July 27 〜 Aug. 2 2009




” Entertainment is dying ”


あっという間に8月に入ってしまったけれど、今年のニューヨークの夏は記録的な涼しさ。 ふと考えてみると私自身、この夏に入って冷房を使ったのはたった2日ほどだったりする。
ニューヨークの夏と言えば とにかく蒸し暑いことで知られているけれど、今年に関しては6月、7月で30度を超えた日はゼロ。 これは気象観測が始まった140年の歴史の中で2度目という珍しさ。 また7月のニューヨークで、最高気温が25度を超えた日数は16日で、これはアラスカのフェアバンクより僅か1日多いだけ。 その7月の平均気温は 約22度であったというから、夏というよりも 春とか秋口の気温なのである。
これを受けてビーチを訪れる人々の数は30%も減っており、遊園地でもドリンクのベストセラーはホット・コーヒーという珍しい 現象が起こっているという。 さらにマンハッタン内の家電ショップではエアコンの売上が昨年に比べて50%もダウンしているとのことだけれど、 エアコンを使う必要が無い涼しさのお陰で、電力消費量も昨年に比べて 10%近くのダウン。 ニューヨーカーが支払う電気代も軒並み6%ダウンしているとのことで、この夏のニューヨークはブラックアウト(停電)の心配は殆どナシ。
加えて、これだけ涼しければ水の消費量が減るのも当然のこと。 昨年、2008年の7月のニューヨーク市における 水の平均消費量は1日12億ガロンであったというけれど、 今年の7月はそれが11億ガロン以下になっているという。
ところで今年のニューヨークの6月、7月がこれだけ涼しかった原因の1つは、雨の日が多かったため。 今年のこの2ヶ月間の降水量は40cmで、これは例年の2倍であると同時に、1975年の47.5cmに次ぐ史上2番目の記録になっているという。
この涼しさと大雨のせいで、この夏は遊園地やプール、ビーチがクローズする日が何日もあり、 子供達をガッカリさせているというけれど、お陰で貯水池の水位はキャパシティの97%。 なので今年の夏は今のところ 水不足の心配もない とのことなのだった。

さて、今週のアメリカで大きく報じられたニュースとしては、先週のこのコラムでも触れたケンブリッジの自宅で逮捕された ハーバード大学教授、ヘンリー・ルイス・ゲイツと、彼を逮捕したケンブリッジの警官、ジェームズ・クローリー、 そしてこの逮捕劇を 「Acted Stupidly / 愚かな行いをした」 と批判して大顰蹙を買ったオバマ大統領が、 約束通り 木曜午後6時に ホワイト・ハウスでビールを飲み交わしながら語り合った というニュース。
アメリカ国民の多くは、オバマ大統領に対して こんなことに関わっている時間があったら もっと真剣に国民健康保険のプランに取り組んで欲しいと希望しているというけれど、 CNNの調査によれば オバマ健康保険案を支持するアメリカ国民は43%なのに対して、支持しないと答えた人々は45%。 加えて大統領支持率も先月から7%ダウンして54%となっており、 そろそろ何らかの成果を出さなければならないところに来ている段階である。

ところで、この ”ビールを飲む”、”お酒を酌み交わす” という行為は古くから男性同士の ”親交を深める”、”お互いの過ちを許しあう” 象徴として行われてきたこと。 でもこれはお酒を嗜む間柄では有効な手段であっても、飲まない人間が混ざっている場合は 意味を成さないどころか、逆効果にもなり得る行為であったりする。
お酒を飲む人間にとっては「仲直りに1杯」、「お近付きの印に1杯」のようなオケージョンで、 飲まない人間が居るのは 面白くないもの。 でもお酒を飲まない人間にとっては、飲まない事がどうしてそんなに悪いのか?が理解出来ない訳で、 この価値観の違いは、当人同士の揉め事以上に平行線を辿る場合が多いのである。
時にお酒を飲まない人は、テンションさえ飲んでいる人に合わせていれば 飲み仲間に入れると 考えがちであるけれど、飲む人の意見ではテンションに関係なく、「同じようなペースでお酒が味わえる人と 一緒に飲んでいる方が楽しい」 とのことであるから、価値観の争点は「酔う、酔わない」ではなく、 「飲む、飲まない」ということ。
シラフで何ヶ月も一緒に仕事をしてきた間柄より、一晩 思いっきり飲んだ同士の方が ずっと仲良くなってしまうのは お酒を通じた社交のパワーであるけれど、その反面、酒癖の悪さで嫌われることもあるので、 お酒というのは人間関係の毒にも薬にもなり得るもの。 でも薬として使える限りにおいては、お酒を嗜むことが 社交の武器になるのは紛れも無い事実なのである。

