Aug. 3 〜 Aug. 9 2015

” Bitchy Resting Face Syndrome ”
ビッチー・レスティング・フェイス・シンドローム


今週のアメリカで 最大の話題と報道になっていたのが、2016年の大統領選挙の共和党候補ディベートのニュース。
現時点で共和党から立候補している候補者は17人。 今週木曜午後9時から 共和党メディアの代名詞とも言える フォックス・ニュースで放映されたディベートには、そのうちの支持率が高い10人のみが参加できるというシステム。 大統領選挙が行われるのは 今から15ヶ月後にも関わらず、このディベートには全米の2,400万人がチャンネルを合わせていたのだった。
実は私も同ディベートをDVDに録画していたけれど、私だけでなく、多くの人々がディベートに興味を示した理由は、 ただ1つ、というよりただ1人の候補者。 それが現在支持率でも、不支持率でもトップを走るニューヨークの不動産王、ドナルド・トランプなのだった。

ドナルド・トランプは大統領選立候補を発表して以来、最もメディアが報道時間を割いてきた存在。 それというのも、まず彼は立候補宣言の際に 「メキシコ政府がドラッグ・ディーラーやレイプ犯を不法移民として アメリカに送り込んでいる」とコメント。 これによって、現在アメリカで 人口比率を最も増やしているヒスパニック系の怒りを買ったと同時に、 多くの企業が、ドナルド・トランプとの取引を打ち切る措置を取った結果、彼のビジネスは約60億円以上の損失を被ったことが伝えられているのだった。
しかしながら それに懲りないトランプは、次に POW(戦争捕虜)として拷問を受けた経験を持つ共和党の元大統領候補、 ジョン・マケイン上院議員に対して、「彼は捕虜になっただけで、戦争の英雄ではない」と批判を展開。 これによって共和党の強力な支持母体である ベテラン(元服役兵)と その家族からも顰蹙を買い、その支持を失ったと報じられたのだった。
にもかかわらず 彼の毒舌は止まるところを知らず、その後も問題発言を繰り広げてきたものの、驚く無かれ、トランプの支持率は上がり続ける一方。 今回のディベートにも 共和党候補者中の支持率トップとして参加しており、多くの人々がチャンネルを合わせた理由は、 初めて政治ディベートに臨むトランプが、どんな型破りで 非常識な発言をするかを期待してのことなのだった。

そしてその期待に見事に応えたのがドナルド・トランプであったけれど、今回のディベートで見せた問題発言は 女性蔑視。この引き金となったのは、ディベートの司会を務めていたフォックス・ニュースの美女スター・キャスター、ミーガン・ケリー(写真上右)が、 ドナルド・トランプに対して、「貴方は気に入らない女性のことを、豚、犬、吐き気がする動物 などと ののしったり、 ツイッター上でも女性のルックスについて かなり酷いコメントが幾つも見られますが、それが大統領に相応しい行為と言えるでしょうか?」 と質問したこと。
これに対して トランプは、まずはジョークでかわしたものの、ミーガン・ケリーに対する八つ当たり的なコメントをその場で披露。 加えてディベートが終わってからも、自分の支持者が ミーガン・ケリーを批判したコメントをリツイートしたり、 自身でも 「ミーガン・ケリーがPMS(Premenstrual syndrome/月経前症候群)の機嫌の悪さの矛先を自分に向けた」と言わんばかりのツイートを展開。
これによってトランプは共和党内から ”セクシスト(性差別主義者)”と批判されたものの、ミーガン・ケリーへの謝罪を拒絶。 共和党側はこのトランプ発言によって、有権者の53%を占める女性票獲得に悪影響が出ることを危惧しているのだった。




さて、アメリカでは今回のようなディベートが行われると、必ずボディ・ランゲージのエキスパートが登場して、 手の動き、身体の角度や表情までもを分析して、候補者たちのアピール度をジャッジするのが常。 それだけにディベートに臨む候補者は、予め質問を予測して それに対する適切な答えを記憶したり、 言ってはいけない表現や差別用語のチェックに加えて、 姿勢や目線の使い方、微笑み方、ここぞのタイミングで 強い口調でアピールする際の顔の表情とジェスチャーなどを トレーニングし、ドレス・リハーサルではカメラ映りの良いシャツやネクタイのカラーまでもを吟味するなど、 周到な準備をして本番に臨むのが今や当たり前になっているのだった。

また大統領候補者やその夫人は、何時スナップされても、好感が持たれるような顔の表情、ボディ・ランゲージ、 服装をしていることがマスト!であるけれど、世の中には生まれながらに無愛想な顔をしていて、 それが出来ないという人も沢山存在するもの。
その総称のスラングとして 2年前にソーシャル・メディア上のセンセーションになったのが、 ”Bitchy Resting Face Syndrome / ビッチー・レスティング・フェイス・シンドローム”。 ”ビッチー”とは、ビッチ(アバズレ:性格が悪い女性)の形容詞で、”レスティング”は休んでいる、休憩しているという意味。 すなわち、ビッチー・レスティング・フェイスとは 性格が悪い女性が疲れたような顔のこと。
そしてビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームというのは、生まれつき、もしくは後天的に、 理由もなく不機嫌そうに見えたり、本人は普通にしているだけなのに怒っている、もしくは悲しそうに見えたり、 無関心、あるいは つまらなそうに見える顔の表情のこと。 要するに 本人の感情とは無関係に、勝手に周囲が「機嫌が悪そう」、「疲れている」、「嫌がっている」と判断するような 無愛想な顔を指すのだった。

