June 15 〜 June 21 2015

”Still Racially Divided ”
チャールストンの銃乱射事件に見る
根強いアメリカの人種差別


今週は、政治、スポーツ、ビジネス、社会全般で、様々な問題やニュースが報じられた1週間。
まずは、週明けにジョージ・W・ブッシュ元大統領の弟で、元フロリダ州知事のジェブ・ブッシュが 共和党から大統領候補としての立候補を正式発表。 その翌日には、これまで何度も大統領選の出馬をほのめかしながらも、決してそれが実現してこなかった ニューヨークの不動産王、ドナルド・トランプが、やはり共和党候補としての立候補を発表したのだった。
でもその2日後に報じられたのが、トランプの出馬演説で歓声を上げていた支持者が 実は1人で50ドルで雇われた エキストラであるというニュース。もちろんトランプ陣営はそれを否定していたけれど、 プラカードを持って現れた熱烈と思しき支持者が、誰1人としてその様子をツイッターやインスタグラムといった ソーシャル・メディアにポストしていないというのは、今時おかしな話。
これを受けて、選挙キャンペーンを盛り上げるためには サクラを雇うだけでなく、 ソーシャル・メディアまでフォローアップしなければならないことを痛感した候補者が少なくなかったことが指摘されていたのだった。

スポーツの世界では、火曜日のNBAファイナル第6戦でゴールデン・ステート・ウォーリアーズが、ルブロン・ジェームス率いる クリーブランド・キャバリアーズを下して 40年ぶりのチャンピオンシップに輝いたのかと思えば、その前日、月曜の NHL(ナショナル・ホッケー・リーグ)スタンレー・カップ・ファイナルでは、 シカゴ・ブラック・ホークスがタンパベイ・ライトニングを下して、6年間で3度目のチャンピオンに輝いていたけれど、 ニューヨークで最も大きく報じられたのは、金曜に3000本安打をホームランで飾ったヤンキーズのアレックス・ロドリゲスのニュース。
でもステロイド疑惑で、昨年1年間出場停止処分になっていたA.ロッドであるだけに、メディアの報道は ポジティブ一色ではなく、写真下、左側のようにニューヨーク・ポスト紙は3000の数字に注射器の画像をあしらうという 皮肉交じりのヘッドラインになっていたのだった。

さらにゴルフの世界では、今週はUSオープンが行われていたけれど、そこで51歳のアマチュア・プレーヤーより酷いスコアで、 予選落ちしたのがタイガー・ウッズ。 かつては、「ジャック・二クラウスのメジャー18勝記録を何時抜くことが出来るか?」と言われていたタイガー・ウッズであるけれど、 彼が最後にメジャー大会で勝利したのは2008年のUSオープンでの14勝目。 これはオバマ氏が初の大統領選に勝利する数ヶ月前の出来事で、今では彼が二クラウスの記録を破ることは不可能と 断言する人々の方が圧倒的に多いのだった。


さて、私がこれを書いている6月21日、日曜は父の日であるけれど、 カード会社の大手、ホールマークによれば、父の日はクリスマス、ヴァレンタイン・デイ、母の日に次いで、 年間に4番目にカードの売上げが高いオケージョンであり、電話会社のデータによれば 年間で最もコレクト・コールが多い日。 父の日のギフトは、ガジェット系が好まれるというイメージが強いけれど、実際に最も多いギフトは、 レストランで食事をご馳走する、もしくは野球の試合に一緒に出掛けるなど、 何らかのアクティビティを一緒にすること。父の日商戦の規模は全米で20億ドル以上と見積もられているのだった。

