June 29 〜 July 5 2009




” Overdose & Overeat ”



今週のアメリカは、7月4日の建国記念日を土曜日に控えていたので、企業は金曜を繰り上げの休日にして 木曜の午後から連休に入ってしまうところが殆どであったけれど、 一部の人件費を節約したい企業の中では、火曜日から週末までを休みにしてしまうところもあったという。
そのアメリカの今週のニュースはと言えば、引き続きマイケル・ジャクソンの報道が中心で、 写真上は 上段左から順番に6月29日から7月5日までの 今週1週間のニューヨーク・ポストの第1面であるけれど、 実際、これらのヘッドラインが示す通りの報道が 大きく行われていたのだった。

月曜には、この日に150年の禁固刑の判決が下ったバー二ー・メイドフ、 そして金曜には、任期を1年以上残しながら今月末でアラスカの州知事を辞任することを発表した 共和党副大統領候補、 サラー・ペイランがマイケル・ジャクソンの報道を凌いでいたけれど、 バー二ー・メイドフについては、今後も捜査や訴訟が続くとあって 事実上の終身刑が彼に言い渡されても、 事件が一段落とはとても言えない状況。
ニューヨークはルーザー(負け犬)に厳しい街と言われるけれど、バー二ー・メイドフの妻、ルース・メイドフ夫人は 罪には問われていないものの、行きつけのヘア・サロンから来店を断わられ、自宅にヘア・スタイリストを派遣することも拒否され、 フローリストからもビジネスを断わられ、今やサングラスを掛けて地下鉄で移動する身。 彼女は7億円と言われるアッパー・イーストサイドのペントハウスを没収されたばかりであるけれど、 新しいアパートを探そうとしても、 パパラッツィが押し寄せて住民に迷惑が掛かることを嫌って、 何処のビルも彼女の入居を断わり続けていることが報じられているのだった。

一方のサラー・ペイランの突如の辞任については、ニューヨーク・ポストのような共和党メディアは 、 彼女が2012年の大統領選挙に備えるために辞任したという説を打ち出しているけれど、 金曜に行われた彼女の記者会見を取材したメディアは一様に、 彼女が政治の世界から身を引こうとしている という見解を明らかにしているのだった。
一部には、彼女は今後トークショー・ホストとなって、ポリティカル・アイコンではなく、カルチャー・アイコンになろうとしている という説も聞かれており、共和党&キリスト教右派寄りのオプラ・ウィンフリー (オバマ大統領を選挙戦で絶大に支持したトークショー・ホスト) のような存在を目指しているとの憶測も飛び交っているという。 ちなみにオプラ・ウィンフリーの昨年の稼ぎは200億円以上。オバマ大統領の稼ぎは その100分の1強 であるから、 大統領よりカルチャー・アイコンの方が、楽に高額な収入が得られるのは 紛れも無い事実なのである。

さて、マイケル・ジャクソンについても少しだけ触れておくと、彼の死後1週間で売れたマイケル・ジャクソンのアルバムは合計で42万2000枚。
同じ期間にアメリカ国内でダウンロードされたシングル・トラックの57%がマイケル・ジャクソンの楽曲で、 そのダウンロード総数は230万。 音楽のダウンロードがスタートして以来、1週間に100万以上の楽曲がダウンロードされたアーティストはかつて存在しなかったとのことで、 昨年1年間のマイケル・ジャクソンの楽曲の総ダウンロード数が280万というから、この数字が如何に桁外れであるかは容易に想像がつくところ。
アメリカ国内におけるダウンロード楽曲の人気トップ3は、1位が「スリラー」、 2位が約2000の僅少差で 「マン・イン・ザ・ミラー」、 そして3位が「ビリー・ジーン」となっている。
ラジオの世界では モニター会社、ニールセンBDSが 1600のステーションを対象に行った調べによれば、 マイケル・ジャクソンの死後6日間に 最もオンエア数が高かった楽曲は 「ビリー・ジーン」で 何と4907回。 次いで 「スリラー」 の3745回、第3位が 「ロック・ウィズ・ユー」 の3853回であったという。
マイケル・ジャクソンの死亡3日前は、1600のステーションで「ビリー・ジーン」がオンエアされた回数は94回。 なので死亡のニュースでその数が50倍に膨れ上がった訳である。
その一方で、今週はデビー・ロウが出産したマイケル・ジャクソンの2人の子供が、実は彼の子供ではなく 彼の皮膚科医の子供である といった報道や、「マイケル・ジャクソンはツアーに出たくなかったために死亡を演出しただけで、実は彼は生きている」といった 報道まで飛び出しており、こうした茶番的報道は彼の生前も死後も全く変わっていないといった印象である。

