2014年の俳優、ロビン・ウィリアムスの自殺以来、妹に自殺をほのめかすようになったというけれど、 実際 彼の自殺はアメリカ社会に少なからずインパクトを与えており、その死後4カ月間にアメリカの自殺件数が通常より2000件も増えたという データがあるほど。 それはロビン・ウィリアムスが コメディアンとして人前で明るく振る舞うキャラクターが実は仮面であったという実態が 自殺願望を持つ人々の心に少なからず影響を与えていると言われるけれど、 それと同時にセレブリティが命を落とすと、それが自殺であっても なくても、”死” というものがグラマライズされてしまうのがありがちな傾向。 過去には ニルヴァーナのカート・コベインの自殺後、シンガーのアリーヤの飛行機事故死の後などに 後追いの自殺件数が増えたことが伝えられているのだった。

私が今週特にショックに感じたのは、ケイト・スペイドは私がジャーナリストとしてインタビューをしたデザイナーの1人であったこと、 そしてアンソニー・ボーデインは2回ほどニューヨークのレストランで その姿を見かけていたためで、 どちらも自殺が少ないはずのニューヨーカー。
私がケイト・スペイドに会ったのは 未だ旧姓の ケイト・ブロスナハンを名乗っていたアップ&カミングの時代。 オフィスにあったサンプル・バッグの些細な不備を指摘しながら プロダクションの難しさを語っていた様子を覚えているだけに、 彼女は完璧主義者であったと思われるのだった。

ケイト・スペイドの死後には、ケイトがビジネスを売却する前に自らデザインしたバッグのセコハン価格が急騰。 一方のアンソニー・ボーデインは、前述の著書「キッチン・コンフィデンシャル」が再びベストセラー・チャートにランクされ、 共に追悼のトレンディング現象が起こっているのだった。




今週、この2つの悲劇のせいで影が薄くなった「SATC」20周年であるけれど、 「SATC」があれだけのセンセーションになったのは、当時のニューヨークの女性達が 如何にセックスをオープンに捉えているかが斬新かつ、時にショッキングであったため。 事実「SATC」放映初期には、女性同士が男性のパフォーマンスについてオープンな意見を交わしている様子を初めて知って EDになってしまった自意識過剰な男性が少なく無かったことが伝えられているのだった。

もちろんパトリシア・フィールズがスタイリストを務めた4人のキャラクター達のワードローブも 毎週話題になっていたけれど、主人公のキャリーを演じたサラー・ジェシカ・パーカーが 1エピソード当たりに着用したのは 平均7コスチューム。キャリーの1エピソード当たりのコスチュームだけで コストが約320万円と言われ、 それは今のようにグッチのスカートが8000ドルもするような時代ではなかったことを思うと かなりの金額。 その中には ギョッとするほど悪趣味なものが含まれていたのは周知の事実なのだった。

以前このコラムに「フレンズ」の台詞に人種差別や男女差別が多いことでミレニアル世代から 問題視されていることを書いたけれど、それは「SATC」も然り。特にLGBTQコミュニティに対する意識の遅れや差別の台詞は 今になってから見ると 「何故LGBTQコミュニティがこれに腹を立てなかったのだろう?」と思える部分が少なくないのは事実。 また4人のキャラクターの中で最も結婚願望が強かったシャーロットの台詞も、 ミレニアル世代の若い女性にとっては 後進国の女性の言い分のように聞こえるようなのだった。
それもあってか今週のメディアの「SATC」20周年の記事は ポジティブなものよりも ネガティブなものが多かったけれど、 その中には 「SATC」のキャリーのように生きようとして、人生を無駄にしたという ブロガー転じてリアリティTVスターになった女性の体験談なども含まれていたのだった。




それ以外のメディアのSATC20周年企画が どんなものだったかと言えば、まず写真上はコスモポリタン・ドットコムの コラムニストがサラー・ジェシカ・パーカー 扮するキャリー・ブラッドショーのライフスタイルを1週間 実践してみるというもの。 このコラム二ストは 立て続けのデートで疲れ果てた感想を述べていたけれど、確かに デート・アプリのティンダーも無かった時代に キャリーのペースでデートをするというのは 今の時代からは考えられないこと。
ちなみに写真上一番左、番組のオープニングでキャリーが着用しているピンクのタンクトップ&ホワイトのチュチュはハロウィーン・コスチュームとして 着用されるようになって久しいアウトフィットなのだった。
一方ヴァニティ・フェア誌では、「SATC」の初代プロデューサーのダーレン・スターにインタビューをして、”何でもアリ” の放映局として知られるHBOさえもが 放映を拒否したシーンについての知られざるエピソードを紹介していたけれど、 そのシーンというのは シャーロットのボーイフレンドと 彼の愛犬とのオーラル・セックスという何とも不可解なもの。

私が個人的に興味深く思って読んだのは、 「SATC」の脚本家チームに ”もし2018年に番組を放映するとしたら どんなストーリーを書くか” というシミュレーションをさせた ニューヨーク・マガジンの企画。 「SATC」はニューヨークで実際に起こったエピソードや 女性脚本家チームと その女友達が実際に体験したことが そのままエピソードになっていたことから、脚本家チームはTV版が終了して10年以上が経過した今でも 時々 お互いの周囲で起こったエピソードをシェアして 「こんなストーリーが書けたのに…」と話し合っているとのこと。
ニューヨーク・マガジンでは 2018年版「SATC」の6エピソード分のアイデアが披露されていたけれど、 それによれば キャラクター4人がそれぞれにナチュラル派になって ゴート・ヨガのクラスをトライしたかと思えば、 恒例行事のブランチの際に全員が頻繁にスマートフォンをチェックするのに嫌気が差したキャリーが、 ブランチの最中にはスマートフォンをチェックしないルールを提案。最初は上手く行ったかのように見えたものの スマホ中毒のミランダに禁断症状が現れ、かつてジュース・クレンズでデトックスをしたのと同様に ”テック・クレンズ”を行うというエピソード。 そうかと思えばサマンサがヴァンパイア・フェイシャル(血液に含まれるヒューマン・グロース・ホルモンを使ったフェイシャル)を行って失敗したり、 ブランチの際に 自らの#MeToo 経験談を語り合ったのがきっかけで ミランダが息子、ブレイディのデートに異様なまでに口出しをしてしまうなど、題材は時代に応じてアップデートされている印象。
そのうちの1話では ミランダを演じるシンシア・ニクソンがNYの州知事に立候補したというリアルライフ・ストーリーが盛り込まれていたけれど、 それは夫であるスティーブの協力を得ての立候補。実際のようにレズビアン候補としての出馬ではないのだった。

私がこの企画を興味深く思ったのは、脚本家たちのアイデアが 世の中の出来事という見地からは2018年版にアップデートされているものの、 女性観や社会観、TV番組コンセプトという見地においては 全くアップデートされてい様子を感じたため。 上記の内容だと 既に多くのリアリティTVで白々しく演じられてきたエピソードと大差が無いどころか、 それよりも遅れを取っているというのが正直な感想なのだった。 たとえ題材がアップデイトされても1998年の放映開始当初のような カルチャー的なショック・バリューが無い限りは 視聴者のノスタルジーに頼るしかないのが「SATC」で、それは映画の公開で既に使い果たしたと言える手段。
今ではネットフリックス等で 上質かつショッキングなドラマが数多く制作されているけれど、 それらと比較するにつけ、女性のセックス・ライフを赤裸々に描くだけでは もはや世の中が話題にするようなショック・バリューがもたらせない時代になったと言えるのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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