Aug 12 〜 Aug 18, 2013

”To Be The Top 1% ”


今週のアメリカで 最も報道時間が割かれていたのは、益々泥沼化するエジプト情勢のニュース。
オバマ大統領は マーサス・ヴィンヤードでの 毎年恒例のヴァケーション中にも関わらず、エジプト情勢に関する プレス・カンファレンスを行なっていたけれど、 ニューヨークで今週 大きな報道となっていたのは、週明けに 物議を醸しているNYPD(ニューヨーク市警察)の のパトロール手段 「Stop and Frisk /ストップ&フリスク」に対して、市の裁判所が違憲判決を下したというニュース。
ストップ&フリスクについては、7月第3週目のこのコラムでもふれているけれど、 これは街中の警備にあたる警官が、挙動不審と認められた人物に対して、理由を明らかにする事無く、職務質問や身体検査を行なうことが出来るというもの。 でもこれが、黒人&ヒスパニック系の男性を中心に行なわれていることから、人種偏見に基づく捜査という批判を浴びて久しいのだった。
ブルームバーグ現NY市長は、ストップ&フリスクによってニューヨーク市での犯罪発生率が激減したとして、これを強くサポートするポジションを取っているけれど、 今年秋に行なわれる次期NY市長選挙では、候補者がストップ&フリスクを支持するかしないかが、争点の1つにさえなっているのだった。
裁判所は週明けの判決で、ストップ&フリスクを違憲と判断したものの、その中止を命じた訳ではなく、 これを行なう警官のモニター・プログラムの強化という改善要求に留まったのが実情。
そうする事によって、これまで 「虫の居所が悪い警官の嫌がらせ」的に行なわれるケースもあった ストップ&フリスクを、 本来の目的のみに行使させようとしているのだった。

それ以外に週末にニューヨーク・ポスト紙やネット上のメディアが報じたのが、8月29日に発売になるアラン・パワーズの著書「The Princess Diana Conspiracy / ザ・プリンセス・ダイアナ・コンスピラシー」で、 1997年に故ダイアナ妃が死去した パリのトンネル内での交通事故が、イギリス王室の指令を受けたイギリス諜報部員の仕業であったことが 明らかにされている というニュース。
故ダイアナ妃の死については、事件当時も 陰謀説がかなり公に報じられていたけれど、本書は これまでメディアで報じられなかった 過去10年以上に渡る捜査結果を 非常に具体的に記したもので、 リムジン・ドライバーの酩酊運転が原因と言われた交通事故と同様の手段で、MI6のエージェントが他国の要人を殺害していることや、 故ダイアナ妃殺害の要因となったのは、「ダイアナ妃がチャールズ皇太子にとって不名誉な性癖を 公にしようとしていることをバッキンガム宮殿が突き止めたため」であることを 暴露しているとのこと。
ショッキングな死去から16年が経過した現在でも、メディアが報じ続けているのが 故ダイアナ妃に関するニュース。 9月にはナオミ・ワッツがダイアナ妃を演じる映画が封切られるのに加えて、 プリンス・ジョージの誕生で、イギリス王室に対する関心と興味が世界的に高まっているだけに、 同書が大きく注目を浴びることが見込まれているのだった。

ビジネスの世界で大きなニュースになっていたのは、J.P.モーガン・チェイスが 中国での人材採用の際に、 政治家を始めとする権力者の子女を優先的に採用することを賄賂代わりに使って、ビジネスを有利に展開させてきたというニュース。
同様の手段は J.P.モーガン・チェイスが世界各国で行なってきたことであるけれど、特に中国においては 個人的なコネクションがビジネスにおいて 大きく物を言うのは周知の事実。 同件については、アメリカ証券取引委員会が贈賄容疑で調査に入ったことが報じられているのだった。



