Aug. 6 〜 Aug, 13




Carry On Vs. Terror



今週木曜は、イギリスで アメリカ行き飛行機の爆破を計画していたテロリスト24人が逮捕されたのを受けて、 またしてもテロへの危険が大きく報道され、空港が大混乱になっていたのは周知の通り。
逮捕されたテロリスト・グループは、機内で液状の爆薬を混ぜ合わせ、それを携帯電話等の電気機器で着火するという方法で、 アメリカ行き10機の爆破計画を実行に移す直前だったとのことで、もしこれが成功していれば 4000人の命が失われていたと伝えられている。
でも、私を含め、私が今週話したニューヨーカーの中には、「そろそろテロの脅威が煽られる時期・・・」と予測していた人が 少なくなく、今週木曜のこの騒ぎは「やっぱり・・・」という 「折込済み的イベント」に受け取れてしまう部分は否めないものだった。

これまでにも、ブッシュ大統領の支持率が下がると、アメリカでは何故かテロの警戒カラー・コードがイエローからオレンジに引き上げられてきたのは、 昨年のロンドンのテロ直後のこのコラムでも お伝えした通りであるけれど、テロの脅威というのは、 常にブッシュ政権にとって 必要なタイミングでやって来るものなである。
今週私がこれを予測することになった理由は2つあって、まず1つ目は先週発表された世論調査で、アメリカ国民の3人に1人が、 「9/11のテロにアメリカ政府が何らかの形で関わっていると思っている」と答えていることが明らかになったこと。
そして、もう1つが今週火曜日にコネチカット州で行われた民主党上院議員予備選挙で、民主党としてはブッシュ寄りで、 イラク戦争を後押しするジョゼフ・リーバーマン氏が、初出馬のビリオネア、ネッド・ラモント氏に敗れたことである。
ことに後者は、ブッシュ政権だけでなく、イラク戦争に賛成票を投じた民主党の政治家にとっても 大きなインパクトをもたらす出来事で、普通ならばそれほど大きく報道されない、民主党予備選挙(11月に行われる上院議員選挙の民主党候補者を、 民主党党員の投票によって選ぶ選挙)の開票結果が、大ニュースになっていたのである。

ジョゼフ・リーバーマン氏と言えば、2000年に、当時の民主党大統領候補アル・ゴア氏が選んだ副大統領候補として、 ブッシュ&チェイニー陣営と大統領選挙を戦った人物で、彼はコネチカットの現役上院議員である。
予備選挙の数週間前まで 対立候補のラモント氏を大きく引き離し、楽勝が予測されていたリーバーマン氏であるけれど、 ラモント候補が、リーバーマン氏のイラク戦争肯定派ぶりや、ブッシュ大統領に肩入れする姿勢を攻撃し始めて以来、戦況は一転。 選挙直前のラモント氏は、リーバーマン氏と並ぶ支持率にまで 猛烈な 追い上げを見せていたのである。 この民主党の実力派議員が苦戦を強いられている状況に、クリントン前大統領が予備選挙にも関わらず リーバーマン氏の応援演説に駆けつける一幕もあったけれど、当然、メディアもこのコネチカットにおける民主党支持者の変化には注目しており、 火曜に行われた予備選挙は、「イラク戦争に対する世論を映した選挙」として大きな関心を集めることになったのである。
そしてその結果、52%の票を獲得したラモント氏が48%を獲得したリーバーマン氏に勝利し、 結局リーバーマン氏は11月の選挙では、無所属で出馬することになったけれど、 この選挙結果を受けて、メディアが一斉に報じたのが、これまでスローガンに乏しいと言われてきた民主党支持者が、 反イラク戦争、アンチ・ブッシュを旗印に纏まりを見せてきたことで、 この勢いが増せば、11月の中間選挙で民主党が議席を取り戻すシナリオが 現実味を帯びてきた ということだった。

そのラモント氏 の勝利報道が大々的に新聞の1面を飾ったのが水曜。そしてその翌日木曜の朝には、メジャー・ネットワークが 通常プログラムをキャンセルして、今回の液体爆弾によるテロを企てたグループ逮捕のニュースに加え、 空港での機内持ち込み荷物が制限されていることを大々的に報じたのだった。
そして、この報道直後から、選挙に負けたリーバーマン氏は、早速 水を得た魚のように「テロの脅威が去る前に、イラク戦争を 終わらせることはアメリカのためにならない」 と演説していたけれど、 その一方で、夏休みでバケーションを控えているアメリカ国民にとっては、今回の事件はテロの恐怖よりも、 旅行の際の時間的、精神的、肉体的負担を意味する迷惑な出来事として捉えられていたのが実情であった。

