Aug 3 〜 Aug. 9 2009




” Do You Really Know Everything About Your Spouse? ”


今週末に報じられたアメリカにとっての明るいニュースは、7月の雇用統計が発表された結果、 先月の失業者数は予想を下回る24万7000人。その失業率も先月から0.1%下がって 9.4%となり、 昨年以来初めての減少を見せたこと。
でも24万7000人という失業者数は、ピークをつけた今年1月の74万1000人の約3分の1ではあるものの、通常のリセッション下では 極めて多いと見なされ、決して喜ぶに値する数字ではなかったりする。 なのに どうして失業率が下がるのか?といえば、 これは多くの失業者が仕事探しを諦め、自らを失業者として申請しなくなったためであるという。
したがって失業率は1%下落したものの、アメリカの就業率も 59.4% と近年で最も低く、これは80年代初頭並みの水準 と言われているのだった。

それでも今週の失業率ダウンのニュースに加えて、先週発表されたアメリカのGDP(国内総生産)が、予想された6%マイナスを 遥かに下回る 1%のマイナス成長に止まったというニュース、さらに AIG が2007年以来初めて黒字に転じたという業績発表 も手伝って、金曜のダウは114ポイントも上昇。 オバマ大統領はこれを受けて、「政府の景気刺激策がアメリカ経済の破綻を救った」 と早くも勝利宣言のようなコメントをした他、 多くのメディアがこの夏をターニング・ポイントにリセッションが終焉するだろう という 報道を始めたのが 今週である。

まだまだリセッション明けの兆候が見えないのはレストランを始めとするサービス業と小売業で、 今週大手小売店がこぞって7月の既存店舗売上のマイナスを発表していた一方で、 グッチからポロ・ラルフ・ローレンといったブランドまでが 前四半期の売上2桁ダウンを発表。 消費者が財布の口を開くのには未だ時間が掛かることを感じさせていたのだった。
とは言っても、実態はどうあれ、これだけ景気回復の兆しが報じられれば、景気を心配してお金を使わなかった人々が そろそろ買い物をしたくなる時期であるのは確か。
私自身、この夏はスポーツに夢中になる一方で セールの喧騒の中で買い物をする気になれなかったこと、 さらに 私のクローゼットの中にある1回も履いていないシューズ20足の中の半分以上がセール品であったという事実を反省して、 今年は5月末から突入していたデパートやブティックのセールで 一切買い物をしていないという非常に稀な状態になっていたのだった。
でも、この秋はどうしてもブーツが欲しい、雑誌で見て気に入ったランヴァンのニットが気になる・・・、 アレキサンダー・ウォンのドレスを試着してみたい・・・ ということで、今週はバーニーズとバーグドルフ・グッドマンに出かけて、 気になるブランドの秋物とシューズを徹底的にチェックしていたのだった。
今の時期になると 春夏のセール品は端に追いやられて、店頭はすっかり秋物一色。 相変わらずバーグドルフ・グッドマンはシューズ・セクションが混み合っていて、 バルマンの2000ドル近いブーツを始めとする10足以上のブーツをソファーに座って次々と トライしている女性と話したところ、「ブーツだけは早めに手を打たないと サイズ切れになってしまうから、 毎年8月に買うことにしている」のだそうで、今年はメタル・アクセントが付いたエッジーなものと、 この秋のトレンドの目玉と言われるオーバー・ザ・二ー・ブーツを1足ずつ買おうとしているとのことだった。

バーニーズでは、ランヴァンのセクションでお目当てのニットを見つけて試着していたところ、 見るからに高そうなフラワー・プリントのマキシドレスを着た小柄なブロンド女性が、凄まじい勢いでラックに歩み寄ってきて、 早足で歩きながら掛かっている服をチェックし始め、その後ろを 両手に7枚位のドレスを持ったバーニーズの店員が 追いかけている状況を目撃したのだった。 その女性と目が合うと、彼女は オルセン・シスターズの1人。でもメアリー・ケイトかアシュレーかは私には分からない。
やがて彼女は再び 早足でエスカレーターで上の階に行ってしまったけれど、ドレスを持って彼女を追いかけていた店員は、 ランヴァンのセクションのセールス・パーソンに 「彼女、怒っているのよ!」 と言いながら、 小走りで オルセン嬢を追いかけていったのだった。
後でランヴァンのセールスの人に 「今のってメアリー・ケイト?、それともアシュレー?」 と尋ねたところ 「メアリー・ケイト、彼女はレギュラー(カストマー)なのよ」とのこと。

