June 12 〜 June 18
エコノミストが分析するサッカーの PK
ワールド・カップが開幕して1週間が経過したけれど、アメリカ国内で驚きを伴って報じられているのが、
ワールド・カップの視聴率が、前回2002年大会の2倍以上に跳ね上がっていること。
アメリカ・チーム以外の試合の視聴率も至って好調とのことであるけれど、やはりアメリカの試合は他国のゲームより65%多くの
視聴者を獲得しているそうで、このことはアメリカのメジャー・リーグ・サッカー関係者を大いに喜ばせている。
ことに初戦で、チェコに3-0で惨敗したアメリカであるけれど、17日、土曜日の対イタリア戦では、アメリカ選手2人、イタリア選手1人がレッド・カードで、
退場となった後、43分間もの間、アメリカ選手9人がイタリア・チーム10人を相手に同点を守りきったことが、国内では高く評価されており、
過去イタリアに対して1勝も上げたことが無いアメリカにとっては、このことは大きな快挙として受け取られている。
アメリカにとって、今大会 最初で、唯一の得点はイタリアの自殺点であったものの、プレーヤーが1人少ないことを
感じさせないほど、体力を尽くして走り続けたアメリカ・チームの姿に心を動かされたサッカー・ファンは多かったとのことで、
各国のメディアも この日のアメリカ・チームを称えていたことが報道されている。
また、試合当日タイムズ・スクエアの大画面の前で試合を観戦していたニューヨーカーが ことのほか 多かったことも報じられていたけれど、
その一方で、試合中最初のレッドカードとなった、イタリアのダニエレ・デ・ロッシのアメリカのブライアン・マックブライドに対する
肘打ちについては、翌日になっても非難が高まる一方。出血したマックブライドは目の下を3針縫う負傷であったことが伝えられているものの、
その後テープと止血剤で、最後までプレーを続けている。試合後、デ・ロッシはマックブライドに個人的に謝罪をしたそうで、2人の間には
何ら後味の悪い思いは無いと報道されるものの、FIFA側は、出場停止を増やす検討を始めたことが伝えられている。
さて、アメリカ東部時間で、今日18日 日曜、午前9時から放映された日本対クロアチア戦については、
ゴールキーパー、川口のPK阻止が アメリカのTV各局のスポーツ・ニュースが何度もリプレイで放映するほど、
センセーショナルなプレーと受け取られていたものの、
互いのチームにとって苦しい炎天下での戦いであったために、展開がスローな試合になってしまったことが惜しまれていた。
アメリカ国内でのサポーターの盛り上がりが大きく報道されているのは何と言っても韓国で、韓国系移民が真っ赤なチームカラーを身に纏って
スポーツ・バーや韓国料理店に集まって応援する姿は、ニューヨークはもちろん、アメリカ各都市で見られている。
ロサンジェルスでは、レイカーズのホーム・アリーナ、ステイプル・センターに韓国系移民が集結して、応援を繰り広げており、この様子は、
今日18日午後からの対フランス戦の試合中継の合間にも放映されていたものである。
ところで、サッカーには まだまだ それほど関心を示さないアメリカ人ではあるけれど、
ペナルティ・キックに関しては、何年も前から関心を寄せている学識者がアメリカにも居たということが今日、6月18日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載されている。
ペナルティ・キックというのは、ゴールラインから12ヤード離れた位置から、ゴール目指してボールを蹴るというシンプルなプレーであり、
キッカーとゴールキーパーという2人のプレーヤーが下す判断によって、ゴールが決まるか、ゴールを逃すかという2通りの結果をもたらすプレー。
この成功確率に興味を示しているのは、他でもないアメリカのエコノミスト達で、
コロンビア大学、シカゴ大学、UCLAの学者達は1997年〜2000年に掛けてのフランスとイタリアのリーグにおけるペナルティ・キックに関するデータを
共同で分析するというプロジェクトを行っている。
PKの場合、キッカーには、ナチュラル・サイドというものがあり、これは右足で蹴るキッカーが左に向けてボールを蹴ること。
PKの際、キッカーに与えられるチョイスは、このナチュラル・サイドにボールを蹴るか、その逆側に蹴るか、はたまたセンターに蹴るかという3つ。
これを受けるキーパー側も、ボールの速さに対応するために、ある程度ヤマを張って キッカーがボールを蹴った瞬間に、その身体を予測した
位置に動かすものである。
PK戦のように、各チームの5人のキッカーが、代わる代わる 続けてボールを蹴る場合、自分の前のキッカーが蹴った方向との兼ね合いで、蹴る側の
狙いも、キーパー側のヤマの賭け方も変わって来る訳だけれど、分析によれば、どんなに戦略的な工夫を凝らしたところで、
キッカーはゴールの成功確率を上げることが出来ないという統計が得られているという。
