June 16 〜 June 22 2008




” シュリンク & メディケーション ”


今週も様々なニュースがあったアメリカであるけれど、 個人的なレベルで、最も嬉しかったのはついにクリスチャン・ルブタン用の真っ赤な張替え用のシュー・ソールを見つけたこと。
見つけたとは言っても、これは私のシューズの修理を担当している靴屋さんが見つけてくれたもので、 それまで彼とは、履きこんだルブタンのシューズの靴底に張る ソールのカラーで何度も何度も揉めてきた歴史があったりする。 クリスチャン・ルブタンのソールは他のブランドに比べて若干丈夫ではあるものの、靴底が剥がれてくると真っ赤な色とのコントラストで、 特にみすぼらしく見えるので、足を組んだ際に見える靴底を常に気にしていなければならなかったもの。
シューズ自体はまだまだ履けるほどにキレイなのに、靴底のせいで シューズがみすぼらしく見えるのは 悲しいけれど、だからと言ってブラックやベージュのソールを張り替えると、凄く目立つ上に、 1足しかないルブタンを直し 直し 履いているという悲惨なイメージが漂うので、 これまでは仕方なく放置しながら 履いてきたのだった。
今回私の修理屋さんが探してくれたソールは、写真右のようにカラーはドンピシャではないものの、 遠目で見たら分らないほどに近い色。 でもこの靴底は ルブタンのシューズに貼るには分厚つ過ぎるため、まずは厚みを 削ってから 張り替えてもらわなければならないので、 修理屋さんにとっては結構な手間になるものだけれど、ルブタンのシュューズはあちらも直していて楽しいらしく、快く引き受けてくれるので、 今まで履いて靴底がボロボロになっていたルブタンを纏めて修理に出してしまったのだった。
これで心置きなくルブタンが履けるというのは、私にとってはセンセーショナルに嬉しいことなのである。

さて話は全く代わって、かつてこのコラムで、私の20代、30代の友達数人が 「夜眠れない」といって 入眠剤を服用し、良く効く入眠剤の情報交換をしあっている様子を見て ビックリした と書いたことがあるけれど、 アメリカに暮らしてつくづく感じるのが 多くの人がメディケーション(薬)に何でもかんでも依存する傾向が非常に強く、 医師も 過剰なまでに 薬の服用を勧めるということである。
例えば男性の育毛促進薬で最も効き目があると言われるのが、処方箋薬のプロピーシャ。 毛が薄くなったり、円形脱毛で悩んでいる多くの男性、ことに20代、30代の男性は そんな状態では女性にモテない、もしくは女性にアプローチする自信が持てないことを理由に、 ドクターのもとに出向いて プロピーシャを処方してもらうケースが多いという。
特にニューヨークでは、植毛をするほどではなくても、髪が薄くなっていることを危惧している男性のうち 25%、 すなわち4人に1人がプロピーシャを服用していると言われるけれど、 もしプロピーシャに副作用さえなければ、その割合はさらに増えると指摘されている。 プロピーシャの副作用の筆頭に挙げられるものと言えば セクシャル・サイドアフェクト。 これは通常、ED (Erectile Dysfunction / 勃起障害)のことで、 早い話がインポテンツである。
もちろん、女性に興味を示してもらっても EDでは仕方が無い訳で、 プロピーシャを服用している男性の多くは、バイアグラ、レヴィトラといったEDメディケーションを服用する傾向にあるという。 でもこれらのメディケーションにも 副作用はあるわけで、例えばバイアグラの副作用で良く知られているのが頭痛、血圧の低下によるめまい。 なので プロピーシャと バイアグラを服用している男性がこれらの症状を 覚えた場合、今度は頭痛や低血圧対策の薬を飲むことになる訳で、 これは言わば あっちの問題を叩けば、こっちから別の問題が出てくる というモグラ叩きゲームの状態である。
このため 人によってはこのモグラ叩きを続けるうちに、20代、30代にも関わらず、 何種類もの薬を毎日服用する身体になっているという。

