Aug. 22 〜 Aug. 28 2005




デトックス・パラドックス



アメリカでは、通常一般の人々がダイエットに励むのは、新年明け早々、そしてビーチの季節が近づいてくる 5月、6月と相場が決まっているけれど、私にとって1年のうちで、ダイエットの必要性を感じる時期があるとすれば、それは夏の終わりである。 
というのも秋を迎えるに当たって、セーターを着て、ジャケットを着て・・・と、服の重ね着をしていくと、 どうしても気になってくるのが身体に付いた脂肪なのである。
だから8月に入って、秋物のショッピングを考え始めてからというもの、鏡を見る度に感じていたのがダイエットの必要性だったのである。
しかも それを立証するかのような出来事が起こったのが、先週、レザーの手袋を見るためにプラダ・ブティックに立ち寄った際のこと。 お目当てのロング丈の手袋を見つけた私は、早速つけてみようとしたけれど、手首から15cm上まで入れたところで、 手袋が細過ぎると同時に、私の腕が太くて入らないことに気が付いたのである。
ところが、寄ってきたセールス・パーソンは 「諦めるのは早過ぎる」とばかりに、明らかに入らないと分かっている手袋を必死に引っ張り上げてくれようとするので、 こちらは「ライポサクション(脂肪吸引)でもしない限り、こんなに細い手袋、絶対に入らない!」と言いながら、それを必死で阻止することになってしまったけれど、 5メートルほど離れたところでは、別のセールス・パーソンが 私たちのやり取りを見ながら、笑いを噛み殺す様子が見られたのである。 結局、手袋はそれより大きめのサイズが入荷したところで電話をしてもらえることになったので、ダイエットをしなくても手袋が 腕に入ることは確実になったけれど、あの笑いを噛み殺していたセールス・パーソンの顔を思い出すにつけて、 やっぱり私はダイエットをしなければ・・・と考えるようになったのである。

私が、毎回ダイエットをスタートするにあたって先ず やる事といえば、周囲にダイエットを宣言することであるけれど、 今回、CUBE New Yorkのスタッフや友人にその旨伝えたところ、決まって返って来た質問が「どうやって痩せるの?」というもの。 考えてみれば、今やダイエットをするとなると、何らかのメソッド(手法)に従って行うものというのが 常識化しており、 ただ食べ物を減らすにも、カロリー計算をして「1日何カロリーに抑える」 といったルールを設けなくては、世間ではシリアスなダイエットと 見なしてもらえない時代になっているのである。
そこで、「どうやって痩せるか?」について、友人と相談している最中に気が付いたのが、 現在の私の体調が 「張り切ってダイエットに取り組むほど 良好とは言い難い」ということだった。 というのも、このところ疲れ目と それから来る視力の低下が進み、 その一方で7月末からは生まれて初めて、数回に渡って蕁麻疹が出てしまい、身体は疲れ易いし、集中力も散漫という状態だったのである。
すると、私の症状を聞いた友人が指摘してきたのが、「アーユルベータのドーシャのバランスが崩れているのでは?」ということ。 私も90年代の半ばから数年間、アーユルベーダに凝っていた時期があったけれど、その友人は2年前にヨガを始めてからというもの、 アーユルベーダの信者になっており、食べ物からライフスタイルに至るまで、アーユルベーダの影響を強く受けていたのである。

アーユルベーダとは5000年の歴史を持つインド伝統医学で、 人間を、ヴァータ、ピタ、カパという大きく3つのドーシャに分けて、それに即した食事、スキンケア、ライフスタイルで、 心と身体のバランスを保って、健康を維持していくというもの。
ヴァータは、風(Air)を意味するドーシャで、性格的には繊細で心配性、覚えも早いけれど、忘れるのも早く、冷え性、乾燥肌、エイジングと共に細かいシワが出来易い。体系的には細身、長身が多く、身体の機能では聴覚、触覚をつかさどるもの。
一方、ピタは火(Fire)を意味し、感情の起伏が激しく、記憶力が良く、自信家。 肌質は敏感肌、もしくは混合肌で、体系的には中肉中背。身体の機能では視覚をつかさどるドーシャ。
最後のカパは、地(Earth)を意味するドーシャで、性格的には寛容、引っ込み思案。スロー・スターターであっても持続力があり、体質は脂性の冷え性。 体系的には、太め、もしくは大柄で、身体の機能としては味覚、嗅覚をつかさどるものである。

もちろん全ての人間は、この3つのドーシャ 全てを持ち合わせているけれど、 そのうちのどれを 最も強く持ち合わせているか?で診断されるのがアーユルベーダである。
これを正確に調べるには200問くらいの質問に答えて、体質や人間性を分析しなければならないけれど、 この診断によると私はピタ、すなわち火のドーシャを最も強く持っているのである。 ピタの人は通常体温が高く、夏の暑い気候の下ではドーシャが強くなり過ぎるため、身体のバランスを崩す場合があると言われており、 ピタが強くなり過ぎて起こる問題といえば、胃酸過多、胃潰瘍、疲れ目、アレルギー、発疹等。 すなわち、私の疲れ目、発疹の症状は見事にこれに当てはまるものなのである。

こうしたドーシャのアンバランスを防ぐために、ピタの人は夏はサラダのように身体を冷やす食べ物、 色で言えば緑黄野菜を多めに摂取することや、 寒色の服の着用が奨励されるけれど、これに対して私はと言えば、 マニキュアもペディキュアもピタのドーシャを高めるレッド。モーターサイクル・バッグもレッドを買ってしまったし、 自宅で食事をする時は、サラダを食べるようにはしているものの、赤キャベツとレッド・ペッパー(赤ピーマン)のサラダや、 トマトのサラダ等、赤い野菜が多く、フルーツもこの夏は 真っ赤なホワイト・ネクタリンばかりを食べていた。さらに、着る服やシューズもレッドが多く、 家の中にも赤い物が多いし、寝る前はレッド・ワインをナイト・キャップにする等、 ただでさえピタのドーシャが高まる夏に、さらにそれを高めるような行為をしてきたことは事実なのである。

