July. 30 〜 Aug. 5 2007




” Billy's What? ”



今週のアメリカは7月31日 火曜日にミネソタ州で起こった橋の崩落事故が大きく報じられていたけれど、 この橋は未だ築40年という比較的新しいもの。しかし2005年の時点で 構造的欠陥が指摘されていたそうで、 交通量が非常に多い橋にも関わらず マイナーな修復工事のみが行われていたという。 したがって 考えようによっては人災とも言える 惨事でもあった。
さて、今回の事故でニューヨーカーなら誰もが考えたのが 「自分が日ごろ 使っている橋の安全性は大丈夫か?」ということ。 川に囲まれたニューヨーク市には19本もの大きな橋が架かっているけれど、 その安全性については 毎年検査が行われ、レイティングがされているという。 ミネソタでの事故がきっかけで 明らかになった そのレイティングによれば、19本の橋のうち、「ベリー・グッド」、「グッド」という評価がされているのは、 ジョージ・ワシントン・ブリッジを含む3本。残りのうち 13本は「Fair / フェア」、すなわち 「とりあえずOK」程度の評価で、 「Poor / プアー」(お粗末)と評価されたのは、ブルックリン・ブリッジ、タッパン・ジー・ブリッジを含む3本。
このうちニューヨークのシンボルでもあるブルックリン・ブリッジは本格的な修復工事が始まるのが2010年とのことで、 ニューヨーク市では 過去10年の間に 数十億ドルもの税金が橋の修復のみに費やされているにも関わらず、 橋の老朽化に お金と作業が追いつかない実情がレポートされていたのだった。 しかしながら、橋の構造やコンディションから見て、ミネソタで起こったような崩落が これらのマンハッタンの橋で起こる可能性は無いというのが 専門家の意見である。
私自身、日ごろマンハッタンから出ることは殆ど無いこともあり、こうした報道があるまで 自分が住むNY市の橋の総本数を知らなかったばかりか、 その安全性に対する疑念など抱いたことさえなかったけれど、 先日のスティーム・パイプの爆発で明らかになったインフラ設備の老朽化や、橋の老朽化といった問題は、 起こるかどうか分からないテロよりも すっと身近な脅威に感じるべきものだと思えるのである。

さて、話は全く変わって 私が7月に2週間 日本に一時帰国した際に、日本人の友人と話していて必ずといって良いほど話題に上ったのが、 「ビリーズ・ブートキャンプ」である。
「アメリカでも日本みたいに凄く流行っているの?」と訊かれることが多かったけれど、正直なところ私は「ビリーズ・ブートキャンプ」なるものは アメリカでは全く見たことも 聞いたこともなく、日本に来てから見た TVのコマーシャルで初めて知ったものだった。 私はCUBE New Yorkで、96年に 当時アメリカで 流行っていた 「Tae Bo / タエ・ボー」を記事に取り上げたので、 ビリー・ブランクスのことは覚えていたけれど、私が最も 最近 彼をアメリカのTVで見たのは、確か5月頃に放映された NBCの低視聴率クイズ番組でのこと。 この番組は、かつての有名人や ヨーデルのチャンピオンなど、さまざまな経歴の人々を50人程スタジオに集めて、 回答者に 誰が どの人物 だかを当てさせるというもので、 私がちょうどこの番組を見ていた時に、 ビリー・ブランクスが出演していたのだった。
「私は、かつて タエ・ボーというエクササイズを大流行させた ビリー・ブランクスです」 という 説明がアナウンスされ、 50人候補者の中から、ビリー・ブランクス本人を含む 3〜4人にスポット・ライトが当たり、 回答者がその中から本人を推測するというのが この番組であったけれど、 要するに クイズの問題になってしまうほどに、アメリカでは全く メディアに登場していなかったのが ビリー・ブランクスだったのである。 私はこのクイズ番組で、彼の「過去の遺物」的な部分を見ていた反動もあり、日本での”ブートキャンプ・フィーバー” には かなりビックリしてしまったのだった。

実際、日本では「ビリーズ・ブートキャンプ」が話題になっていただけでなく、そこら中で売られているという印象で、 私が日本に帰国する度に 必ず買い物に行く 東急ハンズでも、ヘルス・セクションで プロモーション・ビデオがずっと流れていたのだった。
この内容がどんなものかを知ったのは、現在日本で仕事をしている私の元アシスタントが4枚セットのDVDを「ご参考までに・・・」とプレゼントしてくれたからで、 ディスク2までを見た感想では、実際のブート・キャンプとは あまり関係が無い カーディオ・エクササイズに思えたのが正直なところだった。
さて、ニューヨークに戻ってからというもの、私は日本人の友達に 帰国の報告をする度に「ビリーズ・ブートキャンプ」のブームについて 説明してあげていたけれど、このエクササイズのDVDの存在を 既に知っていた人はゼロ。 それでも「全米で大流行!」と宣伝が謳っているので、西海岸だったら事情は違うかと思って LAの友人と電話した際に 「ビーリーズ・ブートキャンプってウエストコースとで流行っているの?」という質問をアメリカ人、日本人にそれぞれ尋ねたところ、 「Billy's What?(ビリーの何だって?)」 と いうのがアメリカ人の答え、「何それ?」が日本人の答えだった。

そこで今度はグーグルで調べてみると、英語で「Billy's Bootcamp」とタイプして、英語版のグーグルでサーチしているにも関わらず、 トップから200までのリンクは 1つの英語サイトを除いて、全て日本語サイト。唯一英語で書かれていたサイトも、 日本における「ビリーズ・ブートキャンプ」のブームをレポートしたものだった。

