July 11 〜 July 17 2005




ビーチ VS. ブラックベリー



アメリカに暮らしていると、つくづく感じるのは1年を1週間に例えるならば、7月は土曜日、8月は日曜日で、この期間は 多くのアメリカ人がバケーションに出掛ける時期であり、アクセク働かなくて良いと見なされている時期なのである。
考えてみれば、私がニューヨークに来てから数年後までは、ニューヨークの一流レストランなどは、7月半ばから9月1週目の月曜のレイバー・デイまで、夏季休業で クローズするのが通例で、この頃は、ニューヨークのソーシャリート達も、同じ時期をヨーロッパでの休暇に当てており、 夏の始まりに「Have a nice summer / 良い夏休みを!」という挨拶で別れ、レイバー・デイ以降に久々に会うと、「How was your summer? / 夏休みはどうでした?」 という挨拶を交わすのが お決まりだったのである。

でもこれを変えてしまったのが93年頃からの好景気とハンプトン・ブームで、 働けば働くほど儲かった時期であるから、ウォール・ストリートのビジネスマンを中心に、長期夏休みを取らない代わりに、 週末をニューヨーク郊外のリゾート地、ハンプトンで過ごすという傾向が顕著となり、時を同じくして、 ソーシャリートやセレブリティがごぞってハンプトンに別荘を構えるようになったのである。 こうして、7月だろうが、8月だろうが週日はマンハッタンで仕事をし、金曜の午後から日曜の夜まではハンプトンで過ごすという スケジュールが過去10年以上にも渡って、ヒップなニューヨーカーの夏の過ごし方となっていた訳であるけれど、 これに同調して、長期休暇を取り止めることになったのが一流レストランである。
そもそも一流レストランが夏に長期休暇をとっていたのは、ソーシャリートやウォール・ストリートのビジネスマン等、彼らの顧客層が バケーションでマンハッタンから姿を消してしまうからで、店を開けているより 休業した方が効率が良かったからである。 しかし、そうした人々が、夏でも週日をマンハッタンで過ごし始めたということは、レストランにとって長期休暇を取るよりも、 店をオープンしていた方が儲かる訳で、私の記憶する限り、1995年には 一流レストランで、夏に長期休暇を取るところはほぼ皆無となってしまったのである。

それと共にビジネスが栄えだしたのが、夏のハンプトンのレストラン&クラブ、ブティック等で、 ジェット・ラウンジがジェット・イーストをハンプトンにオープンしたのをきっかけに、 マンハッタン内のクラブのオーナー達が、5月最終月曜のメモリアル・デイの休暇から、9月第1週のレイバー・デイの休暇までの 期間限定で、どんどんクラブをオープンし始めたし、カリプソ、スクープといったマンハッタン内のブティックもごぞってハンプトンに出店するようになっていった。 またパーティー・プロモーター達もハンプトンで様々なパーティーを行うようになり、リース・ウェザースプーン主演の「リーガリー・ブロンド2」の プレミアもハンプトンで行われたし、数年前にはMTVがハンプトンのビーチハウスをスタジオ代わりにして、 ひと夏中、そこで番組収録とパーティーを繰り広げていたこともあった。さらに、「セックス・アンド・ザ・シティ」のシーズンNo.2では、 サラー・ジェシカ・パーカー扮するキャリーを含む4人のメイン・キャラクターが ハンプトンのビーチハウスで週末を過ごすエピソードも収録されていた。(キャリーはハンプトンのパーティーで、パリに行ったと思い込んでいた Mr. ビッグと思わぬ再開をすることになったのである。)

こうして夏のアクティビティというのは、ひと夏の長期休暇から、毎週末のハンプトン休暇に萎んでしまった訳であるけれど、 そのハンプトン・ブームにも徐々に陰りが見えてきたことが指摘されていたのが昨年。 そして、今年に入ってみると、ハンプトンはB級セレブリティも寄り付かないお粗末ぶりが指摘されるようになり、 レストランの食事がますます不味くなったとか、ハンプトン・ジトニーと呼ばれるバスでやってくる若くて品格に欠ける層が 増えてきたことなども指摘されるようになってしまった。
実際、過去何年にも渡って、夏のハンプトンの常連として知られてきたアッパー・イーストサイドのプラスティック・サージョン(美容整形医)、 Dr. スティーブン・ヴィクターと5月に話をした際にも、彼は「今までハンプトンでばかり夏を過ごしてきたけれど、そろそろ飽きてきたから 今年は久しぶりに長期旅行をする予定だ」と話していた。 それで、何処に行くのかを訊ねると、インドとヨーロッパとのことだったけれど、純粋なバケーションは1週間滞在するインドだけで、 ヨーロッパに滞在する約3週間は、自らのスキンケア・ラインの発売準備のために出掛けるのだそうで、 言わば ワーキング・ヴァケーションであるとのことだったのである。
Dr. ヴィクターと言えば、以前プリンス・アンドリューと結婚していたファーギーこと、セーラ・ファーガソンや ヴォーグのエディター兼、ソーシャリートのプラム・スカイのドクターとしても知られる、有名な美容整形医であるけれど、 そんな彼でさえ、夏を休息どころか、ビジネスに当てている訳で、そうかと思えば 昨年までのハンプトンの常連、P. ディディにしても この夏は次回のニューヨーク・コレクションの準備と、新たにスタートしたケーブル・ネットワークでのシリーズで大忙しであるという。

