July 8 〜 July 20 2008




” ウォール・ストリート の 不動産ペイン ”


今週のニューヨークは、火曜日に現在のヤンキーズ・スタジアムでの最後のメジャー・リーグ・オールスター戦が行われた一方で、 金曜には やはり今年で最後となるメッツの本拠地、シェイ・スタジアムで 最後のコンサートが ビリー・ジョエルによって行われ、60年代に初めてシェイ・スタジアムでコンサートを行ったビートルズのポール・マッカートニーも ステージに参加してその場を盛り上げていたのだった。
さて、そのメジャーリーグ・ベースボールは 現在 経済的に非常に潤っていることが伝えらており、 全米で ヤンキーズ、メッツのホーム・スタジアムを含む 15もの新球場が建設中である。 その建設費の35%前後をまかなっているのが地元市民の税金であるけれど、 新たに建設されるスタジアムは 豪華なVIPボックスが幾つも設置されるなど、リッチ&コーポレート・チケット・ホールダーを優遇する 施設が充実する一方で、一般の人々が気軽にスタジアムに足を運べる価格帯のシートが減っており、 野球観戦とて ” 金持ち優先、 庶民にとっては割高 ” なレジャーになりつつあることを感じさせているのだった。

話は変わって、以前このコーナーで リセッションとガソリン価格の高騰を受けて 夏のバケーションを諦める人が増えており、 休みは取っても何処へも行かないで過ごすことを 「Staycation / ステイケーション」と呼んでいることをお伝えしたけれど、 私がこのコラムを書いている今日、日曜のニューヨーク・タイムズのスタイル・セクションの一面で報じられていたのが その ”ステイケーション” の実態。
記事の中には、 国内バケーションを計画しながら、飛行機代が春過ぎから突然アップしたことを受けて、ボストン、シカゴ行きを諦め、 車でモンタナ州に行こうとしたものの ガソリン代が払えないために挫折して、結局 ステイケーションになってしまったカップルの話などが掲載されていたのだった。 その記事の中でちょっと気になったのが、やはりバケーションを取らないとストレスが溜まるのか、 「 夏バテをし易くなる」 という専門家の指摘。とは言ってもこれは1シーズン程度の話ではなく、5シーズンもバケーションに行かなかったケースで あったけれど、昨今のアメリカ人はバケーションに行かないどころか、極力車の運転を控える傾向が強かったりする。
お陰でリセッションにも関わらず 比較的潤っているのが、小売店のウェブサイト。 この季節のアメリカは サマーセールの真っ最中であるけれど、今年に関しては多くの小売店のウェブサイトが 「200ドル以上は送料無料」 といったオファーをするので、「ガソリン代を払って車で出かけるよりも節約になる!」ということで、 オンラインでのバーゲン・ハンティングが人気を博しているのである。
しかもオンラインの方が衝動買いが少ない分、余計なものを買わずに済むのだそうで、ガソリン代を使ってショッピング・モールに出かければ、 フードコートでアイスクリームやピザを食べてしまう ことを思えば、かなりの節約になっているという。

このようにガソリン代の高騰によって、ガソリンを使わないものの人気が高まっている昨今のアメリカであるけれど、 その好例の1つと言えるのは今年に入ってからのスクーター人気。 ヴェスパ、ヤマハ、ホンダといったメーカーのスクーターのアメリカでの売り上げは今年に入ってから軒並み30%前後伸びているという。
それと同時に都市部で増えているのがバスや地下鉄といった公共の交通機関を使用する人々。
加えて、現在ブルームバーグNY市長が導入を検討していると言われるのが、既にパリで実践されて大人気を博している自転車のレンタル。 実際、ニューヨークでは自転車通勤をする人々も増えているのが実情であるけれど、この自転車レンタルによって ニューヨーク、ことにマンハッタン内の自動車の量を減らし、同時に排ガス量を抑えようというのがこの案。
でも、アメリカは日本とは異なり 自転車は車道を走らなければならないので、もしこれが実現した場合、 自動車も自転車も 運転が荒っぽいニューヨークでは、交通事故が増えることを危惧する声も聞かれているのだった。


さて、私が1日の中でこよなく愛する時間の1つと言えば、朝起きて朝食を取りながら、ニューヨーク・タイムスを読んでいる時であるけれど、 ことに日曜は時間に追われていないケースが多いため、週日に読みきれなかった記事などと一緒に、分厚い日曜版のタイムズに じっくり目を通すことになるのである。
その日曜版の求人セクションのページが激減したことは以前にもこのコーナーで触れたけれど、今日7月20日付けのタイムズの求人セクションは、 ビジネス版の後ろに僅か3ページ半あったのみ。 その反面、決して薄くなる気配を見せないのがリアル・エステート(不動産)のセクションである。
もちろん その理由は、一度売れたはずの物件が ローンが下りないために再びマーケットに戻ったり、 リッチ・ピープルが投資目的で購入した物件を手放したり、といったリセッションがらみのものが多いようである。
ところで、アメリカ中がサブプライム問題で 不動産価値を落としている中、マンハッタンの物件に関しては まだその価格が上がり続けていることが伝えられているけれど、現時点でマンハッタンの平均的な物件価格は$1.6ミリオン(約1億7000万円)。 もちろん一部には価格を落としている物件もあるけれど、改装されたプラザ・ホテル内のコンドミニアムのような 新築の超高額アパートがこの平均価格を吊り上げているのが実情である。

