June 11 〜 June 17, 2012

” Political Tactics ”

今週は、オバマ大統領が寄付金集めのパーティーのためにニューヨーク入りしており、 そのうちの1つが6月14日の木曜に、サラー・ジェシカ・パーカー&マシュー・ブロデリック夫妻のウェスト・ヴィレッジの私邸で行なわれた ディナー・パーティーであったけれど、大統領がグラウンド・ゼロからプラザ・ホテル、ウェスト・ヴィレッジなど 大忙しで移動をしたために、 マンハッタン内は交通規制だらけ。
この規制については、事前にニュースで警告はされていたものの、ニュージャージーから マンハッタンのダウンタウンに乗り入れるパス・トレインまでが、 警備のために ほぼ1日中 運行中止になってしまったため、通勤の人々を中心に大迷惑が掛ったのが 今回の大統領のニューヨーク入り。 「大統領がもう一回ニューヨークに来て、こんな交通規制をしたら、(野党の)共和党に投票する」と怒りを露わにするニューヨーカーさえ居たので、 寄付金が集まったとしても、一部のニューヨーカーの心象を損ねていたのは明らかな事実なのだった。

とは言っても、昨今ニューヨーカーの間で最も批難の対象になっている政治家といえば、 ブルームバーグNY市長。
というのも、市長がレストランや映画館などにおける16オンス(473ml)入り以上の砂糖入りソフト・ドリンクの販売を禁止する法案を 通そうとしているためで、これはもちろんアメリカで深刻な問題になっている肥満の問題を改善しようという対策の一環。
アメリカでは、映画館に行けば、日本の缶入りドリンクに相当する12オンスのカップから始まって、44オンス(約1.3リットル)という巨大サイズのカップの ソーダを始めとするソフト・ドリンクが販売されているけれど、 コカコーラを例に挙げれば、12オンス(355ml)に含まれている砂糖の量は39グラム(角砂糖約8個分)でカロリーは140。
多くのアメリカ人が、コカコーラのような砂糖入りのソフト・ドリンクを1日に24オンス以上 飲んでいると言われ、これをやめただけでも1年に5〜10キロの体重を落とすことが出来ることが指摘されて久しいのだった。



そこで、16オンス以上の砂糖入りソフト・ドリンクの販売を禁止し、販売した業者には200ドルの罰金を科すというのがこの新しい法案で、 ブルームバーグ市長は、「それ以上飲みたかったら、もう1杯買えば良いだけ。でも1杯目を飲み終わって、2杯目を買う前に本当に もう一杯飲む必要があるかを考えてもらうのがこの法案の意義」だと説明しているのだった。
同法については、賛成派と反対派が真二つに分かれているけれど、賛成派は歯止めが掛らないアメリカの肥満問題を危惧する人々。 反対する人々は、ラージ・サイズのドリンクの方が価格が割安であるため、その販売を禁止するのは、事実上の値上げに繋がって家計を圧迫するという声もあれば、 この法案が可決されれば、ソーダの次は巨大なハンバーガーなどが どんどん販売禁止処分になって、消費者の自由が束縛されるとして、「そこまで政治が人々の生活に干渉する必要はない」というのが その意見なのだった。

実際に、アメリカ人が肥満になる原因は、ソーダだけではないのは明らかな事実。
例えば映画館に出かけて、巨大サイズのソーダをオーダーするようなアメリカ人が購入するものといえば、 バケツのようなコンテナに入ったポップコーン。 ムービー・シアターのポップコーンはバターがたっぷり掛ったものが多く、最大サイズは何と1200カロリー。 それを、映画を観ている最中に流し込んでいるのがソーダという訳で、最大サイズのポップコーンとソーダで、1700カロリー以上を摂取することになるのだった。

またファスト・フードにしても、とんでもないカロリーのメニューが数多く存在するもの。 以下は、高カロリーでメディアに問題視されたファストフード&大衆レストラン・チェーンのメニューの例であるけれど、 これらが特に例外的とは言えないのがフード業界の実態なのだった。




これらはカロリーが高いだけでなく、それに含まれる脂肪分、塩分、糖分は1日の必要摂取量を遥かに上回るケースが多いもの。 なので、これらに比べれば ラージサイズのソフトドリンクなどは人畜無害と言える存在。 したがって、どうして現時点でラージ・サイズのソーダのみが肥満の原因として批難の矛先にされているのかは理解に苦しむ部分もあるのだった。
ちなみに、日本では”31”でお馴染みのバスキン・ロビンズの上に紹介したシェイクは、 メンズ・ヘルス誌に「史上最悪のファストフード・デザート」と批判されたのがきっかけで、自主的に販売をストップしているのだった。
とは言っても、こんな非常識なほど高カロリー、高脂肪、高糖分のシェイクが商品化されることからして、 アメリカのファスト・フード&大衆レストラン・チェーン業界に 「食べる側の健康を配慮する意識」が欠落しているのは明らか。
こうしたメガ・カロリーのファストフードは、カロリーこそは高いものの、お値段は極めて安価。 したがって、アメリカではファストフード・チェーンや大衆レストランチェーンで食事をするのは中流以下、その殆どが低所得者層であるけれど、 今、アメリカで大きく問題視されているのが、低所得者層を中心とした子供達が、こうしたファストフードを食べて極度の肥満に陥っているだけでなく、 その数が急増しているという事実なのだった。

アメリカでは過去20年間に、子供の糖尿病患者が20%以上増えたという調査結果が得られているけれど、肥満の母親から生まれてきた子供には、 自閉症が多いのに加えて、生まれた時点で既にオーバーウェイトという子供も多く、そのまま肥満の家族と同じ食生活をして、生涯を肥満のまま過ごすというのが、 こうした子供達が歩もうとしている人生。
現代の子供達の世代は医療の進歩のお陰で、本来ならば 150歳まで生きられる初のジェネレーションと言われているけれど、 この深刻な肥満問題のせいで、「アメリカ史上初めて 親より短命になるかもしれないジェネレーション」と指摘されているのだった。



