July 27 〜 Aug. 2 2015

” It's All About Sports ”
NFL、ハンティング、MLB! 今週のスポーツ・スキャンダル!


今週はニューヨークを始め、アメリカ全土が猛暑となっていたけれど、 この夏の暑さの異常なところは、オレゴン州や シアトルを始めとするワシントン州など、例年ならば冷房が要らないエリアまでが猛暑となっていること。
そんな中、カリフォルニアで発生した史上最大規模の山火事は、土曜から日曜にかけての24時間で、 2倍の規模に広がる 火の回りの速さ。 現在、カリフォルニア州だけでも 山火事の数は21件。それ以外にもアリゾナ、テキサス、オレゴンなどアメリカ西部各地で、 山火事が起こっており、干ばつで乾いた木々と猛暑、強風という悪条件が重なって、 歴史上類を見ない規模の山火事になっていることが伝えられているのだった。

さて、今週のアメリカはスポーツ絡みのニュースに大きな報道が集中していたけれど、その1つが 今年のスーパーボール・チャンピオン、 ニューイングランド・ペイトリオッツのクォーターバック、トム・ブレイディの”デフレートゲート”・スキャンダル。
これは今年のAFCチャンピオンシップ(スーパーボール出場チームを決める試合)の際、 ペイトリオッツ側がボールの気圧を規定以下に落として、厳寒の中での試合を有利に運んだという疑惑で、 ボールを ”萎ませる=デフレート”という意味で、デフレートゲートというネーミングになっているのだった。 ちなみに”デフレートゲート”の”ゲート”の部分は疑惑やスキャンダルという意味でアメリカ英語で使われる言葉で、 語源になっているのは、70年代に 元ニクソン大統領を辞任に追いやったウォーターゲート事件。 以来、クリントン大統領のモニカ・ルインスキーとのスキャンダルは”モニカゲート”、ジャネット・ジャクソンが2004年のスーパーボールのハーフタイム・ショーで 乳首(ニップル)を露出した際には ”ニップルゲート”という言葉が生まれているのだった。

デフレートゲートについては ペイトリオッツのクルーが関与を認めており、ペイトリオッツに罰金、 そしてトム・ブレイディに対して4試合の出場停止処分が下されたのが春先のこと。 しかし選手組合を通じて、4試合の出場停止処分が厳しすぎると抗議していたのがトム・ブレイディ。 というのもNFLの1シーズンのゲーム数は僅か16試合。そのうちの4試合はシーズンの4分の1を指す数字。
しかしながら、今週NFL側はその処分を軽減しないことに加えて、トム・ブレイディが独立捜査官が提出を求めた スマートフォンを破壊して、捜査に非協力的であった事実を明らかにしているのだった。
この報道によって、デフレートゲートへの関与を否定してきたトム・ブレイディが、 同疑惑に関わっていたと見る声がさらに高まったけれど、最終的な彼に対する処分については 裁判所の判断に委ねられることになったのだった。

英語では、犯罪や不正を隠すための ごまかし行為を 「Cover Up/カバーアップ」と表現するので、今週水曜の ニューヨーク・ポスト紙の表紙(写真上左)を飾ったヘッドラインは、あたかもトム・ブレイディの デフレートゲートを大きく報じているように見えたけれど、実はこのヘッドラインには もう1つの報道意図があって、それはトム・ブレイディの妻で スーパーモデルのジゼル・ブンチェンが、 ブルカで顔と身体をカバーアップ(覆い隠すこと)して パリでスナップされたというニュース。
この写真とヘッドラインだけを見た人の中には、ジゼルがこんな格好をしていたのは 夫のトム・ブレイディのデフレートゲートの スキャンダルに対するメディアの取材や パパラッツィの撮影を避けるためと思った人も居たようだけれど、 実はジゼルがブルカを着用していた理由は、パリの美容整形医に極秘で豊胸手術を受けに行くため。


パリでは2010年から 市内でブルカの着用が法律で禁じられており、イスラム教の女性でも顔を見せなければならないので、 ジゼルのブルカ着用は違法行為であると同時に、かえって目立つ服装。 またジゼルが誰の目からも イスラム教の女性ではないと分かったのは、彼女が素足にメタリック・レザーのサンダルを履いていたため。
この報道を受けて、フランス及び イスラム教圏では「神聖なブルカを、こともあろうにラマダンの月に 美容整形医にこっそり出掛けるための変装用に使うなんて、イスラム教に対する侮辱行為」という批判の声が聞かれる一方で、 同じイスラム教徒でも ソーシャル・メディアに通じている世代からは、 「今にブルカがセレブリティの間で流行のファッションになるだろう」、「ジゼルはトム・ブレイディの デフレートゲートの証拠をブルカの中に隠し持っていたに違いない」などと 笑い飛ばす意見も数多くポストされているという。

