Aug. 1 〜 Aug.6 2005




他業自損



アメリカでビジネスをしていて、ウンザリすることの1つに、アメリカ社会、そしてアメリカ人(もしくはアメリカでビジネスをしている人々)の いい加減さというものがあるけれど、そのいい加減さが生み出すトラブルによって、いかにこちらの生産性を奪われているかは、 思い返すにつけて呆れるほどである。
アメリカ、ことにニューヨークでの生活が長くなればなるほど、様々なトラブルを多数経験することになるので、ちょっとやそっとのトラブルでは、腹は立っても、 驚きはしなくなるものであるけれど、それでも世の中には諦めて放っておけるトラブルと、 放置する訳には行かないトラブルがある訳で、後者に対処しようとした場合、アメリカという社会は本当に厄介で、どんな大企業も、公的機関も 決して 信用してはいけない国であることをつくづく思い知らされることになるのである。

例えば、過去1ヶ月以上に渡って、私が頭を悩まされ続けたトラブルというのは、よりによって銀行が犯してくれた振込みミスであった。 これは、日本円にして15万円以上のお金が、振込み日から80日以上行方不明になったというもので、 振込み先は、インドのパシュミ−ナ業者。過去数年、全く同じ振込みを 何度となく、 問題無く行ってきたので、 まさかこんな事がトラブルになるとは 夢にも思ってみない状況だったのである。
ミスが発覚したのは業者から「未だ振り込みが行われていない」というEメールを受け取ったからで、それは既に商品入荷から40日も経過した時点。 そこで振込み用紙や、その確認書類をチェックしたところ、銀行が業者の口座ではなく、銀行本体に対してお金を振り込んだことが 発覚した訳であるけれど、銀行のカストマー・サービスに電話をすれば、「ワイヤー・トランスファー部門と話してくれ」と言われ、 ワイヤー・トランスファーに事情を説明すれば、「振り込んだ銀行に行くように」と言われ、振り込んだ銀行に行けば、「カストマー・サービスと話してくれ」 と言われ、私はその都度 いちいち最初から事情を説明し、電話で2時間以上、実際に銀行に出向いて1時間以上を無駄にすることになってしまったのである。
その結果、銀行から言われたのが、「1回目の間違った振込みは取り消すから、改めて振り込みを行うように」とのこと。 既に業者を40日以上待たせているので、私は前回のお金が戻るのを待たずに2度目の振込みを 行ったけれど、結局2度目の振込みは業者の口座に数日後に振り込まれたものの、1回目の振込み分は何処かに消えたままで、 問い合わせをする度に、「明日必ずコールバックをするから」という返事だけをもらって、コールバックは無し。改めて電話をすれば、 「貴女のフラストレーションは理解できるけれど、私の一存では、口座にお金を戻すことは出来ない。」というのがお決まりの文句で、 やっとお金を返してもらったのが、最初にクレームをしてから約40日後のことだった。
銀行が振り込みのミスを犯すというのも、かなりの驚きではあるけれど、銀行側のミスと知りながら、お客に40日もお金を返さないなどということは、 私の常識では考えられないことである。でもそれが起こってしまうのがアメリカという国なのである。