そこで今度はアマゾン・ドット・コムで調べてみると、日本では4枚組のDVDが マネーバック・プログラムがあるとは言え 1万5000円くらいするのに対して、 アメリカ版は3枚組みのDVDに、エラスティック・バンドのエクササイズ・グッズが2本付いて35ドル程度で販売されていたので この日米の価格差にも少々驚いてしまったのだった。
次に、ビリー・ブランクス本人のウェブサイトにも行って見たけれど、こちらは英語で書かれているだけあって、 やはりアメリカで彼が最も知られている「Tae Bo」を前面に出したサイトで、ブートキャンプは彼のプロダクト・ラインナップにしか登場していないもの。
Tae Boについては、先述のように これが本当にアメリカで話題だった96年、97年には スポーツ選手やハリウッド・セレブリティも彼のスタジオを訪れてワークアウトをしていた事実があるので、 それについて触れた文章はあったけれど、日本で宣伝されているようなハリウッド・セレブリティもこぞってブートキャンプをやっているという 記述は見当たらなかったのだった。

私が、日本の「ビリーズ・ブートキャンプ」ブームで最もショックだったのは、これだけインターネットなどを通じて 一個人が世界中のニュースやメディアに自由にアクセスできる時代になっているのに、 アメリカで全く流行っていないものが、「アメリカで大ブーム! セレブリティがこぞって実践する・・・」という宣伝文句で売られて、 しかもそれがまかり通ってしまうこと。 日本では以前から 海外ブーム をでっち上げることが、海外からの商品を売るマーケティング戦略で頻繁に用いられる手段であったけれど、 これだけメディアが発達しても それが出来るというのは、やはり日本はまだまだ 島国なのだろうか?、それともメディアが開かれても 言葉の障壁が大きいのだろうか?と 真剣に考えさせられてしまったのだった。
そうは言っても 10年ほど前に 日本の商社が、某女性誌とタイアップしたニューヨーク特集をした際、 その商社が契約したばかりの 超マイナーな ニューヨークのデザイナーを、 「秘密にしておきたいホットなブランド!」として大きくフィーチャーしていたことがあったけれど、 そのブランドは、2年も経たないうちに日本から撤退になってしまったのを記憶している。 したがって メディアが煽っても、人々のニーズやその時々の感覚にアピールするものでなければ 売れないのは事実であり、その意味で「ビリーズ・ブートキャンプ」は 狭いスペースでもDVDを見ながら1人で出来るワークアウトということで、 日本人のエクササイズ志向には合っていたのだと思うし、 音楽に合わせて行う、キツめの カーディオバスキュラー(有酸素運動)を ”ブートキャンプ” というパッケージで売るというのも、 このエクササイズ・プログラムを魅力的に見せたものと思っていたりする。

ところで、ビリーズ・ブートキャンプがアメリカの 何処かで 流行っている可能性は無いか?を リサーチしていて 私が辿り着いたのは、この夏 ビリー・ブランクスとは全く無関係の、本物のブートキャンプ・スタイルのエクササイズ・チャレンジに 一部の人々が好んで参加しているという報道。
そもそもブートキャンプとは 2週間ほどの泊り掛けのキャンプ(合宿)で、1日中トレーニングを行うプログラムのこと。 なので、「ビリーズ・ブートキャンプ」がどんなに体力的にキツくても、1日1時間のエクササイズをブートキャンプと呼ぶのは、 コンセプトとしてはかなり違うのである。
アメリカでこの夏参加者が増えているブート・キャンプは、エクササイズを真剣に行って、日ごろから身体を鍛えている人が参加するもので、 インストラクターは、軍隊で本当にブートキャンプのインストラクターをしていた人物。
早朝6時起きで、5マイルのランニングからスタートし、戻ってきたらプッシュアップ(腕立て伏せ)50回。 地面に張った網の下を這いつくばったり、丸太の橋を走って渡ったりと、 天候に関係なく屋外で行われ、インストラクターの問いかけには、軍隊方式で「Sir, Yes, Sir / サー・イエス・サー」 と応えなければならないし、 文句を言えば、腕立て20回のペナルティ という厳しいキャンプもあるという。

さて「ビリーズ・ブート・キャンプ」のDVDの中でも、同DVDについて書かれたウェブサイトでも 「ブートキャンプを行うことによって精神が鍛えられる」という文句が登場していたけれど、 エクササイズというのは 「ブート・キャンプ」に関わらず、続けて行うこと、苦しい思いを乗り越えてノルマをこなすことによって 達成感が 得られて、それが自信に繋がるもの。
さらにエクササイズの最中やエクササイズ後には、別名”ハッピー・ホルモン” と呼ばれる ”Endorphin / エンドーフィン”のレベルがアップするので、 ストレス解消になったり、精神的におおらかになれるとも言われている。ちなみにこのエンドーフィンは、マラソンなどをしている人が ナチュラル・ハイになる要因とも言われるものである。
したがって、身体だけでなく、精神の健康にも良いのがエクササイズ。 流行だからトライをするだけでなく、ライフ・スタイルの一部として長く付き合うべきなのがエクササイズであるけれど、 きっかけは何であれ、少しでも多くの人々が何らかのエクササイズを行うのは 健全な社会のためには非常に良いことなのである。





Catch of the Week No.5 July : 7 月 第 5 週


Catch of the Week No.4 July : 7 月 第 4 週


Catch of the Week No.3 July : 7 月 第 3 週


Catch of the Week No.2 July : 7 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。