メアリー・ケイト&アシュレーのオルセン・シスターズは、子役時代にTV&ビデオ出演、ライセンス・グッズの メガ・サクセスによって 一生働かなくても良いだけの財産を既に築いているけれど、彼女らが それぞれ150億円以上と言われる資産を 自分の意思で使えるようになったのは、二十歳の時点。 以来、彼女らはブランド物のショッピングに余念が無いことが伝えられて久しいけれど、 確かにメアリー・ケイトはファッショナブルな顧客が多いバーニーズの中でも、目を引くほど高そうなアウトフィットを身に纏い、 何処のブランドのものかは識別できなかったけれど、大きめのパープルのバッグがドレスと鮮やかなコントラストを見せていたのだった。 
でもこの日、バーニーズでドレスを何枚も試着しようとしていたのはメアリー・ケイト・オルセンだけではなくて、 ランヴァンのセールス・パーソンは、やって来る顧客の取り置きのコートを出したり、 シルクドレスのサイズをバックルームに探しに行ったりと、店内を走り回っていたのだった。
一時は こんなブランド物のフロアは 人が見るだけで素通りする 博物館のような売り場と化していただけに、 こうした光景は 久々に見る新鮮なもの。それだけに、こういうヘルシーなショッピング環境が早く日常に戻ってきて欲しいものだと 切に感じてしまったのだった。


さて、今ニューヨークで最も物議を醸すと同時に、多くの人々の注目を集めている事件が 7月26日にウエストチェスターのタコニック・ステート・パークウェイで起こった8人の死者を出した交通事故。
同事件で車を運転していたのは、36歳で2児の母親であると同時に ケーブル会社の会計マネージャーでもあるダイアン・シューラー。 この日、夫、ダニエル・シューラーとダイアン、彼らの2人の子供達に加えて ダイアンの3人の姪は 午前9時半にキャンプ場を後にし、 夫は犬を連れて別の車で帰路に着き、ダイアンが5人の子供を フォード・ウィンドスターに乗せて、 まずは姪達をダイアンの兄の家に 送り届けることになっていた。
ダイアン・シューラーは途中で子供達とマクドナルドに立ち寄ったと言われているけれど、 キャンプ地を出た4時間後、タコニック・ステート・パークウェイでターンを間違えた彼女の車は、一方通行の ハイウェイを 1.7マイルも逆走。カーブが多い同ハイウェイで 対向車を 何台か交わしたものの SUVと激突し、SUVに乗っていた3人の男性全員とダイアン自身、彼女の車に乗っていた子供4人が 死亡。唯一、ダイアンの5歳になる息子が一命を取り留めたというのがこの事故である。
ここまでならば、悲劇的な交通事故という報道で終わる事件であるけれど、 現在この事件が大きな 物議を醸しているのは、その後発表されたダイアン・シューラーのトキシコロジー(毒物学)・レポートによって 明らかになった事実があまりにショッキングであったため。