また昨今のアメリカの製薬会社は、売り出したい薬に見合った病気を 薬と一緒にプロモートしてしまう傾向があると言われるけれど、 その典型例とも言えるのが PMDD (Premenstrual Dysphoric Disorder ) である。
PMDDは PMS (Premenstrual Syndrome)の よりシビアなコンディションとして知られているけれど、 PMDDはかつては LLPDD(Late Luteal Phase Dysphoric Disorder) と呼ばれていたもので、この存在を知る一般女性は極めて少なかったのである。 ところが、 2003年にアメリカ精神医学学会が そのネーミングを PMDDに改め、PMDD用のメディケーションのCMが TVで放映されるようになってからは、その存在が突然有名になったと同時に、症状を訴える女性が増えたことが指摘されているのである。
そのCMでは、「もし生理前に 身体が浮腫んで、精神が落ち込んだり、イライラしたり・・・」というような 典型的なPMSの症状を謳い、「これが通常より酷い場合、あなたはPMDDかも知れません。 医師に相談しましょう。」 という マーケティング根性が見え見えのものであったけれど、 このCMを見て、自分がPMDDではないかと疑って医師に相談する女性の数は急増したという。
でも実際のところ、PMDDは 病気として認識されていない国もあるくらいで、 ヨーロッパでは うつ病治療薬の先駆者的処方箋薬 ”プロザック” に対して、 CHMP (Committee for Medicinal Products for Human Use)が 「プロザックを処方すべき病状のリストから PMDDを 外すように」 と勧告をしたほどで、 PMDDが果たして本当に病気なのか?、 それとも製薬会社のロビーイング(政治家への働きかけ)や マーケティングの産物として知られるものなのか? 判断が付かなかったりする。

実際PMSにしても 90年代後半に行われた調査によれば、それまでPMSという存在を知らなかった国の女性は、「PMSの症状は無い」、「経験したことが無い」 と答えていたにもかかわらず、一度PMSの存在を教育された後の調査では、 その症状を訴える女性が急増したことがレポートされていたりする。 すなわち 「病は気から」 であり、それと同時に 「病は余計な知識から」 とも言える訳である。
でも世の中には自分の事を病気だと思いたい人というのは意外に多くて、 その中には 「年中体調のことでボヤいているの方が、人に甘えられて好都合」 という 怠け型タイプもあれば、 「自分自身の問題を病気のせいにしてしまいたい」、「自分は本来ちゃんとしているけれど、病気のせいで調子が狂っていると思いたい」 という責任転嫁タイプも存在するようである。
また自分が病気だと思わなくても、メディケーション(薬)に頼って問題を解決したいと考える人は多く、 頻繁に いろいろな処方箋薬を試し、それを貰うために医者通いを続け、ドクターのお得意様になっているケースが少なくなかったりする。

世の中の大人が、これだけ病気に責任転嫁をしたり、薬に依存する生活を送っている訳だから、 育児に関しても 同じ姿勢が見られても全く不思議では無いもの。
アメリカでは、子供にしつけをしたり、正しいマナーを教育する努力をする以前に、 子供に落ち着きが無かったり、気が散り易いと 直ぐに ADD (注意欠陥障害) だと判断して、 子供にも処方箋薬を服用させるケースが 特に裕福な層に多いのは 以前から指摘されることである。
さらに、こうした裕福な家庭の親達は、やがて自分たちが離婚をしたりすると、 ティーンエイジャーの子供をセラピストに通わせて、親が離婚した精神的ダメージを緩和させようとする傾向にあるという。 実際にそれをされた経験がある 現在27歳の金融業界の男性によれば、 「親の離婚はショックではなかったけれど、落ち込んだふりをしていると、セラピストが その症状を親に伝えるので、親の自分に対する態度が軟化する上に、 うつ病治療薬を処方してもらえるので、そのうつ病治療薬を レクリエーショナル・ドラッグとして使っていた」 という。
彼のようなティーンエイジ時代を送った リッチ・キッズは 決して珍しくないようだけれど、 そんな彼らが 大人になってからも お世話になっているのが セラピストである。