セレブリティで ”ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームの女王”と評されるのは、写真上右のヴィクトリア・ベッカム。 彼女の場合、スパイスガールズ時代から フォトグラファーに「イメージと合わないから、微笑まないで欲しい」と 言われ続けたために、笑わない癖がついたと本人が説明しているけれど、彼女同様に”ビッチー・レスティング・フェイス・シンドローム”を 語る際に必ず名前が挙がるのは、クリスティン・スチュワート(写真上左)。
彼女の場合も、マナーの悪いパパラッツィが大嫌いで、彼らに追いかけられては不愉快な思いを続けてきた結果、 「今更 そのパパラッツィのカメラに向かって 微笑む気になれない」というのが、スナップで不機嫌そうな無表情をする理由であるという。




では、”ビッチー・レスティング・フェイス・シンドローム”の語源が何処から来ているかと言えば、 2013年にYouTubeにアップされて、一躍ヴァイラル・ビデオになった上のコメディ・スケッチ。
既に600万人以上が閲覧したこのビデオは、若手コメディアンのTaylor Orci / テイラー・オーシがパートナーとクリエイトしたもので、 ”ビッチー・レスティング・フェイス”は、当初、2人の間だけのプライベート・ジョークであったとのこと。 でもこのビデオが大センセーションを巻き起こした結果、”ビッチー・レスティング・フェイス”はスラングとして定着しただけでなく、 ”RBF (レスティング・ビッチ・フェイス)”という略称も、スラングで使われるようになって久しい状況なのだった。

アメリカ社会において、スマイルはコミュニケーションの柱であり、自分をアピールする武器でもあるだけに、 ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームは、社交や就職においては不利に働くのは仕方がないこと。
でもビッチー・レスティング・フェイスが役立つ職種もあって、例えば容疑者の尋問を行う警察官や、FBIエージェント、 ボディ・ガードや警備員、プロのポーカー・プレーヤーなどは、顔の表情が豊かである事が 逆にデメリットになるのは言うまでもないこと。
専門家によれば、世の中には 生まれつき無表情な人がいるとのことで、 表情の豊かさは 遺伝とも関係しているという。 そもそも表情とは、脳が感じ取ったフィーリングや感情を 顔や身体で表現すること、もしくは脳が受けた何らかの刺激が、 顔や身体の反応となって表れることなので、表情が豊かな人の方が往々にして感情に起伏がある、もしくは感情に左右され易いということ。
でも、ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームについては、感情レベルから変えなくても、 メークによって目をぱっちり見せたり、唇の両側を吊り上げて 微笑んでいるような 口のシェイプを心掛けたり、声のトーンを若干高くするといった小さな努力の積み重ねで、大きく改善されることが指摘されているのだった。




私が今週ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームについて書くきっかけになったのが、 サクラメントのモーニング・ショーに出演した際のカーラ・デルビーニュ(写真上一番右)のインタビューが、先週ネット上でちょっとした話題になっていたため。
カーラ・デルビーニュと言えば、スーパーモデル兼女優で、つい最近、主演映画「ペイパー・タウン」が封切られたばかり。 そのプロモーションのために、サクラメントの番組にNYから中継でインタビューに応えていたカーラであるけれど その時の彼女がまさにビッチー・レスティング・フェイス・シンドローム状態。
同インタビューでは、サクラメントのキャスターが くだらない質問ばかりしていたけれど、それに応えるカーラも つまらなそう、というか ダルそうで、何とも歯切れの悪いインタビュー。 終いには、サクラメントのキャスターが「早めに切り上げるから、昼寝でもして!」と嫌味を言う始末なのだった。

でも私がこのビデオを見て カーラ・デルビーニュに対して 少し気の毒になったのが、彼女は別のトークショーで見た時も、同じ様に ちょっと変人という感じで、 機嫌が悪い訳ではないのは分かったけれど、クールに振舞おうとして失敗しているのか、単にそういう性格なのか、判断に苦しむ状況。 また会話のテンポも、快活なアメリカ人ホストとは全くマッチしていなかったのだった。


目がパッチリしているカーラ・デルビーニュでさえ、ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームに見えるのはちょっと驚きであったけれど、 後天的にビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームになる、もしくはそう見えてしまうのは、以下の原因によるもの。


ビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームの人を励ますソーシャル・メディア上の書き込みには、 「いつも微笑んでフレンドリーにする癖がついていると、誰にでもアプローチされて かえって疲れる」とか、「自分は不機嫌なのに周囲が気付いてくれない」 といったものがあったけれど、同じビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームでも、前述のクリスティン・スチュワートや、 メディアのインタビューでナチュラルに愛想が無い 女優のルーニー・マーラ(写真上、左)のように、 媚びないクールさが漂っていると、微笑んだ時の表情が逆に際立つのもまた事実。
とは言っても若き日のクリント・イーストウッドでない限りは、目をしかめた表情に魅力がある人というのは そうそう存在しないことを思うと、 やはりビッチー・レスティング・フェイス・シンドロームは治療を試みた方が、人生のためと言えるのだった。

Will New York 宿泊施設滞在



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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