July 17 〜 July 23




ジェンダー・ギャップ



先日ワインの雑誌を読んでいたら、ワイン・ショッピングにおけるジェンダー・ギャップ、すなわち男女の格差についての記事が掲載されていた。
これによれば、男性のワイン・ショッピングが個人の好みを強く反映したものであるのに対し、女性によるワイン・ショッピングは、 フードとのペアリング、価格、オケージョンといったものを考慮して、より実用的なチョイスをしているとのことで、新しいワインを試すことに よりオープン・マインドであるのも女性とのことであった。
また、女性のワインの購買傾向というと、レッドよりホワイト、より甘く、飲みやすいワインという先入観が未だにワイン業界に根強いけれど、 実際に調査をしてみると、女性もホワイトよりレッドを好み、男性と同じくらいにはフル・ボディのワインを好んでいるという結果も得られているという。 その一方で、男性は好みもさることながら、ワイン自体のイメージも購入のポイントになっているようで、ロゼ、リースリング、ボジョーレー・ヌーボーといった 女々しい印象のワインは、やはり男性達は購入しない傾向が強いという。 味の好みという点では、やはり男性と女性の味覚には開きがあるようで、女性に人気のワインは男性には不人気、男性に人気のワインは 女性に不人気であったという調査結果が得られているとのこと。
では、アメリカにおいて、男性と女性の どちらがよりワインを購入しているかと言えば、答えは女性。でも、女性客は30ドル前後の安価なワインの メジャーなバイヤーであるそうで、一般に高額と見なされる100ドル以上のワインの購入者はもっぱら男性。 このため、ワイン・ショップにおいては、男性の方が女性客より優遇されるという傾向が強く、女性客は「店員に勧められたものを大人しく買って行く」、 「高いワインと安いワインを薦めると、安い方を購入する」といった先入観を抱かれていることも 指摘分析されていたのだった。

私がこの記事に部分的に同感なのは、私がワイン・ショップをフラフラと見て回っていると、時に返事をするのに疲れるほどに 何度も「May I Help You?」、 もしくは「Do you have any questions?」 (何か訊きたいことはない?)と、店員が傍を通る度に 声を掛けられることがあり、 なかなか ゆっくりワインを見せてくれないのである。 これにはもちろん 親切に接客してくれようとする意図もあるのだろうけれど、やはり 「女性はワインについて何も知らないから、 何を買うべきか アドバイスして欲しいと思っているはず」 的な気持ちが強いことは、店員の態度や、彼らが訊いて来る質問から ひしひしと感じられるもので、こちらは値段だけを尋ねているのに、ワインの説明をされたことは何度もあるし、当たり年について説明されたこともあれば、 どう考えても他より高い値段を付けているワインを「Very Good Price!」と薦められたこともあったりする。
こういうワイン・ショップの接客傾向を見ていると、女性は決して冷遇はされないけれど、「知識に乏しい」と見なされがちで、 ワインに限らずアルコール全般、ギャンブル、スポーツといった世界では、この傾向は強いように感じられるのである。

アメリカ社会は、先進国の中では最も男女の均等化が進んだ世界であると言われるけれど、それでも社会の様々なところに ジェンダー・ギャップが存在しており、時にそのギャップはダブル・スタンダードという言葉で表現されたりする。 このダブル・スタンダードとは、男性には許されるけれど、女性には許されないこと、男性には当たり前でも、女性には珍しいこと等、 性別によって物事のスタンダードが異なることを指すものである。
昨今、私がこのダブル・スタンダードを強く感じた例は、今週メディアが大々的に取上げていた 80年代のスーパーモデル、 クリスティ・ブリンクレーの離婚報道と、この夏のサプライズ・ヒットとなった映画「Heading South / ヘディング・サウス」に対する 人々のリアクションである。

前者のクリスティ・ブリンクレーは、ビリー・ジョエルの元夫人で、彼のヒット曲、「アップタウン・ガール」のイメージにもなったブロンド・モデル。 今年、52歳になるものの、その変わらぬ 若さと美しさは、アメリカでは羨望の的となっている。(写真左、右側)
その彼女がビリー・ジョエルとの離婚後、1996年に結婚したのが、ニューヨーク郊外のハンプトンの裕福な家庭に生まれ育ったアーキテクト、 ピーター・コック(写真左、左側)であるけれど、先週報じられたのが、2人が密かに離婚を申請していたというニュース。 そしてその離婚の原因として、メディアを賑わせたのが、ピーター・コックの19歳になる愛人の存在である。
今週のメディア・フォーカスで、一躍にわかセレブリティとなった愛人、ダイアナ・ビアンキ(写真右)は、ハンプトンのショップでアルバイトをしている際に、 ピーター・コックに気に入られ、その後、彼の設計事務所に雇われてから、彼と愛人関係になったという。 彼は、全くキャリア経験の無い彼女に 50ドルもの時給を支払う他に、ギフトや金銭を渡し、加えてシンガーを目指す彼女を 彼のコネクションでサポートすることも約束していたという。
約1年に渡って続いた2人の関係が発覚したのは、ダイアナの行動を不審に思った両親が、 クリスティに2人のことを告げたのがきっかけ。今週に入ってから、ダイアナ・ビアンキは、 新聞、TVのインタビューに応じ、今年47歳になるピーター・コックが、 金品や、社会的なポジションを使って、ティーンエイジャーである彼女を愛人として利用していたことを告白。一方 メディアは、ピーター・コックが 彼女以外のティーンエイジャーとも愛人関係を続けていたことなどを突き止め、 彼に対して猛烈なバッシングを展開していたのである。