ビジネスの世界に目を向けると、このところ軒並み売上げ不振を発表していたのが、ギャップ、アバクロンビー・フィッチ、 J・クルーといったアパレル企業。これを受けてギャップは170以上の店舗の撤退を余儀なくされたほか、 J・クルーも社内スタッフ 178人の解雇を今週行っているけれど、 その解雇に際して 大顰蹙を買ったのが、J・クルーのメンズ部門のエグゼクティブ。
彼は解雇後に、首が繋がっているスタッフとダウンタウンのバーで打ち上げを行った様子を 「#hungergames (映画 ”ハンガーゲームス”の生き残りのために殺し合うという意味合い)」等の 不謹慎なハッシュタグと共にソーシャル・メディア上にポストしたことから、 その反発が山火事のような勢いで広がり、J・クルーのフェイスブック・ページには、 「こいつを解雇するまで、J・クルーでは絶対に買い物をしない!」というような 抗議のメッセージが殺到。 J・クルー側は、「エグゼクティブ個人のソーシャル・メディア上のポストが、企業のポリシーや見解を 代弁するものではない」と説明していたものの、このニュースは写真上、右のように ニューヨーク・ポスト紙の表紙にも大きくフィーチャーされ、 同社が対応せざるを得ない状況になっているのだった。




また今週は、引き続きニューヨーク・アップステートの最高警備刑務所から脱獄した2人の殺人犯の 足取りに関する報道も大きく行われていたけれど、 木曜以降の報道が集中したのが、サウス・キャロライナ州チャールストンの教会で起こった、 白人青年による銃乱射事件。
事件が起こったのは黒人コミュニティ教会として 長い歴史と伝統を持つ エマニュエル・アフリカン・メソジスト教会。ここで水曜夜に行われていたバイブル・スタディ(聖書の勉強会)に唯一白人として参加していた 21歳のDylann Roof / ディラン・ルーフが突如発砲。 9人の死者を出す惨劇となったのだった。

その後、ディラン・ルーフは多くの銃乱射事件の容疑者同様、現場で自殺を図ろうとしたものの、 銃弾を使い果たしていたために、その場から逃走。 結局、彼は翌日の木曜に事件現場から250マイル離れたノース・キャロライナ州で逮捕されているのだった。
こうした事件が起こると、まずメディアと人々の関心が集中するのが、容疑者が犯行に及んだ動機。
ディラン・ルーフの場合、その犯行時の言動や、事件後に見つかった ウェブ上のマニフェストで、 白人至上主義、黒人差別がその背景にあったことが明らかになっているのだった。




そのマニフェストの中で、彼は「黒人はIQが低い」、「セグリゲーション(人種隔離)は悪い事ではない、白人を守るためのものだ」、 「自分はアメリカ国旗が嫌いだ。現在のアメリカにおける愛国心なんて 全くのジョークだ。白人が毎日のように殺されているのに、 まるで何かを誇りに思っているかのように振舞っている」、「KKKもスキンヘッドも居ない今、 誰かが勇敢に行動を起さなければならない。それが自分だと思う」というような 強烈な黒人差別を打ち出していたけれど、 彼がそんな思想に走るきっかけになったのはトレヴォン・マーティン事件であったという。
この事件についてインターネット上で調べるうちに、彼が辿り着いたのが白人至上主義のウェブサイト。 そこに記載されていた 黒人による白人をターゲットにした犯罪の数々を読むうちに、 徐々にセルフ・ラディカライズされていき、その結果 彼がヘイト・クライムに走ったとされているのだった。

ディラン・ルーフは、アメリカ国旗を燃やす一方で、南北戦争時に奴隷制をサポートしていた南部の7州が掲げていたコンフェデレート・フラッグを 持って写真に写っているけれど、このコンフェデレート・フラッグは、50年代にセグリゲーションを廃止しようとした アメリカ政府への抗議の象徴として南部の州が掲げていたもので、いわば黒人差別のシンボル。
でもそんな人種差別フラッグが、今もノース・キャロライナを始めとする南部の州政府の建物に、アメリカ国旗と並んで掲揚されており、 それは、南北戦争を戦った南部の人々の誇りの象徴であると説明されているのだった。

しかしながら、今回の事件を受けて サウス・キャロライナ州で見られたのが コンフェデレート・フラッグの州政府による掲揚を止めるべきと 訴える抗議運動。(フォローアップ: 6月22日、月曜日にサウス・キャロライナ州は、コンフェデレート・フラッグの掲揚を止めることを発表しています。) このコンフェデレーション・フラッグと 銃規制については、 2016年の大統領選挙において、争点の1つになることが見込まれているのだった。