多数の便がキャンセルされたロンドンのヒースロー空港では、機内に持ち込みが許されるのは、パスポート、ボーディング・パス、財布、 鍵、自分のIDと処方箋がマッチしている薬、乳児のためのミルク、オムツ、女性の生理用品のみで、 これらは全て透明のビニール袋に入れて持ち込まなければならず、 女性のハンドバッグを始めとする、どんな小さな手荷物も全てチェックインしなければならないという厳しさ。
一方のアメリカの空港では、持込が禁止されているのはシャンプー、歯磨き粉、飲料水のペットボトル等の液状、ジェル状のもの、 ラップトップや携帯電話などの電子機器、本、雑誌、新聞、スナック類等であるけれど、バッグ等の手荷物の持込は許されている。 でも、女性のモイスチャーライザーやファンデーション、リップ・グロス、サンブロックなどは持込禁止で、搭乗の際に100ドル前後の化粧品を ギブアップして、バックから出すことになった女性客は少なくなかったという。
そんな女性客が、免税店で安く化粧品を買おうとしても機内持ち込みが出来ないために購入は不可。 フレグランスやアルコール類も機内持ち込みが出来ないため、この規制によってデューティー・フリーのビジネスは、夏の旅行シーズンで 大きな売り上げが望まれる時期だけに、大打撃を受けることが見込まれている。

この規制が続いた場合、旅行者として私が最も危惧するのは、アメリカの国内線に乗るケースで、それというのも アメリカの国内線は現在、機内食をサーブしておらず、乗客が自らドリンクや食べ物を持ち込むことを見込んで 運行されており、私が5月にサンフランシスコに出掛けた際には、6時間のフライトの途中で水が無くなったら、 どんなに喉が渇いていても水1杯出てこない状況だったのである。
乗客がそれぞれにペット・ボトルやドリンクを持ち込んでこの状況であるから、乗客全員の飲み水が エアライン側のサプライでまかなってもらえるのか?は 正直なところ大きな疑問なのである。

JFK、ラガーディアという2つのNYの空港では、木曜の大々的な報道が功を奏して、 乗客が持ち込み禁止物を チェックインする荷物にパッキングしていたことから、金曜になると 手荷物検査の列は 通常より若干長いくらいに 止まっていたことが伝えられている。
それでも今回のテロ対策の手荷物規制について、ニューズウィーク誌が行った世論調査によれば、 液状、ジェル状のものの機内持ち込み禁止に賛成する人は46%、協力すると答えた人は約60%であるものの、 機内手荷物の全般の持ち込み禁止については、賛成する人は26%、反対と答えた人は54%で、 機内手荷物を持って搭乗したいという意向がテロの脅威を遥かに勝っていることが明らかになっている。
こうした世論調査の結果が得られる原因としては、「手荷物の持込を禁止したところで、 安全が確保される訳ではない」という人々の心理があるようで、ニューヨーク・タイムズ紙は、 「飛行機が爆破されないように 本の持込を禁止するなんて馬鹿げている」と語る乗客のコメントを掲載していたりする。

さて、、8月18日にアメリカで公開されることになっているのが、サミュエル・L・ジャクソン主演の、機上のパニック映画 「スネークス・オン・ザ・プレーン」である。
この映画の内容は読んで字の如しで、機内に居る 警察によってガードされた犯罪証人を殺害するために、大西洋を飛行中の満員の飛行機の中で、 毒蛇が何匹も放たれるというもの。機内で次々と乗客が毒蛇に噛まれ、恐怖のどん底に陥れる様子を コミカルな台詞で描くB級ムービーで、既にインターネット上では、「ブレアウィッチ・プロジェクト」以来のカルト・フィーバーを巻き起こしていることで 知られる作品。 インターネット上のブログによれば、「この映画を見れば、爆弾で一気に飛行機ごと吹き飛ばしてくれるテロリストの方が、 ずっと良心的に思えてくる」のだそうである。
テロというのは人々の心理に恐怖心を与えることを目的にしたものであるけれど、2001年から5年間にも渡って「テロ」の恐怖を煽られると、 段々と人々のテロに対する世論や恐怖心も変わってくるようである。



Catch of the Week No.1 Aug. : 8月 第1週


Catch of the Week No.5 July : 7月 第5週


Catch of the Week No.4 July : 7月 第4週


Catch of the Week No.3 July : 7月 第3週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。