Aug. 14 〜 Aug. 21 2016

”Ugry American or White Trash?”
アグリー・アメリカン、ライアン・ロクティが受ける制裁は?!



私がこのコラムを書いている8月21日、日曜日にリオ・オリンピックが閉幕したけれど、 今週のアメリカで最も報道時間が割かれていたのは、アメリカの歴代オリンピアンの中で マイケル・フェルプスに次ぐ12個のメダルを獲得している水泳のライアン・ロクティが、 先週末に彼のチームメイト3人と出掛けたパーティーの帰りに 警官を装った強盗に現金と財布を盗まれたと証言していた事件が、 実は嘘であったというニュース。
既に世界中で大きく報じられているこのニュースが 報じられるきっかけになったのは、ライアン・ロクティの母親が プレスに対して事件のことを明かしたためで、先週土曜日にNBCのインタビュー応えたロクティは、 彼を含むアメリカ水泳チームの4人が パーティーからタクシーで選手村に戻る途中で警官を装った犯人に車を止められ、 銃を突きつけられ、ロクティを除く3人は地面にうつ伏せにさせられ、それを拒んだロクティも頭に銃を突きつけられて、 現金と財布を盗まれたという詳細を語っていたのだった。

ところがその後 メディアが入手した選手村のセキュリティ・チェックポイントの警備カメラの映像では、 4人が銃を突きつけられての強盗に遭ったとは思えないリラックスした様子であったのに加えて、 そのうちの2人が盗まれたはずの財布と思しきものを手にもっていたことから、 警察が事件の現場となったと言われるガソリン・スタンドの映像を入手。 ほどなくロクティが語っていた内容とは全く異なるビデオ映像がメディアに公開されたけれど、 この時点で ロクティは、警察からの出国差し止めの通達を無視して 既に米国に帰国しており、 引き続きメディアに対して 「強盗事件に遭ったのは事実」と 詳細をひるがえしながらも ウソの証言を続けていたのだった。 





彼と一緒にその場に居たティームメイトのジャック・コンガーとグンナー・ベンツ(写真上右)は出国を試みた空港の機内から、 警察によって身柄を拘束され、事情聴取を受けることとなり、その結果明らかになったのが、 4人が酔っ払っていたこと、ガソリン・スタンドのトイレに器物損壊の被害を与え、 それを察知したスタンドのセキュリティ・ガードに足止めをされたこと、 その場に居合わせた男性がポルトガル語を英語に通訳してくれた結果、被害の代金として約50ドルを支払って その場を離れることを許されたという事実。加えて4人の中で最も酔っ払っていたのがロクティで、 彼がトイレの壁のサイン(標識)を破損したことも明らかになっているのだった。

しかしながら、ロクティは弁護士を通じて、ガソリン・スタンドのセキュリティ・カメラの映像に3分のブランクがあることを弁護士を通じて指摘し、 その間に銃を突きつけられていと弁明し続けたものの、今週末に応じたNBCとのインタビューでは、 オリンピック期間中の白髪をナチュラル・カラーのブラウンに染め直して登場し、 「言葉が通じない外国で銃を突きつけられて、キャッシュを要求されたので、それを強盗と大袈裟に言い過ぎた」、 「酔っ払って大人げない行動を取った」と、目を涙で潤ませながら謝罪をしたけれど、 ソーシャル・メディア上のリアクションは、これを”演技”、”言い訳”と決めつける厳しいもので、 「ロクティを永遠にオリンピックから追放するべき」との声が聞かれている一方で、 USオリンピック委員会もアメリカ選手団全体の名誉を傷つけたロクティ、及び3人のティームメイトに対する処分を検討中であることをコメントしているのだった。