では、こんな犯行に走ったディラン・ルーフがどんな生い立ちであったかと言えば、 父親のフランクリン・ルーフ (写真右上の男性) が ディランを母親として育てたペイジ・マン (写真右上の女性) と再婚したのは彼が4歳の時。
母親によれば、彼はごく普通の少年時代を送ったというけれど、 父親は2008年に彼女と離婚するまでの約10年間、最初は精神的に、 そして最後には肉体的に彼女を虐待し続けたという。 建築現場の作業員であったフランクリン・ルーフは、数時間置きに自宅に電話をしては、 妻の”アリバイ”をチェックし、離婚してからも私立探偵を使って、その生活ぶりを調べていたほどの コントロール・フリーク。 当然夫婦仲も悪かったようであるけれど、離婚後、父親と暮らすことになったディランは、 徐々に周囲と距離を置くようになり、ハイスクールをドロップアウト。 家にこもってインターネットをブラウズしては、ストリートで違法ドラッグを入手し、 ハイになる毎日を送っていたという。
そんな彼は、今年春にドラッグの所持で逮捕されており、 その頃から、数少ない友人にラディカルな人種差別思想や、今後何かをしでかすつもりであることを 語っていたことが明らかになっているのだった。

今週のアメリカでは、インターネットを通じて若者を洗脳しているのがISISだけでなく、 白人至上主義のネオ・ナチ集団も同様であることを危惧する声が聞かれていたけれど、アメリカの人種差別の根強さを垣間見せるのが、 「ディラン・ルーフは責められるべきではなく、感謝されるべきだ」とソーシャル・メディア上にポストして、 解雇されたテキサス州の消防士が居たり、 ディラン・ルーフとスペルが1文字違いの男性を容疑者のディランだと思い込んだ人々から、 そのフェイスブック・ページに友達になるリクエストが殺到するなど、 9人もの罪の無い人々を殺害した人種差別主義者をサポートする人々が絶えないこと。
黒人差別の象徴であるコンフェデレート・フラッグにしても、南部の州では その廃止に強く反対する人々の方が圧倒的に多いことが 伝えられているのだった。

そんな人種差別犯罪のターゲットになるのは、黒人層だけでなく、ユダヤ教徒やアジア人、ヒスパニック層とて同様。 昨今のニューヨークでは、アジア人女性ターゲットに暴力行為に及ぶ事件が同一犯によって4件起こっているけれど、 犯人は防犯カメラの映像から 身長約180cmの黒人男性であることが明らかになっているものの、未だ逮捕には至っていない状況。
この犯人は、アジア人女性に話しかけながら付き纏い、女性が無視して歩き去ろうとすると「どうしてアジア人女性は自分と喋ってくれないんだ」、 「お前のそういう態度が気に入らない」などと言って、いきなり白いビニール袋に入れて隠し持っていた 重たい釘の塊のようなもので、 女性に顔に殴りかかるというのがその犯行パターン。
被害者の女性は、覆面インタビューを聞いている限りでは、中国人女性のような英語であったけれど、 実際のところ、犯人は女性を殴って 立ち去る前に、携帯電話に入った広東語の卑劣なメッセージを女性に見せることも レポートされているのだった。

この事件については、アジア人女性にフラレた黒人男性が、腹いせでやっている印象が強いというのが、 日本人の友達のリアクションであったけれど、その動機や背景が何であれ、人種差別というのはアメリカに脈々と生きているもの。
例えば アメリカの履歴書には、年齢も人種も記載する必要が無く、 顔写真を添付する必要も無いけれど、 ”マサンバ”、”カディージャ”というような いかにもアフリカ系の名前だと、 書類選考の段階で落とされるのが通常。 この理由は、「アフリカ系の名前を子供につけるような親は、黒人としての誇りやコンプレックスが強く、 その親に育てられた子供もまた然りである」という意識が雇用主側に根強いため。
実際に、同じアフリカ系アメリカ人でも、 マイケル、ジョージなど、白人同様の名前の方が、人生を有利に歩めることが そのライフスタイル・データに 現れているとのことなのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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