Aug 8 〜 Aug 14 2011

” All That Glitters Is Not Gold ”


今週末のニューヨークは、土曜の夜から降り出した大雨が、1日の降水量の史上最高記録を樹立する 大荒れのお天気になっていたけれど、土曜の夜のインディアナ州では、ステート・フェアの コンサート・ステージが、推定で時速100キロの暴風によって、あっという間に崩壊してしまい 5人が死亡。 約40人が怪我で病院に運ばれるという惨事が起こっており、春の竜巻、夏に入ってからの テキサス州やオクラホマ州での 記録破りの猛暑と旱魃(かんばつ)などと共に、異常気象を改めて痛感させる 出来事になっていたのだった。

でも、週末の天候同様に大荒れだったのが、今週のニューヨークの株式市場。
先週金曜の取引終了後に、S&Pが史上初めてアメリカの国債をトリプルAからダブルA+に格下げしたのは、 世界中で大きく報じられた通りであるけれど、それを受けて月曜にはダウが634ポイント 値を下げて、 2008年のリーマン・ショックを彷彿させたのだった。
でも翌日火曜日には、FRB / 連邦準備理事会が 「暫くは利息を低く保つ」とコメントしたことを受けて、今度はダウが429ポイントもアップ。 そうかと思えば水曜には再び519ポイントを下げて、翌日木曜には422ポイント・アップというローラー・コースター状態。
ダウが4日連続で400ポイント以上動いたのは、史上初めてのことで、金曜は先月の小売成績が若干良かったことなどを 好材料に、126ポイントを上げて取引が終了したのだった。




先週木曜の512ポイントの大暴落や、今週の株価の乱高下がメディアで大きく報じられる度に、 そのビジュアルとしてフィーチャーされるのが、ニューヨーク証券取引所のトレーディング・フロアで働く トレーダー達の落胆や一喜一憂の表情。
特に大暴落の報道の際には、ダウの折れ線グラフの急降下の画像とオーバーラップしてフィーチャーされるのが、 トレーダー達の深刻な顔の表情や、絶望感を表現するようなボディ・ランゲージ。 でも今日、8月14日付けのニューヨーク・ポスト紙によれば、トレーダー達はジョブ・パフォーマンスの一環として、 こうした大袈裟なリアクションを見せており、本人達は翌日の新聞や ネット上のファイナンス・ブログに自分達の写真がフィーチャーされるのを 実は楽しんでいるのだという。

今週、自分達の写真が連日のようにメディアにフィーチャーされて、にわかセレブリティ・ステータスを味わっていたトレーダー達によれば、 彼らはオーダーしたランチに、エクストラ・ケチャップが入ってなかったのに気付いた時にも、同じような落胆の表情をしているとのこと。
トレーダー達にしてみれば、既に何度も経験している大暴落や株価の乱高下に対して、まるで初めて味わうかのような大袈裟な顔の表情や ボディ・ランゲージを見せるのは、メディア・サービスであり、大切なジョブ・パフォーマンス。
メディアの取材陣は、市場の動向をそのまま反映したような トレーダー達の姿を 画像や映像に収めるために 取引所を訪れている訳で、トレーダーがポーカーフェイスであったら全く 意味を成さないのは当然のこと。 なので、彼らがイメージ・フォトや映像になりうる姿を演じることは、株価報道でも リアリティTV並みの ”やらせ” が行なわれているとも解釈できるけれど、そうやってメディアに度々フィーチャーされる存在になることは、 トレーダー達にとっての ”ジョブ・セキュリティ” にもなっているのだった。

ナスダックが既に100%機械によるオートメーテッド・システムになっていることからも察せられる通り、 NY証券取引所のトレーダーの仕事にも、毎年合理化の波が押し寄せていて、5年前にはトレーディング・フロアに2800人が勤務していたのに対して、 現在は史上最少の1300人が働くのみ。 なので、失業問題はトレーダー達にとっても他人事ではないけれど、メディアに頻繁にフィーチャーされる名物トレーダーになっていれば、 レイオフを免れる可能性が高いというのが彼らの読み。したがって、”やらせ” とも演技とも言える行為とは言え、 トレーダー達は 自分達の仕事を守るためにしていることとも言えるのだった。
中には 大暴落の翌朝の仕事の前に、証券取引所内で着用するジャケット・ユニフォームを着用して 教会の前で祈りを捧げるというパフォーマンスをして、メディアのフォトグラファーにシャッター・チャンスを提供するサービス精神旺盛のトレーダーも居るけれど、 彼が本当に祈ることが目的で教会を訪れているのなら、教会の建物の中で祈りを捧げるものだし、 わざわざトレーダーだと分かるようなジャケットも着用する必要は無いのである。



さて、株価が乱高下した今週、ゴールドは 遂に1オンス(約28グラム)の価格が1800ドルの大台を突破するという大変な値上がりを見せていたのは、 大きく報じられたとおり。
8月12日金曜の時点では1オンス=1739.56ドルとなっているけれど、 過去1ヶ月の値上がり率は約9.5%。6ヶ月では約28%、1年では約42%。5年前に遡ると、当時の価格の176.95%となっており、 株式への信頼が薄れつつある状況で、ゴールドの値上がりに益々拍車が掛ることが懸念されているのだった。
これだけゴールドがアップすると、誰もが 「金を買っておけば良かった」と思うものだけれど、 今から慌ててゴールドに投資をしようとする人々の落とし穴になっていると言われているのがゴールド・コイン。 そして、こうした落とし穴にはまって、投資のつもりが大損、引いては借金を抱えてしまう例さえあるという。

