June 19 〜 June 25




Sweet Charity



アメリカで東部時間、木曜午後3時から行われた対ブラジル戦が、日本チームにとって今回のワールドカップ最後の試合となってしまったけれど、 同じく木曜の午前に、世界のレベルには まだ及ばないことを露呈してワールド・カップから敗退したのがアメリカ・チームである。
2-1で ガーナに敗れ、攻撃力の決め手に欠くサッカーを展開したアメリカ・チームであったけれど、 同時にサッカー・プレーヤーとして生きていくなら、アメリカよりガーナに生まれた方が幸せだったかもしれない・・・と感じさせたのが このゲームでもあった。
同試合の日の ガーナは祝日で、国のほぼ全世帯が試合をTV観戦できる電力を確保するために、 様々な工場が電源を落として、これに協力していたことが報じられており、同国大統領も自らチームを激励する電話を掛けて来るなど、 チームの士気を高めるような サポートが 国を挙げて行われていたのである。 こうしたサポートには、今回が初出場となるガーナ・チームに 国民の夢が懸かっていることが現れており、プレーヤーもそれを自覚しながら、国の名誉のために戦っているのが感じられたけれど、 アメリカ・チームにとっては、ワールド・カップ出場は今回で8回目になるものの、こういったサポートは 母国からは望めないものなのである。

さて、アメリカではワールド・カップのTV放映のハーフ・タイムの合間や試合後に、ブラジル・チームのロッカー・ルームの様子をフィーチャーした コマーシャルが流れているけれど、これを見ていると プレーヤー達は本当にサッカー・ボールが身体の一部という生活をして、手より脚を使って 生きて来たことが容易に想像がつくというもの。
実際、ブラジルではごく一般の子供達が3歳でドリブルを学び、7歳で非常に実践的なプレーをしているのは当たり前とのことで、 この年齢になる頃には、自分のサッカー・ボールを買い与えてもらえるほどの経済力がある家庭に生まれた子供なら ボールを抱えてベッドで眠っているという。 ブラジルという国は、一部に裕福な層が存在するものの、大半は貧困家庭で、子供達にとって、大好きなサッカーで成功を収めるということは、 同時にリッチになるということ。実際、23人のブラジル・ナショナル・チームのプレーヤーのうち、ミドル・クラスと言える家庭に育ったのは僅か3人で、 残りは全て貧困家庭に育ち、一流プレーヤーになって リッチになるという夢とハングリー精神を子供の頃から培ってきた選手ばかりである。
一部では、アメリカで有能なサッカー選手が育たないのは、スポーツにおいても、サクセスを収めてリッチになるという点においても、 子供達に チョイスがあり過ぎること、そして、サッカー選手になるということが、サクセスを収めてリッチになる手段と見なされていないことが 指摘されている。 実際、アメリカでリッチになろうと思えば、金融や不動産、テクノロジー、メディアなど様々キャリア・オプションが存在しており、 プロ・スポーツ選手としてその夢を成し遂げようとした場合、レーサーや、NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)、 NBA(プロ・バスケットボール)のプレーヤーになった方が、サッカー選手になるよりずっと収入が多く、メディアにも注目される訳である。

とは言っても、ブラジルの子供達のサッカーのレベルは、「他に目指すものがないからサッカーをやっている」ようなものでは到底無く、 カルチャーやDNAの違いを感じさせるもの。 だからこそ、ヨーロッパのチームはブラジルに有能な選手を求めて 青田刈りをしたがる訳であるけれど、 ブラジルでは年齢が若いうちから選手をスカウトすることが法律で禁じられているため、ヨーロッパのチームは 有能なプレーヤーの親達に仕事をオファーし、子供が成長したあかつきには、自分達のチームでプレーをさせるといった システムを採用しているという。また、ヨーロッパのクラブ・チームには、 ブラジル・リーグのチームの株式を所有し、選手育成プログラムを組ませているところも少なくないそうで、 同じようなことは、アメリカのメジャー・リーグ・ベースボールもドミニカ共和国やヴェネゼーラを対象に行っているものである。

