July 9 〜 July 15 2007




”下手か、強気か? ”



7月1日に発って、今日15日に戻る日程で 私が出掛けて来たのが1年半ぶりの日本。
今朝は台風4号が関東地区に接近する中で 成田を発つことになっていたため、 予定通りにニューヨークに戻れるかを 少々心配していたけれど、 出発が若干遅れて、途中で 機体が揺れた以外は順調にNYに戻ることが出来たのだった。

ところが、ちょっとしたトラブルに見舞われたのがイミグレーションのカウンターでのこと。
私のパスポートが7月18日に切れることになっていたため、「入国許可を3日間しか与えられない」と 入国審査官に言われてしまったのである。
実は パスポートがもうじき切れることに 私が気付いたのは、7月1日に 空港に到着してから。 航空会社のカウンターでも、出国手続きの際も指摘されなかったけれど、 通貨の両替をしようとしたところ、そこの職員に「もう直ぐパスポートが切れるけれど、何時までの旅行?」と 訊かれ、初めてパスポートの有効期限が迫っていることに気付いたのだった。 でも、私がニューヨークに戻るまでは有効なので、帰国後 直ぐに ニューヨークにある日本総領事で更新しようと思っていたところ、 入国審査で引っかかってしまったのである。
審査官に言わせれば、私はあと3日でパスポートが切れて 違法滞在者になるので、入国はあと3日しか許可できないという。 しかし、私としてみれば 今日現在の入国審査時でのステータスは合法であり、ヴィザにも問題が無い訳であるから、 直ぐにニューヨークの日本総領事でパスポート更新の手続きさえ済ませれば 何も問題が無いとしか思えない状況だったのである。

もし審査官が3日の入国許可しか与えてくれない場合、「3日経ったら出国しなければならないんですか?」と尋ねたところ、 出国する必要は無いけれど、更新後の新しいパスポートと査証、審査官が発行する入国許可証を 移民局に送付して 受領証書をもらうように、などと 考えただけで面倒なことを言い出す始末。
でもこのようなケースにおける 入国審査の判断は ”審査官の胸ひとつ” という場合が多く、審査官の機嫌の良し悪し、 審査を受けている人間の態度や印象で 左右されるもの。 審査官側にしてみれば 私のパスポートの期限が切れていない以上は そのまま入国させてもOKであるし、 あと3日で期限切れになるからといって 3日の制限をつけてもやはりOKな訳で、要するに どちらでも構わないのである。
こうした場合、女性の私にとっては 審査官が男性だと、 相手の機嫌を損ねないように話にユーモアを盛り込むうちに 情が移ったりするので、 努めてコミュニケーションを取ろうと試みるけれど、今回の場合は女性。 しかも私の前に手続きを受けていた2人も、他より時間が掛かっていたので すんなり人を通したい気分では無いように見受けられたのだった。

そのため、私は 直ぐにパスポートを更新して、書類を移民局に送付する と審査官に告げたけれど それと同時に慌ててバッグから取り出して つけたのが、飛行機の旅で指がパンパンに張ってしまうと思って 外しておいたジュエリー。 首には、既に3カラットのシミュレーテッド・ダイヤモンドのペンダント・ヘッドが輝いていたけれど、 今度は指にも一粒 0.5カラットのエタニティ・リングを始めとするジュエリーが両手に3つ、そして手首にはテニス・ブレスレットが 輝き始めて、私は彼女の目の前でわざと、ジュエリーが見えるように 移民局に提出する書類ナンバーのメモを取ることにしたのだった。
すると、審査官が尋ねてきたのが、パスポートに記載されている私の会社のこと。 「この会社は何?」、「あなたはオーナーなの?」と訊いてきたので、会社について簡単に説明して、 私が「Sole Owner / ソール・オーナー (パートナーを持たない、個人オーナーのこと)」であることを告げたけれど、 その際、私が 相手に分かるように凝視していたのが、審査官が胸につけているIDバッヂ。 こうしたのは 何かあった場合に備えて、この審査官の名前を覚えておきたかったのが第一の目的であったけれど、 アメリカでは例え移民局でも国税局でも不愉快な思いをした場合は、その苦情をレポートするのは珍しくないこと。 電話のようにバッヂが見えない状況では、相手の名前とポジション(役職名)を聞いて記録を残すという行為は、 アメリカでは怠ってはいけないものである。

すると、このジュエリーをつける、バッヂの名前を凝視するという2つの小細工が効を奏してか、 相手の態度は突然軟化して、 「直ぐにパスポートの書き換えに行くと約束するなら、3日間の制限はつけない」と言い出したのである。
そこで、私はこのチャンスを逃すまいと、直ぐにパスポートを書き換えることを約束し、 「両親の名前にかけて誓います」(大袈裟ではあるけれど、英語ではありがちの表現)と言うと、 審査官の顔に初めて人間味のある表情が出てきたのだった。
結局、この審査官は制限をつけずに入国を許可してくれただけでなく、 別れ際には 「Good Luck With Your Business」などと励ましてくれて、数分前のやり取りが悪夢に思えるほど 気持ち良くその場を去ることになったのだった。