さて私が今週、個人的に興味を持った報道は、音楽のダウンロードを8年にも渡って違法に行っていたボストン大学の学生に対して、 ボストンの高等裁判所が67万5000ドル(約 6,395万円)の賠償金支払いの判決を下したというニュース。 この25歳の男性は、1999年から8年に渡って 約800曲の違法ダウンロードを "シェア" と称して行ってきたけれど、 裁判の対象になったのはそのうちの30曲。 すなわち この男性はアイ・チューンからダウンロードしていれば30ドルで済んだところを、 その2万倍以上の67万5000ドルを支払う羽目になった訳である。
被告側の弁護人は、「ダウンロードを始めた際、彼は未だティーンエイジャーだった」 ことを強調し、 「レコード会社のダメージは、1曲当たり99セントである」 と主張したのに対して、 レコード会社側の弁護人は 「被告は自分の行っている行為が違法であると知りながら、習慣的にこれを続けてきた」と主張。 結果的にはレコード会社側の主張が陪審員に認められ、 裁判の対象となった30曲の発売元である4つのレコード会社に対する賠償金の支払いが言い渡されたのだった。
でも、この判決はまだ良い方。6月にはミネアポリスの裁判所が24曲の違法ダウンロードを行った女性に対して$2ミリオン(約1億8948万円) 賠償金の支払いを言い渡す判決を下しており、このケースでは1曲当たりの賠償金が 約790万円になっているのだった。
ボストン大学の学生に関しては、もし判決を覆せなかった場合、個人破産の申請をすることになるというけれど、 このような裁判沙汰にはならなくても、一般の人々が違法ダウンロードの代償を示談で解決して支払う羽目になっているケースは アメリカで2〜3年前から増えているという。

ではどうして 音楽業界が そんな1消費者を執拗に追いかけてまで賠償金を支払わせているかと言えば、 業界の本来の収入源である音楽の売上が年々激減しているため。
昨日8月1日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載されていたのが、音楽業界が存亡の危機を迎えているという記事とデータ。 それによればEP、LPといったいわゆる ”レコード ” が売上のピークをつけたのは1978年で当時の売上は81億ドル(約7673億7200万円)。 その後レコードと入れ替わりで売上を伸ばしてきたCDがそのセールスのピークをつけたのが1999年のことで、その時点での売上は 164億ドル(約1兆5536億9000万円)。 でも音楽のダウンロードが普及し始めて、CDの売上は年々激減の一途を辿っており、2008年にはピーク時の3分の1程度の売上に なっているという。
だからと言って、特筆するほどの売上を記録していないのがダウンロード。アルバム・ダウンロードの売上ピークは昨年2008年で、 その売り上げは6億ドル(約568億円)、シングル・ダウンロードの売上ピークも同じく2008年であるけれど、そのセールスは 1億ドル(約94.7億円)に過ぎないという。
そもそも音楽業界が売上を落としている原因の1つと言われるのは、違法のダウンロードが行われる一方で、 かつてはアルバム単位で売っていた音楽を、1曲ずつダウンロードできるようにしてしまったという点。
音楽業界では2008年に1300万の楽曲を新たにオンラインで売り出しているというけれど、そのうちの1000万曲は1件のダウンロードも無く、 売上の約80%がそのうちの5万2000曲に集中しているという。
さらに心配されているのはティーンエイジャーを中心とした音楽離れ。
このため、今やミュージシャンはCDの売上よりも、ツアーやライセンシングで収入を上げなければならない時代に入っているけれど、 そんな存亡の危機に瀕する音楽業界に対する裁判所の判断は極めて同情的で、 現時点で違法ダウンロードが悪質と認められた場合、発売元は1曲当たり最高で15万ドル(約1421万円)の損害賠償が 請求できるようになっているという。


でも存亡の危機に瀕しているエンターテイメントは音楽に止まらなくて、 質の高いTVドラマやコメディもTV業界からどんどん姿を消そうとしているのだった。
3週間ほど前に、長年ハリウッドで映画やTVの小道具を提供し続けてきた最大手業者が倒産したニュースが 報じられたけれど、同社倒産の理由は まず映画業界が安価なロケ地を求めて海外で撮影するケースが増えたため。 かつては、ハリウッドでセットをクリエイトして映画の撮影を行っていたので、同社はありとあらゆる小道具を製作、提供していたけれど、 現在はそうした撮影は殆ど行われないという。
その一方で、本来ハリウッドのスタジオをメインに撮影されるはずのTVドラマやコメディの数も激減しており、 同社は多数の小道具の維持費が賄えないために倒産に追い込まれたと言われていたのだった。

