Aug 10 〜 Aug. 16 2009




” レフトハンダーと 右脳・左脳 ”


今週のアメリカは、先週に引き続き リセッションが終焉し、景気が回復しつつあるという明るい見通しが報道される中、 小売の売上不振が報じられ、多くのリテーラーにとって ホリデイ商戦に次ぐ 掻き入れ時であるはずの バック・トゥ・スクール商戦が、全く振るわないことが懸念されていたのだった。
このバック・トゥ・スクールとは、アメリカの新学年がスタートする9月前を中心に展開されるもので、 この時期に通常 大きく売上を伸ばすのが まず子供〜大学生までを対象としたアパレル。 特にジーンズの売上がアップするのがこの時期である。
それ以外にも文具からコンピューターに至るまでの学習関連グッズ、 そして親元を離れて大学に進学し、 寮やアパートで暮らすようになる学生が購入する 電子レンジ、掃除機、コーヒーメーカーといった家電品や寝具、 また使い古したスニーカーやバックパックの買い替えもこの時期。 新学年を迎える節目のシーズンであるだけに、親達はその準備にお金を掛ける傾向が強いのである。
でも今年はリセッションを受けて、このバック・トゥ・スクール商戦が大きくダメージを受けることが見込まれており、 ウォールストリート中心に盛り上がる景気回復説に対して、 小売アナリストからは 「消費者が財布の口を開かずして、本当にリセッションが終わるのか?」といった疑問の声が聞かれていたのだった。

そんな中、目下のアメリカで 唯一売上を伸ばしているのが自動車。
この理由は、現在アメリカで行われている ” Cash for Clunkers / キャッシュ・フォー・クランカーズ ” というプログラムが、 オバマ政権による景気刺激策の中で、”例外的とも言えるサクセス” を収めていると言われるため。
このプログラムは、2001年以前に製造され、製造25年以内の車で、燃費消費率が1ガロン当たり18マイル以下の運転可能な車を下取りに出し、 $45,000 以下の新車で、燃費が以前の車より1ガロン当たり 4マイル以上アップする車を購入すれば、 国から$3,500-4,500の トレード・イン・クレジットが貰えるというもの。 このトレード・イン・クレジットは言ってみれば、政府がこの金額を新車購入に当たって支払ってくれるということ。
本来このプログラムは、アメリカ国民が燃費の良い車に買い換えることにより 環境問題へのアプローチも考慮したものに なるはずであったけれど、議会を通過した案では 以前の車より4マイル以上燃費がアップするだけでOKという環境問題には 至って不十分なもの。 このプログラムでは1ガロンで12マイルしか走らないようなガソリン垂れ流し車を、1ガロン/17マイルのガソリン垂れ流しSUVに買い換えるのでも OKな訳で、 燃費の悪い車しか作れないアメリカ自動車業界を必死で救おうとする苦肉の策とも言えるもの。

7月24日にスタートしたこのプログラムは、議会が用意した10億ドルの予算が10日も経たないうちに底を付いてしまい、 新たに20億ドルの投入が決まったばかり。
このお陰で、自動車業界やそのディーラーは久々に明るいムードになっているけれど、 経済の専門家や一部のメディアの間では極めて評判が悪いのがこのプログラム。 というのも、このプログラムを利用して慌てて車を買い換えているのは それほど経済的にゆとりのない人々。 すなわち経済的にゆとりの無い人々に更なるローンを強いて、いずれ買い替えが必要な車の売上を、合計30億ドルの政府資金を投じて 先取りをしているに過ぎない訳で、これが景気を刺激していることにはならないというのが1つの理由。
もう1つは、ここで無理に車を買い換えた人々が 余分なローンを抱えた分、衣類の購入や外食を控えるなどして、 他でお金を節約しなければならないため、消費の落ち込みがさらに長引く要因になることが懸念されること。
さらに、特定の業界のみを限定して救済することに対しても、各界から公平な政策とは思えないとの声が聞かれているのだった。
したがって、一見成功しているように見える ” キャッシュ・フォー・クランカーズ ” であるけれど、 自動車業界の助けにはなっても、景気全体を救う政策とは見なし難いのが実情。 結局、オバマ政権も今までのところは ブッシュ政権同様、ウォール・ストリートや自動車業界しか救おうとする気配が無いと 思われても仕方が無いだけに、先週のワシントン・ポスト紙には 大統領選でオバマ大統領に投票した人が 「(ウォールストリート以外の) 一般人の暮らしは全く改善されていない。 選挙で騙された気分だ」と 怒りを露わにしているコメントが掲載されていたという。


