Aug. 11 〜 Aug. 17,  2014

”Two Things Killing America ”
米国社会が抱える2つの深刻な問題


今週のアメリカで最も大きく報じられていた2つのニュースが写真上。
1つ目(左側)は、ミズーリ州ファーガソンで起こった、警察による武器を持たない18歳の黒人青年、マイケル・ブラウン射殺事件に対する 市民の抗議活動と、それを抑圧しようとする警察の対決状態のニュース。 事件が起こったのは8月9日。友人と歩行中に交通違反で警官に呼び止められた彼が、 射殺されるに至ったプロセスは、警察側と目撃者で異なっており、本当に何が起こったのかは 現在捜査の段階。
でもマイケル・ブラウンが彼を呼び止めた警官から逃げようとしたことは ほぼ一致しており、彼が両手を揚げて武器を持っていないジェスチャーをしたにも関わらず、 数発の銃弾を受けて射殺されたというのが目撃者の証言。 これに対して警察側は、マイケル・ブラウンが警官を突き飛ばして逃げた後、隠し持っている武器に手を伸ばそうとしたと判断したために発砲したという説を展開。 加えてマイケル・ブラウンは同じ日の午後に、ストアからタバコを盗んでおり、その通報を受けていた警官が 彼の手に 盗まれたタバコが握られていたことから、彼がその事件の容疑者であることを悟っていたことも伝えられているのだった。

事件が大きく報じられて、市民の怒りを買ったため、警察側では暫し、マイケル・ブラウンを射殺 した警官の名前を公表せずに来たけれど、 週末になって報じられたところによれば、彼を射殺したのは、地元警察に6年勤続するダーレン・ウィルソン(28歳)で、 これまで懲戒処分を受けた記録等は無いとのこと。
いずれにしても、事件が報じられてからミズーリ州ファーガソンで起こったのが、市民による抗議活動であったけれど、 それがエスカレートして8月10日の夜に相次いだのが、抗議活動に便乗した略奪行為や、店舗損壊、放火といった 日ごろのフラストレーションを発散させているだけとも取れる犯罪行為なのだった。



これを受けて大きくエスカレートしたのが、警察側の武力対応。警察というよりも軍隊と呼ぶのが相応しい武器と装備は、 ミズーリ州の地方警察が市民の抗議活動に対応しているというよりも、パレスチナのガザ地区における軍事活動を見ているような規模。 実弾は使っていないとは言え、ゴムや木製の銃弾を込めた自動小銃、催涙ガスで抗議活動を 追い払う様子は、アメリカ中にショックを与えていたのだった。
ちなみに、アメリカの地方警察が近年、軍備を増強させている背景にあるのが、政府による ”1033”というプログラム。 これによって、地方警察が戦車のようなユーティリティ・トラックや暗視ゴーグル、ガスマスク等、軍隊同等の装備をするようになっており、 今では全米の地方警察がSWATチームの役割を兼ねるようになってきているのが実情。
この1033というプログラムでは、1年以内に購入した武器を使い切らなければならないという規定があり、そのせいで 地方警察は、これらを惜しげもなく使う風潮が高まっていることも指摘されているのだった。

さらにファーガソンの警察は、軍備だけでなく、抗議活動の取り締まりも大きく強化し、平和的な抗議活動をしていた人々や、 それを報じるジャーナリストまでもが逮捕される状況。 そんな ウクライナやガザ地区のような様相を呈したファーガソンの実態を受けて、 今週、マーサス・ヴィンヤードで休暇中だったオバマ大統領は、 緊急の記者会見を行い、「警察側は、合衆国憲法修正第一条で保証された権利(言論の自由)にしたがって、 平和的に抗議活動をする人々やそれを報じるジャーナリストに対して、武力を行使するべきではないこと。 市民も警察に対する暴力的な行為に及ぶべきでないこと。どんな理由があろうとも略奪や器物損壊行為は犯罪であること。」等を述べて、 沈静化を呼びかけていたのだった。