これに対して、先週日曜のニューヨーク・タイムズ紙のスタイル・セクションに掲載されていたのが、 シャーロット・ランプリング主演の映画「ヘディング・サウス」が、 熟年女性の性欲の実態をリアリスティックに描き、同年代の女性を中心に大ヒットしているというニュース。
この映画の設定は70年代のハイチ。描かれているのは、地元の若い男性を求めて この地を旅する50代の女性と、 彼女らが与えてくれる金品や贅沢な食事と引き換えに、外人旅行者専用のリゾート地で彼女らの相手をするハイチの青年達である。 同作品が熟年女性の共感を呼んでいるのは、「女性は年齢を重ねると性欲が萎える」という従来の既成概念を覆し、 女性達も、熟年男性が若い女性に惹かれるのと同様に、 歳をとっても 若い男性の肉体や視線に心をときめかせ、彼らを求めること、すなわち男女の性欲には隔たりがないことを描いている点で、 ニューヨーク・タイムズ紙のフィルム・レビューでも 同作品は「欲望、エイジング、若さ を最も端的に捉えた作品」と評価されているのである。

でもこの映画の中の女性達がハイチのリゾート地で行っていることと言えば、先述のピーター・コックが、ハンプトンのティーンエイジャー、 ダイアナ・ビアンキに対して行っていた事とほぼ同じである訳で、どちらも裕福な年上が、金品で若い愛人、コンパニオンを買っているのには 変わりはない訳である。
もちろん映画と現実、そしてそこに不倫という行為が絡む、絡まないの違いはあるけれど、 女性の性欲の健在ぶりを示す行為として映画の中に描かれている「ティーンエイジャーを買う」という行為が、共感を呼んで、 現実生活で、リッチでハンサムな男性が同様の行為をしてメディア・バッシングを受けるというのは、ダブル・スタンダードというよりは 矛盾とも感じられるものである。
見方を変えれば、 それだけ熟年男性が 金品を与えることによって若い女性を惹きつける行為は、珍しくも無ければ、新しくもないものである反面、 女性が若い男性に対して同じことをするのは、新鮮でセンセーショナルに感じられるということなのである。

今週メディアに、「年上の世慣れた男性に愛人として利用された”被害者”」として登場したダイアナ・ビアンキは、 ピーター・コックに対してセクハラの訴訟を起こすことを弁護士を通じて示唆しているけれど、 実際、彼女が唯一、被害者として訴えられるとすれば、「セクハラ」のケース以外には考えられないのは事実である。
というのも 彼女の年齢からして、ピーター・コックとの関係は、英語でStatutory rape/スタチュトリー・レイプ と呼ばれる「淫行」には当たらない訳で、 金品を与えられようと、シンガーとしてのキャリアのバックアップを約束されようと、2人の愛人関係は 「合意の上でのセックス」であり、 不倫というモラル上の問題を除けば、全くの合法的な行為なのである。 したがって、彼女が被害者ぶってメディアに登場するのは、シンガーを目指す彼女と、お金儲けをしたい弁護士が 売名行為のためにやっているとしか思えない行為とも受け取られるものである。

ピーター・コックにとっての最大の過ちは、彼女を自分のオフィスで雇ってしまったことで、これによって上司と部下という関係が成立すると同時に、 ダイアナ側に彼をセクハラで訴えるチャンスを与えてしまった訳である。でも、彼は以前にもティーンエイジャーをオフィスで雇ってから愛人にするという プロセスを実践しており、47歳の既婚者が、ある程度のレベルの家庭で育ったティーンエイジャーを愛人にするには、 たとえピーター・コックのようなハンサムでリッチな男性でも 一定の期間が必要なようである。



Catch of the Week No.3 July : 7月 第3週


Catch of the Week No.2 July : 7月 第2週


Catch of the Week No.1 July : 7月 第1週


Catch of the Week No.4 Jun : 6月 第4週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。