June 21 〜 June 27 2010




”Everything Happens For A Reason ”


今週、アメリカで政治的に最も大きなニュースとなったのが、オバマ大統領が アフガニスタン米軍の最高司令官、スタンレー・マックリスタル将軍を 解任したというニュース。
これは、将軍が今月号の「ローリング・ストーン」誌に掲載された 「Runnaway General / ランナウェイ・ジェネラル」という記事の中のインタビューで、 オバマ大統領、バイデン副大統領を含む、オバマ政権を侮辱・批判するコメントをしたことが理由で、 オバマ大統領は「本人の口から釈明を求める」としてマックリスタル将軍を23日水曜にホワイトハウスに呼びつけ、 この場で同将軍は辞任を申し出たことが伝えられているのだった。
アメリカ軍は2011年7月という期限を設定して アフガニスタンから撤退する表明をしているだけに、これまでアメリカ政府と アフガニスタンのカルザイ大統領を繋いできた 最高司令官のポストを ここで入れ替えることは、 今後の情勢に少なからず影響を及ぼすことが懸念されているけれど、 それでもアメリカ軍の最高指揮官であるオバマ大統領、及びその政権に対する侮辱発言を放置することは 逆にオバマ政権にとって命取りになるだけに、この記事がメディアに流れてからというもの、 マックリスタル将軍の解任は時間の問題と見られていたのだった。
後任はマックリスタル将軍の上官で、イラク戦略で高い評価を得ているペトラエウス将軍。とりあえず、軍関係者や 議会からは文句が出ない人選となっているのだった。

私にとって この解任劇が非常に興味深かったのは、この一件に、今年4月のアイスランド火山噴火が絡んでいるという事実。
問題のローリング・ストーン誌の記事を書いたフリーランス・ライター、マイケル・ヘイスティングは、アイスランドの火山噴火で ヨーロッパの空港の多くが閉鎖され、足止めを食っている最中にマックリスタル将軍、及びその周囲のアメリカ軍幹部と知り合い、 一緒に時間を過ごしているうちに、彼らとアフガニスタンに同行することになり、その長い同行期間で集められたのが今回の記事に掲載された コメントやインタビュー。
なので、同記事の内容は 初対面のライターとマックリスタル将軍が 「取材」というようなフォーマルなインタビュー形式から得られたものではないのである。 もちろんヘイスティング記者は全てをテープに録音していたはずであるけれど、将軍及び、その周囲が語っている内容はヘイスティング氏と かなり砕けた関係になった状態の気を許した発言。 それだけに彼らの本音とも言える内容なのだった。
英語には 「Everything Happens For A Reason (直訳すれば、”全ての出来事には起こる理由がある”、”全ては理由があって起こる” になるけれど、 端的に表現すれば ”全ては運命に導かれている” という意味)」 というフレーズがあるけれど、 アイスランドの火山噴火がアフガニスタン米軍最高司令官の解任劇のきっかけを作るとは誰も予想もしなかったこと。
そしてこの人事交代が 今後の米国のアフガン戦略に 異なる結果をもたらすかもしれないのである。
そう考えると 現在大問題になっているメキシコ湾岸オイル流出事故も、現在 騒がれている環境破壊問題や、 漁業・観光業者の損害賠償以外に、今後の歴史に様々なインパクトを与えることになっても不思議ではないと思えるのだった。