今週は、ニューヨークのクラブでも「マイケル・ジャクソン・トリビュート」と称して、DJがマイケル・ジャクソンの曲だけをスピンする スペシャル・ナイトの企画が行われていたけれど、 こうして世の中がマイケル・ジャクソン・プチ景気に沸いている中、 木曜に発表されたのがアメリカの6月の雇用統計。
5月にはまだまだ失業者は多いものの、その数が減ったことで景気回復の兆し説を唱えるメディアも多かったけれど、 6月の失業者はその5月を上回る46万7000人。 失業率も9.5%にアップし、雇用問題が悪化の一途を辿っていることが 明らかになったのだった。 当然のことながら、これを受けて木曜の株価は大きく下がったけれど、市場関係者が心配するのは 期待感だけで持ち直してきた 株式市場に今後どの程度持続力があるか?ということ。
実際、給与レベルを リセッション前に戻そう などという余裕を見せているのは、 このリセッションを招きながら政府によって救済された金融業界だけで、 小売や製造は業績が悪化の一途を辿るばかり。
加えてリセッションの初めにレイオフされている人々は あと2〜3ヶ月ほどで失業手当の給付がストップするところまでに追い込まれており、 失業問題だけでなく、雇用が増えない問題は非常に深刻な局面を迎えているのである。

そんな中、同じく今週大きく報じられたのが、タイレノール、エキセドリンといった鎮痛剤に多く含まれるアセタミノフェンの オーバードース(過剰摂取)で アメリカ人が肝臓にダメージを受け、年間400人が死亡、4万2000人が入院する事態になっている というニュース。
タイレノール、エキセドリンといえば、日本でもお馴染みの薬であるけれど、これらに多量に含まれるアセタミノフェンは これまで安全と見なされており、これをさらに多量に含む処方箋薬でマイケル・ジャクソンも 飲んでいたヴィコディンは、 アメリカ国内で 年間に100万回以上 処方されているという。
FDA(食品医薬品局)ではこのヴィコディンと、パーコセットという2種類のアセタミノフェンを多量に含む処方箋薬を 販売禁止処分にすると見込まれているけれど、アセタミノフェンの危険なところは ありとあらゆる風邪薬、頭痛薬、解熱剤などに 含まれているため、これらの薬を合わせて服用することによって、知らず知らずのうちにオーバードースになっているという点。
また頻繁に摂取すると段々と効かなくなってくるために、以前と同じ効果を得るために摂取量を増やすよう アドバイスするドクターも 少なくないという。 これは私も思い当たるところがあって、私の友人が生理痛が酷いからといって、タイレノールのエクストラ・ストレングスを 1日に8錠も摂取していて、「ドクターにはタイレノールは安全だから と言われた」 と話していたのだった。
これを受けてタイレノールの発売元であるジョンソン&ジョンソンは、昨日、今日とニューヨーク・タイムズ紙に連日で、 「1日の摂取量を守っている限りは安全です」 という全面広告を打ち出していたけれど、 人によっては摂取量以内でも長期間の服用で肝臓を病むケースが認められているとニューヨーク・タイムズ紙ではレポートしている。
特にアメリカ人は 私の友人を始め、タイレノールPMを入眠剤として服用しているケースが非常に多く、 こうした人々は、朝 眠気が残らず、習慣性や副作用が無く 安全という理由で何年にも渡って服用していたりする。
FDAでは、タイレノールやエキセドリンといった処方箋以外の薬品に対しても、アセタミノフェンの使用制限を 厳しくするとしているけれど、これに対しては一部の医師からは 「頭痛や風邪で通院する患者が増えるのが見込まれる」として、 それに伴う 健康保険料のアップを懸念する声も聞かれているのだった。

このニュースは 7月1日付けのニューヨーク・タイムズ紙の第1面で報じられていたけれど、同じ日の第一面に掲載されていたのが、 健康保険に加入しているにも関わらず 医療費が保険でカバーされず、破産申請をした夫婦のストーリー。
実際、アメリカの医療費はとんでもなく高額なので、医療費破産というのは今回のリセッションに始まったことではなかったりする。 なのでアメリカでは 健康体を維持していることは$1ミリオン(約9600万円)がキャッシュで銀行口座にあるのと同じくらいの 価値があるとさえ言われているのだった。
昨今は私自身も、健康の有り難味をひしひしと感じることが起こっただけに、好んでタバコを吸ったり、 塩分や脂肪分が高いファスト・フードのような食事をしている人を見ると、「こういう人は一体何を考えているんだろう?」と 不思議に思ってしまうけれど、アメリカ人にとって 最も難しいことの トップ3というのが、「タバコを止めること」、 「リタイアに備えて貯金すること」、そして「体重を落とすこと」であるという。
よく人は冗談で、「タバコを吸って 太っていたら、長生きなんてしないから老後の蓄えなんていらない」などと言っているけれど、 実際には 「肺がんや心臓病で死んでしまう前に破産」 というシナリオが待っていることが多いわけで、 これは 家族にしてみれば とんでもない災難であったりする。