中には、「今の子供達が親より短命になるのは、破産寸前のアメリカの年金制度のためには悪くない」などと、冗談めかしに皮肉る声も聞かれるけれど、 ファスト・フードや大衆レストラン・チェーンの食事で肥満になる低所得者層は、 肥満が原因の心臓病、糖尿病などを十分にカバーするだけの健康保険プランには加入できないので、 たとえ年金が節約できても、税金でカバーしなければならない医療負担は大幅に増えることが見込まれているのだった。

ところで、ラージ・サイズのソーダの販売を禁止する法案についてのニューヨーカーのリアクションは、 半数の女性が「支持する」と答えているのに対して、55%の男性が反対意見。また同じニューヨーク市の中でも、エリアによって そのリアクションが異なっており、ニューヨークの中で最もヘルス・コンシャスなマンハッタンでは住人の55%が法案を支持しているのに対して、 ニューヨーク市の中で最もオーバーウェイトなスタッテン・アイランドの住人は、65%が法案に反対しているのだった。


このように政治家が打ち出す法案というのは、その支持を高めたり、落としたりする要因になるけれど、 今週オバマ大統領が打ち出し、大統領選挙を有利にするだろうと見込まれているのが、若い世代の不法移民に対して、 強制出国をさせず、アメリカ国内で働く機会を与えるという法案。
アメリカでは30年前に最高裁判所が、不法移民の子供にも義務教育を受ける権利があるという判決を下しているけれど、 それでも現行の移民法では、たとえ学校に通っていようと、不法滞在が移民局にみつかれば強制送還。 とは言っても、親に連れられてアメリカに不法入国した子供達の世代は、自分の決断で不法移民になった訳ではないのに加えて、 中には 20年近くアメリカで暮らした後で、自分が暮らした記憶さえない本国に戻された場合、そこには家族も知り合いも居ないケースさえ あるのだった。

フランスでは、アフリカからの移民の 第二世代に対する政策を怠ったために、失業者の増加や治安の悪化を招いたのは周知の通りであるけれど、 今回オバマ大統領が打ち出した政策では、その移民の子供達の世代に 就業と教育を受け続けるチャンスを与えるというものなのだった。
以下がその対象となる移民の条件。



これらの条件を満たしている場合、不法移民であっても強制送還の対象にならないのに加えて、学校を卒業している場合、2年間の 労働許可が下りるというのが同法案。この労働許可は、数に制限無く発行されるとのことだけれど、もちろんこの2年間に グリーン・カードのスポンサーになってくれるような雇用主が現れなければ、出国しなければならないのは事実。 でも出身国に戻る場合でも、アメリカで2年の労働経験があるということは、後のキャリアに大きなプラスとなることが見込まれているのだった。
また労働許可さえ下りれば、その2年間は合法的に就業出来るので、不法移民というステータスのままで不法就労する低賃金の仕事よりも、 遥かにベターな仕事に就けるのもメリット。もちろんその給与は課税されるけれど、国にとっては、これまで所得税を徴収することができなかった 不法就労者から、今後は税収が得られることを意味するのだった。

しかしながら この法案は、なかなか仕事が見つからない現在の20代の若者にとっては、それだけ就職戦線が厳しくなることを意味しているのは言うまでもないこと。 そもそも労働許可を貰って働く不法移民の方が、ハード・ワーカーで、比較的安い賃金でも喜んで働くのは目に見えていること。 したがって、そんな彼らが職探しを始めることによって、既に失業状態が続く人々が、ますます仕事探しに苦戦する状況は大いにありうるのだった。

この法案によって 最も恩恵を受けると言われるのは、不法移民が最も多い ヒスパニック系であるけれど、 ヒスパニック系は、今や大統領選挙の行方を握ると言われるほど 人口が増えているマイノリティ。
したがって、オバマ大統領が この法案によって、ヒスパニック系からの支持を狙っているのは明らかであるけれど、 これに加えて今後、おそらく秋口に オバマ大統領が 選挙戦に向けて 打ち出すであろうと予測され始めたのが マリファナの合法化。

今月出版されたオバマ氏の若い時代を描いたベスト・セラー本の中には、オバマ氏自身がハワイで過ごした時代に、かなりのポット・ヘッド(マリファナのヘビーな常用者のスラング) であったことが 明らかにされていたけれど、マリファナの合法化は 税収を大幅に増やすことが出来るため、全米各州が既に検討して久しいと言われる法案。
これを大統領が打ち出した場合、若い白人層が大統領に積極的に投票することが見込まれているのだった。
とは言っても、マリファナの常用者の誰もが合法化を歓迎する訳ではないとも言われていて、 その理由は、合法化されて政府が介入してこない方が、強いマリファナが無税で手に入るため。 なので、ハードコアなポット・ヘッドほど、口で言うほどは合法化を支持していないと言われるのもまた事実なのだった。

アメリカの大統領選挙は歴史的に現職大統領が再選されるケースが多いけれど、 それは大統領が、選挙期間中に 特定の有権者層をターゲットにした政策や法案を打ち出して、その支持を得ることが出来るため。
5月2週目には、アメリカ大統領として 初めて同性婚を肯定する見解を示して、ゲイ・ピープルの絶大な支持を得たオバマ大統領であるけれど、 今回の移民法改正法案で、ヒスパニック層の支持を獲得すると見込まれるだけに、 秋口にマリファナ合法化を打ち出せば、その支持層がさらに拡大することは目に見えているのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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