July 4 〜 July 10 2016

” Riches Screwed Up! ”
白人リッチ・ピープルが陥る ”人生の落とし穴”



今週のアメリカは、まず週明けに民主党のヒラリー・クリントン大統領候補が、国務長官時代にプライベート・サーバーを使用して 国家の重要機密を含むEメールのやり取りをしていた容疑について、 FBIが訴追をしないと発表したことを受けて、 ヒラリー氏が政治的インパクトは別として、法的には同問題をクリアしたことが大きく報じられていたのだった。
でもそれ以降は、メディアの報道時間の大半が割かれていたのが  ルイジアナ州バトン・ルージュと、ミネソタ州セント・ポールで、またしても起こった警官による不当な黒人射殺事件と、それに対する”BLM (Black Lives Matter)”の抗議活動のニュース。 木曜にはダラスで行われたBLMの抗議デモの最中に、元アメリカ兵、ミカー・ハビエル・ジョンソンが 「白人警官を殺したい」という理由で、スナイパー・スタイルの銃撃で5人の警官、2人の民間人を射殺を含む、 12人に銃弾を浴びせる事件が起こり、アメリカ中に衝撃を与えていたのだった。

ルイジアナ州の事件は2人の警官によって黒人男性、アルトン・スターリングが地面に押し倒されている最中の発砲。 彼はポケットに銃を所持していたものの、それを使うそぶりは全く見せていなかったとのこと。
一方のミネソタ州の事件は、テール・ランプが壊れているためのトラフィック・ストップの最中に 起こったもので、射殺されたフィランド・カスティールが「銃を所持しているけれど、許可証がある」と説明して、 ポケットからドライバーズ・ライセンスを出そうとした際の警官による発砲。
前者の事件は その発砲時の様子がスマートフォンのビデオで捉えられ、 後者の事件は助手席に座っていたフィランド・カスティールのガールフレンドが その場の様子をスマートフォンで捉えて、フェイスブック・ライブでブロードキャストしており、事件後にヴァイラルとなったこれらのビデオによって、ますます人々の怒りとフラストレーションが高まっていたのだった。
近年、これだけ黒人層に対する警官によるヴァイオレンスが社会的に問題視されていても、 警官に射殺される黒人層の数は増える一方で、 黒人層の10人中4人が 「アメリカ初の黒人大統領が誕生しても、 人種問題が一向に改善されていない」という考えを持っていることがアンケート調査で明らかになっているのだった。

黒人層に対する警官のヴァイオレンス、特に射殺事件が起こるのは郊外や地方の町が多く、 ニューヨークで犯罪率が低下しているのとは正反対に、犯罪率がアップしているのがこうしたエリア。 その原因として、地方警察では警官に対する十分なトレーニングが行き渡っていないことや、 黒人を含むマイノリティ・コミュニティと警察が対立関係にあることが指摘されているけれど、 それと同時に聞かれるのが、 警官がどんな不用意な発砲をしても訴追されない、有罪にならない司法システムを問題視する声。
しかしながら、多くの犯罪において警官が銃の使用を決断する時間は 僅か1〜3秒。 その銃の行使によって救われる命や、未然に防がれる犯罪があることも また事実なのだった。




それとは別に、先週からニューヨークで大きな話題となっていたのが、10人以上の若いエリート・ニューヨーカーがそのコカイン使用で逮捕されたニュース。
通常、麻薬捜査はユーザーよりも トラフィッカー、ディストリビューターを対象に行われていたのがこれまでの通例。 ところが、先週逮捕されたのはこぞって立派なキャリアも収入もあるレクリエーショナル・ユーザー。
メディアが”Yuppie Bust / ヤッピー・バスト”(Bustは逮捕という意味)と呼よんでいるこの捜査がスタートしたのは、 ウォール・ストリートのサクセスフルなインヴェストメント・バンカー、トーマス・ヒューズ(写真上、一番左)が、 彼が所有する地上24階の高級コンドミニアムから投身自殺を図ったのがきっかけと言われており、 彼がコカインを入手していたディーラー、ケニー・ヘルダンデス(写真上、左から2番目)と共に、 彼のバイヤーが次々と検挙されたのがその逮捕劇なのだった。
その逮捕者の中には、メキシカン・ファストフードの最大手チェーン、Chipotle/チポトレの53歳のチーフ・マーケティング・オフィサー、 マーク・クラムパッカー(写真上、右から二番目)も含まれており、彼は2015年には430万ドル(約4億3000万円)の年俸と、 日本円にして450万円の住宅手当て300万円の車手当てを受け取るミリオネア。 彼は自らが所有するウエスト・ヴィレッジの約2億5000万円のコンドミニアム(写真上右)に、 6回に渡ってコカインのをデリバリーさせた容疑で逮捕されているのだった。