では、どうして人々が健康に悪いと分かっていながら タバコが止められなかったり、糖分、塩分、脂肪分が多い 食べ物ばかり食べてしまうかと言えば、 これらには ある種の中毒性があるため。
そもそもタバコについては、タバコ業界が売上を上げるために わざと喫煙者がニコチン中毒になるように タバコを生産していたことで 数年前に裁判になったけれど、この時にタバコの中毒性を暴いたのがFDA(食品医薬品局)のトップである デヴィッド・A・ケスラー博士。
彼は、そのタバコと同じくらいの中毒性をチョコレートチップ・クッキーに見出し、 過食と食欲のコントロールについてのリサーチを始めたとのことで、 それを「エンド・オブ・オーバーイーティング」という著書(写真左)で出版し、現在 同書は ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラー・リストにランクインする話題の本となっている。

これによれば、フードというのは個々の原料に中毒性はなくても、 糖分、塩分、脂肪分を 特定のコンビネーションを味わうことにより 脳に ”至福” のシグナルが送られるという。 そのためには、糖分、塩分、脂肪分が多過ぎても、少な過ぎても いけないという。
現在の大手フード会社は、この”至福” のシグナルを送る フードの 確実なフォーミュラを把握するには至っていないものの、 人々の味の好みや、食べ物に対するリアクション、食生活とそれ以外の生活パターン、 食欲のパターンなどを細かに分析することによって、 ”食べ物” の概念を 「食欲を満たすもの」 から 「さらなる食欲を掻き立てるためのシグナルを脳に伝達するもの」に 変えてしまっているという。
その結果、”フード” は 「食材の組み合わせ」ではなく、「脳を刺激する味覚のレイヤー」 としてデザインされ、 口に入れた途端に脳がそれを感じ取って ”至福” を実感するようにデベロップされることになる。 このため、人々は 時に満腹な状態でも 口に入れた時のセンセーショナルな味わいを 感じ取るために 食べ続けてしまうけれど、 レストラン・チェーンや、ファスト・フード・チェーンに、 さほど噛まずに簡単に飲み込めるメニュー・アイテムが多いのも、この ”至福” のシグナルを ハイピッチで送り続けるためだという。
そして食品&レストランド業界が近年 多額の資金と有能なサイエンティストを投入しているのが、 こうした 「食べずにはいられない」、「食べ続けずにはいられない」 フードの開発なのである。
なので、「タバコが止められない」、「ファスト・フードやドーナツなど、身体に悪いものばかり食べてしまう」 という 人については、 「意思が弱い」 というよりも、 「タバコ業界、食品業界が意図した通りのリアクションを示している」 という方が 適切な表現のようである。

こうしてみると、タバコ業界にしても、レストラン&食品業界にしても人々の健康など全く省みずに、 利益追求だけに走っていることが良く分かるけれど、 食品業界の利益追求は 農業、畜産業におけるの遺伝子組み換えから始まって、 食肉業者の劣悪な管理体制など、「実態を知ったら何も食べられない」 とさえ言われるもの。
でもふと考えると、利益追求に走って人々を中毒に陥れるのは、金融機関もこれまでさんざんクレジット・カードのビジネスで行ってきたこと。 収入が無い人々にまでカードを発行して、アメリカ中がショッピング中毒になった結果、 国全体のクレジット・カード負債の総額は2兆6000億ドル(約257兆9500億円)にも膨れ上がってしまったのである。
しかも、カード会社はオバマ政権の緩い規制をものともせず、発行するカードこそは減らしているものの、 現存の負債の利息や手数料で 今も大儲けをしているのである。
なので、人々を中毒に陥れるというのはアメリカの各業界が行っているマーケティング手法と言えるもの。 でもその結果、人々は 「借金を抱えた不健康」になっていき、購買パワーがどんどん衰えていく訳であるから、 最終的にはこうした企業にもツケが回ってくることが見込まれるけれど、 その時はアメリカの国力も本当に低下しているはずなのである。







Catch of the Week No. 4 June : 6 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 June : 6 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 June : 6 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 June : 6 月 第 1 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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