さて話は全く変わって、今週木曜、8月13日はレフトハンダーズ・デイ。すなわち ”左利きの人の日” であるけれど、 これがスタートしたのは1992年のこと。
世の中の90%が右利きと言われる中で、左利きの人々に対する理解を深めてもらおうというのがこの日である。 歴史的に左利きというのは、何処の国でもかつては社会的にあまり良いこととは見なされていなかったもの。 私は 数年前にアメリカ建国の地であるフィラデルフィアを訪れた際、誰の銅像であったかは覚えていないものの、 本来 左利きだった人物の右手にペンを握らせている銅像があり、地元の人に 「かつては左利きが社会的に 受け入れられていなかったから・・・」 と説明されたのを覚えているけれど、 日本語でも商売が傾くことを「左前になる」という表現がある通り、 ” 左 ” が 不運や悪いこと、ネガティブな意味を持つのは、様々な国のカルチャーや言語に共通して見られているもの。
なので、かつては本来左利きに生まれた子供を右利きに直すことが教育の一環として行われてきたけれど、 時代の経過とともに 左利きに対する社会的な偏見が無くなって来たため、アメリカでは年齢層で左利きが占める割合が大きく異なるという。
例えば、90年代に行われた調査では 80歳代の左利きの割合は僅か3%、ところが20歳代ではそれが11%。 もちろんこれは 左利きが増えたのではなく、右利きに直す例が減ったことを意味する数字である。

4本足で歩く動物には右利き・左利きは無いと言われる一方で、人間の90%が右利きとして生活を始めたのは、 2本足で歩き、道具を使い始めた古代の時代とのこと。
右手+右腕は左脳に直結しており、通常 左脳は言語能力、計算力をつかさどると同時に、 英語でLinear-Sequential と呼ばれる連鎖的思考を行う脳。
一方、左手+左腕は右脳に直結しており、右脳は音楽、芸術性といったクリエイティビティや空間構成力、英語でVisual-Simultaneousと呼ばれる 視覚同時性、すなわち感覚、直感型の思考をつかさどる脳。
よく 右脳・左脳の論理の中で、男性が女性に比べて右脳が発達し、女性は男性に比べて左脳が発達していると説明されているけれど、 実際に左利きが多いのは圧倒的に 右脳が発達した男性。 母親が 妊娠中の男性ホルモンのレベルが高いと左利きの子供が生まれる可能性が高いと言われており、 双子が生まれた場合、そのうちの1人が左利きである可能性も非常に高いという。 この男性ホルモンの過剰は、吃音(どもり)やディスレキシア(失読症)といった学習障害の原因になるとも言われるもの。 事実、吃音とディスレキシアは左利きに多い症状であるという。
さらに てんかん、ダウン症、自閉症、 精神遅滞 も 左利きの子供に多いけれど、それと同時に左利きに多いのが天才的な頭脳の持ち主。 左利きは右利きよりも IQレベル140以上、すなわち天才の域に達する IQ レベルの確率が遥かに高いという。
この理由は、左利きが右脳と左脳をの双方を頻繁に使うためと説明されているけれど、 天才的能力を発揮する人々というのは、本来左脳でこなすべき計算や読解に右脳を活発に使っていたり、 本来右脳を使うはずのデザイン作業や楽器のパフォーマンスに左脳を活発に使っている場合が多いと言われているのだった。

歴史上の人物でもアインシュタイン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、進化論のダーウィンなど、 天才と見なされる人々が 左利きであるというのは かなり有名な話であるけれど、 学問・芸術の世界でもゲーテ、ニーチェ、フロイト、ピカソ、ミケランジェロ、 音楽の世界では古くはバッハ、ベートーベン、現代に入ってからはビートルズのポール・マッカートニーとリンゴ・スター、 ジミ・ヘンドリックス、デヴィッド・ボウイ、リッキー・マーティン、スティング、そしてセリーヌ・ディオンがレフトハンダー。 ビジネスの世界でもビル・ゲイツやヘンリー・フォード、そしてアップル・コンピューターのマックことマッキントッシュのオリジナル・デザイン・チーム、 5人のメンバーのうちの4人が左利き。
イギリス王室も歴史的に左利きが多いけれど、ウィリアム王子もその1人。 またナポレオンも左利きであったという。
左利きは政治家にも多く、米国大統領のうち 20代目のガーフィールド、31代目のフーヴァー、33代目のトルーマン、 ニクソン大統領の辞任に伴い大統領となった38代目のフォード、40代目のレーガン、41代目のジョージ・H・ブッシュ、 42代目のビル・クリントン、そして44代目のオバマ大統領は全て左利き。 オバマ大統領と選挙を戦ったマケイン氏も左利きで、 独立宣言の起草に貢献した 私が尊敬するベンジャミン・フランクリンもまた左利きなのだった。

