June 20 〜 June 26 2011

” Marriage & Same Sex Marriage ”


今週末のニューヨークで最大の報道となったのが、「セイム・セックス・マリッジ」すなわち、ゲイの婚姻を合法とする法案が ニューヨーク州の議会で可決されたというニュース。
ゲイの婚姻は、既にマサチューセッツ州、コネチカット州、アイオワ州、ヴァ-モント州、ワシントンDCで合法となっているけれど、 カリフォルニア州では、2008年6月に合法化されたゲイの婚姻が、同年11月の選挙の際に これを覆す「プロポーサル8」が 州民投票によって可決され、以来ゲイの婚姻は認められていないのだった。
ニューヨークでも、2年前にはいとも簡単に否決されてしまったゲイの婚姻を認める法案であるけれど、 今回は 共和党員4人がこの法案をサポートしたため、33対29の過半数を獲得し、 6月24日金曜の午後10時半に可決の運びとなったのだった。
これによって、ニューヨークはゲイ婚姻を合法化した全米最大の州となったけれど、 この投票結果に対しては キリストの教えに背くとして、カソリック教会関係者らが 異論と懸念を表明しているのだった。

では、この法案可決によって何が変わるかと言えば、 これまで婚姻関係になれないためにゲイ・カップルに認められてこなかった権利、例えばカップルの生別、死別後の財産分与や 移民がアメリカ人と結婚しした場合のグリーンカードの取得などが、夫婦になることで 法的にプロテクトされるのはいうまでも無いこと。
でも、最もインパクトが大きい部分は、これによって ゲイ・ピープルがストレート・ピープルと同じように 結婚する権利が認められたということ。 すなわち、「ゲイだからといって、結婚を諦めずに済む」、「ゲイであることが理由で、法的に差別されることが無い」という部分なのだった。


日本では、3月11日の地震と津波以来、結婚するカップルが増えていると言われるけれど、 それを語る際に 引き合いに出されるのが、ニューヨークでも9・11のテロの直後に、結婚するカップルが増えたということ。
人によっては、これを 「テロのような悲劇をきっかけに、人々が人生の意義を考え直した結果」と見ているようだけれど、 実際のところ、何故ニューヨークで9・11のテロの直後に結婚が増えたかと言えば、 カップルが ただ一緒に暮らしているだけなのと、結婚しているのとでは、カップルのうちの1人がテロのような不意の惨事に見舞われた場合、 残された人間の法的&社会的プロテクションが全く異なるため。

9・11のテロの当時は、例えどんなに長く一緒に暮らしているパートナーでも、婚姻関係が無ければ、家族とは見なされず、 救急医療室に居るパートナーに面会することも許さず、パートナーが死去した場合も、 保証金や賠償金を受け取ることも出来ない立場なのだった。
さらに、たとえレントを半分ずつ支払っていたとしても、パートナー名義で アパートの賃貸契約が結ばれていた場合、残された人間はアパートから追い出されたり、 契約更新の際にレント・コントロール(同じ人間がレントしている限りは、家主が一定の割合以上は 家賃を値上げできないように制限した法律)の対象から外れるため、 急激に家賃がアップして、払いきれないといった状況にも陥っていたのだった。
またテロがきっかけで、肉体的・精神的に病んだ人々は多かったけれど、婚姻関係にあれば 伴侶を自分の会社の健康保険に加入させて、 医療費が大幅に軽減することが出来るけれど、同居人は伴侶とは見なされない状況。 さらに、パートナーが死去した場合、遺言が無い限りは、パートナーに財産相続の権利は無く、生前パートナーが最も嫌っていた家族が 突然やってきて、その全財産を合法的に持っていってしまい、残された側が路頭に迷うという、 悪夢のようなシナリオも報じられたのだった。
もちろん、これらのことは たとえ離婚寸前で別居していたとしても、法律上夫婦である関係には 決して起こらないことなのだった。

このため、テロがきっかけで 「同じ一緒に暮らすならば、結婚しておいたほうがお互いのため」ということで、 どちらかに何かが起こった場合に、 お互いを法的にプロテクトするために結婚するカップルが当時 非常に増えたのだった。
しかしながらこの状況を受けて、その後ニューヨークでは ドメスティック・パートナーシップ・ロウ、すなわち同居するパートナーに婚姻関係と同等の ステータスを認める法律が誕生。 ストレートでも、ゲイでも、一緒に暮らしているカップルが、お互いをドメスティック・パートナーとしてレジスターすれば、 会社の健康保険や財産分与など、様々な部分で 夫婦同等の扱いを受けられるようになってきており、 今では非常時に備えて、無理にカップルが結婚する必要がなくなってきたのが実情なのだった。