銀行でさえミスを犯す国であるから、電話会社などはもっとずっと当てにならない訳で、今から2年ほど前、 長距離電話会社を ”XXXコミュニケーション”という会社に変えた時のこと、オペレーターがこちらの電話番号を 何度も確認したにも関わらず、1桁 間違って入力するというミスを犯し、そのために私は赤の他人の長距離電話料金を支払わされる羽目になったことがあった。
しかもこの「赤の他人」というのが運悪く、長距離電話のヘビー・ユーザーで、いきなり50ドル以上の長距離電話の請求書が来たので、 不振に思ってチェックすると、掛けた覚えの無い電話が数十本リストされており、私は最初は電話ラインの混線か何かかと思ったけれど、 よくよく見れば電話番号が間違っているという初歩的なミスだった。そこで電話会社のカストマー・サービスに問い合わせると、 「請求書が発行されてしまった限りは、額面通り払って欲しい」と言われ、他人が使った分は、私のアカウントにクレジットしてくれるとのことだった。 なので、言われた通りに支払ったところ、次の月の請求書も、また他人の番号分が含まれており、それを電話で再び訂正したところ、 今度は番号は直ったものの、他人が掛けた長距離電話料金はそのまま私の請求額にされてしまうという、何とも馬鹿げた事態が起こってしまったのだった。 そこで、私は何度もカストマー・サービスに電話をしては事情を説明し、先月の支払い分のクレジット分から私の今月の電話料金を引いてくれるように 頼んだけれど、日本人オペレーターは常に不在。日本人以外のオペレーターは皆、アジア訛りが強く、 英語が流暢に話せないお粗末さ。 しかも、私が英語で説明している事も理解出来ていないようなので、こちらが確認しようとすると、 「文句を言う前に電話代をきちんと払いなさい」という とんでもないリアクションが帰ってくる始末で、 その2ヶ月間に、6〜7時間をカストマー・サービスへの電話で無駄にすることになってしまったのだった。
その後、アメリカ版の消費者センターに当たる、ベター・ビジネス・ビューローのウェブ・サイトで同社のことを調べてみたところ、 同社に対する物凄い悪評の数々が掲載されていたので、妙に納得してしまったけれど、「セールス・トークだけを鵜呑みにした私も馬鹿だった」と反省して、 新たに契約した長距離電話会社は、ビューローでも優良企業のマークが付いていたものを選ぶことになった。

さて、アメリカに暮らしていて、誰もが一度は経験することになるのは、クレジット・カードのトラブルであるけれど、 これとて、誰かに悪用されるだけがその被害かと思ったら大間違いで、カード会社自体がトラブルの原因になることは決して珍しくないのである。
例えば、5年程前に Sデパートのクレジット・カードを作ったところ、請求書がなかなか送付されて来ず、こちらが心配して問い合わせて、 請求書の送付依頼をしたにも関わらず、請求書が届いたのは2ヵ月後。しかも 利息がたっぷり付いており、カストマー・サービスに事情を説明して 利息分を引いてもらうのに、かなり大変な思いで掛け合わなければならなかったのである。
私はこの時を最後にSデパートのカードを破棄してしまったけれど、同デパート絡みでは、他にも1つ苦い経験があって、それは忘れもしない2001年のこと。 当時会社の人事で悩んで、心ここにあらずの状態になっていた私は、5番街のヘンリ・ベンデルで買い物をした直後に クレジット・カード7枚、銀行のキャッシュ・カード2枚が入った財布をスラれてしまったのである。 その頃、CUBE New Yorkのオフィスはミッドタウンにあり、オフィスに着くやいなや、私は必死でカード・キャンセルの電話を掛け始めたけれど、 こうした時に、一番後回しになるのは、セキュリティが比較的しっかりしている上に、スリも最初には手をつけないであろうアメリカン・エクスプレスである。 逆に最優先でキャンセルしなければならないのが、銀行のキャッシュ・カードであるけれど、銀行は1本の電話で、ビジネスと個人の銀行口座はもちろん、 他4枚のクレジット・カードを含む 私が同銀行に持つ全てのアカウントをフリーズしてくれて、直ぐに被害が無いことも確認してくれた 「地獄に仏」のような存在だったのである。
ところが、限度額が少ないことから最後に電話を掛けた 日本にも進出しているC 銀行発行のクレジット・カードは、 限度額一杯の6000ドルが、スリにあったと思われる時間のほぼ10分後にSデパートで使われており、 それを知って愕然とする私にオペレーターが言ったのは「貴女はレポートしたんだから被害金額は支払わなくて良いのよ」という 暢気なリアクションだった。限度額の無いアメックスは別として、他社発行のクレジット・カードの場合、一度に5000ドル以上の支払いをしようとすると、 カード会社が電話で 本人とIDの確認をするのがお決まりであるけれど、C銀行のカードの場合、そういったセキュリティ・チェックが行われなかったのは 明らかであるし、オペレーターもカードの不正使用に慣れているのかの対応で、私はこのリアクションが空恐ろしくて、 同銀行から発行された2枚のクレジット・カードを、両方ともキャンセルしてしまうことになった。