果たしてアーユルベーダのドーシャのアンバランスが、本当に私の体調不良の原因であるかどうかは 実際には分からないけれど、 自分で確実に感じられるのは、身体に毒素が溜まっているということ。 そこで、「ダイエットよりも身体の浄化が先決」と方針を変更して、久々に取り出して読み始めたのがアーユルベーダの分厚い本である。
今や日本でもかなり「デトックス (Detox)」が話題になって久しいけれど、デトックス、クレンジング(Cleansing)、ピュアリフィケーション(Purification) といった身体の浄化のアイデアの基本になっているのは、他ならぬアーユルベーダである。
私は、かつてこのコーナーにも書いた通り、アーユルベーダのクレンジング・ダイエットをしたことがあって、 バスマティ・ライスとグースマング・ビーンで作ったいわゆる「豆ご飯」だけを1日3回、1週間に渡って食べ続けるこのダイエットは、 10日間の断食より苦しかったのを良く覚えていたりする。 この豆ご飯には塩を使うことが許されず、クミン、カーダモン、ブラック・ペッパーといったスパイスで味付けをしなければならなかったけれど、 実際に作ってみると 不味くて食べられたものではなかったので、2日目からは塩を使ってしまうことになった。 でもこの1週間が終わった時点で、肌に透明感と血色の良さ、そして輝くようなツヤや張りが出てきて、 何年かぶりに自分の肌にうっとりしたものだったけれど、それと同時に身体の浄化がいかに大変なことかを悟らされたダイエットだったのである。

アーユルベーダの本に寄れば、人間の身体にトキシック(毒素)が残っている限り、身体は本来の機能を100%果たす事が出来ず、 エイジングを促進してしまうのだそうで、私が以前行ったようなクレンジング・ダイエットは季節の変わり目に行う程度で良いけれど、 デトックスについては、ヴァータのドーシャの人で月に1〜3日、ピタの人で1〜4日、ヴァータの人で1〜5日行わなければならないという。
良くサロンでボディ・ラップをしてもらって汗をたっぷりかくのをデトックスだと思い込んでいる人が居るけれど、 これはピタの人には逆効果であると同時に、身体の中側の毒素を取り除く効果は無いのだそうで、 本格的なデトックスはやはり食事療法をしなければならないことになる。
デトックスで食べていけないものというのは、一般の人が日常食べているほぼ全ての食べ物で、 炭水化物、脂肪分がダメなのはもちろん、乳製品、フルーツ、糖分のある野菜、塩、ナッツ、アルコール、コーヒーを始めとするカフェインを含むもの等。 逆に摂取が許されているのはハーブ・ティー(ジンジャー、カーダモン、シナモン・ティー等)、水、甘くないフルーツ、ゆでた野菜(カリフラワー、ブロッコリ、 ほうれん草等、1日半カップが限度)、そしてキチャディと呼ばれる、私が以前クレンジングの際に毎日食べていた豆ご飯である。
この他デトックスの期間中は、瞑想をしたり、読書、入浴、ヨガ等に時間を割いて、リラックスすることが奨励されており、 仕事を休み、TVやコンピューター、携帯電話の使用を控え、睡眠を十分取ることが義務付けられているのである。
そして一度 デトックスが終了すると、今度はその状態を持続するために、トキシック・フード、すなわち身体のエネルギーを損なわせる 食べ物を一切避けなければいけないことになる。 通常、アーユルベーダの世界で、トキシック・フード、ライフレス(Lifeless)・フードと見なされるのは、冷凍食品、缶詰、保存料、着色料など薬品を使った食品、 遺伝子組み換え技術が用いられた食品、揚げ物、動物性脂肪、調理してから1日以上が経過した食品等であるけれど、 こちらはそれほど日常生活に不便をもたらすほど難しいリストではなかったりする。

なので、私は 「先ずは3日ほどのデトックス・ダイエットを!」と考えていたけれど、 私だけでなく、誰にとっても、デトックスの食事療法と同じくらい難しいのが、仕事やメディアをシャットアウトしてリラックスすることである。 真剣にデトックスを行う人は、このためにわざわざ郊外のスパに出向いて、自分を通常の環境から隔離する場合も少なくないけれど、 私の場合、やはり3日間も働かないというのは、まずは不可能な事で、 働けば、ストレスが仕事と一緒にやってきて、デトックスで毒素を吐き出そうとしている傍から、 毒素を溜め込むことになるのは目に見えているのである。
加えて、デトックスのためとは言え、また あの不味い豆ご飯を食べることになるのも、考えただけでストレスになることで、 こんな状態では、デトックス自体もストレスの原因になりかねないのである。
結局のところ、デトックスというのはダイエットの下準備には最適なものであるし、 現代人にとっては定期的に行うに越したことは無いものではあるけれど、それを実行するだけの生活のゆとりや精神的余裕がある人だったら、 身体にそれほどのトキシックを溜め込んではいないだろう というのが、私の個人的な推測である。
すなわち、本当に必要な人ほど実行に至ることが出来ず、さほど必要のない人ほど実行しているというのがデトックスなのである。



Catch of the Week No.3 Aug. : 8月 第3週


Catch of the Week No.2 Aug. : 8月 第2週


Catch of the Week No.1 Aug. : 8月 第1週


Catch of the Week No.5 July : 7月 第5週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。