June. 18 〜 June. 25 2007




” It's All About Marketing ”




このところメディアからパリス・ヒルトンの名前を耳にしない日々が続いていたアメリカであるけれど、 週末に突如報じられたのが、6月26日火曜日に出所が予定されているパリスの、刑期終了後初の独占インタビューを NBCが$1ミリオン(約1億2300万円)で落札したというニュース。
当初、出所後のパリスの独占インタビューは、パリスの母親の友人であるABCテレビの女性ベテラン・ジャーナリスト、 バーバラ・ウォルターズが行うと目されており、パリスも留置所から許される1日1回の電話を彼女に掛けるなどしていたのだった。
このインタビューに際して、ヒルトン家側がABCに要求していたのが、インタビューのための必要経費としての10万ドル(約1230万円)。 通常、ジャーナリズムの世界では、メディア側がお金を払ってインタビューをさせてもらうというのは、 違法ではないものの、報道のモラルに反する行為とされており、取材である以上は取材対象が無料で応じるのが ルールとされているものである。しかしながら、各TV局にはエンターテイメント部門というものがあり こちらは報道目的とは見なされないために、スクープを獲得するためにお金を支払い、 事実上、インタビューを買い取ることが咎められないとされる部門。 このため、ABCもエンターテイメント・ディビジョンのバジェットから10万ドルを捻出してパリスのインタビューを獲得することにしたのだった。

ところが、これを聞きつけたNBCTVのエグゼクティブが 彼と個人的に面識があるパリスの父親、 リッキー・ヒルトンに電話を掛け、独占インタビューに対して$1ミリオン(約1億2300万円)をオファーしたため、 ヒルトン側は いとも簡単に寝返って ABCに対して 「NBCから桁違いのオファーが来た」ことを理由に同局とのインタビューをキャンセル。 すると、今度はABCが 「NBCが$1ミリオンでパリス・ヒルトンの独占インタビューを横からさらって行った」ことを公に明らかにしたため、 木曜にはこのニュースがTV業界に広まり、翌金曜日の新聞各紙で報じられることになったのだった。
これに加えて、パリスの出所姿のスクープ写真の出版権を「ピープル」誌が30万ドル(約3690万円)で買い取ったことも併せて報じられ、 パリスはこの時点で23日の拘留期間に約1億5千万円を稼ぎ出すことになっていたけれど、 これに対してのメディアや一般の人々の大反発が起こったのは言うまでも無いこと。
でもその大反発を受けるまでもなく、NBCの親会社であるGE(ジェネラル・エレクトリック)のCEOが、「ネットワークの利益にならない」として この$1ミリオンのパリス・インタビューの差し止め命令を出したことが伝えられ、 ヒルトン家が猛然とエキサイトした契約は、48時間も経たないうちに泡と消えてしまったのだった。 そこで仕方なく、リッキー・ヒルトンは再びABCにコンタクトをして、パリスがインタビューに応じる用意があることを伝えたというけれど、 今度はABC側にも 「同局は もはや ミス・ヒルトンのインタビューには興味は無い」と断られてしまう始末。
その後、ヒルトン家が 必死のインタビュー・ハンティングを行った結果、辿り着いたのが、CNNの”ラリー・キング・ライブ”。 同番組はケーブル局なので 3大ネットワークに比べて 視聴率も、番組の制作バジェットも 遥かに低いもの。 したがって局側のスポークスマンが「パリス・ヒルトンのインタビューに対してCNNは1セントも支払っていない」というのは、 紛れも無い事実であるけれど、それでも1時間の放映時間を使ってパリス・ヒルトンとインタビューをしようというメディアが存在していたというのには、 驚いていた人々も多かった。

ヒルトン側がたとえ無料になったとしてもパリスがインタビューを行うべきと考えているのは、 パリスのイメージアップを図るため。
今回、ヒルトン家が$1ミリオンに目がくらんだせいでパリスのイメージ・アップ・インタビューはグッと地味なものになってしまったけれど、 当初パリスがインタビューを受けると目されていたABCTVのバーバラ・ウォルターズという人は、モニカ・ルインスキーを始め、 何か問題を起こした人々がイメージ挽回のためにインタビューを受けることで知られる人物。 こうした人々は、インタビューを前後して本を出版するケースが殆んどで、モニカ・ルインスキーの場合は本の出版だけでなく、 その後、独自のバッグ・ラインまでが発売されたのだった。 すなわち インタビューは こうした人々のイメージ・アップであると同時に、本やプロダクトの広告の役割も果たす マーケティングの武器とて使われていた訳である。
ヒルトン家もパリスの拘留期間中の経験を本にするための出版社を探していたことが伝えられているけれど、 パリスの場合、彼女に対する人々の反感やバッシングが尋常ではないだけに、果たしてインタビューやその後の活動がどれだけ成功を収めるかは 微妙なところ。 既に報じられている情報によれば、パリスは今後、刑務所への出入りを繰り返している女性をサポートするための チャリティ施設をスタートしたいと語っているとのことで、彼女は服役中、 「どうしたらもっと世の中を良く出来るか」を考えていた と、 バーバラ・ウォルターズに電話で語っていたことが伝えられていたのだった。