では、何故ジゼルがブルカを着用して美容整形医に出向くという 馬鹿げた行為に出たかと言えば、 彼女が過去に「整形手術?冗談じゃない!」と繰り返しコメントし、自分がメス1本入らない ナチュラル・ビューティーであることを強調し続けてきたため。
それだけに ジゼルがブルカ姿で美容整形医を訪れたことは、彼女の祖国、 ブラジルでも笑い話になっているけれど、一部には 「美容整形をするのは構わないけれど、コソコソやって、”自分はメスが入っていない”なんてウソをつくのは最低!」 といった批判も聞かれているとのこと。
今回のブルカがきっかけで、ジゼルのナチュラル・ビューティー説は完全に崩れたと言えるけれど、 そのジゼルを生んだブラジルは、昨年だけでも国民の1%が何らかの美容施術を行ったという 美容整形のメッカ。 ジゼルが行ったのは豊胸手術とは言っても、 張りを失って下がってきたバストを、 数年前の状態に戻すための施術で、こうした施術はブラジルでは ”メンテナンス”であって、美容整形とは見なされないとのこと。 ブラジルで美容整形と呼ばれるのは、自分と全く違う姿にアップグレードすることを指すという。
いずれにしても、ジゼルのスキャンダルは、夫のボールを萎ませた”デフレートゲート”とは逆に、 胸を膨らませる ”インフレートゲート”という ジョークとして報じられており、 この2つのスキャンダルで、トム・ブレイディ&ジゼル・ブンチェンが 夫婦揃って 決して正直とは言えない印象を 世の中に与えていたのだった。





でも、今週最大の報道であると同時に、最も物議を醸していたのが、 ミネソタ州の歯医者、ウォルター・パーマーが 7月初旬にヴァケーションで出掛けたジンバブエで、 ハンティングを行った際に、地元の人々に愛され、保護対象になっているライオン、セシルを殺害していたというニュース。
ウォルター・パーマーはハンティング愛好家で、約5万ドル(約600万円)を支払ってジンバブエのハンティング・トリップに出かけており、 現地では彼のように高額なフィーを支払う欧米のハンターの受け入れが、れっきとしたビジネスとして成り立っているのが実情。 実際ウォルター・パーマーにはプロのガイドがついており、今週これだけの大騒ぎになってから発表された彼のコメントでは、 合法にハンティングを行っていたと説明されていたのだった。

しかしながらメディアで報じられるストーリーによれば、パーマーとガイドは餌を使ってセシルを狩猟が出来ない保護区から、 狩猟可能なエリアに 誘き寄せてターゲットにしたとのこと。 パーマーが放った矢で怪我を負ったセシルは、その場からは逃げられたものの ガイドとパーマーはトラッカーを使って約2日追跡した後、 セシルを見つけて殺害。 でも その首にGPSのモニター付きの首輪が装着されており、 セシルが保護対象のライオンであることを知って パニックになったという。
とは言っても、パーマーとガイドはセシル殺害を通報する事は無く、 パーマーはセシルの首を切り落とし、皮を剥ぎ取って、セシルの首輪を木の中に隠したとのこと。 そして、「明日からはライオンでなく、象を獲物にしたい」とガイドに希望を伝えたという。
ちなみに首を切り落として、皮を剥ぎ取るというのは、聞いただけでも残酷な行為であるけれど、 多くのハンターは首と皮を持ち帰って剥製にして、トロフィー代わりに飾るのを趣味やモチベーションにしており、 ハンティング・トリップの高額な料金にはその”戦利品”の料金も含まれているとのことなのだった。

この報道を受けてソーシャル・メディア上では、ウォルター・パーマーに対するバッシングが どんどんエスカレートして行っただけでなく、彼の自宅や別荘、そのデンタル・クリニックには抗議活動の人々が押し寄せ、 インターネット上ではオバマ大統領に対して、ウォルター・パーマーを犯罪者としてジンバブエ政府に引き渡すよう嘆願する 運動も起こっている有り様。
その一方で、スポーツとしてハンティングを行ってきた愛好家達は、そのバッシングが自分達に及ぶことを恐れて 「餌で動物を誘導するのは、ハンティングのマナーとモラルに反する行為」と説明。 れっきとしたハンターは、ウォルター・パーマーとは違うことを強調していたのだった。




ウォルター・パーマーのようなハンターは、俗に”トロフィー・ハンター”と呼ばれ、アフリカのサファリに家族と一緒にやってきて、5スター・ホテルに滞在し、 狩猟する動物を事前に指定して 買い取り、それをガイドの手引きで、いかにも野生の中でハンティングをしたかのように殺害し、 その後ホテルに戻って、夜はカジノに出掛けるというというのが一般的なスケジュール。 したがってハンターとは名ばかりで、娯楽やレジャー感覚であることが伝えられているのだった。
ジンバブエにトロフィー・ハンティングにやって来る旅行者は、1回の旅行に最低で3万ドル(約360万円)、時に10万ドル(約1200万円) を支払っており、その料金の内訳は、現地ガイドや、狩猟する動物のアレンジ料金や、首と皮を持ち帰る費用が含まれているとのこと。 ジンバブエにとって、そんなハンティング旅行のビジネスは、貴重かつ高額な収入源であるため、 トロフィー・ハンターは現地では大歓迎されているのだった。
そのハンティング・ビジネスを支えるために、現地には200以上のライオン保育施設があり、国の法律で、 旅行者が年間600頭まで ライオンを殺害することが認められているという。 しかしながら、そのリミットは守られておらず、年間に1000頭以上が殺害されているのが実情。 そんなトロフィー・ハンターが支払う高額なフィーの一部が、地元の野生動物の保護資金になっているというのは 皮肉な内訳なのだった。