では、ヨーロッパではサッカーでどれだけの収入が上げられるかと言えば、昨年、サッカー・プレーヤーとして最高収入を上げているデビッド・ベッカムは、 CM出演や彼が所属するリアル・マドリッドからの年俸を含めて$37ミリオン(約42億円)を稼ぎ出しているほか、ベッカムと同じくリアル・マドリッドに 所属するブラジルのロナウドは$29ミリオン (約33億円)、同じくブラジル出身で、現在バロセロナでプレーをしているロナウディーニョは 年収35ミリオン(約40億円)と、引退後のマイケル・ジョーダン並みの稼ぎを上げているのが実情である。
これに対して、アメリカのメジャー・リーグ・サッカーで最高額の年俸を受け取っているのは、今回のワールドカップにも出場していたランドン・ドノヴァンで、 その額は90万ドル(約1億300万円)。USチームの中で最も年俸が低いプレーヤーは、今大会 アメリカ唯一の自力ゴールであり、 大会100得点目をガーナ戦で決めたクリント・デンプシーで、ドノヴァンの10分の1にも満たない7万5863ドル(約865万円)がその年俸であるという。
でも、もしデンプシーがそのキック力を生かして NFLのキッカーになったとしたら、プレイオフを除く 年間シーズン試合数は僅か16。 90分もフィールドを走り回る事なく、1試合、数回のフィールド・ゴールを蹴って、$1ミリオン以上の年俸が約束されるケースが殆どである。
そう考えると、アメリカのプロ・サッカー・プレーヤーというのは、本当にサッカーが好きでないと、やっていられない職業であり、 私がワールド・カップで、日本と対戦しない限りはアメリカを応援しようと思うのは、チームの力量はさておき、 お金抜きにスポーツを語れないアメリカで、収入など度外視して 好きなサッカーをプレーしている選手達の姿が新鮮で、 ピュアなものに受け取れるためである。

しかしながら、今回のワールドカップの結果が、アメリカに失望をもたらしたのは紛れも無い事実で、 新しい監督の人選を含む USナショナル・チームのリストラクチャリング構想は、もう既に始まっていると言われている。
これによれば、新監督の最有力候補に挙がっているのが、今回のワールド・カップで、ドイツの監督を務めているユルゲン・クリンスマン。 彼は今大会を最後にドイツの監督を辞任することを明らかにしているそうで、アメリカ人妻とカリフォルニアに暮らし、サーフィンをこよなく愛す 彼は、ドイツとカリフォルニアの行き来をしながら ドイツのナショナル・チームの監督をしていること、 アメリカ式のマネージメントを行っていることから、大会前のドイツ国内では批判を浴び続けてきた存在。 ドイツがワールドカップで連勝を続けたことによって、ここへ来てようやく評価が高まってきたところであるけれど、 アメリカのサッカー関係者の間では、このクリンスマン監督こそが次代のUSチームを率いるに相応しいという声が高まっているという。

その一方で、アメリカでのサッカー振興に熱意を燃やしているのは、他ならぬイングランド・チームのキャプテン、デビッド・ベッカムで、 彼が今後、メジャーリーグ・サッカーのロサンジェルス・ギャラクシーへの移籍するかもしれないという噂は日に日に高まっているという。
ベッカム自身、「自分はアメリカを征服してみたいと思ったことは無いけれど、スポーツに対して最も情熱的なアメリカ の1員になってみたいとは考えている」と語っており、彼はロサンジェルスで、青少年にサッカーを指導するための スポーツ・アカデミーをスタートすることになっている。
ベッカムがロサンジェルスにアカデミーをオープンし、LAギャラクシーに移籍を考えるのは、 彼が将来、何らかの形でハリウッド進出をもくろんでいるため とも噂されているけれど、ベッカム自身は、アカデミーを通じて アメリカにサッカー・カルチャーをもたらすこと、そしてアカデミーのユニセフ親善大使として活動することを 「That will be my life」と語り、 引退後の彼の活動がサッカー振興とチャリティとなることをコメントしている。

