June 30〜 July 6,  2014

”Facebook Controls You!?”
フェイスブックがユーザーの許可無しに行った実験で立証した、
ソーシャル・メディアの心理影響力


今週は建国記念日のホリデイを金曜に控えて、すっかり夏休みモードに入っていたアメリカ。
そんなこともあって、火曜に行われたワールドカップ、チームUSA対ベルギーの試合は、アメリカ各地のマス・ウォッチングに それぞれ何万人もの人々が集まったけれど、残念ながらチームUSAはオーバータイムで2点を取られ、 1点を取り返したものの、敗退。 でもこの試合で、ワールドカップにおけるダントツ新記録、16セーブを記録したチームUSAのゴールキーパー、ティム・ハワードは 一躍国民の英雄的存在になったのに加えて、今回のチームUSAの健闘ぶりは、国中からのサポートを得ていたのだった。

また蓋を開けてみれば、アメリカはホスト国ブラジルに次いで、多くのチケットを購入した国で、 サポーターが最も多くブラジル入りした国。 70年代にはペレ、2007年からはデヴィッド・ベッカムがプレーしても盛り上がらなかったアメリカのサッカー人気であるけれど、 一流の輸入選手よりも、チームUSAの健闘ぶりの方が遥かに国民にアピールしていたのが実際のところ。
その一方で、スポーツ・クリティックからは、「チームの勢いで勝ち上がれるのはここまで。 今後はもっとテクニカル面で卓越したプレーヤー、特にミッドフィルダーを育てていかなければ」という 建設的な指摘も聞かれていたのだった。

でも、これからアメリカのメジャーリーグ・サッカー人気が盛り上がるかと言えば、それは未だ未知数で、 アメリカ人の殆どはメジャーリーグ・サッカーのシーズンが何時からスタートして、何時チャンピオンシップが行われるか、 昨年のチャンピオンはどのチームかなどは、全く知らないだけでなく、メディアにしても 小さくさえ報じないのが実情。
「ワールド・カップ人気とメジャーリーグ・サッカー人気は別物」という声が聞かれる中、 数ヶ月前には、マイアミにメジャーリーグ・サッカーのチームを誘致しようとしているデヴィッド・ベッカムが そのスタジアムの建設計画を市政府によって却下されており、メジャーリーグと呼べるだけのメジャーなチームが なかなか生まれないのも、アメリカのサッカーの問題点なのだった。




週末に3大ネットワークのNBCがショッキングに報じたのは、ミシガン州デトロイト市の水道局が、 料金を滞納している約1万2,500世帯に対して、今年3月から 断水措置に踏み切っていたという事実。
デトロイトと言えば、低所得者が多く、財政難に苦しむ街であるけれど、 市民の約半分が 水道料金を2ヶ月以上滞納しているとのこと。 中には日本円にして、50万円以上の水道料金を滞納している市民も居て、1人当たりの平均滞納金額は560ドル。 その滞納総額は約90億円にも達しているのだった。
このため、特に滞納額が多い世帯の断水措置は、水道局にとっての苦肉の策ではあるけれど、 それと同時に 運営費に苦しむ水道局は、その水道料金を2014年に入ってから大幅にアップさせており、 低所得世帯では、そのせいで滞納金が益々、そして急速に膨れ上がる状況。
断水家庭には、人権擁護団体がウォーター・ボトルを寄付して回っている一方で、 この水道局の措置を 基本的人権を無視した行為と批判する声や、水道代も払えないような 低賃金の仕事しか無いことに対しても非難が高まっていて、同問題に果たしてオバマ政権が介入・対応するかが見守られているのだった。





さらに今週物議を醸していたのが、フェイスブックが2012年2月に約70万人のユーザーを対象に 行った心理実験。
この実験は、フェイスブックが心理科学者を雇い、ユーザーのニュースフィードを ポジティブ、ネガティブに操作することによって、それを見たユーザーのリアクションを 彼らがタイプするメッセージのボキャブラリーや表現から分析。 その心理状態を分析するというもの。
その結果は、ポジティブなニュースフィードを読んだ人々は、心理もポジティブになり、 ネガティブなニュース・フィードを読んだ人々は、その心理がネガティブになったり、軽い精神的な落ち込みを味わっていたとのこと。 実験の性格上、フェイスブック側はユーザーに何のアナウンスメントもせずに、この実験と分析を行っていたのだった。

