June 24 〜 June 30, 2013

” Two Different America ”


今年に入ってからというもの、異常気象や それが原因の自然災害のニュースが毎週のように報じられているアメリカであるけれど、 今週ニュースになっていたのが西海岸を襲っている記録的な熱波のニュース。
土曜日のカリフォルニア州のデス・ヴァレーでは、最高気温が華氏125度(摂氏51.7度)に達していたけれど、 このデス・ヴァレーは 地球上の史上最高気温の記録を持つエリアで、それは1913年の華氏134度(摂氏56.7度)。 人間は体温を超える気温の中では、行動力も思考力も鈍ってしまうけれど、 そうなるのは人間だけではなく、飛行機とて同様。 日曜にはUSエアウェイズが、アリゾナ州、フェニックスからの18のフライトをキャンセルしており、 これは小さめの旅客機が摂氏47度以上だと、まともに飛行出来ないケースがあるため。
この異常なまでの暑さを利用して、ナショナル・ウェザー・サーヴィスの気象予測士は、摂氏93度を超える 駐車した車の中で、チョコレート・チップ・クッキーが焼けるか?の実験(写真上右)を行なっていたけれど、 その結果、クッキーは4時間掛ったものの、まるで オーブンで焼いたかのような完璧なコンディションに焼けたことが レポートされているのだった。


さて、今週は連邦最高裁で 幾つもの大きな判決が下されたけれど、最もソーシャル・インパクトが 大きかったのが、同性婚をめぐる2つの判決。
その1つは DOMA/ドーマの通称で知られる、”ディフェンス・オブ・マリッジ・アクト”。 これはクリントン政権下で法令化されたもので、 アメリカ合衆国は男女間の婚姻しか結婚と見なさないというもの。 そしてもう1つは、カリフォルニア州で一度は合法化された同性婚を覆して、これを禁じる法案 ”ポロポジション・エイト”であったけれど、 今週水曜の最高裁は、この2つに対して どちらも違憲であるという判決を下したのだった。
後者によって、カリフォルニア州で再び同性婚が合法となったけれど、前者については 既に同性婚が認められている州で結婚したカップルが、遺産相続や年金の受け取り、 グリーンカードの取得といった国が絡む手続において、ヘテロ・セクシャルのカップルと同じ 扱いを受けることを実現するもの。

この判決を受けて、レオナルド・ディカプリオ、ベン・アフレック、 レディ・ガガ等、多くのハリウッド・セレブリティが こぞって最高裁の判決を支持&評価する ツイートを行なっていたけれど、 この判決はまるで今週のゲイ・プライド・ウィークに合わせたようなタイミング。
週末は、エンパイア・ステート・ビルがLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)のシンボルである レインボー・カラーにライトアップされており、ゲイ・プライド・ウィークのイベントでは、 LGBTの熱烈なサポーター、レディ・ガガが珍しくアメリカ国歌を歌う姿も見られていたのだった。


でも、この最高裁の判決を誰もが諸手を上げて支持しているわけではなく、キリスト教右派を中心とする保守派は、 この判決が出た水曜を「アメリカの歴史上最も悲しい日」とコメント。 アメリカの多くの州で、今も同性婚が違法であることを強調しているのだった。
事実、アメリカ国内で同性婚が合法なのは 現時点では 50州中、 約4分の1に当たる13州。 アーカンソー州など、南部の保守的な州では 同性婚に賛成する人々は僅か18%。 NYポスト紙のような共和党支持の保守派メディアは、あえて同ニュースを 翌朝の第一面で報道しない姿勢を見せているのだった。

その一方で、ニューヨークのアンドリュー・クォモ州知事は、ニューヨーク州を LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)のトラベル・デスティネーションとしてプロモートしようと、 "I Love NY LGBT" という新しい ツーリスト・キャンペーンを打ち出すこと発表。
「ニューヨークはLGBTを誇りを持って迎えてきた歴史を持っている」とコメントしながら、 従来の "I Love NY " のロゴのハートの部分を、レインボー・カラーにした新しいLGBT用のロゴ(写真上左)の お披露目をしているのだった。



でも今週、アメリカで最も報道時間が割かれていたのが、「クイーン・オブ・サザン・クッキング」として知られる 料理家、ポーラ・ディーン(写真上、66歳)が人種差別発言が原因で物議を醸し、 それに対して謝罪コメントをする度に墓穴を掘った挙句、年商17億円のビジネス・エンパイアが音を立てて崩れ出したというニュース。
問題視されている発言は、アフリカ系アメリカ人を差別する、俗に ”Nワード”と呼ばれる言葉を使ったというもの。 この言葉は、黒人ラッパーの歌詞や映画の中には頻繁に登場していて、 アフリカ系アメリカ人が自分達に対して使うのは全く問題視されないのに対して、 別の人種が使うと、大バッシングを受けるもの。
かつてジェニファー・ロペスが P.ディディと交際中にその楽曲の中で、「マイ・ニガー」と謳って 猛烈な批難を浴びて 謝罪したのに始まり、90年代に将来を嘱望されていたキャロライナ・パンサーズのクォーター・バック、 ケリー・コリンズも黒人チームメイトを この言葉を使って罵って以来、キャリアを台無しにしており、 同様の失言でキャリアやビジネスにダメージを与えた例は 他にも沢山存在しているのだった。

