July 11 〜 July 17 2011

” Pathetic Liar ”

今週のニューヨークで大きな話題となっていたニュースの1つが、先週土曜日にホームランで3000本安打を達成した デレク・ジーターの記録達成ボールをレフト・スタンドで拾った23歳の男性、クリスチャン・ロペス(写真左、左側)が ジーター本人にボールを返し、そのお礼としてヤンキーズが彼にギフトを贈ったために、約1万4000ドル(日本円にして約110万円)の 税金をIRS(国税局)に 課税されることになったという報道。
クリスチャン・ロペスは、ライフタイム・ヤンキー・ファンで、ガールフレンドが誕生日にプレゼントしてくれたチケットで、 父親と一緒に試合を観戦していたところ、そこに飛んできたのが、滅多にレフト・スタンドにホームランを打たないジーターの 3000本安打達成ホームラン・ボール。 これをキャッチした彼は、こうしたオケージョンに備えて待機していたセキュリティ・ガードによって、ヤンキーズのオフィスに 招かれ、チーム・プレジデント のランディ・ディヴァインから「このボールをどうするおつもりですか?」と尋ねられたという。
ロペスは、2つ返事で「もちろんジーターに返す」と答え、「その引き換えに何が欲しいか?」と尋ねられた彼は、 「サインボールと、バットとユニフォーム」と、まるで少年ファンのようなリクエストをしたのだった。 もちろんヤンキーズはそのリクエストに応じただけでなく、ヤンキー・スタジアムでの 今シーズンの残り32ゲームのチケットを彼にプレゼント。 ボールを返したロペスと、そのファンの好意に感謝の意を表したヤンキーズのやり取りは、ジーターの3000本安打報道の中で、 美談として伝えられたのだった。

それもそのはずで、2006年にバリーボンズの715号ホームラン・ボールを拾ったサンフランシスコの男性は、そのボールをEベイで競売に掛けて、約1700万円で販売。 また1998年にマーク・マグワイアが樹立した、1シーズン最多の70号のホームランのボールは、それを拾った男性が何と2億4000万円で売り飛ばしているのだった。
ジーターの3000本安打達成ボールに大きな価値があると知りながら、それを当然とばかりにジーターに返したロペスのニュースは、 彼が約800万円の学費ローンを抱えた身であったという情報も手伝って、瞬く間に彼をヤンキー・ファンのヒーローにしてしまい、 彼は様々なメディアからインタビューを受けることになったけれど、その状況に水を差すように飛び込んできたのがIRSの課税のニュース。
アメリカでは高額なギフトを受け取った場合、それに課税されることになっており、これが厳しくなったのは90年代半ばのこと。 では、ロペスがヤンキーズから受け取ったギフトにどれだけの価値があるかと言えば、 まずジーターのサイン・ボールの価値は約600ドル、ユニフォームは約1000ドル、バットは900ドルで、スポーツ・メモラビリアの世界では取引されているとのことで、 ロペスはこれらをそれぞれ複数ヤンキーズから受け取っていたのだった。 さらに残り32試合のシーズン・チケットの価格は、席によって価格は異なるものの4万4800ドル〜7万3600ドル。 もしヤンキーズがプレー・オフに進出し、ワールド・シリーズまで進むと、このチケット価格はさらに大きくアップすると言われているのだった。
なので、ヤンキーズがロペスに与えたギフトの総額は、どんなに安く見積もっても5万ドル、日本円にして約400万円。 したがって、国税局がこれに1万4000ドル以上の課税をするのは確実視されているのだった。


ニューヨーク・タイムズ紙では、 「ロペスのケースは、 2004年にトークショー・ホスト、オプラ・ウィンフリーがその番組の会場視聴者全員に車をプレゼントした際と同様である」という シンシナティ大学の税法の教授のコメントを掲載。 オプラ・ウィンフリー・ショーのオーディエンス全員が、車をプレゼントされて 会場中で 飛び跳ねて喜んだ様子は、世界各国でも報じられたけれど、 後に彼らは IRSにそれぞれ約60万円を課税されて 「寝耳に水の災難」 の思いをしたことが伝えられているのだった。
とは言っても、ロペスのケースでは 彼がヤンキーズから受け取ったギフトよりも、 彼が好意で手放したジーターの3000本安打記念ボールの方が ずっと価値がある訳で、トークショーの観客が タダで車を貰うのとは異なるオケージョンなのだった。

