Aug. 6 〜 Aug. 12 2007




” Unproductive Summer ”



今週のニューヨークでは 水曜明け方の嵐と共に ブルックリンで起こった竜巻が、最大のサプライズ・ニュースになっていたけれど、 この日の朝は 豪雨のため ブルックリンやクイーンズで洪水も起こっており、その影響で 地下鉄を含む多くの電車の路線が一部、もしくは全線ストップするという事態を引き起こし 通勤事情に大混乱をもたらしていたのだった。
一昨年の地下鉄のストにしても、冬の大雪の日にしても、今回の地下鉄のトラブルにしても、通勤トラブルに遭遇した ニューヨーカーを見ていて 私がいつも驚くのは、意地でも職場に行こうとする彼らの姿。 今回も地下鉄が動いていないと察知するや否や、家に戻って自転車やローラーブレードで会社に向かったり、 午後までバス停に並んでギュウギュウ詰めになりながらバスに乗ったり・・・と涙ぐましい努力を繰り広げる ニューヨーカー達 がニュース等で報じられていたのだった。

でも この日の歴史的なサプライズと言えたのは、やはりニューヨーク市で 118年ぶりに起こった 竜巻。 アメリカに暮らしていると竜巻というのは「オズの魔法使い」のストーリーに見られるように、カンサスなどアメリカの南部や中西部で起こるものと 相場が決まっており、9月のハリケーン・シーズンを迎えると、必ずといって良いほどこれらの地域が竜巻の被害を受けるのである。 なので、毎年こうしたニュースを見せられている側としては、竜巻が起こることが分かっていても 毎年のように壊れた家を修復して そこに住み続ける人々のことを不思議に思っていたけれど、今回ばかりはニューヨーカーにとっても 竜巻が他人事ではない という従来では信じられない事態となった訳で、改めて昨今の異常気象を痛感することになってしまった。

今年のニューヨークの夏は、昨年の8月前半のように 3ブロック歩くと 冷房が効いた店に入らずには居られないというような局地的な 猛暑にはなっていないものの、気候が不安定で 湿気が多く、しかも時折とんでもない量の豪雨が短時間に降るので 従来のニューヨークの排水システムでは雨量に対応しきれないことが指摘されている。
実際に、今年の大雨というのは日本製のきちんとした傘を差していても 雨が傘を突き抜けて、小さな しずくがどんどん落ちてくるような 物凄さで、そんな雨に降られて 冷房の効いた建物内で 雨宿りをしている間に風邪を引いてしまう人も少なくないようである。 また、少なくとも私の周囲では様々な理由で 体調を崩している人が多く、皆口々に「今年の夏はツライ」と言っているのだった。

でも そのツライ夏の唯一の救いと言えるのは、アメリカでは 夏という季節はそれほどプロダクティブ(生産的)であることが要求されない時期であること。
以前もこのコラムで書いたことがあるけれど、アメリカにおける7月、8月というのは 1年を1週間に見立てるとすると言わばウィークエンドのような時期。 かつては、ニューヨークの多くの一流レストランは、フランスのレストランのように 7月20日から 9月第1週目のレイバー・デイの 休日まで夏休みを取っていたし、企業エグゼクティブもこれを前後してヨーロッパにバケーションに出掛ける例は非常に多かったのである。
この状況がすっかり様変わりしたのが、90年代後半の好景気を迎えた時期。 リセッションを終えて 働けば働くほど儲かる時代がやって来て、夏もロング・バケーションを取らない人々が金融関係者を中心に増え、 シティに人々が居残るようになってからは、 「クライアントが皆バケーションで居なくなる」 ことを理由にクローズしていた 一流レストランも、夏期休暇を取り止めるようになったし、 それと同時にハンプトン(ニューヨーク郊外の高級リゾート地)のような近場の ウィークエンド・バケーション が 人気とステータスを獲得し始めることになったのだった。
その結果、多くのビジネス・オーナーが、夏の週末をハンプトンで過ごすリッチな人々を狙うと同時に、 自分達も仕事を兼ねたバケーション・タイムを過ごすために、ブティックやレストラン、ナイト・クラブを ハンプトンに次々とオープンするようになり、2000年に入ってからは 映画のプレミアからファッション・ショー、 チャリティの寄付金集めのパーティーまでが、 夏の間 ハンプトンで行われるようになってきている。