裁判所の判事は、彼を始めとする今回の事件の逮捕者に対して「その社会的ステータスがどうあれ、特別扱いはしない」 とコメントしているけれど、その他の逮捕者のプロフィールにしても、 まるでニューヨークのキャリア・ネットワーク・パーティーのような顔ぶれ。
写真下、上段左より ローナン・ヨフェ(36歳、自らの会計会社を経営)、トーマス・マイケルセン(36歳、アッパー・イーストサイドに住むマーケティング・エグゼクティブ)、 ケイティ・ウェルンホファー(29歳、フォックス・ビジネス・ニュースのプロデューサー)、ケニー・マルティネス(ブルックリン、ブッシュウィック在住のバーテンダー)。
写真下、下段左より クリスチャン・ジュエット(31歳、イースト・ヴィレッジ在住の保険コンサルタント)、 オースティン・ドッソン(24歳、ディッキンソン大学に通う、ラクロス・プレーヤー)、 カイル・ホルムズ(27歳、クイーンズ、アストリア在住、保険会社のシニア・アソシエート)、 クリストファー・ドッソン(28歳、マンハッタン・ミッドタウン在住の金融関係業)。
この他、エリート校を成績優秀で卒業し、家庭教師サービスの企業を立ち上げたアレクザンダー・マロリー(31歳)などが、 主に”エイト”、もしくは”エイト・ボール”と呼ばれる 3.5グラムのコカインのパケットを 250〜400ドルで購入していたことがレポートされているのだった。





この「まさか」の ”ヤッピー・バスト”を受けて、我が身の心配を始めたニューヨーカーは多いと言われており、 今日、7月10日付けのニューヨーク・ポスト紙には 「ニューヨークで コカイン・ユーザーを逮捕するなんて、 コーヒー・ドリンカーを逮捕するようなもの」という コカインを常用するミレニアル世代の不動産ブローカーのコメントが掲載されていたけれど、 実際にニューヨーク市のコカイン・ユーザーの数は推定で15万人。
今ではソーシャル・メディアの影響で、かつてならば新聞に名前が掲載される程度だった事件が、 フェイスブック・ページの写真、リンクトインに自らがアップしたキャリア歴までもが、ありとあらゆるメディアで報じられてしまう時代。 したがって、「逮捕されれば、自分のキャリアはお終い」と分かってはいるものの、 多くのヤッピー・コカイン・ユーザーは、「これからは入手ルートに十分注意する」と心に決めても コカインを止めようとは思っていないようなのだった。

彼らがコカインが止めない理由は 「エナジェティックになって、頭がスッキリする」、「社交的になれる」といったもの。 中には「ストレスフルで、プレッシャーに満ちたニューヨーク・ライフをサバイブするために、コカインは必需品」と考えるユーザーも居るけれど、 こうしたユーザーの多くは、大学時代からマリファナを含む何らかのドラッグを愛用してきた人々。
映画、「ソーシャル・ネットワーク」でハーバード大学のパーティー・シーンが描かれていたけれど、 アイヴィ・リーグの名門校ほど 裕福な家庭出身の学生が多いだけに パーティーが派手なのは周知の事実。 このため名門校の学生は、ボストン・エリアのドラッグ・ディーラーのエンドレス・ユーザーになって久しい状況。
ボストンが位置するマサチューセッツ州では、数年前から1オンス以下のマリファナの所持に対して、100ドルの罰金と没収が科せられるものの、 逮捕はされないように法律を緩めており、これは一流大学の裕福な家庭の学生の将来が マリファナ所持による逮捕で台無しにならないように配慮した法律なのだった。