ロペス本人は親に借金をして、ヤンキーズから受け取ったジーターのサイン入りボールやユニフォームをキープしたいと コメントしていたけれど、メディアやファンの間では、ヤンキーズ、もしくは資産200億円と言われるジーター本人が、 「ロペスの課税分を支払うべき」という声が圧倒的に多かったのだった。

この1件がハッピー・エンディングを迎えたのは、スポーツグッズ・ショップ、モデルズ と ミラー・ハイライフがティームアップして、 その課税分に加えて、ロペスが抱える学資ローンまでもを支払うと申し出たこと。
私は、個人的にはヤンキーズかジーターがロペスを救済すべきという立場であったけれど、 このどちらかだった場合、IRSからの課税分からしか支払わないのは当然のこと。 でも善意の第三者の登場により、ロペスは学費ローンまでもを支払ってもらえることになったのであるから、 彼にとってはその方がハッピーと言える状況に違いないのだった。


さて今週、もう1つヤンキーズがらみで大きなニュースとなったのは、 先週のこのコラムの最後にちょっとだけ触れた、元ヤンキーズのピッチャー、ロジャー・クレメンズが下院の公聴会でステロイド使用について ウソの証言をしたという裁判が、不成立になったという報道。
これは、クレメンズの元チームメイト、アンディ・ペティットの夫人が、 「クレメンズがステロイド使用を自分に告白した」と証言しているビデオ・テープが、裁判を待たずして陪審員に公開されてしまったことを受けてのもの。
これによって、クレメンズは無罪とは見なされなくても、有罪にされることは無くなった訳だけれど、 クレメンズのように、これまで築き上げてきたキャリアや殿堂入りのステータス、メジャーリーグ・プレーヤーとしての名誉を守るために、 ウソをつくというのは、感心できることではなくても、その動機は理解出来るもの。
でも先週のこのコラムでフォーカスし、今日、日曜に無罪放免となったケイシー・アンソニーのように、 数年前にクビになった職場にまだ勤めているといったウソを周囲に語り続けただけでなく、警察に対してまで そのウソを通そうとする行為は、 尋常とは言えないもの。

心理学の専門家の意見では、人間は 日常生活の中で社交辞令を含め、ウソをつかない日は無いというけれど、 人々がシリアスに ”ウソ” と見なすウソの多くは、「自分に関心を集めたい、自分を良く見せたい、自分の責任を回避したい」という意図で語られるもの。
私は以前ニューヨーク・タイムズ紙で、男性が、 若いにも関わらず、ガンを克服したという女性に出会い、彼女の自立した姿に惹かれて、婚約までしたものの、 家族に会ってみたら、ガン克服のエピソードやそれにまつわる全ての彼女の話がウソであることが判明。 男性は当然のことながら婚約を解消してしまったというストーリーを読んだことがあるけれど、 ここまで極端な例は珍しくても、 出身校や、過去に付き合っていた男性、自分のキャリアなどでウソをつく例は、決して珍しくないもの。
でもウソというのはやがて時間が経てば どうしてもバレてくるもので、 最初は 皆が感心しながら、その経歴や交際男性のプロフィールなどを聞いているけれど、 世の中がそれほど広くない上に、昨今ではインターネットで ウソがばれる時代になっているので、 やがては 「あの話、絶対にウソ!」というような指摘を受けることになるのだった。