4人のうち最後にブラジルを離れたジミー・フェイガンは、パスポートを押収され、 ペナルティとしてブラジルのチャリティに日本円にして約110万円を支払うという交換条件で アメリカへの帰国が許されたけれど、 ブラジルの警察署長がこの金額を4倍にしようとした時には、既に彼が出国した後だったとのこと。
アメリカ国内における同事件の批判は、ロクティに集中しており、「嘘つき」、「アグリー・アメリカン(外国で態度の悪さを露呈するアメリカ人を形容する際に用いられる表現)」といったヘッドラインが見られたけれど、それというのは 同事件の虚偽の証言を中心になって繰り広げたのがロクティであるため。 その彼はインタビューで ウソをついた理由について「酔っ払っていたので、自分でも思い出せない」と語っているけれど、メディアやソーシャル・メディアの中には 4人がそれぞれガールフレンドが居る立場でありながら、 事件の夜に現地で出会った2人の女性と一緒であったことに加えて、 ロクティがアルコールだけでなく ドラッグでもハイになっていたことを指摘する声もあり、 それらの後ろめたい要素がウソの原因になっていたとも言われているのだった。




この事件の報道やブラジル側の対応をめぐっては、「白人でルックスが良い有名アスリートのトラブルには甘い」との批判も多く、 ロクティや彼を擁護する報道を行った白人レポーターを「ホワイト・トラッシュ」呼ばわりする声がソーシャル・メディア上には多いけれど、 ロクティにとって今回の事件の最大の制裁となるのは、オリンピック委員会が決める処罰ではなく、 事件によるイメージダウンでスポンサーが離れてしまうこと。
個人資産約3億円と言われるライアン・ロクティであるけれど、水泳は競技からの収入が極めて少ないため、 広告出演や本の執筆、モチベーション・スピーカーなどの収入で財産を築かなければならないのが実情。 中でも最大の収入源となるのが広告出演で、リオ・オリンピックに際して 彼がポロ・ラルフ・ローレン、マリオット・ホテル、スピードなどから 受け取った広告出演料は1億円。 しかしながら事件で彼のイメージが大きくダウンしたことを受けて、 メディアは ロクティが 数億円の広告出演料を逃したと指摘しているのだった。
ちなみにロクティは、ロンドン・オリンピック際にマイケル・フェルプスを降してゴールド・メダルを獲得し、そのルックスの良さで話題を集めたことから、 ティーン・ドラマへのゲスト出演が決まり、その後 ABCのリアリティTV「バチェラー」にキャストされる話も浮上していたけれど、 実際に番組出演をした彼の演技が下手で、好感度に乏しかったことから、その俳優業、TVタレント業への道はあっけなく閉ざされているのだった。

ロクティの事件以外にも、今週はオーストラリアの選手9人がオーストラリアVS.セルビアの男子バスケットボールの試合を良い席で観るために、 入場パスを改ざんして身柄を拘束されたり、女子水泳10キロのレースでフランスのスイマーが彼女と競っていたイタリア選手の頭を沈める妨害をして 銀メダルをはく奪されるなど、オリンピック・スピリッツやスポーツマンシップとはかけ離れたアスリートの姿も見せられたのが今回のオリンピック。
また今大会ではマクドナルドがオリンピック・スポンサーになって以来初めて、無料でフードを提供している選手村の店舗で、 期間中に1人当たりがオーダーできるアイテム数が制限されたけれど、これは常に80〜100メートルの行列が出来ていて、 「2時間前後並ばないと食事ができない」というクレームを受けてのもの。 でも決してマクドナルドがケチっていた訳ではなく、1人当たりの購入制限は20アイテムまでという太っ腹ぶり。 要するにオリンピアンがいかにマクドナルドで尋常ではない量のフードをオーダーしていたかということだけれど、 この理由の1つとして 多くのアスリートが指摘していたのは、選手村のカフェテリアのフードが美味しくないということなのだった。