ポーラ・ディーンの人種差別発言が浮上したのは、かつて彼女の下で働いていた女性が、 ポーラ・ディーンと その弟を相手取って、人種差別とセクシャル・ハラスメントで訴えたのがきっかけ。 これに対して、”Nワード”を使ったのをあっさり認めたポーラ・ディーンであったけれど、 あまりにバッシングが酷くなってきたことを受けて、 「Nワードを使ったのは、30年前に銀行の窓口で働いていた時に、強盗に銃を突きつけられた時の1回のみ」 とストーリーを変えたことから、その批難のリアクションがどんどん大きくなっていってしまったのだった。

さらに彼女は、先週5月21日にモーニング・ショー「トゥデイ」に出演し、 弁明のインタビューに応じる予定であったものの、当日になってそれをキャンセル。 その替わりに3本のビデオ・メッセージで謝罪をしたけれど、それらが いずれも人々の怒りを煽る結果となり、 この時点から、どんどん彼女のビジネス・エンパイアを支えていたスポンサーが離れていってしまったのだった。
このため、ポーラ・ディーンは今週水曜日に一度はキャンセルした「トゥデイ」に出演。 同番組としては極めて異例な 13分という長い放送時間を割いた インタビューに応えたけれど、高視聴率を記録したこのインタビューも やはり 人々の反感を買う結果になり、更にスポンサーが離れていくという事態を招いてしまったのだった。

ポーラ・ディーンとのビジネスを解消したスポンサー企業の顔ぶれは、J.C.ペニー、Kマート、シアーズ、ウォルグリーン、ターゲット、ウォルマート、QVC等で、 これらの大衆小売チェーンは、もっぱら彼女のキッチン・グッズやフード・プロダクトを販売していたけれど、 それ以外にも彼女の料理番組を放映していたフード・ネットワークも、真っ先にポーラ・ディーンとの契約を更新しないと 発表した存在。
その一方で、フェイスブック上には ポーラ・ディーンを支援する”We Support Paula”というページが誕生。 45万6000人から「Likes」を獲得している一方で、アマゾン・ドット・コムでは10月に発売予定の彼女の料理本の プレオーダーが殺到し、発売前にしてベストセラーになるという事態が起こっているのだった。
とは言っても、週末には出版元が 彼女の料理本の出版キャンセルを発表しており、 ポーラ・ディーンのビジネスは完全に暗礁に乗り上げたという印象になっているのだった。

彼女の人種差別問題が どんどんエスカレートしていった要因は、 南部出身で、2013年の今も 南北戦争前のプランテーション・カルチャーにドップリ浸かっている 彼女の言動。 アフリカ系アメリカ人に対してフレンドリーな振る舞いを見せる一方で、 まるで自分が奴隷を対等に扱うフェアな白人であることをアピール しているような彼女の言動は、 今週のアメリカで人種を問わず反感を買っていたのだった。
逆に彼女を支持していたのは、圧倒的にポーラ・ディーンのお膝元である南部の人々。 そんな人々の間では「ポーラ・ディーンの年齢と育った環境を思えば、多少の人種差別発言は仕方が無い」と 理解を示すコメントも聞かれていたけれど、メディアの専門家の多くは パブリック・パーソンにとって、人種、ゲイ、男女差別等に関するメディア・トレーニングを受けて、 問題発言をしない努力をすることが、如何にビジネスや本人のイメージにとって大切なことかを 指摘していたのだった。



ポーラ・ディーンを有名にした南部料理はバターやベーコンをこれでもか!で使って、何でもフライにする肥満の道まっしぐらのスタイル。 ポーラ・ディーン本人も、自分の料理で糖尿病になっていたのだった。
さらに南部と言えば、カントリー・ミュージック、キリスト教信仰の強さ、 共和党支持、銃規制反対、妊娠中絶反対、同性婚反対という極めてコンサバティブな アメリカン・カルチャーで、これらを支持しているのは圧倒的に白人層。
逆にアメリカ大陸の両岸に行けば行くほど、強くなるのがリベラル思想で、 同性婚、銃規制&妊娠中絶の支持や 民主党支持者が増えて行き、人種のミックスが顕著になると同時に、ポップ・カルチャーの影響が色濃くなってくるというのが 現在のアメリカの構図。

今週のアメリカでは、最高裁の判決を受けて リベラル派と保守派の間で 同性婚やゲイ差別問題に関する 大論議が展開されていたけれど、その場で まるで過去の出来事のように語られていたのが人種差別問題。 そんな中、ポーラ・ディーンのスキャンダルは、今もアメリカに人種問題が根強く残っていることを 認識させるものとなっていたのだった。
保守派の政治家の間からは、「最高裁の判決に反発するキリスト教右派の人々が、 来年行なわれる中間選挙で、同性婚に反対する共和党を熱烈に支持するであろう」という強気のコメントが聞かれていたけれど、 今やアメリカにおいて どうやっても歩み寄れない、全く異なる世界を築いているのがコンサバティブとリベラル。
昨年、オバマ大統領が再選された際には、これに反発する保守的な南部の州の多くで、 アメリカからの独立のための署名運動が起こっており、人々は農作物、食肉のリソースが南部に集中していることから、 「独立しても十分にやって行ける」として 運動を起していたのだった。

要するにアメリカは ”合衆国” とは言いながらも、全く異なる思想やカルチャーが 議会だけでなく、国全体を二分した状況が続いている訳だけれど、 同じ”平等”というコンセプトについても 保守派とリベラル派の考えが 如何に異なるかを 如実に示しているのが 上右側のイメージ。
こうまで価値観が異なり、お互いが お互いの言い分を正しいと信じて譲らないだけに、 この二分したアメリカの状況は 全く収拾の見込みが立たないのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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