考えてみれば、このC銀行のもう1枚のクレジットカードは、スリにあう数ヶ月前に、1度だけカードの明細書が手元に届かなかった月があり、 その翌月の請求書に、他人のシアーズ(アメリカの大衆デパート)のクレジット・カードの負債、約6500ドル(日本円にして70万円以上)が 私のアカウントに 振り替えでクレジットされていて、息が止まるほど驚かされたものである。
恐らく届かなかった私の明細書は、シアーズのカードで6500ドルの借金をしている人のところに配達され、 その人が、請求書に添付されているトランスファー・チェック (負債額を別口座に振り替える際に使用する小切手)等を使用したものと思われるけれど、 明細書を受け取っただけでは、私がどんなサインをするか?、また アメリカでID確認の際に使用されるソーシャル・セキュリティ・ナンバーや、 母親の旧姓も分からない訳で、他人の負債が私のクレジット口座にトランスファーされる時点で、何のIDチェックも行われなかったことはあまりに明確だったのである。
結局このケースでも、私が気が付いて直ぐにレポートをしたので、負債額を背負わずに済んだけれど、そのまま30日が経過していたら、日本円にして70万円もの 他人の借金を支払うことになっていた訳で、考えただけでゾッとする思いである。

さらに、ビジネスをしていて厄介なのは、取引先との金銭のトラブルである。
昨今では商品の買い付けがクレジット・カード決済で行われるのが アメリカのファッション業界であるけれど、買い取る側が細心の注意を払わなければ ならないのが、自分の知らないところで業者に不当にチャージをされている場合が少なくないということである。 私がパリ旅行から戻ってからというもの、奔走し続けていたのが、先述の銀行振り込みの1件に加えて、3つの業者からの不当なチャージの取立てで、 そのうちの1社については未だ回収が出来ていないし、その目処も立たない状態なのである。
こうした不正チャージにしても、逐一 チャージをチェックしていれば気が付くけれど、業者からは頻繁に商品が入荷しているだけに、 クレジット・カードへのチャージも頻繁に行われている訳で、どれが正当なチャージで、どれが不当なチャージなのかを見分けるだけでも、 とんでもない手間と記憶力を要する作業なのである。 今回の不当チャージのうちの1つは、返品した商品に対して返金がされていないというものだったけれど、 業者のスタッフは「絶対にそんな商品は返品の箱に入っていなかった」と言い張り、「自分を泥棒呼ばわりする気か?」などと開き直った、逆ギレ攻撃を して来るあり様で、一時はどうなる事かと思ったけれど、結局は送り返した荷物のウェイトから 私の言い分が正しかったことが証明されて、 返金のチェックを受け取ることになった。でも そうまでしないと、返品した商品の代金も受け取ることが出来ないというのは、日本では全く考えられないことである。