こうして、学生時代から罪悪感無しに何らかのドラッグを常用してきた人々は、当然の事ながらコカインの使用に罪悪感が無いので、 中毒にならない限りは、その使用を特に隠そうともしないケースも多いもの。
事実、二ューヨークの某ラウンジのプライベート・エリアには ”コカイン・ルーム”というものがあって、 バスルームをコカイン・ユーズのために使われると 本当にトイレに行きたい人の迷惑になるため、 パウダーを刻んでラインを作る作業ができるステーションがいくつも並んだスペースが設けられ、 ここで公然とコカインの使用が繰り広げられているのだった。

ニューヨークで流通するコカインは、主にドミニカ共和国から密輸されると言われ、末端ユーザーの手に届く段階では、そのお値段が現地価格の1000倍弱にアップし、 流通過程で混ぜ物が入るため、純度が60〜65%程度に低下していると言われるもの。 主にマンハッタンとブルックリンにユーザが多いコカイン、 クイーンズ、ブルックリン、スタッテン・アイランド、ブロンクスに蔓延するヘロインは、皮肉なことに 現在 貧富の格差を是正している唯一のプロダクト。すなわち学歴の無い、低所得層が、高学歴の富裕層から 多額の利益を吸い上げている唯一のビジネスなのだった。





今週ニューヨークで大きく報じられたもう1つの出来事が、独立記念日の週末にハンプトンの20億円のサマーハウスを会場に行われたパーティーを めぐる訴訟問題。 このサマーハウス(写真上、上段左)は Airbnbで 1泊5,000ドル(約50万円)&最低4泊で貸し出された物件で、 ここでチャリティ・パーティーを行ったのがヘッジ・ファンド、ムーア・キャピタル・マネージメントの ポートフォリオ・マネージャーで31歳のブレット・バーナ(写真上、上段右、左から2番目)。
彼は、自分が努めるヘッジ・ファンドの名前を出し、自分がチャリティに熱心で、独立記念日の週末に50人のゲストを招いた レセプションをしたいとサマー・ハウスのオーナーに申し出たとのこと。 でも実際に行われたのは、”Spraython / スプレーソン”と呼ばれる、シャンパンを吹き掛け合うワイルドなプール・パーティー。 そのゲストの数も、総勢約1000人と言われ、当然のことながら20億円のサマー・ハウスは 酔っ払ったゲストによって荒らされ、アートが盗まれ、日本円にして約1億円の損害を受けたという。
しかしながら、ブレット・バーナは「プロの掃除を雇って、元通りのコンディションでレンタルを終えた」として、被害額の支払いを拒んだことから オーナーが彼を訴えて、事件が大きく報じられることになったのだった。 週明けの時点ではブレット・バーナを擁護していたムーア・キャピタル・マネージメントであるけれど、 インスタグラムにアップされたパーティー参加者のフォトが、オーナー側の主張を裏付ける結果となったこともあり、 週末を待たずして彼を解雇。 パーティー自体はサクセスフルで、ソーシャル・メディア上にバズをクリエイトしていただけに、 彼の1兆円以上の資産を扱うヘッジファンドからの解雇劇も 必要以上に大きく報じられることになってしまったのだった。

もちろん、ブレット・バーナがホストしたような ワイルドなプール・パーティーにも ドラッグの使用は付き物であるけれど、 コカイン、ヘロイン、処方箋薬を含むドラッグの問題は、地域、年齢、人種を問わず、アメリカ中に蔓延しているもの。 しかしながら、この問題においても 黒人層は白人層に比べて3.7倍逮捕される確率が高いというデータが明らかになっているのだった。
加えて 同じドラッグで逮捕されるケースでも、ヤッピー・バストで検挙されたコカイン・ユーザー達は、 皆、弁護士を伴って法廷に現れ、保釈金を払って直ぐに留置所から出て来られる人々。 そして この経済力の大きな格差こそが、警察による不当なヴァイオレンスやそれに対するBLMのムーブメントが生まれる 本当の要因になっているのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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