「イメージアップのためとは言え、遂に パリス・ヒルトンまでが チャリティを語りだしたか・・・」 と いう人も多いけれど、チャリティというのは一見 利益とは無関係に見えるものの 必ずしもそうではなく、 ビジネス・チャンスや、マーケティングの武器となるもの。
現在CUBE New Yorkで販売しているカルティエのラブ・チャリティ・ブレスレットにしても、 ブレスレット1つの売り上げから100ドルがチャリティに寄付されることから、セレブリティが一銭もギャラを支払われることなく、 プロモーションに力を貸してくれる訳である。 もしこれがチャリティでなかったら、サラー・ジェシカ・パーカーやスカーレット・ヨハンソン、リブ・タイラー、ジュリアン・ムーア、リアナ、アッシャーなどの顔ぶれを 一同に揃えたセレブリティ・ラインナップは例えカルティエの広告バジェットをもってしても不可能なのである。

時に このチャリティと間違われ易いのが、一定のスローガンを謳ったプロダクト。
これは慈善的スローガンを宣伝文句にしているだけで、時に通常の販売行為と全く変わらない場合も多く、 売り上げの一部がチャリティに寄付されるという場合も、消費者にはその一部がどの程度かは想像も付かない訳である。
そんな慈善スローガンを謳ったプロダクトで、今週アメリカとカナダで売り出されたのが、アニア・ハインドマーチの「I'm not a Plastic Bag / アイム・ノット・ア・プラスティック・バッグ」(写真左)である。 このバッグは、CUBE New Yorkのファッション・ニュースのセクションでもご紹介したとおり、 まず4月にイギリスで発売され、1万個をあっという間に売り切ったというバッグ。 スーパーマーケットで配られるプラスティック・バッグ(ビニール袋)を使わず、持参したバッグを使おうというムーブメントを プロモートするもので、売り上げが環境保護団体に寄付されるようなチャリティではないもの。
アメリカでも イギリスでの争奪フィーバーぶりが伝えられていただけに、 早くからファッション誌を中心に このバッグのニュースが取り上げられており、大きな話題になっていたのだった。
北米では今週水曜の6月20日と7月のホール・フーズでの販売で、合計3万個が売り出されることになっているけれど、 今週の売り出し日は、雨にも関わらず大行列で、ソーホー店に並んでいたCUBEスタッフによれば、 日本のTV局を含む 取材が 3社ほど来ていたとのことだった。 でも私がチェックしたメジャー・ネットワークは全てこのニュースは取上げておらず、 ニューヨーク・タイムズ、ニューヨーク・ポスト紙も共に同バッグの売り出しについては何も報じていなかった。
でもニューヨーク・ポスト紙に至っては、発売前日の記事で アニア・ハインドマーチが 環境問題を謳っておきながら、I'm not a Plastic Bag にオーガニック・コットンを 使用していないとか、「低賃金で強制労働ではない中国の工場を使っている」 と説明しながらも、 その実情を良く把握していないことなどが指摘され、慈善ではなく ”偽善” と叩かれていたのだった。

CUBE New Yorkでも、同バッグは僅か数日で100個以上のお取り寄せ依頼を頂いていた関係で、 6月20日は スタッフ総動員で入手を試みていたけれど、私としては 実際のバッグを手に取ったり、 ストアでの一連の騒ぎを見るにつけて、複雑な気持ちになってしまったのが正直なところである。
私も仕事柄、メイド・イン・チャイナの相場は随分理解しているし、業界の人々ならば 一流ブランド品のバッグでさえ、 クロコダイルやリザードなど特殊な高額皮革を使用しない限りは、バック1つの原価が100ドルを超えることは まず無いことは 熟知しているところ。
そこで、この I'm not a Plastic Bag であるけれど、私の見積もりでは中国で 3万個作らせたのならば、生産コストは1ドル程度。 私の友人で、中国の生産に詳しい人物は それ以下に見積もっていたけれど、2人とも 中国からの流通コストは1個につき30〜40セントというところで合意していた。 通常、エスティ・ローダーなどの化粧品会社が一定額以上を購入した人々に無料で配布するようなトート・バッグのコストが大体20〜30セントと言われるけれど、 アニヤのバッグのキャンバス地は エスティ・ローダーの無料バッグよりは薄い、かなりペラペラした素材。 でも、「I'm not a Plastic Bag」という文字が縫い付けてある分、若干工賃が掛かっているというのが私達の共通した見解だった。 おそらく 素材を薄くしているのは、素材コストを下げるのに加えて 文字を縫い易くしているという理由もあると思うけれど、 バッグ本体が柔らかいのに、ロープ・ストラップが太くて重たいので、バッグが立たない、すなわち物が入っていてもいなくても、クテッと折れ曲がってしまう作り。 このロープ・ストラップにしても、柔らかくて もっと細めのロープ・ストラップの方が原価は高額である。
同バッグの15ドルと比べると、同じキャンバス・トートでもL.L.ビーンの19ドルのトート・バッグの方が 素材が厚くて、底も2重になっていて、バッグのシェイプも 折れ曲がらずに使い易いので、極めて良心的な商品だと思えてしまうのである。
なので、アニヤ・ハインドマーチのオリジナルの本来の商品の値段と比べて、多くの人々がこのバッグを「安い!」 と 言っていたけれど、 決してそうとは言えないのが実際のところなのである。