こうしたトラブルに巻き込まれて、一番厄介に思うのは、何度も何度も電話を掛けて、その都度時間を無駄にしたり、嫌な思いをすることである。 ことに、こちらが何らかの被害を取り戻そうとしている場合、先方が取り合わずに 引き伸ばしに掛かったり、嫌がらせをすることで、こちらが諦めて、 泣き寝入りをするのを待っているかのような態度を取られることはしばしばで、これまでで、その最たる例という思いをさせられたのは、 CUBE New Yorkが商品の送付に使用しているUSPS、すなわち米国郵便局によるトラブルである。
USPSは過去9年のCUBE New Yorkのビジネスで、紛失した荷物は国内ものが1つ、国外が今のところ6つと、 キャリアーとしては極めて優秀ではあるけれど、その国外向けのエクスプレス・メール6つうちの4つの荷物が紛失したのは、 2002年のクリスマスのことであった。
お客様からの「商品が届かない」というメールを2通受け取って、同じ日に送付された数十個の荷物全てのトラッキングを行ったところ、 アメリカを出て以来、日本の税関を通過していない荷物が、問い合わせを受けた荷物を含めて4つ存在していたのである。 この紛失は、USPSのミスというよりも、当時アメリカの報道番組で問題になっていた空港職員による盗難という疑いの方が強かったけれど、 それでも送付された荷物の紛失に対して責任を持つのがUSPSな訳で、こちらは年明け早々、 荷物の行方の捜査依頼と、ダメージ請求をするために、電話口で述べ6時間以上を無駄にすることになってしまった。 一体、そんな長い時間、何をしていたかといえば、電話をする度に、トラッキング・ナンバーはもちろん、ありとあらゆる荷物の詳細を先方に伝えなければならず、 特に送付先の日本の住所をアメリカ人にタイプさせるのは忍耐の要ることだったし、 被害請求の書類も、荷物4つ分が全て届くまでには、3回もリクエストをしなければならなかった。
また被害請求の書類を記入し、中身の商品の価値を証明する資料を揃えるのは一般の個人では非常に難しい作業で、 たまたまこちらが企業として荷物を送付していたから、明細書や、仕入れ伝票などで商品価値を証明することが出来たし、 スタッフや私が仕事の一部として取り組んだからこそ、被害請求の資料を仕上げることが出来たけれど、 普通の個人として荷物を送付していたら、絶対に諦めていたような根気と時間を要する作業だった。 結局のところ、12月末に紛失した荷物の全額が払い戻されたのは 翌年2003年の8月のこと。 もちろん、紛失した商品の代替品は直ぐにお客様に送付をしなければならない訳であるから、 会社としては、4つの荷物の商品代金、及び送料を8ヶ月も立替えていたことになるけれど、 こんな事も会社だから出来る訳であって、個人のインターネット売買などでは、とてもやっていられない事であるのは紛れも無い事実である。
しかも私は、 被害届けを持参したローカル郵便局の人々を良く知っていたから 直ぐにプロセスをしてもらえたけれど、局員がこっそり教えてくれたことによれば、 通常は、書類をチェックすると称して、局で3〜4週間留めてからプロセスをするとのことだった。

こうしたトラブルが起こった場合、対応に掛かる時間とそれによって取り返せる金額を秤に掛けて、泣き寝入りで諦めることになるのは しばしば起こることで、それによって悔しい思いをしている人は沢山居るけれど、 それが何としても取り返さなければならない金額の場合、トラブルと向き合うのは非常にストレスフルで、 こちらに元気があれば腹立たしい事でもあるし、こちらが疲れていれば 本当に落ち込まされるものである。
過去1ヶ月の私は、こうしたお金の回収に時間を取られて、まるで自分が借金の取り立て屋でもやっているような気分にさせらたけれど、 例えお金が戻ってきても、それは儲けたのではなく、本来自分の手元にあるべきものが返ってきただけで、 やはり私は時間とプロダクティビティ、労力を失っている分、損をしているのは明らかである。
これが自分のミスによる時間の無駄や労力の無駄であれば、「自業自得」と思って諦めも付くし、納得が出来る訳であるけれど、 この国に暮らしている限り、他社、他人のミスが、自社、自分に損失をもたらし、そのためのフラストレーションと戦うというのは、 定期的に起こる、避けて通れない運命のようなものである。
だから、唯一「自業自得」と思って諦められることがあるとすれば、「好き 好んで この国に暮らして、仕事をしている自分が悪い」ということくらいなのである。





Catch of the Week No.5 July : 7月 第5週


Catch of the Week No.4 July : 7月 第4週


Catch of the Week No.3 July : 7月 第3週


Catch of the Week No.2 July : 7月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。