とは言っても、地元ファーガソンの市民と警察の不協和音は 昨日、今日に始まったことではない歴史的な人種背景に基づくもの。
そもそもミズーリ州ファーガソンは人口の67%、すなわち10人中約7人が黒人層であるものの、 市長も警察署長も白人。市議会のメンバー6人のうち、黒人はたった1人。教育委員会のメンバーに黒人は皆無。 警察官も多くが白人。
その一方で、警察による逮捕者の93%が黒人層というデータが出ており、黒人コミュニティでありながら、白人層が 自治体を牛耳っている背景には、黒人層の収入と教育レベルが低く、彼らが選挙で投票をしない状況が あると指摘されているのだった。






アメリカで黒人青年が射殺され、それが全米で大きく報じられる際は、必ずといって良いほど、 最初は黒人青年が無邪気なティーンエイジャーのように見える 写真が公開されて、将来を嘱望された若者のイメージが人々の同情を誘うのが常。 これは3年前にフロリダ州で ボランティア警官に射殺されたトレイヴォン・マーティン事件の際も同様で、 今回のマイケル・ブラウンにしても、最初に事件が報じられた際の 顔写真は、どう見ても警察に射殺される理由があるとは思えないルックスなのだった。(写真上、左2枚)
しかしながら、同事件の日の午後に 彼が店からタバコを略奪する様子を捕らえた防犯ビデオの映像は、 タバコを鷲掴みにして店から出て行く際に、それを止めようとした小柄な店主を 片手で掴んで、突き飛ばす大柄な身体と 凶暴な態度。果たして本当に彼が 100%犠牲者であるかは、定かでない印象を与えていたのだった。

地元の黒人コミュニティは、このビデオが公開されてからも マイケル・ブラウンの無実を信じる姿勢を崩していないけれど、 その理由の1つは、地元の黒人コミュニティが 現地の警察を全く信用していないため。
この混乱ぶりを受けて、同事件の捜査には 州と国政府が介入することを明らかにしている他、 特に司法解剖については、 国の機関によって行われることが既に明らかになっているのだった。

そんな中、専門家が 「同事件の一部始終を収めていたはず」と指摘するガジェットが、昨今、全米で数千人の警官が身につけているボディ・カム。
これは、ハイウェイ・パトロールが何年も前から導入しているダッシュ・カム(車のダッシュ・ボードに装着されたカメラのこと)を 警官に装着したバージョンで、言ってみれば 警官の任務中、ずっとビデオ撮影がオンになっているグーグル・グラスのようなもの。 これによって警官に不正行為があれば、それが捉えられるし、逆に警官が何もしていなのに 不正行為を責められた場合には、 その映像が動かぬ証拠となって、 無罪が立証されるので、警察側にしてみれば、無駄な裁判費用が節約できるというメリットもあるのだった。
ミズーリ州もこのボディ・カムを導入しているだけに、そのビデオと、音声で事件の全容が分かる可能性は高いけれど、 警察側は、グーグル・グラス同様、ビデオ公開とプライバシーの法的な問題で、未だ試行錯誤を繰り返している段階と言われているのだった。

ところで、アメリカにおける警官による発砲の法的ガイドラインがどうなっているかと言えば、警官の発砲が 合法とされるケースは2つあって、1つは正当防衛、すなわち自分の身を守る目的と、罪の無い第三者の命を守る目的である場合。 もう1つは 凶悪犯の逃亡を妨げる目的での発砲。 すなわち 凶悪犯の逃亡によって、市民の安全が脅かされると判断される場合で、この場合の発砲では、 相手が指名手配中の凶悪犯であったり、危険な武器を所持している等、警官側に 相手を危険人物と見なす確固たる根拠が要求されるのだった。
アメリカの警官による発砲の殆どは、正当防衛であるけれど、「相手が武器を持っていると勘違いした」程度でも 正当防衛として罪を問われないのが これまでのアメリカの歴史。 これは一般市民による発砲の場合でも、無罪放免になるのが普通。
そしてそんな判例を支える母体となっているのが、アメリカの銃社会をここまで大きく、根深くしてきた アメリカン・ライフル・アソシエーションなのだった。