この報道を受けて、スポーツという名の下に動物、特に絶滅の危機に瀕した野生動物を殺害するハンティングを 廃止するべきとの声が高まっており、今週は様々な分野でその運動が起こっているのだった。 そんな中、8月1日土曜日夜に行われたのが、エンパイア・ステート・ビルディングに、 セシルの姿に加えて、絶滅の危機に瀕した動物が次々と映し出されるという 平和的なプロテスト。
今や世界中の嫌われ者になったウォルター・パーマーは、8月2日、日曜の時点で行方不明のまま。 ソーシャル・メディア上では彼を「アメリカの恥」と呼ぶ人々も多いけれど、 週末には、今年4月に彼同様にジンバブエで違法の狩猟を行っていた別のアメリカ人医師の存在も明らかになっているのだった。




スポーツの嫌な話が続いたので、最後をフィールグッド・ストーリーで締めくくるとすると、今週意外な形でメディアのスポットライトを浴びることになったのが、 ニューヨーク・メッツのショートストップ、ウィルマー・フロレス(写真上、今年24歳)。
彼は、今週水曜にメッツの本拠地、シティ・フィールドで行われた対パドレーズ戦の試合中に突然泣き出し、その様子はソーシャル・メディアや通常メディアを通じて大きく報じられることになったけれど、 その原因は 彼が 自分のトレードを知ったため。 事実、ニューヨーク・メッツとミルウォーキー・ブリューワーズの間では、ブリューワーズのパワー・ヒッター、カルロス・ゴメスを メッツのウィルマー・フロレスと ピッチャーのザック・ウィーラーの2人とトレードする話が進んでおり、 結局は物別れに終わったこのトレードが、スポーツ・メディアやソーシャル・メディア上で大きな話題となっていたことから、 スタジアムのファンやメッツのチームメートは、誰もが フロレスがトレードされるものと思い込んでいたのだった。

16歳でニューヨーク・メトロポリタンズ(メッツはメトロポリタンズの愛称)に入団し、選手生活をメッツで終えることを目標にしてきたフロレスにとって、 トレードのニュースは不治の病を宣告されるようなもの。 彼は試合中、長年のチームメイトとの別れや、ニューヨークを去ることなど、様々なことに思いをめぐらせては涙を流していたという。
フロレスが涙する様子は、スマートフォンに写るTV中継の彼のクロースアップや、ソーシャル・メディアのリアクションで スタジアムのファンも察知しており、試合中に彼に同情するファンが何度も繰り広げたのが 「Willmer ! Willmer!」という大合唱。 そんなファンのリアクションに、フロレスがさらに感傷的になってしまい、9回裏には彼の打順で代打を起用しなければならなかったのだった。

アメリカのスポーツ界におけるトレードというのは、本当に残酷なまでに突然なもので、トレードが決まった途端に 試合中でも新しいチームに向けて出発するという様子は、ブラッド・ピット主演の映画「マネー・ボール」にも描かれていたもの。 メッツ側にしてみれば、そんな泣きながらプレーをするフロレスを交代させれば、トレードの噂を肯定することになるため、 あえて彼の プレーを続行させていたというけれど、 同試合では フィールド上のゲームとは 全く別のドラマが メッツ・ベンチや観客席で展開されており、 ベースボール評論家が曰く 「メジャーリーグ史上、最も奇妙な試合」になっていたのだった。


試合中に涙するほど、メッツを離れたがらなかったウィルマー・フロレスに対しては、金曜日のワシントン・ナショナルズ戦の際も、スタジアムのファンが 彼が打席に立つ度に スタンディング・オーベーションで迎え、そこまでチームを愛する姿勢を讃えていたけれど、 そのフロレスが、1-1で迎えた 延長12回裏に放ったのが英語では ”ウォークオフ・ホームラン”、日本語で言うサヨナラ・ホームラン。
ウォールストリート・ジャーナル紙が ”ハリウッド・エンディング” と評した劇的な試合の幕切れに シティ・フィールドは大歓声に包まれ、メッツのチームメイト全員がフロレスをホーム・ベースで迎えた様子は、 スポーツ・クリティックが 「久々にベースボールにロマンを見い出した」、 「スポーツを超えた素晴らしいドラマ」とコメントしたほどの 感動的なシーン。
メッツの監督、 テリー・コリンズは試合後の記者会見の席上で、「ここに来ているのは皆優れたスポーツ・ライターなのだから、 今日のこのことをしっかり書いて欲しい」、 「ウィルマーはこの日のことを一生忘れないだろう」と語っていたのだった。

このトレード騒動が、感動のドラマに変わったことで、メッツのチーム内のムードは これまでに無く良くなっていると指摘されており、 長年低迷してきたメッツが、今年こそ”Amazins / アメイジンズ”のニックネームを取り戻す健闘を見せると期待する声も高まっているのだった。


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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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