June 14 〜 June 20 2010




” Blame Game ”


引き続き、アメリカ国民とメディアの最大の関心であり、最大の危惧となっているのがメキシコ湾沿岸での 原油流出事故。
今週は火曜日にオバマ大統領が午後8時から主要ネットワークで、16分間に渡り、ホワイト・ハウスのオーバル・オフィス(大統領執務室) からの 生中継スピーチを行ったけれど、その内容の大半はスピーチを聞かずして予測できるような内容。 でも後半では、エネルギー資源を原油だけに頼らない姿勢が打ち出され、 「新しいエネルギー資源の確保は 新たな仕事を生み出す」というメッセージで締めくくられていたのだった。
その後、大統領は原油流出が始まって50日以上が経過した時点で、BPのCEOで 今や ”アメリカで最も憎まれているイギリス人” と言われる トニー・ヘイワードと、初めての、そして遅すぎるミーティングを行ったけれど、 そのトニー・ヘイワードは、木曜には議会の公聴会で長時間に渡る証言を行っており、その証言内容よりも 彼の疲れた表情のみが印象的となっていたのだった。
既にアメリカでは 9・11のテロを超える大惨事と言われている今回の原油流出事故であるけれど、 自然破壊もさることながら、地元の観光業者、漁業関係者に与える経済的インパクトは、流出を食い止めたところで 数年では回復不可能なもの。
アメリカでは1989年にアラスカ州で エクソンによる原油流出事故が起こっているけれど、当時、この影響で アラスカ州では離婚や自殺、うつ病が増えたことが伝えられており、メディアの専門家は 今回の原油流出の被害を受けた人々に対して 経済的なサポート以外の支援も検討していかなければならないことを指摘しているのだった。


さて、ワールドカップが過去に無く 盛り上がっているアメリカであるけれど、 ワールドカップ報道が やっとワールドカップらしい規模になったと言えたのが、今週金曜に行われたアメリカVS.スロヴェニア戦の報道。
前半まで2-0でリードされていたアメリカは、後半で2-2に追いつき、その勢いでタイブレーカーの3点目が入ったと思った瞬間、 オフサイドが宣告され、ゴールが無効になってしまい、結果は2-2の引き分け。 でもそのオフサイドが 一体 どのプレーに対して言い渡されたかが全く分からないものだっただけに、 同じ引き分けでも先週土曜の対イングランド戦とは異なり、極めて後味の悪い試合結果となってしまったのだった。

これを受けて翌日、土曜日の朝刊はニューヨーク・ポストが写真左のように、レフリーのコールを「CRIME!/ 犯罪!」という大見出しを打った一方で、 ニューヨーク・タイムズ紙も第一面に問題のシュートのシーンの写真を大きく掲載。 TVのスポーツ・ニュースでも このシーンが何度も放映されていたけれど、私が記憶する限り アメリカ人が ワールドカップでこんなに熱くなったのは初めてと言える状態なのだった。

問題のコールをしたレフリー、コマン・クーリバリー(写真右)は、皮肉にもアメリカの建国記念日、7月4日生まれのマリ人で、本職はマリ政府の金融監査官。
彼は大学時代までサッカーをしていたものの、リーグ・プレーヤーとしての経験は無く、FIFAでのレフリー暦は10年。 ワールドカップのレフリーを勤めるのは今回が初めてとのこと。
でも過去に何度も問題のコールをしては サッカー・ファンの怒りを買っており、フェイスブック上には チュニジアのサッカー・ファンによって、 彼を非難するページがクリエイトされているという。
金曜のアメリカ VS. スロヴェニア戦 でアメリカのサッカー・ファン&にわかサッカー・ファンを敵に回した コマン・クーリバリーをターゲットに、 フェイスブック上には この日のうちに 新たに2つの非難ページが開設されているけれど、 その一方で、今回のワールドカップを放映しているABCの解説者がしきりと説明していたのが、 サッカーというのは、フットボール(アメフト)やバスケットボールとは異なり、白黒がはっきりしたスポーツではないということ。 実際、NFLの試合であれば オフサイドの際には それに関わった選手の背番号とファールの種類がアナウンスされた上で、 レフリーによってペナルティが宣告されるシステム。 したがって、それが誤審であった場合でも、観ている側にとってはどのプレーに対してオフサイドが言い渡されたかはクリアになっているわけで、 今回のアメリカ戦のように、ありとあらゆるカメラ・アングルからリプレイを観て、「一体どれが ファールなんだ?」などということは 決して起こらないのである。
ABCの解説者は、「アメリカの決勝ゴールが消えてしまった直後では 気分が悪いかもしれないけれど、 そうした白黒がはっきりしない ”グレー”な部分もサッカーの醍醐味なのであるから、そうした部分も含めて サッカーというゲームを理解しなければならない」と力説していたけれど、その隣で、ABCのアナウンサーが 「そんな馬鹿な!」とでも言いたげな顔で 目を丸くしていた様子は、個人的にとても印象に残ったのだった。

FIFAでは、レフリーに対してゲーム終了後にレポートを出すことを義務付けており、そのレポートはビデオと共に検証されることに なっているというけれど、今回のアメリカ戦の結果がどうあれ、FIFAでは物議を醸すようなコールをしたレフリーには ペナルティこそは与えないものの、今後の試合のレフリーは務めさせないというのが一般的な措置。
またFIFAではレフリーの年齢の上限を40歳としており、現在39歳のコマン・クーリバリーは この試合を最後にレフリー引退になることは ほぼ間違いなしの状態なのだった。