ダイアン・シューラーは、飲酒癖は無く、責任感の強い母親であると同時に、常に安全運転を心掛けていると 家族には信じられていた存在。 ところがトキシコロジー・レポートによれば、死亡時のダイアンの血液中のアルコール濃度は、 リーガル・リミットの2倍。この数値に達するには、お酒を10杯は飲まなければならないという高いアルコール濃度を示しており、 さらに事故の15分〜1時間前にはマリファナを吸っていた形跡があることも 同レポートによって明らかになったのだった。 加えて事故車の中にはアブソルート・ウォッカの大瓶が転がっていたことも同時に報じられている。
このレポートを受けて、夫のダニエル・シューラーは 「自分達の夫婦生活は円満であったし、 自分は結婚して以来、妻がアルコールを飲んだり、ましてやマリファナを吸っているところなど見たことが無い」と この結果に対する全面的な意義を唱え、自らの費用でトキシコロジー・レポートのやり直しを依頼。
その一方で、彼の弁護士は 事件直後、ダニエルが 「妻には健康上の問題は一切無かった」と語ったコメントを覆し、 心臓発作や糖尿病の症状、もしくは精神的に何かが起こった疑いを 記者会見で強調。 しかしながら彼が持ち出してきた医学説は全てトキシコロジストによって、その可能性が無いことが 先に明らかにされていたのだった。
また、ダニエル・シューラーは 事故車から発見されたウォッカの大瓶が実は自分のもので、 「時々アルコールを飲むためにバッグに入れて持ち歩いていたものが、たまたまダイアンの車に積まれてしまっただけ」 というかなり苦しい言い訳も展開。 それまで、「シューラー家は親族が集まっても誰も殆どお酒を飲まない」という説もここで自ら覆すことになっている。

そうは言っても、心臓発作や糖尿病が原因で 規定基準値の2倍のアルコールが血液中に含まれるなどということは 考えられない訳で、夫 ダニエルが 硬くダイアンの飲酒やマリファナ使用を否定すればするほど、 メディアや人々が憶測をめぐらせるのが、夫ダニエルが言うほどに彼らの夫婦仲は良くなく、 ダイアンが夫に隠れて飲酒、さらにはマリファナ使用を繰り返していたのでは?ということ。
実際、ダイアンの飲み友達はニューヨーク・ポスト紙に対して、彼女が家庭と仕事でストレスを抱えて、 時々1人で飲みに行っていたことを証言。 さらに、事故直前にダイアン・シューラーは兄に3回電話を掛けており、そのうちの1回で視界がボヤけてきたことを 語っているけれど、同じ頃 近くを車で走っているはずの夫には電話を掛けなかったことが疑問視されているのだった。

メディアと人々が最も疑問に感じているのが、ダニエル・シューラーは本当にダイアンの飲酒に気付いていなかったのか?、 気付いていないとしたら、それは何故なのか?ということ。
ダニエル・シューラーはロング・アイランドのナッソー・カウンティの警察で、パブリック・セイフティ(公共安全)の警官を 務めているというけれど、昨日8月8日付けのニューヨーク・タイムズ紙の記事では、彼のような警官を対象にした2004年版 飲酒運転摘発マニュアルに、「相手が飲酒をしていないだろうという先入観がある場合、飲酒運転を見逃す傾向がある」 と記載されていることを例に挙げて、思い込みの強さが事実を見逃す要因となっていた可能性を示唆していたのだった。

逆にアルコールや麻薬の中毒者、依存者を扱うドクターは、彼らが決して自分が中毒者や依存者であるということを認めず、 ウソを付く常習犯であるとも語っており、 彼らは疑って掛かっても見抜くのが難しいような 巧妙なウソと偽りを繰り返すのがごく一般的であるという。
さらにシューラー家のように、オープンにアルコールを楽しむ環境に無い場合、ダイアンが夫に隠れて 飲酒を嗜むようになっても不思議ではないことも指摘されているのだった。
すなわち 今回の悲劇の引き金は、ダニエル・シューラーが盲目的に妻が結婚に満足し、 何の問題や不満も抱いていないと信じていた一方で、 ダイアンが それを巧妙に欺いて、 アルコールやマリファナに逃避を求めたいたこと というのがメディアや人々の憶測であるけれど、実際に 「一緒に暮らしていても相手が何をどう思っているのか、分かっているようでいて 分かっていない」 というのは、どんなカップルにもありがちな傾向であったりする。