でも、私が今週遭遇した”ウソツキ” は、巧妙さのかけらもないウソをつくだけでなく、どうして、何のためにそんなウソをつくのかも分からない人物なのだった。
私は以前、このコラムに「オンライン・デーティング・サービスは使ったことが無いけれど、テニスのパートナーは インターネットで探すことがある」と書いたけれど、ここに話題にする”ウソツキ”男性は、私が登録しているユナイテッド・ステーツ・テニス・アソシエーション(USTA)の ウェブサイトを通じて、今週初めて出会ったテニス・パートナー。
彼とは携帯メールでやり取りをして、今週月曜の夕方7時からセントラル・パーク・テニス・センターでプレーをすることになったけれど、 現れた彼は 20代の若さで、なかなかのグッド・ルッキング。 私達はフレンドリーに会話を始めて、7時からプレーを始めたのだった。 
ところが私達がプレーをしているコートに 2人の男性が現れて、「24番コートは僕らのコートのはず」というので、事情を訊いたところ、 彼らはウェイティング・リストに名前を入れていて、コートを割り振られたという。 ということは、私が朝ランニングの際にリザーブしたはずのコートがキャンセルされてしまったことを意味するので、 考えられる理由はただ1つ。私のパートナーが、コート・タイムの15分前までにレジスターしていなかったから。
そこで、私は 分かりきってはいたものの、「レジスターした?」と初対面のパートナーに一応訊いたところ、 彼は何のことだか全く分かっておらず、私はその時に彼がセントラル・パークで一度もプレーをしたことが無いことを悟ったのだった。 
でも携帯メールでのやり取りの際には、彼はセントラル・パークで以前プレーをしたと言っていたので、まず これが数多くの彼のウソの1つ目になったのだった。

私は、「プレーする人間が2人とも、時間までにレジスターするのはルールだから、それを怠れば コートがキャンセルされて、ウェイティング・リストの人にアサインされるのは仕方が無い」と 彼に説明したけれど、彼は「自分は時間通りに来ていたから、レジスターする、しないなんて関係ない」、 「もう自分達はプレーを始めているんだから、後から来て何の文句があるんだ?」と訳の分からないことを言って、 現れた2人の男性に食って掛かる状態。そして、「オーガナイザーに抗議してくる」と言って、クラブハウスに行ってしまったのだった。
2人の男性は、私には至って同情的で 「もし良かったらダブルスをする?」などとオファーしてくれたけれど、 2人が私のパートナーの態度とマナーの悪さに呆れていたことから、彼とはプレーしたくないだろうと察して、それは丁寧に断ったのだった。

クラブハウスに行ってみると、彼は現れた2人男性が 何も悪いことをしていなかったにも関わらず、彼らを悪者扱いして、 「マナーが悪い2人組が現れて、自分達のプレーが中断された」と大騒ぎしていたのだった。 でも、「時間通りに来ていても、レジスターをしなければ、コートがキャンセルされるのはルール」と オーガナイザーに説明されて、埒が明かない状態。
彼は私に対してまで「どうして、抗議しないの?、僕はこういう不公平な状況では常に戦うんだ」などと言ってきたので、 内心、「何て、理不尽な人間なんだろう・・・」と呆れていたのだった。

それより私が気になったのは、彼がセントラル・パークのワンタイム・パーミット(1回プレーするためのチケットで15ドル)を無駄にしていないかで、 お金を損すると気の毒だと思って、「今日のパーミットはどうしたの?」と訊いてみると、彼はタダでプレーをする気でいたのか、 パーミットのことは何も知らない状態。 それでいて、セントラル・パークのルールを知らなかった事が、よほど恥かしく思えたのか、 「僕はマンハッタンでプレーする時は、いつもリバーサイドなんだ」と 怒ったような口調で言っていたけれど、 リバーサイドも同じ市営コートで、同じパーミットを使うので、彼はここでもウソをついていると思えてしまったのだった。