こうした90年代後半からのニューヨークにおけるサマー・バケーション・トレンドは、 今や全米に波及しているようで、昨今アメリカ人の夏休みはどんどん短くなる一方であるという。
その反面増えているのが、長い休みを取らない分、週末に小旅行をするという ニューヨークにおけるハンプトン・トレンドのようなスタイルで、 現在アメリカの企業の12%が夏の間だけ 金曜を休みにするという週休3日制を導入するようになってきているという。
従来のように2〜3週間纏まった休みを取るよりも、週休3日制が好まれる理由としては 長期の休暇を纏めて取ろうとすると、休暇前後の仕事量が増えて負担になること、 休暇先にもEメールが送られてきて、仕事に対応しなければならないケースが出て来る上に、 長い休暇の後に 元の仕事のペースを取り戻すのに苦労するケースは少なくないという。
しかし これが週末の小旅行であれば、仕事は週明けに対応すれば良いので 旅行中はリラックス出来る上に、 日ごろの生活や仕事のペースを崩さずに バケーションが楽しめるという利点があるという。 また週末の短い旅であれば、事前の計画がなくても気軽に出掛けられたり、値ごろなパッケージが探し易く、 経済的に気分転換が出来ることも指摘されていたりする。



そう考えて、ふと自分が取引している会社を思い浮かべると、確かに夏の間は金曜が休み、もしくは午前中だけの業務で終了するところが少なくないけれど、 では 金曜を除けば 7月、8月が 「Business As Usual / ビジネス・アズ・ユージュアル」かと言えば 決してそうではなかったりする。
オフィス・ワーカーを対象としたアンケート調査では 65%の人々が「夏は仕事に集中出来ない」 と答えているとのことで、 スターバックスのフラッパチーノなどを飲みながら オフィス近くのパークで 日光浴をして、昼休みが30分ほど長くなってしまう人々は多いし、この季節は陽が長いので、 早めに仕事を切り上げて、アウトドア・カフェやルーフトップ・バーなどに勇んで出掛けて行く オフィス・ワーカーは多いのである。 また、ブラック・ベリーやアイ・フォンなどの普及で 会社のコンピューターを使用しなくても メールを送ったり、インターネットをブラウザ出来る ご時世であるため、就業時間中に映画やハンプトン・ジトニー(ハンプトン行きのリムジンバス)のチケットの手配をしたり、 オンラインでバーゲン・ハントをする人々も多いそうで、 こうしたことも 夏のオフィスでは 緊張感が無いため、 気楽に出来てしまうという。
すなわち、「皆 働いていないのだから、自分だけがアクセク働く必要は無い」というメンタリティと言えるけれど、 それと同時に この季節は外を少し歩くだけでも汗をかいて 疲れ易い上に、暑さにやる気をそがれてしまう という部分も 大きいようである。
こうした状況は職場に限った事ではなく、私が週2回 取っているフランス語のクラスも然りで、 フランス人の先生が夏に 働く気に満ちているはずが無いのは推して知るべしであるけれど、授業を受ける側のクラスメイト達も 口々に 「やる気がしない」、「覚えが悪い」などと 愚痴っている状態である。

では、こんな夏の生産性の低い時には何をするのが良いのか?といえば、アメリカ人に言わせると 「ビーチに寝転んで、何もしない」、「ビーチでビールを飲んで昼寝をする」という意見が圧倒的で、 これに加えて「ビーチで読書」という意見がマイノリティながらも聞かれたのだった。 日本では「読書の秋」と言われるけれど、アメリカでは「サマー・リーディング」という言葉がある通り、 何もせずにビーチで過ごす時間や、バケーション中の列車や飛行機の移動時間を読書にあてる人々が多く、 夏が読書の季節と考えられているのである。
そこでカラッと晴れた昨日土曜日に、私が友人宅のテラスで実践していたのが昼間からシャンパンを飲んで デッキチェアに寝転んだまま 何もしないという アクティビティ(?)であるけれど、 これが何とも言えずに良い気分!で、思わず 「夏はこうやって過ごす季節なんだ・・・」と 妙に実感してしまったのだった。
通常、肌を日に焼くと 2〜3時間で疲れてくるものだけれど、今回の私の場合、シミを恐れて 日に当たらないように気をつけていたにも関わらず 夜になるとドップリ疲れが出て、とても1日中寝転がっていたとは思えないダルさや眠気を感じたので 日ごろよりも早く寝てしまい、 結局 起きていた時間の方が8時間くらいしかないような1日を過ごしてしまったのだった。
それで納得したのは 、夏というのは 例え眠っていても疲れる季節。 この時期に ダラケる周囲をよそに、生産性を向上させるというのは きわめて難しいということ。
でも、こうしたダラけた夏が終わって レイバー・デイ・ウィークエンドが過ぎると、 いきなり仕事の顔を取り戻すのも またアメリカ社会の特徴なのである。





Catch of the Week No.1 Aug. : 8 月 第 1 週


Catch of the Week No.5 July : 7 月 第 5 週


Catch of the Week No.4 July : 7 月 第 4 週


Catch of the Week No.3 July : 7 月 第 3 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。