J.P.モーガン・チェイスのような高額給与の企業が、権力者や政治家の子女を優先的に雇用していることは、 昨今の 世界的に貧富の差が開いている現状を反映しているようにも思えるけれど、 アメリカにおける 富裕層のシンボルとして 2012年の大統領選挙の際に盛んに取り沙汰されていたのが、 ” トップ1% ” の富裕層。
でもこのトップ1%というのは、言ってみれば 非常に曖昧な表現で、 大統領選挙の際には、所得税法の見直しが争点になっていたこともあり、 年間の所得額で、トップ1%を割り出す傾向が顕著なのだった。

年間所得でトップ1%を割り出した場合、トップ1%と呼ばれるために 得なければならないのは 課税前で 34万3,927ドル (約3,353万円)の年収。 高額給与の仕事が集中している ニューヨーク市においては、決して驚くような所得額ではないのだった。
実際のところ、年間所得のトップ1%の富裕層のうちの 44%が集中しているのがニューヨーク市。 したがってニューヨーク市では、アメリカのトップ1%の収入を得ている人々の割合は10人中4人以上。
ニューヨーク市というのは、マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタッテン・アイランドの5つのボローを指すけれど、 このうち年間所得のトップ1%が集中しているのは、言うまでもなくマンハッタンなのだった。

とは言っても、トップ1%の年間所得=リッチであるかと言えば、そうでも無いのが実際のところ。 というのも節税対策をしなかった場合、34万3,927ドルの年間所得に課せられる フェデラル・タックス(国税)の割合は33%。 加えて州と市の税金が差し引かれることを考えれば、 年間所得のトップ1%が さほど贅沢な暮らしが出来る訳ではないのは容易に想像が付くところ。
特に税率と物価が高い ニューヨーク市においては、トップ1%の収入が ギリギリのミドル・クラスというのが実際のところなのだった。


今年7月にエコノミック・ポリシー・レポートが発表した調査によれば、ニューヨーク市の1年間の生活費は全米最高額で、 1世帯平均で9万3,500ドル(約911万円)。 これには、レント、食費、医療費、交通費、税金、育児費、電気、ケーブルTVを含む その他の生活費が 含まれているけれど、ヴァケーション費用や外食代等は含まれていないとのこと。
でも 全米最高額の平均生活費、 9万3,500ドルという 数字を聞くと、あまりの低さに驚く ニューヨーカーが少なくないのが実際のところ。 それもそのはずで エコノミック・ポリシー・レポートのデータは、ニューヨークの家賃を 1ヶ月 1,400ドルという激安価格で計算しているのだった。

そもそもレントが高いことで知られるニューヨーク市であるけれど、今やその平均レントは エコノミック・ポリシー・レポートが 採用した数値の2倍以上である 3,017ドル (写真上、右側はニューヨーク、チェルシー・エリアのレント3000ドルのストゥディオ・アパートメント )。 全米の平均の家賃が1,000ドルであることを思うと、ニューヨーカーは 家賃だけで その約3倍を支払って生活していることになるのだった。
さらにニューヨークで高額なのはレントだけでなく、前述のように食費を含む生活費や全ての物価に言えること。 映画館に行くにしても、スポーツ観戦に行くにしても、ニューヨークのチケット価格は全米で最高額。 エコノミック・ポリシー・レポートが発表した生活費には、こうしたエンターテイメント・フィーも 含まれていないのだった。

逆にアメリカで 最低の生活費で暮らせるのはミシシッピー州、マーシャル・カウンティで、その1世帯当たりの平均生活費は4万8,000ドル(約470万円)。 エコノミック・ポリシー・レポートの調査で比較すれば ニューヨーク市の半分以下ということになるけれど、実際の生活費で比較した場合は 4分の1以下とも言われるのがこの金額。
したがって 同じトップ1%の高額給与を受け取ったとしても、アメリカの何処に暮らしているかで その生活ぶりが大きく変わってくる訳で、 マンハッタンでは ギリギリのミドル・クラスの給与でも、ミシシッピーやアーカンソーのような南部の貧しい州に行けば、 非常に裕福な生活が出来るのだった。

