July 30 〜 Aug. 5 , 2012

” Too Much Tweeting?”

今週のアメリカは、オリンピック一色という感じであったけれど、 企業のオフィスでは、従業員がオンラインで オリンピックの結果をチェックしたり、 ビデオ・ダウンロードで競技を見ているケースが多く、 これによって、アメリカ企業は オリンピック期間中に6億5000万ドル(約520億円)分の生産性を損ねる計算になるという。

11億ドル(約880億円)という破格の落札価格で、アメリカ国内における放映権を獲得したNBCは、その順調な視聴率のお陰で、 「赤字にならずに済む」ことが見込まれているけれど、 今週は友人や隣人に会う度に 「オリンピック見ている?」という質問から、オリンピック談義になるケースが多かったのは事実。
でも金曜に発表されたアメリカの雇用統計では、また失業率が8.3%にアップしていたので、 視聴率が順調なのは、「失業者がオリンピックのTV観戦を夏のレジャーにしているため」との声も聞かれているのだった。

さて、今回のオリンピックで、良い意味でも、悪い意味でも、大きな役割を果たしているのがツイッター。
まずは、開会式を待たずして、ギリシャの三段跳びのパラスケビ・パパフリストゥ(23歳)が、 目下ギリシャ国内で増えている、アフリカ系移民に対する差別発言と取れるツイートをして、選手団から外されているけれど、 このツイートは、ギリシャ国内で西ナイル熱の患者が出たことと、移民問題を引っ掛けて、 「ギリシャにアフリカ系移民が増えたから、西ナイル熱を媒介する蚊は ふるさとの味が食べられる」という内容もの。

それに次いで、スイスのサッカー選手、ミシェル・モルガネラが 対韓国戦 敗戦後、同国を侮辱するツイートをしたことにより、 やはり選手団から追放処分を受けているのだった。 モルガネラは、全韓国民に対して「焼け死んでしまえ」、「ろくでなしの集団」という暴言をツイートしているけれど、 それに至るまでには、韓国人のサポーターからの挑発的なツイートに対して、応戦していたことも伝えられているのだった。

そうかと思えば、ホスト・カントリー、英国の男子シンクロ高飛び込み選手で、本国では アイドル的存在になっているトム・デイリー(18歳)が、期待されていたメダルを逃した後、 「お前は父親を失望させた。それが分かっているのか」という内容が彼に対してツイートされ、 これをツイートした17歳の少年が 「ツイッター・アビュース」、すなわち「ツイッター暴行」の罪で逮捕されるという事態になっているのだった。
ちなみにトム・デイリーの父は既に他界しており、トムは 「父親のためにオリンピックで頑張る」と、インタビューで語っていただけに、 この内容はかなり中傷的なもの。
これに対してトム・デイリーは、以下のように「自分は全力を尽くした」とツイートし返しているのだった。



中傷ツイートをした17歳の少年、@Rileyy_69は 後に謝罪しているけれど、その謝罪と同時にツイートされたのが、 「お前を見つけ出してプールの底に沈めてやる。お前のような人間を見ていると気分が悪くなる」という暴力的な メッセージ。警察が少年の逮捕に動いたのは、同メッセージがきっかけと言われているのだった。

その一方で、7月30日の男子体操の団体決勝で 日本チームが内村選手のあん馬のスコアに抗議をし、それが認められたことから、英国が手中にしたと大喜びしていた 銀メダルが日本に転がり込んできたのは周知の事実。その直後からのイギリスのツイッターでは 日本人に対する差別用語「JAPS」が トレンディングとなり、Fワード(ファックという放送禁止用語)が飛び交う 激しいジャパン・バッシングが展開されていたのだった。
日本のウェブサイトの書き込みには、「英国の観衆がメダル・セレモニーで 日本チームにちゃんと拍手をしていた」と書かれていたけれど、 欧米のメディアでは、スコア訂正直後も、メダル・セレモニーでも 「Rain of Booing」すなわち ”ブーイングの雨だった” などと書かれていたので、 日本における放映は、日本用にトーンダウンされていた可能性も考えられるのだった。

諸外国では放映局が自国の選手がブーイングされている音声を控えめにするなどの操作をするのは、頻繁に行なわれること。
でも、アメリカ国内では独占の放映権を持つNBCのオリンピック放映姿勢に対する非難の声が高まっていて、 その最大の批判は、視聴率が取れる水泳や体操などの競技をライブ放映をせず、全てプライム・タイム(午後8時以降)に編集して放映すること。 しかも その放映もアメリカ選手ばかりが中心。
加えてオリンピックというスポーツ・イベントにも関わらず、リアリティTVのような演出や編集が施されていることも インターネット上で大きく批判されているのだった。