でもバッグのクォリティはさておき、私が非常に複雑な気持ちになったのは、ファッション業界紙WWDに小さく掲載されていたアニヤ・ハインドマーチの コメントを読んでしまったからで、それによれば 彼女は価格を下げるためにオーガニック・コットンを使用しなかったことを認めているのは 仕方ないとしても、 「バッグをクールに見せるために、リミテッドにして、わざと手に入り難くしている」と語っていたのである。
私が思うにアニヤ・ハインドマーチが本当に環境問題にこだわって、彼女のバッグのペーパー・タグに書かれている通り、 「個人の小さなアクションの積み重なりが世の中を変える」と考えているのならば、1人でも多くの人にプラスティック・バッグの代わりに I'm not a Plastic Bag を使ってもらおうとするのが筋な訳である。 でも、バッグをセレブリティに持たせてスナップさせたり、発売前から雑誌にアプローチするなど、 これをマーケティングやビジネスの一環として行っているのは、誰の目からも明らかなわけで、 それでも アニヤ側が環境問題を前面に打ち出したプロモーションをしているから、それがまかり通っていたのである。
でも、いくら 取材慣れしているメジャーなデザイナーではないとは言え、 アニヤ・ハインドマーチ本人が 「わざと手に入り難くしている」などというビジネス意図を明確にするようなコメントをしてしまうのは、 慈善が偽善であるのを認めているとしか思えないものなのである。

買う側にしても環境問題をケアするだけなら、それこそL.L.. ビーンのバッグでも買った方が、店に並ぶ必要も無く 丈夫で使い易かった訳であるけれど、わざわざアニヤのバッグを買おうとするのは、「この夏最も話題のバッグ」、「なかなか手に入らない」、 「リミテッド・エディション」、「セレブリティが持っている」、「アニヤのバッグとしては激安」、「Eベイで売れば10倍以上の価値がつく」という 様々な、そして環境問題とは全く無関係な付加価値を見出しているため。
実際、私はこの週末にアニアのI'm not a Plastic Bag とスーパーのプラスティック・バッグを一緒に持った人を見かけたけれど、 これは最高の皮肉とも言えるものである。

もし私と友人の見積もりがあっていたとすれば、アニヤ側はバッグ1つを売って13ドルは利益を上げていた訳で、6月20日にアメリカとカナダで販売された 1万個のバッグで上がった利益は13万ドル。もちろん、今回の発売の中には、アニヤの直営ブティックだけでなく、フレッド・シーガルのような卸売りも含まれていたので、 利益はこれより低いと思うけれど、 アニヤのブティックの日ごろの売り上げに比べたら、これは大儲け以外の何物でもないもの。
さらに、7月にホール・フーズで2万個が販売された場合、ホール・フーズ側と利益が折半になるけれど、やはり10万ドルはアニヤ側に転がり込むことが 見込まれる訳であるから、これは立派なイージー・マネーである。

アニヤ・ハインドマーチが環境問題をどの程度ケアしているかは別として、私はこのプロジェクト自体は目の付け所はとても良いと思うし、 もし環境問題が絡まなかったら、たとえ彼女が15ドルでバッグを発売したところで、アメリカのメディアがこれだけ大きく報じることは無かったとも思っている。
でも、日本のようにアニヤ・ハインドマーチがある程度エスタブリッシュされているマーケットは別として、 アメリカでは 彼女の存在を今回のI'm not a Plastic Bagで初めて知った人が非常に多く、 それけに、1度は 15ドルで売られていたデザイナーのバッグを、その後800ドルで人々が買おうとするかは微妙なところである。 したがって、このプロジェクトがアメリカにおけるアニヤ・ハインドマーチの今後のビジネスに 吉と出るか、凶と出るかは "時 のみぞ知る" といったところなのである。

ところで、I'm not a Plastic Bag が 人気を博した理由の1つが、「Eベイで再販すればその10倍の価格が付く」といわれていたこと。
実際、アメリカのEベイで今日現在 リストされている I'm not a Plastic Bag は200点以上に及ぶけれど、 米国ではあともう1回の販売を控えているせいか、その入札ぶりはそれほど芳しくないのが実情である。


最後に、先週のこのコラムを読んだ読者の方や、お買い物のお客様からお見舞いの言葉を 頂戴いたしました。この場を借りて、ご親切に感謝いたします。 どうも ありがとうございました。





Catch of the Week No.3 June : 6 月 第 3 週


Catch of the Week No.2 June : 6 月 第 2 週


Catch of the Week No.1 June : 6 月 第 1 週


Catch of the Week No.4 May : 5 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。