アメリカではセラピストのことを、スラングで 「シュリンク」 と呼ぶけれど、これは 「ヘッド・シュリンカー」という言葉から由来するもの。
すなわち、考え事や悩み事で膨らんでしまった頭をシュリンクさせて(縮ませて)くれるのがセラピストという訳で、 ことにサブプライム問題が浮上してからというもの、ニューヨーク・エリアのセラピストは金融関係のクライアントを増やし続けているとが 伝えられていたりする。 もちろんそんな新規クライアントの中には、昨年から今年にかけてレイオフされた人々も含まれているというけれど、 こうした人たちは、レイオフのパッケージとして 会社が向こう1年間、月々400ドル前後の健康保険料を支払ってくれるというようなケースが 少なくないようで、そうした保険を利用すれば、1回300〜500ドルをチャージされるセラピストのカウンセリングが 60ドル程度の自己負担で受けられるという。
でも、先の27歳の男性のように 妻子やコンドミニアムのローンを抱えている訳ではなく、特に悩むことのない若い世代が セラピストに通う理由は、悩み事を聞いて欲しいというよりは うつ病用のメディケーションを処方して欲しいためで、 この処方箋薬は 何処から手をつけて良いか分らないほど忙しい、もしくはストレスフルな時や、 厳しいプレッシャーの中で仕事をしなければならない状況で 服用すると、 気分が晴れたり 落ち着いたりして、 非常に役立つのだそうである。
「そういう状況で 頼りの薬が切れていたら?」 と尋ねたところ、「薬は絶対に切らさない!」 という返答が帰ってきたけれど、 本来だったら、そういうストレスフルな状況は 自力で乗り越えて そこから自信をつけたり、経験を積んでいくべきもの。 もちろん薬では 本来の実力は変わらないとは言え、最も大切な精神的な部分を依存してしまうのは、 果たして良いことなのだろうか? と 薬を 極めて苦手とする私としては、 少々疑問に思えてしまったのだった。

ところで、アメリカという国はアパートでも、一軒家でも バスルームの洗面台の 鏡の扉を開けると内側がキャビネットになっている作りが通常で、 往々にしてそのキャビネットには 歯ブラシや歯磨き粉と共に、自分が飲んでいるメディケーション(処方箋以外の 頭痛薬など)や、軟膏などの塗り薬、デオドラント、ヘア・スタイリング剤、コロン、女性の場合はコスメティックなどを入れるケースが殆どである。
なので、洗面所のキャビネットを見ると、相手の ライフスタイルや健康状態の知られざる一面が分ると言っても過言ではなかったりする。 それだけに初めてデート相手のアパートに出かけた時に、バス・ルームを使用したついでに 相手のキャビネットの中身をチェックする人は非常に多いと言われている。
私から見れば、そういった人の家の棚を開けるのはプライバシーの侵害と思えてしまうけれど、 頭痛持ちの人などは、バスルームに行って勝手に キャビネットを開けて タイラノールやアドヴィル などの頭痛薬などを見つけて飲んでいるケースが少なくないという。 そうやってキャビネットを開いた時に、例えばデオドラントが沢山入っていた場合は、相手の体臭が強いんだろうなぁと判断したり、 花粉症の薬があれば アレルギーがあることを知ったり するようだけれど、 私の場合、この中に入れておくのはジョー・マローンのフレグランス・コレクションだったり、 石鹸やキャンドル等で、 開けた人は すっかり整理棚と化しているキャビネットを見て ちょっとシラけるようである。
そこでで90年代後半から私の洗面所のキャビネットの中に置いてあるのがミニチュア・サイズのテディ・ベア。 これは せっかく興味津々でキャビネットを開けた人を 少しはエンターテインしてあげようという気持ちで 最初は置いたものである。 でも、こんなところで テディ・ベアに出くわすのは かなり珍しいせいか、 バスルームから戻ってきた人が時々尋ねるのが 「何であんなところにテディ・ベアがあるの?」という質問。
もちろん この質問が飛び出してくると、その人がキャビネットを開けたのが直ぐに分る訳で、 今ではこの テディ・ベアの存在は、人がキャビネットを開けたか? のバロメータのようになってしまっているのである。





Catch of the Week No. 3 June : 6 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 June : 6 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 June : 6 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 May : 5 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。