さて、私が何故慌ててジュエリーを付けたかと言えば、この国では愛嬌が通じない場合は、 財力をちらつかせて、毅然とした態度を取るのが物事をスムースに運ぶ手段であるため。
貧しい人ほど泣き寝入りをするというのはどこの国でも同じであるけれど、 アメリカでは 「金持ち=弁護士を使って訴えを起こす人」という図式が成り立つほど、 お金がある人は 裁判所、警察といった公の機関に対してもクレームをしてくるもの。 したがって、どんな機関もクレームやその対処といったトラブルを避けるためにも、 お金がある人を冷遇しないものである。
また、お金があると思われることは 今回私が遭遇したような ”審査官の胸ひとつ” というオケージョンでも有利に働くし、 昨今のイミグレーションにありがちと言われる 権力乱用的 ”嫌がらせ” 対象にも なりにくいのである。
今回の場合も「パスポートの書き換えを間際まで怠っていたのはあなたの責任でしょ」と 最初は冷たく言い放っていた 審査官が突然態度を軟化させてきたのは、私がバッヂで彼女の名前をチェックし、フェイクとは言え、ジュエリーを 見せびらかしたことで、「弁護士を雇ってクレームしてくるだけの財力があるかもしれない」と考えたに違いないというのが 私の目算である。

そんな思いをして、帰りのタクシーの中で思い出したのが、「日本人は公の機関に対して下手に出て、質素を装っているのが 適切な態度だと思っている」という アメリカ人弁護士の言葉。
例えば、グリーン・カード取得のインタビューにしても、 日本人の中には あえて質素な服装をしていく方が好印象を得ると考えている人が多いという。 でも これは子供の小学校受験の父母面接なら適切かもしれないけれど、グリーン・カードの取得には有利に働かないもの。 アメリカは所得税や売上税をジャンジャン支払ってくれる タックス・ペイヤーを移民として欲しがっているのだから、 ある程度 財力が感じられるアウトフィットで出掛ける方が好印象を与えるという。 とは言っても、服装が原因でグリーン・カードが取得できなかったという話は聞いたことが無いけれど、 質素が アメリカの求める移民像ではないことは知っておく方が良いかもしれない。
また、そのアメリカ人弁護士から見ると、日本人は不必要に下手に出たり、分からないと ごまかし笑いが出たりと、 自分を弱く表現しがちで、そのせいでアメリカ社会では損をしている部分があるとも語っていたのだった。

確かに私も、アメリカに住んで学んだことの1つが 礼儀正しく振舞おうとして 下手に出ると 馬鹿にされたり、自分の欲するものが得られないということ。 逆に自分に非があっても、強気に出ることによって 救われることは多いのである。
もちろん そんな私でも、日本に帰国すれば 社会全体がアメリカに比べて 遥かに下手に振舞うので、 人に対して丁寧に接することを心掛けるけれど、日本から戻ったばかりの私の目から見れば 人同士のコミュニケーションとして あるべき姿だと思うのは やはり日本スタイルの下手のカルチャーである。
でも、世の中にはその下手を 弱さだと受け取って、それにつけこんで憂さ晴らし的な意地悪やいじめをする人間、 自分の優位を押し付けようとする人間も居る訳で、そういう人間や、自分に不利な状況から 身を守ろうとした時は 強気に出る、強気に出られる状況を生み出すのがサバイバル術になってくる訳である。
でも下手でも 強気でも、コミュニケーションである以上は相手を尊重する態度は常に忘れてはならないというのが 私の持論である。

さてイミグレーションに話を戻すと、入国審査で ”嫌がらせ”、”弱い者いじめ” とも言えるような 質問の数々を英語が流暢でない日本人に対してして訊ねてくることで有名なのはデトロイト。 既に留学生の間では、「デトロイト経由でアメリカに入国しないように!」と言われて久しいようである。
入国審査官には 審査に際して質問をする権利があるので、「くどくど細かい事を訊ねないで下さい」とは 言えないけれど、ここでは日本的な下手で、丁寧な答えをして審査が長引く人は多いとのこと。 なので、デトロイトから入国しなければならない際は、相手につけ入るすきを与えない最小限の答えを、 語学力とは無関係に 強気の姿勢で言うことが大切だと言えるでしょう。





Catch of the Week No.2 July : 7 月 第 2 週


Catch of the Week No.1 July : 7 月 第 1 週


Catch of the Week No.4 June : 6 月 第 4 週


Catch of the Week No.3 June : 6 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。