例えば、体操の女子団体決勝では アメリカが見事 金メダルに輝いているけれど、銀メダルに甘んじたロシア・チームに 精神的大打撃を与えたロシア選手の演技のミスは あえて放映しないので、 アメリカの視聴者はロシア陣のスコアが不振だった理由は 「本番で力が出せなかっただけ」と判断しがち。
それでいて、アメリカの金メダルを決めたアリー・ライズマン(写真上左)の床運動の放映前に、 彼女が本番直前の練習で転等し、不安な表情を見せたシーンを編集で加え、 観る側の危機感を煽ることにより、アメリカの金メダル獲得を よりドラマティックに演出したことが指摘されているのだった。

また男子体操個人総合の放映の際には、オリンピックの競技放映はそっちのけで、 銅メダルに輝いたアメリカ・チームのダネル・レイヴァの 過去の演技のダイジェストや、オリンピック前に収録されたインタビューなどに 長々と放映時間を割き、レイヴァに対する視聴者の感情移入を煽っていたような有り様。
幸い日本の内村選手のゴールド・メダル演技は全て放映されたものの、他国の選手の演技は殆ど放映されず終いで、 インターネット上には、「男子体操は、一体何カ国で争っているんだ?」という皮肉交じりの書き込みが見られていたのだった

中には、NBCがこれほどまでにアメリカ選手の競技しか放映しないのなら、アメリカにおける放映権を、アメリカ選手の競技と、諸外国の競技の放映に分けるべきだという 怒りの声も聞かれていたけれど、 実際のところ移民の国アメリカでは、アメリカ人が自分にとってのルーツがある国を アメリカ同様、もしくはそれ以上に応援しているケースが多いのだった。
私は8月4日、土曜日に USA対リトアニアの男子バスケットボールの接戦の試合を、 リトアニアの血が4分の1入っている友達と見ていたけれど、 頻繁にニューヨーク・ニックスの試合に足を運ぶほど NBA通の彼が応援していたのは、アメリカではなくリトアニア。 チャイニーズ・アメリカンにしても アメリカより中国を応援しているケースが多いし、 ユダヤ教徒はイスラエルをサポートし、今はアメリカ国籍を取得しているウクライナ人の友達もやはり応援するのもウクライナ。 さらにその友達の場合、幼い頃のソヴィエト連邦のなごりがあって、アメリカよりロシアを応援する傾向にあるのだった。
したがって、アメリカにおいてアメリカ選手だけをフィーチャーするオリンピック放映が顰蹙を買うには十分な理由があると言えるのだった。


ところで、IOC(国際オリンピック委員会)では、今回のロンドン・オリンピックで 参加選手に対してツイッターやフェイスブックなどの、ソーシャル・メディアを通じて、 ファンと交流することを推奨しているけれど、一部の選手にとってその障壁になっているのが、ルール40(フォーティー)と呼ばれる規定。
これは、アスリート達にオリンピック・スポンサー以外の企業の広告行為を禁じるルールで、これはオリンピックを挟んだ30日間有効とされるもの。 このルール40によって打撃を受けているといわれるのが、これまでIOCに一銭も支払うことなく、 オリンピック・アスリートとの契約を通じて、オリンピック・マーケティングを行なってきたナイキ。
これに対して、オフィシャル・スポンサーになっているライバル企業、アディダスは IOCに何十億円もを支払ってきたけれど、 ルール40(フォーティー)のせいで、ナイキの契約選手は、自分が使用するナイキの製品のプロモートや、ナイキのウェブサイトへのリンクを ツイートすることが許されないだけでなく、自分がナイキのウェアを着用してオリンピックでプレーをしている写真をフェイスブックやツイッターに 発信することも許されないのだった。
なので、USバスケットボール・チームのケヴィン・ラブは、開会式のユニフォーム姿をフォト・シェアリングのインスタグラムでポストしているけれど、 彼がこうするのは、開会式のユニフォームを手掛けてたラルフ・ローレンは、オリンピックのオフィシャル・スポンサーなので、 問題が無いと分かっているためなのだった。