左利きはテニス、野球、水泳、フェンシングの世界で秀でた才能を見せるというけれど、 テニス・プレーヤーは、マルティナ・ナブラティロワ、ジョン・マッケンロー、ジミー・コナーズ、 ロッド・レーバー、イワン・レンドル、モニカ・セレス等、歴代の錚々たる顔ぶれが左利きリストを占めている。
水泳にしても、マイケル・フェルプスに北京オリンピックでその記録を抜かれたものの、 それまで1大会最多の7つのゴールド・メダルの記録を保持していたマーク・スピッツがやはり左利き。
野球の世界の左利きは名前を挙げたらキリが無いけれど、 興味深かったのは 左利きが最も不便な思いをするスポーツの1つ、ゴルフの世界で、 アーノルド・パーマー、ベン・ホーガンという歴史に残るプレーヤーが左利きであったという事実。

でも左利きのリストが最も長くなるのは何といってもエンターテイメントの世界。
まず女優から挙げれば アンジェリーナ・ジョリー、二コル・キッドマン、ダイアン・キートン、ジュリア・ロバーツ、フェイ・ダナウェイ、 ゴールディー・ホーン、グレタ・ガルボ、テイタム・オニール といったオスカー・ウィナーは全て左利き。 その他にもドリュー・バリモア、デミ・ムーア、サラー・ジェシカ・パーカー、先週このコラムで触れたオルセン・シスターズも左利きである。
男優は、ブラッド・ピット、キアヌ・リーヴス、シルヴェスター・スタローン、ロバート・デ二ーロ、マーク・ウォルバーグ、ロバート・レッドフォード、 チャーリー・チャップリン、スティーブ・マックィーンなど、こちらも長いリストが連なっていたりする。

俳優に左利きが多いのは、左利きの人々にグッドルッキングが多いからと言われているけれど、 その理由は右脳と左脳の双方を使用しているために、左右対象の顔立ちをしている傾向が強いことが指摘されているのだった。
同じセオリーはプロ・スポーツ選手にグッド・ルッキングが多い理由としても説明されているけれど、 プロ・スポーツ選手は左右均等に運動神経が発達するため左右対称の顔立ちをしているという。

ルックスはさて置き、プロスポーツ選手が左右均等に運動神経が発達するというは事実で、右利きの野球選手が ゴルフに関しては 野球のスウィングに悪影響を与えないように左でプレーしても、普通の人より遥かにスコアが良いというのは良く聞く話。
またプロ・テニスの世界では今年春まで男子世界ランキングの第1位だったラファエル・ナダルが、 右利きでありながら、テニスだけは左でプレーするという不思議な状態。 彼は左手では字も書けなければ、歯も磨けないというけれど、 テニスだけは世界1のレベルでプレー出来ることには、本人も彼のコーチも首を傾げているという。

ところで 右利き、左利きに関わらず、 「指を組んだ時に左が上だったら、情報のインプットに右脳を使っており、右が上だったら左脳を使っている」、 「腕を組んだ時に左が上だったら情報のアウトプットに右脳を使っており、右が上だったら左脳を使っている」 というセオリーが一般的にまかり通っているけれど、私の場合 これはドンピシャに当たっているのだった。
私の場合、情報のインプットにクリエイティヴィティや直感をつかさどる右脳を使っており、アウトプットには言語力、 計算力をつかさどる左脳を使っているという結果だったけれど、事実、私は左脳を使う 情報インプットの典型例である 文章を読むという行為が 遅い上に 嫌いだったりする。 本はあまり読まないけれど、もし本を読む際は 無意識にビジュアルを思い描いている場合が多くて、 そうしないとストーリーが頭に入ってこないのである。
でも 色や形、匂い、味、音を覚えるのは 瞬時に、しかも覚えようと思わなくても出来るし、 それを左脳を使って 言語で表現するのには全く苦労をしていないのだった。
日本でバイヤーをしていた頃は、当時デジカメなど無かったので、買い付けた服の色を 全て頭に叩き込んで、オフィスに戻ってからカラー・チップで商品チャートを作っていたけれど、 やはりファッションは自分自身興味があるサブジェクトだったので、色やスタイルは全く苦労なく 記憶に焼き付けることが出来ていたのだった。

その後、ニューヨークにやって来て FIT (ファッション工科大学)に通っていた時に、元大手デパートのバイヤーだった先生が、 「数字に強いバイヤーはろくな服を買い付けて来ないけれど、服のセンスがあるバイヤーは 数字の管理が全くなっていない」 と言っていたのを 今でも覚えているけれど、 この先生は もちろん右脳と左脳のことなど理解していないので、 「 Nobody Has Everything 」 という センテンスで片付けていたのだった。
でも右脳と左脳の機能を考えるにつけ、実際には、「持っているかもしれない能力を使っていないだけ」 という表現の方が正しいかもしれないのだった。





Catch of the Week No. 2 Aug. : 8 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Aug. : 8 月 第 1 週


Catch of the Week No. 4 July : 7 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 July : 7 月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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