当然のことながら、今週はユーザー達の怒りがフェイスブックに集中していたけれど、 それと同時に専門家を恐れさせたのは、フェイスブックが持ち得る心理コントロールのパワーと、 その効果に個人差があるとは言え、同社が大勢の人々に対して、悟られること無く、心理的な働きかけをすることができるという事実。

フェイスブック側は この調査を行った理由として、 「人々が異なるタイプのコンテンツのポジティブ&ネガティブなトーンに対して、 どういった心理的なリアクションを示すかを理解するためのもので、あくまでサービス向上のために行った」と説明。 しかしながら 多くのジャーナリストや批評家は、フェイスブックが法を犯す事無く、商品のマーケティングや、 選挙の投票といったマス心理の操作にこの実験結果を利用できるとして、 「独裁者より危険だ!」と大批判。 こうした実験を行う事自体を非常に危惧する指摘をしているのだった。

でも実際には、同様の操作は2008年の大統領選挙の際、オバマ大統領の選挙チームによって行われていたことを指摘する専門家も居て、 このときにソーシャル・メディア・キャンペーンをデザインするために雇われていたのが元グーグルのスタッフ。 グーグルも、利用者に悟られないようにしながら、1ページに幾つの検索結果を掲載するのが最も効果的であるか? といった調査を重ねて、現在のモノポリー状態を築いてきた企業。
オバマ大統領の2008年の選挙の際にも、その元グーグルのスタッフによる心理操作が効を奏して、 オンライン上で 多額の寄付を集めただけでなく、若い層の支持者やボランティアを数多く集めたのは周知の事実。
私は、あまりソーシャル・メディアに通じていなかったので、2008年の選挙の際に、どうしてこんなに経験が浅く、 投票歴も非常に曖昧な政治家が人気と支持を獲得するのか、非常に不思議であったけれど、 こうした心理作戦が背景にあったのなら、それは十分に納得ができるのだった。


フェイスブックが、ユーザーのコンテンツを本人の許可無しに 勝手に操作して得た実験結果を、図々しくも科学者のレポートとして 世の中に発表できる理由は、ユーザー全員が フェイスブック使用に際しての アグリーメント(合意書)で、その行為を許可しているため。
こうしたユーザー・アグリーメントを実際に読む人など、まずは存在しないけれど、 NBCニュースの調べでは、フェイスブックのアグリーメントは 法科大学の教授が目を通すだけで8分を要し、 普通の大人は、3回読んでも内容が理解出来ないもの。 その全容を把握するためには、毎日8時間、30日を要すると指摘されているのだった。
もちろん同様の合意書は他社でも用いられていて、グーグルは4000ワード、Eベイが5000ワード、 ソーシャル・メディアのリンクトインは8000ワードという、どれほど暇でも読みきれない量のアグリーメントに 合意するのがその使用条件。 したがって、知らない間にこうした心理実験のモルモットとして 事実上名乗り出たことになっていても、 不思議では無い反面、それに意義を申し立てることもできないのだった。

それとは別に、私がこのコラムを書いている今日、日曜にはエドワード・スノーデンが明らかにした NSA(国防省)の国民に対するスパイ活動のフォローアップ情報が報じられたけれど、 それによれば、NSAが テロリストの疑いを理由に スパイ行為をしていたのは、対象となった国民の僅か10人中1人。 それ以外、すなわちNSAにプライバシーを侵害されていた国民の90%は、NSA職員が興味本位で そのEメールからクレジット・カードの使用状況までもをチェックしていたというのだった。
でもNSAとは異なり、フェイスブックが心理操作に利用していたのは、ユーザーが自ら公開したり、フォローしている情報。 しかも知らない間にとは言え、アグリーメントのボックスにもクリックしていることを考えると、 ユーザーにできるのは腹を立てる程度。何をどう操作されて、それによって心理的に影響を受けても、文句は言えない立場なのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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