そのチャリティといえば、6月に入ってから、何かとメディアに登場するのがチャリティの話題である。
まず今月初旬には、世界一の富豪であるマイクロ・ソフト社のビル・ゲイツ会長が、2008年をもってそのポジションを退き、 その後は、夫人と共に運営するチャリティ・オーガニゼーション、ビル&メリンダ・ゲイツ・ファンデーションの 活動に専念することを表明。 3兆3000億円の資産で運営される同ファンデーションは、発展途上国のHIVやマラリア患者の救済などで、 既に世界をリードする存在となっている。 富豪がチャリティに寄付をすると言えば、通常は税金対策と相場が決まっているけれど、 ビジネスでこれ以上望めないほどのサクセスを収めたビル・ゲイツ会長にとって、人生の新たなパッションとなっているのが チャリティ活動であるという。

また、稼ぎの点ではビル・ゲイツ会長には遥かに及ばないものの、国連親善大使を務める女優のアンジェリーナ・ジョリーも、今月初頭に ブラッド・ピットとの間に生まれた子供、シャイロの写真の版権をタブロイド誌に売ることで、日本円にして8億円以上を アフリカの子供達を救済するチャリテイに寄付したばかり。
さらに今週火曜にCNNで放映された、独占インタビューで アンジェリーナは、「私は(女優の)仕事で 馬鹿げた金額のお金を稼いでいるから・・・」として、 自分の収入の3分の2をチャリティに寄付することを明らかにしている。

さらに今日、日曜に発表されたのは、ビル・ゲイツ会長に次ぐ、世界第2位の富豪、ウォーレン・バフェット氏が、 その個人資産、440億ドル(約5兆160億円)の85%、約370億ドル(約4兆2180億円)をチャリティに寄付するというニュース。 これによって、チャリティ寄付の史上最高額の記録を打ち立てたバフェット氏は、 バークシャイア・ハサウェイのCEOを務めるインベスターであり、叩き上げの敏腕ビジネスマン。 今年8月30日で76歳を迎える同氏は 質素なライフスタイルで知られ、 多額の資産を子供や孫に相続させることに異論を唱える人物である。
彼はビル・ゲイツ会長のブリッジのパートナーであり、親しい友人として知られ、先述のビル&メリンダ・ゲイツ・ファンデーションは バフェット氏の寄付の中から、150億ドル(1兆7000億円)を受け取ることになっているという。

ところで、デヴィッド・ベッカムやビル・ゲイツ、アンジェリーナ・ジョリーに限らず、昨今はセレブリティが特定のチャリティの スポークス・パーソンや親善大使になっていたり、自らのチャリティ・オーガニゼーションを持っているのは 珍しくないご時世である。
でも、上で紹介したビル・ゲイツやアジェリーナ・ジョリーの活動は、 そのセレブリティ・ステイタスを利用して、メディアや一般大衆から寄付を集めるだけでなく、自らの資産もちゃんと寄付している点で、 多くのセレブリティの偽善的チャリティとは区別されるものであるし、それだけに多くの人々から共鳴されるものである。

その一方で、チャリティの対象としては無視されがちであるものの、発展途上エリア同様に救済が必要なのが、アメリカ国内の低所得者層である。
アメリカでは低所得者が肥満になるという、発展途上国ではあり得ない現象が起こっているけれど、これは低所得者エリアに マクドナルドやバーガー・キング等、脂肪分、塩分、カロリーが高く、肥満の原因となるファスト・フードのチェーンが立ち並び、 低所得者層がこれを主食に生活せざるを得ないため。 これを受けて、アメリカでは低所得者エリアのファスト・フード・チェーンの数を制限する新しいゾーニング法が成立する見込みで、 ようやく野放し状態が改善されようとしている段階である。
一部のメディアは、未来のアメリカ版ロナウドや、ロナウディーニョが、こうした低所得のラテン系移民の子供達の中から、 生まれてくるかもしれないと指摘するけれど、 ファスト・フードが主食で、サッカーに夢が持てない限りは、アメリカ版ロナウドは生まれて来ないのである。



Catch of the Week No.3 Jun : 6月 第3週


Catch of the Week No.2 Jun : 6月 第2週


Catch of the Week No.1 Jun : 6月 第1週


Catch of the Week No.4 May : 5月 第4週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。