具体的な数字を挙げるならば、キッカーがナチュラル・サイドにペナルティ・キックを蹴った場合の成功確率は77%、その逆に蹴った場合のゴール確率は70%。最も確率が高いのはセンターに蹴った場合で、成功率は80%となっており、キッカーはゴール・ポスト内の何処に向って蹴ろうと、
70〜80%の確率でゴールを決めることが出来るし、言い方を替えれば、どんなにキーパーの動きを読んで 蹴る方向を変えたところで、
70〜80%以上の成功率を上げることは 難しい事のようである。
同様のことは、ゴールキーパー側にも言えることで、キーパーがキッカーのナチュラル・サイドにヤマを張って待っていた場合、
ゴールを阻める確率は24%。その逆サイドやセンターを予測した場合にゴールを阻止出来る確率は27%になっており、
キーパーがどんなに相手の動きを読んでも、キッカーが誰であろうと、何処に向って蹴ってこようと、
プロ・サッカー・リーグというレベルでプレーが行われている限り、この確率が飛躍的に上がったり、下がったりすることはないという。
キーパーが24〜27%の確率でゴールを阻止できるということは、単純計算をするならば、
PK戦で5人が蹴ったうちの1回は阻止が出来るということになるけれど、
これにキッカーの成功率が微妙に絡んで、勝敗が決まってしまうのがPK戦というものである。
同様の分析をさらに細かく行ったのが、ブラウン大学の経済学部のイグナシオ・パラコア・ウエルタ教授で、
彼はヨーロッパのサッカー・リーグの1995年〜2000年までの 1400にも及ぶペナルティ・キックを分析しているけれど、
やはり、結果は同じもので、キッカーはナチュラル・サイドに何度蹴ろうと、キーパーが何処に構えようと、ゴール確率は統計通りのものであったという。 しかしブラウン大学の調査は さらに掘り下げたもので、上記期間内に最低30回以上ペナルティ・キックを行ったキッカー22人、
それを受けたキーパー20人のデータを個別に分析することにより、プレーヤー個人のパフォーマンスに法則を見出そうとしたものであった。
その結果、キッカーがボールを蹴る際の決断はあくまでランダムなものではあるものの、やはり何処に蹴ったところで、
各プレーヤーのゴール確率は同じというデータが得られている。とは言っても、同データはリーグ全体ではなく、トップ・プレーヤーを個別に分析しているので、もちろん成功率はリーグ・アヴェレージより高くなっているという。
でも、PKの成功確率は野球の打率のように、選手のコンディションに応じて上下するものではなく、それだけに この数字を
的確に分析することは、試合の行方を変える重要なデータとなることが指摘されるもの。
すなわちPK戦で、キッカーがキーパーにゴールを阻止された場合、蹴った側の不運&失敗、 阻止した側の幸運&力量と見なされがちであるものの、
統計を取れば、有能なストライカーが必ずしもPKには向かないということが明らかになってくる訳である。
記事によれば、現在ワールド・カップに出場している選手で、この分析の対象となったフランス・チームのキャプテン、ジネディーヌ・ジダンは
PKの成功確率が22人中21位の75%。一流プレーヤーでありながら、リーグのアベレージ程度の成功率であるため、
PK戦になった場合、フランスのドメニク監督は「ジダンに蹴らせるべきではない」と記事は警告する。
その一方で、イタリア・チームのアレサンドロ・デル・ピエロのPK成功確率は、調査対象となった22人中2位の91%。
従って、イタリアのリッピ監督はデル・ピエロはPKに起用するべきであるけれど、その一方で、ゴールキーパーのジャンルイジ・ブッフォンは、
分析対象の20人のキーパー中16位の成績で、PKを83%の確率で成功させてしまう、見方を変えれば、ゴールを阻止できる確率が
17%という低さなので、PKになる前に彼を交代させるべきとも指摘する。
こうした数字は、一見 サッカーで賭けでもしていない限り、経済やお金には関係ないと思えてしまいがちなもの。
バスケット・ボールのペナルティ・ゴールのように、阻止される要素が無いプレーの場合は、個人の実力がそのまま
ゴールの成功確率になるだけであるけれど、
サッカーのPKのようにゴールの前にそれを阻もうとするプレーヤーが居て、2人のプレーヤーがそれぞれ 瞬時に下した判断が
結果を分けるという不確定要素が絡む場合、統計分析をしようという学者が出てくるのは 容易に理解できるところである。
でも、終わってみれば統計通りの数字に纏まっていたとしても、試合の度にドラマをもたらし、人々を興奮させるのがサッカーであり、スポーツというもの。
そう思ってふと考えてみると、経済にしても 一般大衆はその動向に 翻弄されて右往左往させられることが少なくないけれど、
実際にはこちらも ほぼ統計で予測された通りに動いていたりするのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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