でもIOCにとって寝耳に水だったのは、アスリート達がツイッター上で、IOCを相手に ルール40に対する抗議を展開し始めたこと。
というのも、オリンピック期間でなければ陽の目を見ない地味なスポーツのアスリート達は、人々の関心が集まるオリンピックの間に広告活動が行なえなければ、 スポンサーにとってあまり魅力が見出せない存在。 したがって このルール40のせいで、無名アスリート達にスポンサーがつき難くなるという問題が生じるけれど、スポンサーが付くと 付かないとでは、 選手の経済状態はもちろん、トレーニングの質にまで差が出てくるのは言うまでもないことなのだった。
これに対して、IOCは 「4年間に30日だけ、オリンピック・スポンサーでない企業の広告活動を規制することが 選手の経済状況に影響するとは思えない」と取り合わない姿勢を見せているけれど、 IOCが奨励したソーシャル・メディア活用は、結果的に IOCに批判をもたらす事態を招いているのだった。



その一方で、ツイッターそのものも、オリンピックがきっかけで 批判を受ける羽目になっているのだった。
それは、NBCのオリンピック放映姿勢に批判的なアメリカのジャーナリストが、NBCのオリンピック・プロデューサーの社内Eメール・アドレスを公開し、 プロデューサーに苦情を寄せるように呼びかけるツイートを行なったことを受けて、ツイッター側が そのジャーナリストのアカウントを凍結した事態がきっかけ。 ツイッター側は 「NBCのプロデューサーに対する プライバシー侵害に当たると判断した」 とアカウント凍結の理由を説明していたけれど、 ジャーナリストは「社内Eメール・アドレスは ビジネス用で、誰にでもアクセスできるもの。個人のプライベートなアカウントではない」として反論。
ツイッターにおいては、過去にも犯罪者個人の住所や電話番号が公開された前例があるけれど、その時の個人情報公開については お咎めナシだったこともあり、今回に限ってジャーナリストのアカウントが凍結されたのは、「ツイッターがNBCのオリンピック・パートナーになっているからだ」との 判断が圧倒的になっていたのだった。 このため、同凍結処分によって 「ツイッターというソーシャル・メディアが、NBCという大企業の言論統制を受け入れた」ことを印象付けてしまい、 「ツイッターにおける言論の自由が侵害された」と感じたユーザーから、失望感や 今後の危惧を露わにする声が続出していたのだった。


もちろん、ツイッターには魅力も沢山あって、メダルを獲得したアスリート達にセレブリティが直接 祝福のツイートをするのは、 ジャスティン・ビーバー、テイラー・スウィフトといったティーン・アイドルから、マイケル・ジョーダンまでが行なって、今回のオリンピックの醍醐味にさえなっているのだった。
また、オリンピック史上最多メダル獲得記録を更新したマイケル・フェルプスには、オバマ大統領が電話で祝福をしただけでなく、 ”プレジデンシャル・ツイート” をしたことも話題になっていたけれど、 その一方で 競技結果や、審判の不正に対して 不満や怒りをおぼえる人々が、 アスリートや参加国に対する挑発や侮辱のツイートをすることにより、そのネガティブ感情発散のはけ口に使っているのも事実。 そして時にそれは 尋常とは思えないレベルに達していたりもするのだった。

とは言っても、ツイッターもフェイスブックと同じで、一度発信してしまったら、自分では消したつもりでも、 必ずネット上に残っていて、それが 何処からともなく 出てくるもの。 今や企業の採用や結婚のバックグラウンド調査で、必ずソーシャル・メディアがチェックされることを思うと、 オリンピックに熱くなって、他国の侮辱など、怒りに任せたツイートや書き込みをすると、それが将来的にどんな形になって 自分に戻ってくるか 分からないのがこの時代。
私が尊敬するベンジャミン・フランクリンの言葉に、 「Whatever is begun in anger ends in shame." 怒りで始まったことは、恥に終わる」というものがあるけれど、 これはツイートだけでなく、何でも当てはまること。
特にツイッターは文字数が少ないだけに、メッセージが過激なまでにストレートになってしまう危険をはらんでいるメディア。 良いことをツイートしている分には 「Short & Sweet」 という 理想的なインパクトをもたらすことが出来るけれど、ネガティブな感情を表現する手段としては、ツイッターというメディアは極めてリスキーと言えるのだった。

ところで、今週はニューヨーク・ヤンキーズのウェブサイトがハッキングされて、サイト上に「デレク・ジーターは性転換手術のため、 今シーズンの残りの試合は欠場します。」というアナウンスメントが登場。 メディアやファンの間で大爆笑を誘っていたけれど、ヤンキーズのサイトでさえ簡単にハッキングされるご時世。 なので、消したと思って安心していた情報が、この先、一番自分にとって困る時に 出てきたとしても、何の不思議も無いのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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