経済学者の間では、年収ではトップ1%の富裕層は決まらないという見解が一般的であるけれど、 実際のところ、年収というのはレイオフされた途端に消えて無くなってしまうもの。 したがって トップ1%の富裕層というのは 本来は、 総資産額から割り出すべきものなのだった。
その総資産額が100万ドル(約9800万円)を超えた場合、アメリカでは ”ミリオネア” とカテゴライズされるけれど、 2012年度のアメリカ国内のミリオネア世帯数は 899万。 2011年度の860万世帯から大きく増えているのだった。
アメリカでミリオネアが史上最多になったのは リセッション前の住宅バブル最高潮の2006年で、 この時点では920万のミリオネア世帯が存在していたのだった。

では、総資産100万ドル以上の ミリオネアが、トップ1%の富裕層に属するかと言えば答えは 「No」。
2012年度のアメリカの総世帯数は、1億1,424万。トップ1%と呼ばれるのは 114万世帯で、920万のミリオネア世帯が占める割合は 8.2%。 したがって ミリオネアはトップ8.2%であり、ミリオネア世帯のうちの12.4%のみが、総資産額から算出する 真のアメリカのトップ1%富裕層と言えるのだった。
ついでに言えば ミリオネアというのも不安定なステータスで、総資産が1.5ミリオン(150万ドル)の世帯でも、 離婚をした途端に夫婦共にミリオネアでは無くなってしまうもの。 また総資産2ミリオンの 夫婦と子供2人の4人家族の世帯よりも、総資産1.2ミリオンのシングル世帯の方が、 遥かに裕福な暮らしをしているのは容易に想像が付くのだった。

話を 真のアメリカのトップ1%に戻すと、その1%に属するために どれだけの総資産が必要であるかといえば、 2012年の時点で ニューヨーク大学のエドワード・ウルフ教授が算出したデータによれば 900万ドル(約8億7800万円)。
言うまでもなく 総資産900万ドルというのは、課税前の年収34万3,927ドルよりも 遥かに 大金持ちと言わなければならないのだった。


そんなトップ1%の富裕層以外に、超富裕層=ウルトラリッチ (もしくはウルトラ HNWI / Ultra HNWI (High Net Worth Individual)というカテゴリーが世の中に存在しているけれど、 この条件を数字で表した場合、金融資産(投資可能な財産)だけで 最低3,000万ドル以上(約29億2500万円)を所有する人々のこと。 ここまで行くと 世界中で11万1,000人しか存在しない ごくごく限られた人々になるけれど、その世界人口に対する割合は 0.0000155%。
これらの人々をターゲットにしているビジネスには、マイバッハ( Maybach, 写真上右) や ロールス・ロイス等があるけれど、ロールス・ロイス社独自の調べによれば、 世界中には年間20億円以上の可処分所得を持つウルトラ・リッチが約8万人存在しており、平均で3〜4軒の大邸宅、約8台の超高級車とヨットを所有し、 その75%がプライベート・ジェットを所有しているとのことなのだった。

ところで、年収ではトップ1%を受け取っても ミドル・クラスぎりぎりの生活しか出来ないほど 家賃や物価、税金が高い ニューヨークに暮らすメリットが 何かといえば、 ニューヨークはアメリカで最もソーシャル・モビリティが高い街であるということ。 ソーシャル・モビリティとは、ミドル・クラスの家庭出身の人が大金持ちになるなど、自分が属するクラスや階級を超える財産や生活を手に入れる可能性のことで、 近年のアメリカでは 「親に資産が無ければ、子供も裕福になれない」 というような、 ソーシャル・モビリティの著しい低下が指摘されているのだった。

そもそも ニューヨーク市、中でもマンハッタンはミリオネアでさえ地下鉄で通勤し、億円物件のコンドミニアムから数ブロックのところに低所得者住宅があったり、 人気のピザ店やバーガー・ショップに ありとあらゆる収入レベルの人々が行列を作るなど、 財力に大きなギャップがある人々が、隔離されずに混在している街。
「In New York, Everybody Has A Chance!」というのは、まんざら気休めだけで 言われている台詞ではないのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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