でもそんな政治のニュースも霞むほどに今週、メディアが大きく報じたのはウィンブルドンとワールドカップという2つのスポーツ・イベント。
ウィンブルドンでは、史上最長の11時間5分という死闘を繰り広げたアメリカのジョン・イズナー(写真左、左側)とフランスのニコラス・マフー(写真左、右側)の3日間に渡る試合ぶりが、 地元ロンドンだけでなく、アメリカでも驚きと感動をもって伝えられていたのだった。
マラソンを3回走る以上の体力的消耗といわれたこの試合は、タイブレイクの無い5セット目が70-68という、とてもテニスとは思えないゲーム・カウント。 このセットだけで、これまでの史上最長試合時間を 更新する8時間以上が掛っていたけれど、 「こんなとんでもないゲーム・カウントの試合が起こりうるグランドスラム・トーナメントはウィンブルドンだけ」というのがテニス関係者のコメントなのだった。
というのも、ウィンブルドンはご存知のようにグランドスラム・トーナメントの中で唯一のグラス(芝生)・コート。 グラス・コートはボールがバウンドしてからのスピードがハード・コートやクレー(土)・コートよりも早いため、 ラリーが短くなるのが試合の特徴。言い換えればポイントが早く決まる分、試合が長時間に及ぶということはゲーム数が増えることを意味する訳である。
加えて芝のコートは柔らかい分、足や膝に掛る負担がハード・コートよりも遥かに軽減されるので、 プレーヤーが長時間の試合に耐え易いという利点もあるのだった。

ちなみにボールがバウンドしてからのスピードが最も遅いのはフレンチ・オープンが行われるローラン・ギャロのようなクレー・コート。 ラファエル・ナダルのようなフットワークの良いプレーヤーがボールを拾いまくることによって圧倒的に強みを発揮するのがこのコート。
クレー・コートもハード・コートより膝や足には優しいけれど、ラリーが長くなる分、 5セット目にタイブレイクが無くても、 そんなに沢山のゲームはプレー出来ないのである。
ところで、この史上最長の試合に勝利したジョン・イズナーにとって、このゲームはウィンブルドン初の白星。でもゲームの翌日、 過度の疲労のため、彼は今大会最短記録の試合時間で敗退してしまったのだった。

余談ではあるけれど、今では黄色と相場が決まっているテニス・ボールが 正式な試合で初めて使用されたのが 今から24年前、 1986年のウィンブルドン。理由は芝生がバックグラウンドだと、白いボールが見難いとTVの視聴者から多数のクレームが寄せられたためで、 イエロー・ボールになってからは、プレーヤーにとっても観客にとっても遥かにボールが見易くなったという。
1回のウィンブルドンで使用されるボールの数は毎年5万球以上。そのうちトーナメントで使われるのは約3万球で、残りは予選試合用、 プレーヤーの練習用に使用されるという。


そのウィンブルドンの会場でも観客がさかんに気にしていたのがワールドカップの動向。
23日、水曜にアンディ・ロディック(アメリカ)がセンターコートで試合をしている最中には、 イングランドの1次リーグ突破のニュースをスマートフォンなどで知った観客が、テニスの試合とは無関係の大歓声を上げていたことが伝えられているけれど、 ロディック自身も試合が終わった途端に、その時行われていたアメリカ・チームの試合結果を尋ねていたような状態。
その水曜に行われたアメリカVS.アルジェリア戦は、セルヴィア戦でレフリーによるゴール無効の判断で勝利を逃したアメリカ・チームが 一次リーグ突破を賭けた試合であったけれど、ずっと攻め続けてきたアメリカが 遂に決勝点を決めたはロス・タイムの延長に入った90分過ぎのこと。
「ハリウッドのシナリオでも出来すぎている」と言われたこの劇的な勝利のお陰で、今週アメリカのサッカー・フィーバーは 過去に無いレベルに達していたのだった。

でもそういう段階に来ると、これまで必ず勝利を逃してきたのもアメリカ・チーム。26日、土曜に行われたガーナ戦では、延長に入った途端にゴールを決められ、 そのまま敗退。アメリカ国内ではチームUSAの健闘を讃えながらも、サッカー・フィーバーは翌27日には かなり冷めた印象で、 今後USサッカーはどうなるのか?、 ここでサッカー人気に火が付くのか?、今後アメリカ・チームはどうすれば世界レベルになれるのか?といった 報道が盛んになされていたのだった。