例えば離婚や 未婚カップルの別離のパターンにしても、喧嘩を繰り返したり、不倫やお金の使い込みが発覚して、お互いも周囲も問題を 熟知して別れるケースが圧倒的と思われているけれど、意外に多いのが 「自分は幸せ、もしくは普通に過ごしているつもりだったけれど、 相手が突然居なくなってしまった」とか、「ある日突然、相手に別離や離婚を宣告された」 というケース。
傍からは仲の良いカップルに見えたのに、実は男性が出張先の愛人に子供を産ませて二重生活をしていたとか、 夫のために献身的に尽くしていた妻がある日突然居なくなって、ほどなく離婚が申請された というような話は、 それほどオープンに語られないだけで、実は決して少なくないというのは 私がつい最近話した離婚弁護士も 認めていたこと。
また、そこまで極端ではなくても、夫の浮気を探ろうとしてコンピューターのパスワードでプロテクトされた夫のファイルを開けた妻が、 そこにダウンロードされているポルノを見て唖然とする例など、一緒に暮らしているもの同士が 相手の思わぬ側面を知って驚く例は非常に多いのである。 なので、毎晩隣で眠っているから相手のことを理解しているなどと思うのは 大間違いな訳で、自分自身も含めて 人間というものを完璧に理解しようということ自体が そもそも不可能なのである。

なので、私はダニエル・シューラーがダイアンの飲酒やマリファナ使用を知らなくても責められないと思う反面、 彼が 「妻は一滴たりとてアルコールは飲まない」と言い切っている姿に彼の思い込みの強さだけでなく、 「自分は妻を完璧に理解していた」という思い上がりさえもを感じてしまうのだった。
私自身、人に対して裏表は無いし、オープンな性格ではあるけれど、それでも 30年以上の親友でも 私のことを100%理解しているとは思わないし、 逆に友人でもボーイフレンドでも、 これまで誰かを完全に理解したと思ったことは 一度も無いのである。
なので、友人やボーイフレンドに裏切られることがあっても、 「自分が相手を良く知らなかっただけ」 と思って 諦めたり、割り切ったりしてきたけれど、 ふと思い起こしてみると、裏切りが発覚した際の私の最初のリアクションも 「まさか、そんな・・・」というもの。 相手を理解しているとは思っていなくても、 信用していただけに 最初は裏切られたことが信じられなかったのである。
でもトキシコロジー・レポートほど化学的根拠は無くても、 明らかな証拠を突きつけられたら 「信じていた自分が馬鹿だった」と あっさり認めざるを得ない訳で、 事実を認めて 悟ることは アルコール中毒の治療同様、心の傷を癒し、事態を改善する第一歩。
説明不可能な何かが 起こったに違いないなどと、無理な希望を抱くことは 憶測に時間を費やすだけで、状況の改善には繋がらないのである。


ところで、アメリカでは今週 もう1つのトキシコロジー・レポートが発表され、人々を驚かせている。
そのレポートとは、アメリカのありとあらゆるインフォマーシャルに出演し、その説得力のあるセールスピッチで、 何十億円分もの プロダウクトを売りまくった ビリー・メイズに関するもの。 ちなみに、アメリカでは彼が出演するCMやインフォマーシャルが1週間に平均400回放映されていたというから、 彼の存在を知らないアメリカ人は居ないといっても過言ではないほど。
その彼はマイケル・ジャクソン死去の数日後、周囲の誰もが健康であったと証言しているにも関わらず、 50歳の若さでこの世を去っており、当初 死因は心臓発作と言われていたのだった。 なので彼の死の直後は、「健康体でも 50歳の男性なら突然死はあり得る」などとレポートされ、 同年代の男性達を怯えさせていたけれど、今週発表になったトキシコロジー・レポートで明らかになったのが、 彼のコカイン使用。 そしてこのコカイン使用が心臓発作を起こす原因になったことが明らかになったのだった。

ダイアン・シューラーといい、ビリー・メイズといい トキシコロジーは 周囲が生前知らなかった死者の一面を明らかにしているけれど、 トキシコロジーの進歩が 様々な事件解決の手掛かりも提供しているのはいうまでも無いこと。
理解できない事件や出来事が起こったとき、人が求めるのは原因と事実の究明。 憶測や仮定論は事実の前では全く無力なのである。





Catch of the Week No. 1 Aug. : 8 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 July : 7 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 July : 7 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 July : 7 月 第 2 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009