こうしたマンハッタン内の高級物件の買い手の約30%を占めてきたのが、ウォール・ストリートの金融関係者であるけれど、 先週のリアル・エステート・セクションの 「Rich But Rejected」という記事で取り上げられていたのが、 そうした金融関係者がローンを断わられたり、コー・アップ(Co-Op / 自治機能を持つビルディング)の役員会から 購入を断わられるケースが増えているという現状である。
これは高額のアパートを購入しようとする 金融関係者が、通常そのサラリーを 約2500万円程度のベース(基本給)と億円単位の ボーナスで受け取るためで、ウォール・ストリートが活況を呈していた頃は 多額のボーナスが彼らに支払われることが折込み済みの事実であったので、 誰も彼らの支払いが滞ることなどは心配しなかったのである。
ところが、2008年に見込まれているウォール・ストリートのボーナスの支給額は、既に金額が減っていた2007年の半分。 このボーナス減少傾向は 少なくとも2009年までは続くと見込まれているため、昨今では ウォール・ストリートの金融関係者の収入源であるボーナスは ”不確定な収入” と見なされ 、 その上にレイオフが増えているため、彼らにとって住宅ローンが組みにくい状況になっているのである。
この記事によれば、昨年の時点で約2600万円のベース・サラリーと、1億700万円程度のボーナスが支払われていた金融関係者は、 約4億円の住宅ローンを組むことが出来たけれど、今年に入ってからは2億円がせいぜいであるという。

加えて厳しくなっているのが、コー・アップの入居審査で、これまでなら過去2年分の税金申告書と過去3ヶ月分の銀行のステートメントを 持参するだけで良かったところが、現在は税金申告書が過去7年分、銀行のステートメントは12ヶ月分 を提出することになっているそうで、 特に金融関係者に関しては 自分の会社で過去数ヶ月にどれだけレイオフがあったか、自分の働いている部署は利益を上げているか?、 ほかの金融機関と比べて成績はどうか?といったレポートまで要求されるケースがあるという。 さらにその頭金もこれまでの10%から 25%にアップしていることが伝えられている。
このため、金融関係者の中には審査の厳しいコー・アップを諦めてコンドミニアムの購入に切り替える人も少なくないようだけれど、 実際、購入が決まった途端に夫婦でレイオフされてしまった金融カップルなどの例も記事に掲載されていたので、 コー・アップ側がローンの支払いが滞りそうな人々を拒絶する理由は納得出来るものなのである。

こうした先が見えないリセッションなので、ウォール・ストリート関係者の中にはコンドミニアムの手付金を支払いながらも 購入を見合わせる人々が多いというけれど、 自宅の購入がそのような状況なので、 それがサマー・ハウスとなれば 益々購入を躊躇する人々は多いもの。 このためニューヨーク郊外の高級リゾート地であるハンプトンは、ウォールストリートのリッチ・ピープルがサマー・ハウスを手放すケースが 増えていると同時に、レストランやクラブの物件も埋まらないところが出ていることが伝えられている。
また、毎年のように この季節のハンプトンで行われるのがラグジュリアスなチャリティ・パーティーであるけれど、 好況の際は、どんなに価格が高くてもチケットが売り切れ、セレブリティを主賓に招いて、屋外テントの中でディナー&ダンスが行われるもの。 でも今年は主催者側が大幅にバジェットを削って、チケット価格を落として、リセッション対策をしているにも関わらず、 ウォールストリートの金融関係者がこぞってハンプトンに出向かないこともあり、 多くのチケットが残っており、チャリティへの寄付も昨年より30%前後減ることが見込まれているという。

さて、不動産とウォールストリート絡みのニュースで今週 ニューヨークで大きく報じられたのが、 メリル・リンチがグラウンド・ゼロに新たに建設されるオフィス・ビルを本社とする案を取り止めたというもの。
グランド・ゼロ跡地はポート・オーソリティーと不動産デベロッパー、ラリー・シルバースタインが 建設費約1兆70000億円を掛けたフリーダム・タワーを含む 4本のタワー・ビルの建設を計画中であったけれど、 メリル・リンチはそのうちのオフィス・タワーのアンカー・テナントであり、唯一入居を決めていた民間企業。
既に当初の計画より数年遅れていると言われるグラウンド・ゼロ跡地の再開発であるけれど、 昨今のリセッションを受けてラリー・シルバースタイン側が 思うように資金集めが出来ていないことが伝えられ、 4本のタワーを2本に減らすことも検討されていた矢先であっただけに、 メリル・リンチがテナントから抜けたことは、この再開発にとって大打撃と見なされていたのだった。
でも、もしこのタワーが無事完成した場合、ニューヨークで最も高額なオフィス物件の1つになると言われているだけに、 ニューヨーク・ポスト紙などは、「サブプライム問題で大打撃を受けた現在のメリル・リンチには、そのレントの支払い能力があるかどうかは疑わしい」 といった指摘をしていたりする。

本来ならば9/11のテロから立ち直ったニューヨークを象徴する存在になる予定だった フリーダム・タワーを含むコンプレックスの 建設が難航する一方で、モダンで新しいランドマーク・ビルが次々と生まれているのがオリンピックをホストする北京。 今や中国は日本を抜いて、アメリカに次ぐ世界第2位の広告市場になっているそうだけれど、 北京オリンピックには史上最高の63社がオフィシャル・スポンサーになっているという。
そんな広告と開発の活況著しい北京を横目で見ながら、パリやニューヨークでは自転車人口が増えていることを思うと、 街の立場が逆転してしまったような印象さえ 感じられてしまうけれど、 それでも中国の全土がその調子で潤っている訳ではないのは、時に忘れられがちな事実。 実際、つい最近放映されたケーブル局 HBOのドキュメンタリーでは、 生まれてきた子供を売って生計を立てるしかない貧しい人々が 中国の地方には 今も多いことが 描かれていたりするのである。





Catch of the Week No. 2 July : 7 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 July : 7 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 June : 6 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 June : 6 月 第 4 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。