私が個人的に最も興味深く思った指摘は、ESPNのコメンテーターによる 「アメリカ・チームにはハングリーさが無い。 アメリカで真剣にサッカーをしてきたのは大学の奨学金目当てのミドル・クラスの子供達。 他国のプレーヤーはプロになって 貧困から抜け出してサクセスを収めるためにサッカーをしている。 アメリカの状況は他国と全く逆。これではハングリー精神が育たなくても当然」というもの。
確かに、アメリカではスポーツでサクセスを収めたいと思ったら、NBAやNFLのプレーヤーを目指すのが常識。 そうすればアマチュア時代からナイキなどのスポンサーが付いて、学生プレーヤーとは思えない待遇が待っていたりするけれど、 そうした 超エリート・アスリートは実際に貧困家庭出身で そのパフォーマンス・レベルが非常に高いのは言うまでもないこと。
これに比べると、スター・プレーヤーになっても収入が極めて少ないサッカーは、 これらのハングリー精神に溢れる超エリート・アスリートが選ぶプロ・スポーツにはなり得ない訳で、 スポーツ王国アメリカでサッカー・ブームが盛り上がらない理由として挙げられているのが スター・プレーヤーの不在なのだった。

でも、そのハングリー精神溢れるゲットー出身のプレーヤーが「エゴを剥き出しにし、広告出演契約を取って、大金持ちになるためにプレーしているだけ」 と指摘されたのが今回のフランス・チーム。
一次リーグの真っ最中に 監督に暴言を吐いたニコラ・アネルカをチームから追放したことに抗議して フランス選手が練習をボイコットしたニュースは 世界中で報道されたけれど、「駒が揃っていてレベルが高いにも関わらず、チームがバラバラ」と国内外から批難され、 今回のワールドカップで1勝も出来ずに姿を消すという結果に終わったのがレ・ブルー(フランス・チームのニックネーム)。
フランスの右派与党の民衆運動連合(UMP)の中には、選手が貧しい移民社会出身であることを指摘し、「フランスのユニフォームを着ていても、 それぞれ違う国のためにプレーをしている」とル・ブルーの惨憺たる状況を移民問題に絡める向きもあり、 「失業問題は移民のせい」という声の高まりで勢いをつけつつある フランス国内の反移民感情を煽る結果になりつつあるという。
これを受けてサルコジ大統領はフランス・チームの建て直しに取り組むとしているけれど、「サルコジのような身勝手で派手好きな大統領が居るお陰で、 フランスのサッカー・チームも金目当てのエゴの塊になってしまった」という指摘も聞かれているのだった。
1998年にフランスがワールドカップのチャンピオンに輝いた際は、その人種のバラエティが大きく評価されたものだったけれど、 今の状況はその全く逆。
先述の「Everything Happens For A Reason」という言葉はワールドカップの結果にも当てはまることで、 今回のフランス・チームの惨敗ぶりが、今後のフランスにおける移民問題に大きな影響を及ぼすかも知れないのだった。


ところで、フランスはレ・ブルー、イタリアはアズーリ、USAはスターズ&ストライプス、イングランドはスリー・ライオンズなど、 ワールドカップに出場する各国のチームはそれぞれにニックネームを持っているけれど、今回のワールドカップで、すっかり日本チームのニックネームとして 定着した感があるのが「ブルー・サムライ」(フランス語圏では「サムライ・ブルー」)。
そのブルー・サムライが木曜に見せた対デンマーク戦の試合振りは、「Superb Teamwork!(素晴らしいチームワーク)」、 「Selfless Play!(無私無欲のプレー)」 という表現で、ESPNのコメンテーターが絶賛していたのだった。 引き続き関心が集まっていたのが本田選手で、クリスティアーノ・ロナウドのスタイルと比較するコメントも聞かれていたほど。
次のパラグアイ戦でも 彼が 米国メディアやUSAが敗退してからもサッカーを見続けるアメリカ人サッカー・ファンが 最も注目するプレーヤーになっているのだった。





Catch of the Week No. 3 June : 6月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 June : 6月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 June : 6月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 May : 5月 第 5 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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