July 4 〜 July 10 2005




ロンドン・ウィーク



今週の話題と言えば、言うまでもなく、ロンドン一色であったけれど、 先ず明るかった話題が、7月6日、水曜日にロンドンが、本命のパリを押しのけて、2012年のオリンピック開催地に選ばれたこと。
しかし その喜びと興奮も束の間、翌7月7日には、地下鉄とバスの4つの爆発によるテロで、多くの人々の命が失われ、 沢山の怪我人や行方不明者が出てしまったことは周知の事実である。

オリンピックの開催地決定については、ニューヨークは既に第2ラウンドでモスクワに続いて落選しており、 ニューヨークは、パリ、ロンドンに次いで第3位の候補地と思われていたけれど、 蓋を開けてみれば、マドリッドにも負けて、遥かに及ばなかったという訳である。
私はパリに行った時に、タクシーの運転手までもがオリンピック誘致にエキサイトしている様子を目の当たりにしていただけに、 パリが決選投票で破れてしまったのは、心苦しくさえ思えたけれど、 今回のように政治が大きく絡んだ候補地決定のプロセスでは、 シラク大統領と、ブレア首相の要領の良し悪しがパリとロンドンの勝敗を分けたと指摘されていたりする。 シラク大統領の失策は、「イギリスの食事は、ヨーロッパの中でフィンランドに次いで不味い」と発言して、フィンランドのIOC委員の 貴重な2票を失ったこと。イギリスのIOC委員がパリに投票するはずは無いので、イギリスの食べ物に文句をいったところで、 全く問題は無かったけれど、そこにフィンランドを引き合いに出してしまったのは大きな間違いと言えるものだった。
逆にブレア首相は、今回のG8サミットの主要議題であったアフリカのサポートを オリンピック誘致のロビーイングのタイミングに合わせて打ち出し、アフリカの諸国のIOC委員の票をガッチリ固めたことが ロンドンの勝利に繋がったと言われているけれど、G8サミット以前に これを一足先に武器に使うというのは、 いわばフライングとも言える行為で、要領は良いけれど、フェアプレーであるかは疑問視される駆け引きであった。

しかしながら、オリンピック誘致が決まってお祭りムードだったロンドンも、その翌日のテロで、一転して 重たく、悲痛な空気に包まれることになってしまった。
これを受けて、G8リーダー達が臨席する中で行われたブレア首相の記者会見は、 まるで今回のG8の共同宣言のようで、アフリカ問題と、グローバル・ウォーミング(地球温暖化) を議題としていたはずの 今回のサミットは、 突如、テロとの断固たる戦いを世界に向けて宣言するイベントに化してしまったのである。 ここでふと思うのが、どうしてブッシュ大統領のイラク政策、テロ政策への支持が下がってくると、 いつもこういったアメリカでのテロ警戒が高まるような事件が起こるのだろうということ。
5月に行われた世論調査ではブッシュ大統領のテロ対策への支持率は1月の62%から57%に、 そしてイラク政策に関しては、1月の45%から37%に支持率が大きく下がっているけれど、 以前ならば、こうした状況のカンフル剤のように使われていたのが、ホームランド・セキュリティのカラー・コードの引き上げであった。 このカラー・コードがオレンジに引き上げられ、「テロの危険が高い」ことを警告することが、国民のテロへの恐怖をかき立てており、 2003年の冬などは、ニューヨーカーも これに振り回されて、ホームランド・セキュリティの指示通りに食料を備蓄したり、ダクト・テープを購入したりしていたけれど、 頭を冷やしてみれば、薬物テロ対策にダクト・テープがどれほど役に立つかは誰でも分かりそうなものである。
でも このホームランド・セキュリティの警戒コードも、引き上げても何も起こらないという状態が続き過ぎて、すっかりイソップ物語の「狼が来た!」の 状態になってしまった訳であるけれど、さすがに今回のロンドンのテロは、ニューヨーカーに改めて9/11の恐怖を思い起こさせるだけの インパクトと、悲痛感があったし、街中に張り紙をして家族や友人を探す人々の姿に、9/11直後のニューヨーカーの姿をダブらせた 人々は多かったという。
結局、このテロのため 今回のサミットの主要議題であり、ブッシュ大統領が最も取り合いたくないグローバル・ウォーミングについてのフォーカスは かなり薄れたし、ブッシュ大統領に同調してイラン政策を進めて、すっかり人気を落としていたブレア首相も これでテロ対策を強化するに 十分な理由が出来た訳だけれど、考えれば、考えるほどアルカエダ(もし、これがアルカエダの反抗であるとすれば・・・) というのは、 ブッシュ政権にフレンドリーなタイミングでテロを行ったと言わなければならないのである。


