July 9 〜 July 15, 2012

” 震災後、初めての日本 ”

今週のアメリカでは、まずビジネスの世界で最も大きなニュースとなっていたのが、 イギリスのバークレーを始めとする大手銀行が、LIBOR (国際的な基準金利となる ロンドン銀行間の取引金利)を不正操作することによって、不当な利益を上げていたという問題。 大手銀行は虚偽の申告を繰り返してLIBORを銀行側に有利な値に誘導したと言われており、米国司法省では 犯罪として立件するための捜査を始めていることが 伝えられているのだった。

でも それよりも今週 大きな物議を醸していたのが、ラルフ・ローレンが製作したUSオリンピック・チームのユニフォームが、全てメイド・イン・チャイナであるという問題。
ラルフ・ローレンでは、既にUSオリンピック・ユニフォームを公開し、そのウェブ・サイトでも販売を行なってきたけれど、 今週、開会式用のユニフォームをメディアに大々的に公開したのがきっかけで、批判を浴びることになったのが アメリカを代表するアスリート達が着用する ベレーからシューズまで、すなわち 頭の上から足の先までが、全てメイド・イン・チャイナであるという事実。
先週のこのコラムでも、アメリカのアパレルがその製造をアウトソースし続けた結果、国内アパレル産業が衰退し、今や 米国内で販売される41%のアパレルと85%のシューズがメイド・イン・チャイナであることをご説明したけれど、 この理由はもちろん人件費が安く、生産コストを下げられるため。 でも、同じクォリティの製品は、アメリカ国内でも生産できる訳であるから、ラルフ・ローレンが独自に販売するオリンピック関連商品は別として、 アメリカ代表のアスリート達が着用するユニフォームに関しては、アメリカ国内で生産するべきというのが大半の意見。 インターネット上のアンケート調査でも70%以上の人々が、アメリカ選手団は「メイド・インUSA」のユニフォームを着用すべきと回答しているのだった。
加えて一部で聞かれていたのが、オリンピック・ユニフォームを手掛けることによって 膨大なパブリシティを獲得する ラルフ・ローレンが、 その上にさらに多額の利益を上げようとする 愛国心そっちのけの、金儲け主義に走っていることを指摘する声。

アメリカのオリンピック委員会は、この批判に対して 「オリンピックは企業スポンサーのサポートから成り立っているイベントであり、 オリンピック委員会は、ラルフ・ローレンという ”アメリカ企業” のサポートに感謝している」と書面でコメント。 一方のラルフ・ローレン側は、ノー・コメントとなっているのだった。
ラルフ・ローレンがオリンピック・ユニフォームで、物議を醸したのはこれが初めてではなく、前回のヴァンクーバー冬季大会の際には、 アメリカ国旗よりもポロのロゴを大きくフィーチャーしたことから バッシングを受けており、オリンピックを放映するNBCのアナウンサー達は、 その国民からの非難が伝えられてからは、ロゴをテープで覆ってTVに登場していたのだった。

ちなみに、アメリカの法律で メイド・イン・USAでなければならないと規定されている衣類は、アメリカ軍のユニフォーム。 それ以外はアメリカ国旗にしても、その多くが中国製となって久しい状況。2年前には、テキサス州ダラスで、星が61もある中国製の星条旗が 販売されて、ちょっとしたニュースになっていたのだった。
若い世代のアメリカ人の中には、時に全米が50州であることを知らない人も居るけれど、星条旗の星の数はアメリカの州の数を示すので本来は50個であるべきもの。 1959年にハワイとアラスカが加わる前の国旗は星の数が48個。一方、星条旗の13本のストライプは、独立建国時の植民地の数を意味しているのだった。

オリンピック関連商品については、米国選手団のユニフォームに止まらず、主催国のイギリスで販売されている多くのオフィシャル・グッズもメイド・イン・チャイナ。 その意味では 今後、オリンピックがどの国で開催されたとしても、経済的に必ず恩恵を受けるのは中国と言えるのだった。