実は、ニューヨークでも7月にタバコの違法販売を路上で行っていたスタッテン・アイランドの男性が、逮捕を拒んで 取り押さえられた際、 警察で禁じられている”チョーク・ホールド” という首を締めながらの押さえ込みが行われた結果、死亡するという事件が起こったばかり。 このため、ニューヨークでも警官による蛮行の取り締まりを強化する声が高まっていたけれど、ニューヨークの事件と、 ミズーリ州ファーガソンの事件の大きな違いはそこに銃が絡んでいるということ。
ニューヨークのように警官が首を抑えて、容疑者男性が呼吸困難に陥って死亡した事件では、警察の責任を問うことが出来ても、 ミズーリ州ファーガソンのように、警官が正当防衛を主張して発砲した場合は、どんなに市民が抗議活動をしたところで、 アメリカン・ライフル・アソシエーションが築いてきた米国の銃社会というものに押し潰されてしまうのがシナリオ。 そのことは、罪も無い幼い子供やティーンエイジャーが 学校で何人射殺されようと、銃規制が一向に進まない状況にも現れていると思うのだった。




その一方で、今週のアメリカでもう1つの大きな報道になっていたのが、俳優ロビン・ウィリアムス自殺のニュース。
TV俳優から映画俳優に転じた彼は、マット・デイモン&ベン・アフレックの出世作で、彼らが主演&脚本を務めた 「グッド・ウィル・ハンティング」でオスカーの助演男優賞を受賞。
それだけでなく、イーサン・ホークの出世作である「デッド・ポエット・ソサエティ」や、「ミセス・ダウト」、ディズニーのアニメ「アラジン」の声の出演など、 サクセスフルなキャリアを歩んできた存在であるけれど、過去6〜7年はヒット作が無かったことも指摘されていた存在。 そんな彼は、一時は総資産150億円と言われたものの、離婚した妻への慰謝料、子供達への信用ファンドの支払いに追われて、 破産寸前になっていたことも伝えられており、また週末には彼の妻の証言で初期のパーキンソン病を患っていたことも 明らかになっているのだった。

私はロビン・ウィリアムス死去のニュースを友達とディナーをしている最中に知ったけれど、 正直なところ、死去が突然であったという意味では驚いたけれど、彼が自殺を図ったこと自体には あまり驚かなかったのだった。
というのも、私の目から見た近年のロビン・ウィリアムスは、トークショー出演の際も、 映画のプレス・インタビューの際も、 「何処かおかしいのでは?」と思うほどにハイパーで、トークショーのホストやインタビュアーとの会話がまともに成立せず、 彼が1人でハシャいで、訳の分からないギャグを飛ばし続けている状態ばかり。そのギャグも、 助けを求めているような 痛々しさがあって、見ていると 疲れてしまうので、私は少し前からロビン・ウィリアムスがTVに出てくると、 努めてチャンネルを替えたり、TVのスイッチをオフにするようになっていたのだった。

過去に、自殺を図ったコメディアンの多くも、彼のようなハイパーなギャグで、うつ病を隠しているケースが多かったといわれるけれど、 ロビン・ウィリアムス同様、ハイパーなコメディ・スタイルで知られたのがジム・キャリー。 その彼も、やはりうつ病で、ヒット作が出なくなってからは自殺願望にかられて、ハリウッドを遠ざかっていたことが伝えられているのだった。

とは言っても うつ病はハイパーなコメディアンの病ではなく、アメリカ社会の病。今や うつ病による自殺者は13分に1人の割合となっており、 交通事故よりも 年間の死者数が多いという社会問題。 かつては、日本社会の自殺者の多さが世界中で話題になった時期があったけれど、 アメリカ社会で自殺者が増えてきたのは、やはり2008年のファイナンシャル・クライシス以降のこと。
したがって経済状態の悪化と、精神的な落ち込み、自殺の増加に いかに深い関わりがあるかを 改めて 感じさせる状況になっているのだった。




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執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。




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