このドメスティック・パートナーシップは、シビル・ユニオンとも呼ばれ、そもそも結婚という概念に囚われたくないフランスでは、 今や 婚姻関係を結ばずに夫婦と同じステイタスを得られるシビル・ユニオンの方がメイン・ストリームになりつつあるのが実情なのだった。
一方、アメリカでは、数年前からゲイ・ライツ・アクティビスト(ゲイの人権運動家)達が、ゲイの婚姻を合法化しようと活発に動き出して以来、 オバマ大統領を始めとする、民主党の政治家達の政策ポジションの逃げ道として使われてきたのが、このシビル・ユニオン。 キリスト教が国民の60%を占め、ゲイの婚姻に対してコンサバティブな意見が強かったアメリカで、選挙に勝利するためには、 ゲイの権利を認めつつも、キリスト教から反感を買わないポジションを取らなければならないために、シビル・ユニオンを推進するのが 選挙票を失わない安全な政策と言われてきたのだった。
でも、キリスト教右派を支持層とする共和党の政治家達は、逆にゲイの婚姻に反対するポジションを取ることで、 コンサバティブな層の票を集めてきており、セイム・セックス・マリッジは移民法と並んで、 選挙の度に争点となってきた問題なのだった。
しかしながら、ハリウッド映画やレディ・ガガなどのポップ・カルチャーの影響も手伝って、世論調査では今年初めて、ゲイの婚姻合法化に賛成する アメリカ国民が過半数に達したことが伝えられており、過去2年ほどのアメリカ社会のセイム・セックス・マリッジに対する態度の軟化は、 メディアも驚くほどに目覚しいものになっていたのだった。


ところで、ゲイ・ピープルが結婚したがっているのとは正反対に、ストレートのカップルの間ではどんどん減りつつあるのが結婚。
1960年代には、18歳以上の72%が既婚だったのをピークに、2008年にはそれが52%にまでダウン。 逆に一度も結婚したことが無い人口は成人全体の27%と過去最多。
さらに、今増えているのが ”グレー・ディヴォース”と呼ばれる、年配者の離婚。 加えて、離婚してから再婚しない女性が増えていることもあり、 現代のアメリカは過去最高のシングル人口になっていることが指摘されているのだった。
中には再婚すると前夫から支払われている生活補償費を受け取れなくなるため、離婚後、ボーイフレンドと一緒に暮らしていても、 再婚しないという女性も少なくないのは事実。
でも、経済的な理由が無くても、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットのように、 お互い離婚経験があるカップルの中には、「結婚さえしなければ上手くやっていける」ことを理由に 結婚しないカップルも居て、 そうした人々の意見によると、結婚というのはリーシュ / leash(犬の首輪につける引き紐 )のようなものなのだという。
カップルが一緒に暮らしているだけの状態は、犬をアパートの中で放し飼いにしているようなもの。でも結婚をするということは 家の中でリーシュをつけて飼われているような状況。 どんなにリーシュが長くて、家の中の何処にでも行くことが出来ても、 犬が自主的に外に出て行かないのと、リーシュで繋がれているから出て行けないのでは、 同じ家の中に居るのでも、精神状態が全く異なるのだそうで、それが一緒に暮らすことと 結婚することの違いなのだと 説明されていたのだった。


話をゲイ・カップルに戻せば、ニューヨークでゲイ・カップルにマリッジ・ライセンスが発行されるのは、法律が施行される7月25日からのこと。 ライセンスの費用は35ドルで、7月5日からその先行受付がスタートするとのこと。 ライセンスが発行されれば、翌日には結婚できるのはストレート・ピープルと同様になっているのだった。
言うまでもなく、結婚式というのは、レストラン、ホテルはもちろんのこと、フローリスト、ケータリング・ビジネス、ウェディング・ギフト・サービスなど、 多業種のビジネスに、大きな収入をもたらすイベント。
今後はニューヨークのゲイ・カップルが結婚ブームを迎えるのはもちろんのこと、他州、特にゲイの結婚が合法化されていない州から ニューヨークにやってきて 結婚しようというゲイ・カップルが増え、ウェディング関連のビジネスが潤う一方で、そのゲスト達が観光収入をもたらすことが見込まれているのだった。 なので、今回のセイム・セックス・マリッジ合法化により、向こう3年で ニューヨーク州にもたらされると見込まれるビジネス収入は150億円以上。

こうしたビジネス・チャンスを武器に、法案の合法化を図ろうとする州もあると言われるけれど、 一部の保守派の間では、合衆国憲法で ゲイの婚姻を禁止して、各州における合法化を一気に覆そうという動きも見られており、 ゲイの結婚をめぐるアメリカの様相は まだまだ2転3転しても不思議ではない状況なのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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