お金がある人ならば、ゴールドに投資をする場合、確実なルートからプレートや、延べ棒を買うものであるけれど、 キャッシュがそれほど無い人でも、比較的簡単に手が届くのが、ゴールド・コイン。 素人であればあるほど、ゴールド・コインが安いのは、金の延べ棒に比べてずっと小さいからと思ってしまうけれど、 ゴールド・コインは、そのお値段も コインに含まれるゴールドの量も実にマチマチ。
しかも紛らわしいことに、ゴールドの使用量は低くても、希少価値やノベルティ価値で価格が上がっているコインが 存在する上に、そういうコインに限って、コインが本物である保証書や通し番号など、実際の価値とは関係が無いプレゼンテーションが しっかりしていて、素人を騙し易くしているのだった。 でも、確実に言えるのは 僅かなゴールドしか使用していないコインを買ってしまうと、買った時点で投資額の殆どを失うような大損の状態になってしまうということ。

ユーロ・パシフィック・キャピタル・パートナーのレポートによれば、昨今増えている 最も一般的なゴールド投資詐欺というのは、 例えば、5000ドル分のゴールドを購入しようという投資家が居た場合、ゴールドの業者はその人物に対して、業者から2万ドルを借りて 2万5000ドルをゴールドに投資して、短期で手っ取り早く儲けることを薦めてくるという。
自分が投資しようとした金額の4倍の借金を抱えることになれば、普通の人は 恐ろしくなって止めてしまうものかと思いきや、 過去5年で176.95%の値上がり実績を見せ付けられて、「こんな先が見えない時代に、これほど確実で効率が良い投資は無い」などと言われると、 それになびく人は決して少なくないという。
その結果、投資させられるのがゴールドの使用量の少ない、簡単に値崩れするゴールド・コインだそうで、 これは投資をした途端に、大半の投資資金を失うのと同等の商品。
しかしながら、恐ろしいのはそこからの話。ゴールドはここ数年、ずっと右肩上がりで、大幅な値上がりを見せても、 時に2週間で5%程度値を下げるような局面があるもの。 直ぐに価格が回復すれば良いけれど、もし現在の急騰の反動で、その価格が投資した段階から 15%下がった場合、 ゴールドの業者は、借り入れた2万ドルのローンをプロテクトするために、さらに2000ドルを支払うように要求してくるとのこと。
もし業者が設定した支払い期限までに2000ドルが支払えない場合、投資したゴールドは差し押さえになってしまうので、 投資のつもりが大損という結果に終わってしまうのだった。


でも、多くのアメリカ人にとって、現在 ”黄金”に値するのが仕事。
先週金曜に発表された7月の雇用統計では、失業率が0.1%減って、9.1%となっているけれど、 増えたのはもっぱら 最低賃金の仕事と言われているのだった。
日本同様、アメリカでも若い層が就職できない状況になっているけれど、20歳〜24歳の失業率は、 全米平均を遥かに上回る14.6%。 これに対して55歳以上の失業率は6.9%で、現在のアメリカ就業人口の約40%が55歳以上。 こうした就業者の高齢化は、1976年以来の数字となっているのだった。
その要因となっているのは、2008年のグレート・リセッションで、リタイア資金を大幅に減らしてしまった ベビーブーマー・エイジが引退せずに、仕事を続けているため。

映画「ソーシャル・ネットワーク」の中で、当時ハーバードの学長であり、クリントン政権下で財務長官を務めたこともある ラリー・サマーズが「仕事は探すより 自分でクリエイトする方が簡単」と語る台詞があったけれど、 リセッション以来増えてきているのが、仕事が見つからないため、もしくはレイオフされたのをきっかけに自分で新しいビジネスをスタートする人々。
2010年には1ヶ月に56万5000件の割合で、新しいビジネスがスタートしていたというけれど、 中には、高額給与の仕事を辞めて、ゆとりある生活を送りながら、自分の好きな仕事をするために 起業する人も少なくないことが伝えられているのだった。 こうしたビジネスは、かつてベビー・ブーマーが散々お金を稼いだ後で、”第2の人生” として始めるケースが多かったけれど、 今、自分の好きなことをしたいと思って起業や転職をする人々は、もっぱら20代半ばから30代前半。
そして、その多くは起業の難しさを味わって、失望したり、ギブアップすることになるようなのだった。

結局のところ 仕事にしても、投資にしても、この時代にそんな甘い話は無いということになるけれど、 こういう時代だからこそ、一番投資をしなければならないのが、自分自身の精神と肉体の健康。
医療費が高額なアメリカでは、健康体とそれを維持するライフスタイルを身につけていることは、1億円の資産があるのと同等と言われるほど。 そしてそれはエクササイズや健康的な食生活、十分な睡眠、ストレスの解消という、タダ同然のもので手に入るもの。
したがって、これほどリスク・フリーで確実な投資は 他に無いと言えるのである。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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