リッチ・ピープルやセレブリティでさえ、働いているというこの夏であるから、 庶民に至っては、もっと悲惨な例も出てくる訳で、その傾向をレポートすべく、 6月半ばのニューヨーク・ポストにフィーチャーされたのが「Death of the weekend」、すなわち 週末の死滅と題された記事(写真右上)である。 この中では、週末でもマンハッタンの中に残って仕事をしたり、雑務に追われ、「こんな惨めな週末を過ごしているのは自分だけ・・・」と思っているニューヨーカーが多いけれど、 実際には、そんなニューヨーカーが現在増えている、という指摘がされていた。
そう言われてみれば、私がこれを書いている7月17日のニューヨークは、ほぼ1日中 雨が降っており、しかも私は手持ちの31枚のバスタオルを全て使い果たしてしまったので、 この日の午後をランドリーに当てることにしたけれど、ランドリー・ルームに出掛けてみると、30台以上もある洗濯機はどれも稼動中で、 乾燥機も故障中以外のものは全て使用中だった。 結局私は洗濯を夜中まで見送ることにしたけれど、確かにこれまでなら、少なくとも去年までは、雨が降っていようと、 7月の週末にランドリー・ルームの洗濯機、乾燥機が全て稼動中などということはありえなかったのである。

そして、この記事のサブタイトルとなっていたのが、「Beach is Out, Blackberry is In」 (ビーチはアウト、ブラックベリーがイン)というもの。 このブラックベリーとはフルーツのことではなく、現在利用者が急増しているハンドヘルド・ディバイス兼携帯電話で、別名スマート・フォン(賢い電話)と呼ばれるもの。 つまり、ビーチで寝転んで日に焼いているのは時代遅れで、ブラックベリーを片手にウィークエンドだろうが、バケーション中だろうが、 ビジネスに追われているのが「イン!」という訳であるけれど、 実際にこのブラックベリーは、電話とコンピューターの機能が使い易くコンパクトに収まったディバイスで、 あまりに便利過ぎるがために、「1度使い始めると、地獄の底まで仕事が付いて来る」と言われるものである。
私の友人のブラックベリー愛用者も、「これ無しには1日も過ごせない」と言いながらも、海外のバケーション先で、 100通を超えるEメールと、57のヴォイス・メッセージに対応して、終いにはバケーションを1日繰り上げて戻ってきたという 苦い思いをさせられており、、私自身 この週末に 友人とカフェに居た ほんの1時間の間に、ブラックベリーと格闘している人を 2人ほど見かけることになってしまった。

その一方で、7月第1週の ニューヨーク・タイムズのビジネス・セクションには、「Were the Good Old Days That Good?」 (古き良き日々は、本当に良かったか?) というタイトルの記事で、1950年代のアメリカ人の収入、ライフスタイル、健康状態などが、現在のそれらと比べられていたけれど、 やはりそこでも指摘されていたのが、コミュニケーションが発達し、便利な反面、休み時間が少なくなっていること、 一見、生活がどんどん豊かになったように思えるアメリカ社会であるけれど、50年代には夫1人で家族を養うことが出来た訳で、 それに引き換え 今では夫婦が共に長時間働いて、それでも借金をして家計を支えていることが指摘されている。
この記事に登場したエコノミック・ポリシー・インスティテュートの資料によれば、 2000年から2004年の間で見ると、アメリカ国内の生産性は3.8%アップしているにも関わらず、平均的な家庭の収入は0.9%ダウンしているとのことで、 アメリカでは長時間労働と通信手段の多様化で生産性がアップしていても、収入がそれほど伸びていないことが立証されているのである。

でも、アメリカ人の長時間労働の傾向は、日常生活に便利さをもたらしているのは事実で、 今では24時間オープンのドラッグ・ストアの数は数年前とは比べ物にならないほど街中に増えたし、かつてはホリデイ・シーズン以外で日曜に開いているデパートと言えば、 庶民御用達のメーシーズとブルーミングデールズくらいのものだったけれど、 2000年頃からサックス・フィフス・アベニューが日曜の営業を始め、やがてバーグドルフ・グッドマンが日曜の 正午から営業を始めたことで、その周囲のブティック等も、バーグドルフ・グッドマンに来る客足が流れてくるのを見込んで、 日曜も店を開けるようになって来たのである。
だから6月にパリに行った際に、レストランが夏季休業に入る前で予約が取り難くなっていたり、日曜にデパートがクローズしているのを 久々に目の当たりにした時は、「そう言えば昔のニューヨークもこうだった」と、タイムスリップしたような気分にさえなってしまったのだった。

数年前、こんなにコミュニケーションが発達する前は、ビーチハウスでバケーションを楽しみながらもラップ・トップとインターネットで、 いつも通りに仕事が出来るのはメリットと捉えられ、TVCMでも盛んにそんなシーンがフィーチャーされていたけれど、 今ではビールのCMで、浜辺で日光浴をする男性が、携帯電話が鳴った途端に、それを海に投げ捨てる様子が憧れのバケーション像として 描かれていたりするから、人々の価値観も変わってきたものである。
それでも、ブラックベリーのようなディバイスがどんどん利用者を増やしているというのは、 便利さを追求する反面、逆に時間と仕事に追い詰められて行く 現代のビジネスマン&ビジネスウーマンを象徴しているかのようである。
先述のブラックベリーを愛用する友人に、どうしてバケーションに行くときにブラックベリーを置いていかないの?と訊ねたところ、 あまりにあっさりと、「置いていったら、誰にも連絡できない」という返事が返ってきたけれど、この友人の語る通り、 コンピューターにしても、携帯にしても、ブラックベリーにしても、仕事で使うディバイスをプライベートでも使用してる限りは、 プライベートにも仕事が介入してくるし、プライベートと仕事を天秤にかけた時、多くの人々は、収入を得るために仕事を優先させなければならないのである。


Catch of the Week No.2 June : 7月 第2週


Catch of the Week No.1 July : 7月 第1週


Catch of the Week No.4 June : 6月 第4週


Catch of the Week No.3 June : 6月 第3週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。