さて、今回のテロを受けて、アメリカ国内では例によって 、公共の交通機関に限ってテロの警戒コードが、イエローからオレンジに引き上げられたけれど、 そもそも、このテロ警戒のカラー・コードというのは、非常に馬鹿げたシステムである。 というのも、アメリカ国民は 誰もカラーが意味する状態を把握していないので、メディアが報道する際には必ず、 「テロの危険が上昇していることを意味するイエローから、テロの危険が高いを意味するオレンジに引き上げられました」などと いちいち色の意味の説明をしなければならない訳で、そんなことならば最初からカラーコードなど取っ払ってしまって、 テロの危険性だけを伝えた方がよほど分かりやすいと思うのである。
しかもこのカラーコードの下2段階、すなわち テロの危険が低いことを示すグリーン、テロの危険が通常レベルであることを示すブルーというのは、 無くても良いようなもので、そもそもテロへの警戒は、テロの危険が高まっている時にのみ促せば良いものである。 9/11以前だって、政府が「現在テロの危険は極めて低い状態」などと宣言したことは無かったわけで、 この先どんなに平和になったところで、ホームランド・セキュリティが、警戒カラー・コードを ブルーやグリーンに引き下げて、それをわざわざ報道することは あり得ないと思うのである。
しかも今回のカラー・コードの引き上げがさらに馬鹿げているのが、発表の段階で「週末にはイエローに引き下げられる予定」という 宣言がされていることで、もしテロリストに人並みの思考能力があるならば、イエローに引き下げられて、警備が緩むのを待ってから テロを実行に移すはずで、警戒コードが何の役にも立っていないことは、誰の目から見ても明らかなのである。

さて、話をオリンピックに戻すと、開催地決定のニュースの陰で、アメリカにとってショッキングなニュースとして伝えられたのが、 オリンピック競技から、アメリカのお家芸、野球とソフトボールが外されたということ。
IOC では、定期的にオリンピック競技種目の審査投票を行っており、これに向けて各スポーツ界は、 開催地誘致と同様のロビーイングを行っているという。 これまでは、こうしたロビーイングの結果、徐々に様々なスポーツがオリンピック種目に加わって来た訳であるけれど、 今回のIOC総会の投票で野球とソフト・ボールの2種目が削られることになったため、今後のオリンピックは現在の28競技から、26競技となり、 近代のオリンピック史上で初めて 競技数が減らされることになった訳である。
そもそも野球とソフト・ボールは、2002年の時点から、現IOC会長であるジャック・ローグ氏が外したがっていたことが報じられているけれど、 野球がオリンピック競技となったのは1993年のアトランタ大会、ソフト・ボールは1997年のバルセロナ大会で、 どちらもアメリカ発祥のスポーツであると同時に、アメリカがこれまで必ずメダルを獲得してきた競技である。
今回この2競技が外された背景によれば、ソフト・ボールは野球を除外する際の 抱き合わせとして扱われた犠牲者のようであるけれど、 IOCが野球を外したがった理由としては、まずアメリカがメジャーリーグのスター選手をオリンピックに出場させないため、 「世界のトップ・プレーヤー不在のメダル争い」と見なされることへの不満、加えて、昨年からメジャーリーグを騒がせている ステロイド疑惑をIOC 側が非常に重く見ているためとのことで、今年からメジャーリーグもドラッグ・テストを行うなど、規制を強化しているものの、 そのレベルはオリンピックのドーピング取り締まりには遥かに及ばないものであることが懸念されていたからだという。 さらに 一部では、アメリカにとってメダル確実の競技を2つ減らすことによって、オリンピックにおける揺ぎ無いアメリカの優位を 和らげようというという動きがIOC 内にあることも噂されており、このことを不服とした新野球王国、オーストラリアのIOC委員からは、 「アメリカがスポーツの未来をぶち壊しにする」との声が聞かれていたという。

その一方で、IOCは 次回2016年の候補地として ニューヨークに 再び名乗りを上げて欲しいと願っていることが既に伝えられていたりする。 でもこれは、IOCが 「次回はニューヨークで!」 という意向を持っているというよりも、 ニューヨークが加わってくれる方が、誘致合戦が激化して、IOCが様々な恩恵を受けるからというのが本音のようで、 いくつものアメリカ国内のメディアは、今回も勝ち目は最初から無かったけれど、次回とて 決して展望は明るいものではないと指摘しているのが現状である。
よく 「スポーツはシナリオの無いドラマ」などと言われるけれど、オリンピックというスポーツの祭典を見ていると、 競技の選考から、開催地選び、ドーピングの規定に至るまで、まず駆け引きがあって、シナリオ通りに動いていくという、 政治さながらの展開をしていることに気が付くことになる。 駆け引きがあってシナリオが存在するというのは、世の中のありとあらゆるものに言えることで、 テロとてその例外ではないのである。


Catch of the Week No.1 July : 7月 第1週


Catch of the Week No.4 June : 6月 第4週


Catch of the Week No.3 June : 6月 第3週


Catch of the Week No.2 June : 6月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。