結局、私は 私と同じアッパー・イーストサイドに住んでいるという彼と一緒にセントラル・パークから歩いて帰ることになったけれど、 コートを待っている間に「オフィスの時間は10時〜6時」と言っていたにも関わらず、「どんな仕事をしているの?」 と訊くと、彼は自分がドクターだと言い、「What kind of doctor?」と訊くと、まだ決めていないとのこと。
私は、同じように医師を目指してインターンをしている友達がいるので、「じゃあインターン?」と尋ねると、 「まだインターンシップまで行っていない」とのことで、すなわち医大生ということになるけれど、「じゃあオフィスの時間というのは 一体何だったんだろう?」と考えてしまったのだった。
しかも、ドクターを目指しているわりには、マウント・サイナイ病院(アッパー・イーストサイドにあるニューヨークで最も著名な病院の1つ)のことを知らないなど、これもウソとしか思えない 状況。
彼によれは、彼は家族が所有するウエストハンプトンのビーチハウスにある コートでしょっちゅうプレーをしているとのことだったけれど、 ウエストハンプトンに行くのに、それより遥か先にあるブリッジハンプトンを通過することになっているなど、 話のつじつまが全く合わず、ヨガを何年もやっていると語る割りには、ヨガに種類があることを知らなかったり、 セントラル・パークをジョギングしていると言いながら、コースについてめちゃくちゃなことを言うので、 私は適当に相槌を打って、聞き流していたけれど、あまりのウソの多さに唖然としていたのだった。

極めつけは、どこに住んでいるかという話題になった際。私が住んでいるビルの名前を言うと、彼は私のビルのはす向かいに住んでいるとのこと。 そして、彼は彼が住むビルの説明を始めたけれど、どう考えてもそれは私が住むビル。
やがて私のビルが近付いてきた時に、彼は私のビルを指差して「ここが僕が説明したビルだよ」というので、 「私、ここに住んでいるのよ」というと、「あれ、君のビル、あっちじゃないの?」とはす向かいの違う建物を指差したので、 彼がビルの名前を勘違いしていたこと、彼が自分が住むビルとして説明していたのが私のビルであったことを悟ったのだった。
それでも自分の住んでいるビルの名前を知らないということはあり得ないこと。
私は何事も無かったように、彼に別れを告げて自分のビルに入っていったし、彼もまるで何事も無かったように そのまま道を真っ直ぐ歩いていったけれど、彼がその言葉通り、本当に私のビルに住んでいるのならば、一緒にビルに入ってくるはずなので、 彼は住んでいる場所についてもウソをつこうとしていたことは明らかなのだった。

私は、彼が一体何の目的で、こんな明らかにウソと分かるウソの数々を 初対面の私に対してつこうとしたのか、全く分からないけれど、 彼が単なるウソツキより悪質だと思うのは、自分がルール違反をしておきながら、逆切れすることからも分かる通り、常識が通用しないこと。
彼からは キャンセルされたコートの穴埋めということで、翌日のプレーに誘われたけれど、どう考えてもウソが多すぎるので、 友達に相談したところ、「絶対に何かおかしい」と脅されてしまったのだった。 そこで、これ以上一緒に時間を過ごす前に 切れた方が賢明と判断して、携帯メールで丁寧に謝って、プレーをキャンセルしたのだった。

ウソをつくという行為は、私は決して奨励しない立場であるし、私は友達だと思っていた人物のウソで酷い目にあった経験も過去にはあるけれど、 それでもウソを付く意図や目的が、「自分の立場を良くするため」、「人を陥れるため」のように、醜い人間感情の領域内に収まっている ウソツキの方が、私が今週出会ったテニス・パートナーのように、 「どうして、何の目的で こんな明らかなウソをつくのか分からない」というウソツキよりは、遥かに精神的安心感を与えてくれる存在だと思えてしまうのだった。
前者のタイプのウソツキというのは、先述のように放っておけばウソがバレる場合が殆どであるし、最終的には そのウソが愚行として気の毒に思えてくるもの。 でも後者のようなウソツキというのは、「精神的に問題があるかも知れない」、「ケイシー・アンソニーのように、いずれは殺人事件に関わるかも知れない」など、 際限無く 悪いシナリオが浮かんできて、恐ろしくさえ 思えてくるのだった。

テニス・パートナーのことを相談した友達には、「こういうウソツキに限って、ウソツキと言われたり、ウソを問い質すようなことをすると、 本当に逆切れして、何をするか分からない」と言われたけれど、私もそれには全くの同感。
ウソツキというのは、ウソをつくことは悪いと思わないけれど、ウソを暴かれたり、指摘されることには猛反発したり、復讐心さえ燃やすので、 ウソの常習犯に対しては、騙されたふりをして、関わらないようにするのが一番なのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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