では、何故TV番組のラインナップからコメディやドラマが消えているかと言えば、 各ネットワークが番組制作費の安いリアリティTVを積極的に放映する傾向にあるため。
2007年に脚本家組合が長期に渡るストライキを行い、アカデミー賞授賞式の開催もが危ぶまれたのは 記憶に新しいところであるけれど、その後も俳優組合がストをほのめかしたりなど、 昨今のハリウッドはギャラの交渉に頭を痛めている状況であるけれど、 こうした問題とは全く無縁に、安いバジェットで視聴率が取れるのがリアリティTV。
俳優が出ていないので 高額な出演ギャラの支払いが無いのはもちろん、脚本も必要無く、 リハーサルも無しに撮影出来るリアリティTVは、リセッションで広告収入が減っているTV局にとっては 安価にプライムタイムのスケジュールを埋める格好の手段。
アメリカで最もサクセスフルなリアリティTV、「アメリカン・アイドル」ともなれば、その広告放映料は 30秒で約1億円。スーパーボール並みのドル箱番組になっているのである。

そのリアリティTVは、「アメリカン・アイドル」、「トップ・シェフ」、「ヘルズ・キッチン」(写真右)、「プロジェクト・ランウェイ」のように 技量を競うものもあれば、「バチェラー」 に代表されるロマンスもの、「サバイバー」、「ビッグ・ブラザー」に 代表されるサバイバル系、「リアル・ハウスワイブス」シリーズに代表される 特定の人々の生活を描くものなど、 次から次へと 手を替え 品を替え、新しいものが登場してくるけれど 製作側にとって有難いのは、これらに登場する一般の人々は 俳優のように組合によって 労働条件がプロテクトされていないので、連日15時間、18時間といった 厳しい撮影スケジュールを強いることが可能である一方で、 その殆どが低額、もしくはノー・ギャラ、すなわち 「TVに出て、にわかセレブリティになれる」 というメリット だけのために 出演してくれること。
今日、8月2日付けのニューヨーク・タイムズの第1面には、こうした過酷なまでの撮影スケジュールを こなしてリアリティTVに出演するコンテスタント(参加者)の実態が記事になっていたけれど、 彼らは通常、コンピューターや携帯電話といった通信機器を全て取り上げられて、 外界との接触を絶たれ、たまに認められる家族への電話もモニターされており、 音楽さえ聴かせて貰えないケースも多いという。
通常、1シーズン分の撮影は3週間ほどで行われるというけれど、この間コンテスタントは1日5時間以上眠れる日は 殆ど無く、朝の6時には起きて、眠るのは夜中の零時過ぎ。撮影が延びれば午前3時 という状態が毎日のように続くという。
記事のためにインタビューされたコンテスタントは、外界との接触を絶たれ、インターネットやTVといった一切の エンターテイメントも与えられず、厳しい撮影スケジュールをこなす状態を 「まるで刑務所に入れられたみたいだった」と 語っていたけれど、この記事では コンテスタント達が このように肉体的、精神的に厳しい状況に追い込まれることによって、 簡単に苛立ったり、喧嘩を始めたり、泣き出したりと、常軌を逸した行動や反応を示すようになることを 制作側があらかじめ意図しており、 番組に話題性や面白味を持たせる常套手段として こうした状況をあえて強いていることが明らかにされていたのだった。

記事の中で紹介されていた「バチェラー」の撮影の例では、コンテスタントは食事と睡眠時間はミニマムにしか与えられないのに対して、 多量のアルコールを振る舞われるそうで、そのせいで女性達がハイになって、クレージーな言動や振る舞いをすることが 説明されていたのだった。
でもリアリティTVの場合、コンテスタントは事前に製作側と交わす契約書で、撮影中に精神的、肉体的に厳しいコンディションを 味わうことは警告されていると同時に、それに伴うダメージは折り込み済みとされており、 これにサインしないコンテスタントは、直ぐに別のコンテスタントと入れ替えるだけ という簡単な仕組み。 したがって、どんなに厳しい撮影状況ても、製作側がコンテスタントから訴えられることは無いし、 コンテスタント側にしても、短期間は苦しい思いをしても 番組に出演したネーム・バリューを それぞれにビジネスに役立てており、「出演を決して後悔していない」と語っているのだった。
こんな実態を知れば知るほど、リアリティTVは 今のような時代のTV局にとって願ったり、叶ったりの番組であるのが 理解出来るけれど、今やケーブル・チャンネルを含むアメリカのTVのプライム・タイムの4分の1以上を占めるのが リアリティTV。 このため既に飽和状態に達しているとの見方があるものの、企画やキャラクターを替えて 新しいリアリティTVが次々登場する状況は 現在のエコノミーの状態を反映して、暫く続くことが見込まれているのだった。
でも、肝心の視聴者の方は こうした同じようなリアリティTVに嫌気が差して TV離れする人々が増えているとも伝えられており、 音楽業界と言い、TV業界と言い、共通した傾向は人々が どんどん興味を示さなくなってきているということ。
映画に関しては、観客動員数は増えているものの 貴重な収入源である DVDの売上が 急速に下がっていることが伝えられており、 エンターテイメントの世界は どんどん萎んでいっているのが実情なのである。





Catch of the Week No. 4 July : 7 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 July : 7 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 July : 7 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 July : 7 月 第 1 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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