話は変わって、私が過去約2週間を過ごしていたのが日本。 昨年3月の震災以来、初めて一時帰国をしたけれど、震災後、自分が努めて行なってきたのが、あまり日本のメディアをチェックしないということ。
私がこうするに至ったのは、震災の直後、アメリカではケーブル局の好意で 日本のTVが1ヶ月ほど無料で観られるようになっており、 その時は、震災後の日本の様子が非常に気になることもあって、自宅に居る時は意識して日本のTVを観るようにしていたのだった。 でも、そうするうちに強くなってきたのが 日本で行なわれている報道に対するフラストレーション。
そこで ケーブル局の無料放送が終了した段階で、今度は日本の情報を あえてアメリカのメディアからのみ得るようにして、 アメリカ人と同じような情報ソースにした場合、日本という国が 一体どういう風に見えてくるのかをチェックしようと考えたのだった。
そして そのアメリカのメディアから得た日本像を、 一時帰国した際に 実際に自分の目で見た日本のイメージに照らし合わせるというのが 私にとってのプロジェクトになっていたのだった。

その結果、まず帰国した初日に何が起こったかと言えば、両親宅のTVで大写しになった野田総理の顔を見て 「この人誰?」と尋ねてしまったこと。
私はNYタイムズ紙、NYポスト紙は定期購読しているので、端から端までとは言わないものの とりあえず読んでいるし、TVのニュースも朝晩で合計2時間は観ているけれど、 それでも野田総理の顔は知らないし、喋っている映像を見たのもその時が初めてなのだった。
そんな状態なので、私が一時帰国している間に話題になっていた東京スカイツリーのことも 全く知らなかったけれど、 興味深く思ったのは、私が「野田総理の顔を見たことが無かった」と言っても、友人達が全く驚かず、「アメリカに住んでいたら、そうなるよね」と 理解を示したのに対して、東京スカイツリーを知らなかったことには 「えっ、本当に東京スカイツリーのこと、知らなかったの?」と言った友人がいたことなのだった。

ところで今回の帰国で、私が日本の友達の意見を聞いてみたいと思っていたのは、原発と消費税の引き上げについて どう考えているか。 というのも、この2つがアメリカ人に最も尋ねられる問題であるためで、私が日本で尋ねた友人達は、どちらに対しても かなりはっきりした「No」の意見ばかりなのだった。
アメリカ人は、日本のセールス・タックスが5%というと、「先進国にしては低すぎる」という印象を持つようだけれど、 日本の消費税が食品や医薬品などにも一律課税されることを説明すると、「それは酷い!」というリアクションが返って来るのが常。 私も、日本に住んでいる頃は言われるままに消費税を支払っていたけれど、アメリカに住み始めてからは 日本の消費税のシステムに対して、アメリカ人同様の「酷い!」というリアクションになってきているのだった。



アメリカでは、食材を買っている分には食料品は無税。医薬品も処方箋薬を含めて無税。NYにおいては、110ドル以下の安価な衣類も現在は無税。
食品が課税対象になるのは、サンドウィッチなど調理されたものを購入する場合。 ピザも冷凍食品ならば無税であるけれど、ピザ店でオーブンから出てきたスライスを食べる場合は、たとえ立ち食いでも課税されるというのがルール。 フルーツは、カットしてお皿や容器に盛り付けてあれば課税対象になるけれど、皮がついたそのままの状態で買う分には無税。 アイスクリームはコンテナを買う分には、容器のサイズに関わらず無税。でもソフト・アイスクリームのようにコーンやカップに盛り付けた状態を 買う場合は課税対象になるのだった。
これを説明すると「紛らわしい」という日本人も居るけれど、これは国民の最低限の生活に対して 国が課税しないために必要なシステム。 そうしなければ、貧しい人ほど収入に対する税金の割合が高くなってしまう訳で、日本の現行の消費税の問題点はまさにそれなのだった。


ところで、私が日本に帰る度に感心するのは、日本におけるサービスの良さ。
私はアメリカ人に「日本のサービスの質の良さが知りたければ、日本のマクドナルドに行くように」と薦めているけれど、 アメリカでは、ファスト・フード店の店員がニコリともしないのは珍しくないこと。昨年には、某ファストフード店で カウンター越しに 2人の女性客と掴み合いの喧嘩になった男性店員が、 カウンターを乗り越えてきた女性客の1人を 消火器で殴るという事件が起こり、その様子を捉えた監視カメラの映像がニュースで公開されていたのだった。
実は男性店員は 前科のある保釈身分で、本来は接客が許されず、キッチンでしか働けない立場であることが後から報じられていたけれど、 こんなエピソードからも分かる通り、アメリカでファスト・フードと言えば、働く側も食べる側も 低所得者。 往々にして ファスト・フード・レストランは、キッチンが どの程度清潔かも定かでなく、サービスも悪く、ここで出される物を食べれば、身体に良いはずがないのは推して知るべき状況。 それだけに、アメリカではファスト・フードといえば不健康フードの代表選手になっているのだった。
その一方で、日本のファスト・フード店は清潔で サービスも良いけれど、その分、そこで出されるフードを食べても、さほど身体に悪く無いように錯覚してしまうことは、 逆に危険だと思えてしまうのだった。 実際、欧米では日本のマクドナルドを訪れたフード・ブロガー達が、 「日本ではファスト・フードが不健康だというバッシングを受けていない」ことを意外だと感じており、 「そのせいか、日本では欧米のマクドナルドに見られるヘルシー・オプション、例えばサラダやオートミールのようなアイテムがメニューに加わっていない」と指摘しているのだった。