今回のオリンピックでは、前回のロンドン大会で通常メディアと肩を並べる発信ソースとなったソーシャル・メディアの存在が益々大きくなっており、 選手のマナーから、ホスト国のブラジルへの疑問に至るまで、様々な意見や指摘が世界各国で飛び交っていたけれど、 そんなソーシャル・メディアが生み出した今回のオリンピックのスターの1人が、開会式で身体にオイルを塗ってトンガの騎手を務めたピタ・ピタ・タウファトトゥファ。
トンガ王国は彼をオリンピックに送り出すために、人々が寄付を寄せたことが伝えらえているけれど、 今やソーシャル・メディア上のスターになった彼の呼びかけに応じて、トンガにモダンなジムを建設するための資金が世界中から寄付されているのだった。
ちなみに、オリンピック期間中に最もソーシャル・メディア上でバズを生み出したポストのトップ3は、 いずれもアメリカ女子体操チームの憧れの俳優、ザック・エフロンが彼女らを訪ねた際のもの(写真左)となっていたのだった。

そうかと思えばオリンピック報道における女性軽視がソーシャル・メディアを通じて、これまでになく問題視されたのが今回のオリンピック。
アメリカの女子射撃選手で、夫がNFLシカゴ・ベアーズに所属する コーリー・コデル・アーラインが銅メダルを獲得したのを受けて、 シカゴ・トリビューン紙が発信したのが「ベアーズのラインマンの妻が銅メダルを獲得!」というツイート。 これに対して、「彼女の夫の事なんてどうでも良い!選手本人の名前を掲載しろ!」と、メダリストである本人を称える報道ではなく、 オリンピックとは無関係のスポーツ選手である夫についてのニュースになったことへの抗議が怒涛のように寄せられ、 程なくトリビューン紙は謝罪をツイートしているのだった。
それに次いでNBCのアナウンサーはハンガリーの女子スイマー、カリンカ・ホスズが金メダルを獲得した際、 コーチである夫が喜ぶ姿が映し出された途端に「彼女の金メダル獲得の真の立役者!」と本人をそっちのけで 夫を讃えたことから、 やはりソーシャル・メディア上に溢れたのが「何故女性が金メダルを獲得すると、それが夫の手柄になるのか?」といった苦情の数々。 NBCのアナウンサーは、「コーチである夫の貢献は無視できない」と釈明していたものの、オリンピック、及びスポーツの報道においては、 女性の功績を軽視する傾向が否めないことは、ニューヨーク・タイムズ紙の記事でも指摘されていたこと。
事実、男性アスリートを語る際には 強さ、速さ、身体の大きさなどにフォーカスされるのに対して、 女性アスリートについてアナウンサーやコメンテーターが語る際は年齢、既婚であるか、子供が居るか居ないか、 顔の表情などにフォーカスされることが 報道を分析した専門家から指摘されているのだった。

そんな女子スポーツを軽視するメディア批判が聞かれても当然なのは、今回のリオ・オリンピックでは アメリカの女性アスリートの参加数が男性を上回っているだけでなく、メダルの獲得数も女性アスリートが男性を大きく上回っているため。 特にアメリカの女性アスリートの金メダルの獲得数は、国別メダル獲得数がアメリカに次ぐ第二位である中国が獲得したゴールド・メダルの数とタイになっているのだった。
ところでアメリカにおいて オリンピックは、大学同士のメダル獲得争いの場でもあるけれど、 リオ大会で目覚ましい活躍を見せたのがミシガン州立大学。同大学の卒業生&在学生が今回獲得したメダルは 8月20日の時点で金メダル10個を含む15個。参加国のうちの190ヵ国を上回るメダル獲得数となっているのだった。

4年後に控えた東京オリンピックの際には、今回以上にメディアの報道やアスリートの素行やマナー、 ホスト国の日本が、 さまざまな角度からソーシャル・メディアで話題にされることが見込まれるけれど、 日本の場合、食べ物は美味しいし、街が清潔で、人々が外国人に対して親切なので、街のナビゲーションの難しさと 公共交通機関の乗り換えの難しさを除けば、ホスト国として批判される心配はそれほど無いのが実際のところ。
でもNBCのアナウンサーのように、意図せずしてセクシスト、レイシストと受け取られるような カルチャーの違いを露呈しないように願うばかりなのと、 ライアン・ロクティのような嘘つきアスリートの狂言事件が起こった場合は、セキュリティ・カメラの映像をノー・カットでメディアに公開するべきだと思うのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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