ところで ワールド・カップというと、ニューヨークでは移民を中心にウォッチ・パーティーが行われてきたのが これまでであったけれど、金曜のアメリカ戦は平日午前中にも関わらず、スポーツ・バーなどでアメリカ戦のウォッチ・パーティーが行われており、 「まだ失業率が高いから?」などとも言われていたのだった。
かく言う私は、今日日曜は 朝の10時半から放映されていたアズーリ(イタリア・チーム)のゲームのウォッチ・ブランチに出かけていたけれど、 結果は北朝鮮と並んで 勝率2000分の1とニューヨーク・ポスト紙に予測されていたニュージーランドを相手に まさかの引き分けという、イタリアとしては負けに等しい結果。なので、 来ていたゲスト達はエスプレッソとプロセッコ(イタリアのシャンパン)を 交互にがぶ飲みしながら、腹を立てていたのだった。
そのゲスト達は、私が日本人だと知ると 口々に「今回、日本は頑張ってるよ」と言って日本チームをかなり褒めてくれていて、 「ワールド・カップでは2回引き分けるより1回勝って1回負ける方が、ポイントが高いだけでなく、はるかに価値がある」と 2回の引き分けに甘んじているイタリア・チームへのフラストレーションを感じさせるコメントをしていたのだった。
さらに彼らに言わせると、日本のカメルーン戦の勝利もさることながら、オランダ相手に1-0という結果は、引き分けに等しいのだそうで、 私もオランダ戦は最初から最後まで見ていたけれど、試合としての面白さは別として、3〜4点差で日本を下せると たかをくくっていたオランダ・サポーターの思惑が外れるゲーム展開は、期待以上と言えるものなのだった。
今週は、これに止まらず、サッカー・ファンが多いダイヤモンド・ディストリクトに出かけても、日本の勝利を盛んに祝福されたけれど、 「ホンダのゴール、良かったね〜」などと、 自動車メーカーの名前と同じで覚え易いのか、本田選手を名指しで褒めるコメントを 随分聞いたのだった。

さて、今回のワールドカップはアンダードッグ(実力が下と見なされているチーム)が大健闘していることが指摘されているけれど、 その要因として イタリア、イングランド、フランスなど、本来のサッカー・エリート国がこぞって文句を言っているのが、今大会のために アディダスがデザインしたボール。
アディダスでは1970年からワールドカップのために新しいボールをデザインしてきており、 ズールー語で、” To Celebrate / 祝福する ”という意味の ”Jabulani / ジャブラニ ” とネーミングされた 今回のボールは5年の歳月と50人のデザイナーによってクリエイトされたもの。
ボールにフィーチャーされた8本のストライプは化繊素材で、ステッチではなく、焼き付けられており、 ボール全体は細かい凹凸で覆われているという。 クリエーターはこの凹凸のお陰で「ボールが空中で安定し易い」と語っているけれど、プレーヤー達は 逆に 「空中で予想外のカーブをする」、「以前のモデルより空中での動きが早い」と語っており、 「史上最悪」、「恥ずべきボール」というリアクションを示しているのだった。
このボールの価格は150ドル、レプリカは20ドルであるというけれど、 高度なテクニックとスピードでプレーをするチームほど、ボールのディスアドバンテージに苦しむ結果になっているというのが、 クリティックの見解。
また開幕から25試合で、今大会が 過去最低の得点を記録している理由も このボールにあると言われているのだった。

ボールやレフリーの問題はさておき、 私が個人的にワールドカップが楽しいのは、しばらく連絡を取っていなかったサッカー・ファンの友達と 頻繁にワールドカップ絡みの携帯メールが行き来することで、土曜の7時半から始まった日本VS.オランダ戦の際は、 友人からの「Vamos Japan!(スペイン語で ”頑張れ、日本!” Vamosは英語のCome On!)」という 携帯メールで目を覚ましたのだった。
そして日本が敗れた直後には、フランスVS.ウルグアイ戦をケープタウンで観戦して戻ってきたばかりの友人から 「Ahhh Almost! / (うーん、もうちょっとだったのに!)」というメッセージを貰ったけれど、 彼は日本がカメルーン戦で勝利した直後にも 「Well done! Japan!! / 良くやった!日本!」という携帯メールをくれていたのだった。
もちろん、私も友達の出身国のチームが勝っても、負けても、引き分けても 携帯メールを送っているけれど、 FIFAがアメリカで放映している人種差別撤廃のTV広告に登場するメッセージにもあるように、 ワールドカップの意義は、世界各国のフレンドシップとレスペクト(敬意)。
ワールドカップは、同じ時間に複数競技が行われるオリンピックとは異なり、1度に1試合しか行われていないから、 それだけ他国のゲームに関心が行くし、期間も長く、その間に勝ち残っていくチームに対して 感情移入が高まっていくので、決勝では世界中の人々が母国以外の国を応援して熱くなるユニークなイベント。
その意味で、世界各国のサッカーファンが 「本当の意味で ワールドカップと呼べるスポーツ・イベントはサッカーのワールドカップだけ」 と語るのは、非常に納得なのである。

最後に、ワールドカップのせいで若干影が薄かったのがゴルフのUSオープンであるけれど、その3日目に猛チャージを見せて ギャラリーからの喝采を浴びていたのがタイガー・ウッズ。
この日のタイガーと、彼を見守るギャラリーは、スキャンダル前の様相を呈していたけれど、それを受けて スポーツ・メディアが提議したのが、果たしてファンはタイガー・ウッズを許したのか?という問題。
これに対して、ESPNのコメンテーターは「ゴルフのギャラリーは一般のアメリカ人より遥かに根気があって、温厚な人々。 オサマ・ビン・ラディンが出てきてバーディーを取っても 拍手してしまいそうな人々だから、 彼らのリアクションがアメリカのリアクションとは言えない」という見解を語っていたのだった。





Catch of the Week No. 2 June : 6月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 June : 6月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 May : 5月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 May : 5月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 May : 5月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2010