そんな日本のサービスの優秀さについては、時々海外のメディアが取り上げること。
もう2年くらい前になるけれど、ニューヨーク・タイムズ紙の日曜版についてくるニューヨーク・タイムズ・マガジンに掲載されていたのが、 トラベル・ライターが 世界各国のチップの平均金額とそれによって受けられるサービスの質を比較した記事。 その中で、最高のサービスが受けられる国に挙げられていたのが日本で、そのチップの金額はゼロ。 記事の中には、あまりに行き届いたサービスを受けたライターが、チップを支払おうとしたところ、丁寧に断られたエピソードが紹介されていたのを覚えているけれど、 サービスの優秀さでランクされていた国々で、チップがゼロだったのは日本だけなのだった。
この記事の掲載直後に、これを読んだアメリカ人の友人に尋ねられたのが、「日本のサービス業の人たちは チップが目当てでなかったら、 一体何のためにサービスをしているの?」という質問。 この時 私は、「お客様に喜んでもらうためと、引いては自分のため。自分のしたことで人が喜んでくれたら、幸せな気分になって、自分の仕事に 遣り甲斐が見出せるから」 と答えて、アメリカ人の友人に妙に感心されたけれど、 世界中を旅行しても、サービスの良さに止まらない「人間の真の善良さ」というのは 日本でないと味わえないと私は思っているのだった。

でも、今回の帰国で最も歯がゆく思ったのは その日本人の善良さや優秀さが、堕落した政治の煽りを受けて低迷する国民生活の打たれ強さに利用されていること。 そもそも 何処の国でも政治家というのは、各国の一番悪い部分を象徴している存在が多いけれど、 日本という国が、これだけどうしようもない政治が続いても、きちんとしたモラルや生活レベルを維持していられるのは 国民がしっかりしているから。 世界中の何処を見回しても、国民がこれだけ いろいろな工夫をして、生活の細かいところまでをコントロールしながら生きているのは日本だけ。
でも、そんな国民の知恵や善良さが、国力を上げるためではなく、政治が招いた悪状況を凌ぐために使われているのはとても残念に思えるのだった。

そんな日本滞在中、印象的だったことの1つが、私が電車に乗っていた際の出来事。 訳の分からないことを大声でわめいている老人が乗ってきて、当然のことながら周囲は無視していたけれど、 その老人が1席空けて座っていた女性に向かって 「おい、聞いているのか!」と言いながら 彼女を叩いたところ、 その前に立っていた20代と思しき若い男性が、その老人に注意しただけでなく、居直る老人にお説教を始めたのだった。
老人に叩かれた女性は、暫くその場に座っていたものの、次の駅で停車した際に席を立って 私の隣に座ったので、思わず「大丈夫でしたか?」と声を掛けたところ、 その女性は看護師だそうで、「精神科の患者さんを扱ったこともあるので・・・」と説明してくれてから、 「それより、日本にもあんな勇気ある若者が居るのね」と言っていたのだった。
これがニューヨークだったら 別に驚かないことだけれど、日本でこういう光景を目にしたのは私自身 とても新鮮で、 若い世代の日本人には 自分の意見が誰に対してでもはっきり言える、堂々とした国際人になって欲しい という思いを強く抱いてしまったのだった。 そのためには、英語の勉強は不可欠だと思うけれど、英語を言語として学ぶのではなく、コミュニケーションの手段として学ぶことが大切だというのが私の考え。
どんなに文法的に完璧な英語を話しても、話し手に魅力がなければ 誰も関心や敬意を払って聞こうとは思わないもの。 逆にニューヨークには、英語は完璧でなくても、コミュニケーション力や人間的魅力を駆使してビジネスで成功している人は沢山居る訳で、 その意味でも、「日本の英語教育は実践ではさほど役に立たない」というのが私の偽らざる意見なのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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