Aug. 20 〜 Aug. 27 2007
” 違法と合法のファジー・ライン ”
今週のニューヨークと言えば、週明けから 「寒い」 という日が続いて、週日は長袖を着て その上からジャケットを羽織っているような毎日だった。
でも考えてみれば、明日8月27日からは ニューヨークに秋の到来を告げるイベント、全米オープン・テニスもスタートする訳で、
そろそろ秋を感じても良い季節。
実際、今週の木曜にサックス・フィフス・アベニューの巨大なシューズ・セクションに出かけたところ、秋からの必需品、
ブーツやブーティーを購入している人が非常に多く見られたのだった。
さて、今週は先週に比べると大きな出来事やニュースも少なく、落ち着いた週であったけれど、その中での
大ニュースとして報じられていたのが、ニュージャージーに住む17歳の少年、ジョージ・ホッツ (写真右) が、6月29日に発売されたばかりの
アップルの アイフォンのコード・ハッキングに成功したというニュース。
これが何を意味するかと言うと、アメリカではアップルと電話会社AT&Tが アイフォンに関して 向こう5年間の独占契約を結んでおり、
アイフォンを使いたければ、携帯電話会社をAT&Tに変更しなければならなかったのである。
ところが、ホッツ少年が AT&Tのワイヤレス・ネットワークからアイフォンを アンロック(コード解除)したことにより、
どの電話会社でも使えるアイフォンが誕生してしまったという訳である。
現在彼がクリエイトした、”アイマニアック”と呼ばれる アイフォンはEベイで オークションに出されており、3000ドルからスタートした
落札価格は、50人を超える落札希望者が競り合い、既に1万ドル(115万円)を付けているという。
アップルやAT&Tの関係者にとってショッキングなのは、僅か17歳の少年が、「Just For Fun / ちょっと面白かったら」という
短絡的な理由で、しかもその開発時間に比べると遥かに短い500時間でアンロックに成功してしまったということ。
さらに アップルとAT&Tにとって面白くないことは、市販されている携帯電話をアンロックしたところで、
それが決して違法行為ではないことである。
既に一部のメディアでは、このジョージ・ホッツ少年のハッキングが 今後の携帯電話ビジネスに大きな影響を与えるであろうと
予測しているけれど、少年によれば アンロックを実現するまでの段階で、
インターネット上の 数人が彼をサポートしてくれたとのことで、そのうち2人はロシア、そして2人はアメリカ人であったという。
彼の次なるステップは、アンロックを個人が簡単に行えるようなソフトウェアを開発することだそうで、
もしこれが実現すると 現在のアメリカの携帯電話にありがちな、電話会社によって電話の機種が制限される、もしくは電話の機種で電話会社が
制限されるといった 面倒から消費者が開放されることになるのである。
でもこのケースで興味深いと言えるのは、企業に多大なダメージを与えかねないハッキングが合法で、
ホッツ少年がセレブリティのようにメディアに登場出来てしまうこと。
そして彼のハッキングが、多くの消費者に利益をもたらす可能性さえあるということである。
このニュースが報じられたのが金曜の午後とあって、アップル、AT&Tは共に、同件については未だコメントを控えているけれど、
こうしたテクノロジーが絡むビジネスの難しい点は、大金を投じてハイ・セキュリティのシステムを開発すればするほど、
ホッツ少年のような大人のエンジニアとは既に頭の構造からして違う 若くマニアックな人々が 趣味や遊びで
ハッキングを行いたがるという点。
アップルが AT&Tとの5年の独占契約で それなりの利益を上げていたとしても、
それが発売2ヶ月未満でアンロックされたことで、今後 新しいテクノロジーが同様の独占契約で登場する可能性は
激減することさえ見込まれているのである。
さて、このハッキングは 「違法に見える行為が合法」 なケースだけれど、
今週のニューヨークでもう1つ話題になっていたのが、「違法に見える行為が合法」 だったために これを違法とする
法案が提出されたというニュース。
その行為が何かといえば、「覗き」。 アメリカでは覗き魔のことを俗語で 「Peeping Tom / ピーピン・トム」と言うけれど、
今週制定されたのが ピーピン・トム法案である。
この法案のきっかけとなったのが、地下鉄駅の階段下に居座って、階段を下りてくる女性のスカートの中を
覗き続けていた男性を法によって取り締まって欲しい という女性達からの嘆願が クイーンズのピーター・ヴァロン議員に
寄せられたため。
たまたまこの現場が議員のオフィスの直ぐ傍で、彼のオフィスに勤める女性からも苦情を受けていたために、ヴァロン議員は
一度は警察を呼んだというけれど、「男性が階段の下から スカートの中を見上げているだけでは、法を犯していることにはならないので、
どんなに苦情が出ていても 逮捕出来ない」 と言われてしまったという。
実際に これまでのニューヨークには、覗き を取り締まる法律は存在しておらず、唯一逮捕できるのが
覗くだけでなく、デジタル・カメラやビデオ・カメラで撮影していた場合のみ。
したがって極端な話、女性のロッカー・ルームや女子トイレにドリルで穴を開けて、覗いていても 画像や映像に収めない限りは
犯罪にはならなかったという訳である。でもこの場合、他人の家や店舗などの壁に穴を開ければ、
器物損壊の罪には問われるのは当然のことである。
いずれにしても この覗きという行為が、視線によって人々のプライバシーを侵害し、精神的な不愉快や苦痛を与えるにも関わらず
野放し状態であることに着眼したヴァロン議員は、現行法を様々な角度から検討した結果、
トイレや着替えの際、自宅のベッドルームなどプライバシーが保たれているべき状況に対する覗き行為、
もしくは 法案の原因になった男性のように、同じ場所で覗き目的で居座るような行為を取り締まるために、
今回の法案を制定したという。
この法を犯せば90日の禁固刑と500ドルの罰金という 厳しいペナルティが科せられるけれど、
もちろんビーチで、ビキニ姿、トップレスで日に焼いている女性を凝視したところで 覗きには当たらないし、
ストリートで 風でスカートがめくれた女性を眺めていたところで 罪に問われることは無いのは言うまでもないこと。
この法案の提出によって、 たとえ悪質であっても 覗きを犯罪として取り締まることが出来ないことを
初めて知ったニューヨークの女性は多かったけれど、同法案を支持する女性が多い一方で、
一部には市民の行動を規制する法律が増えるのは歓迎できないという意見も多かったりする。
私は個人的には この法案支持派で、理由は カメラで画像や映像に収める覗きと、肉眼の覗きが同じように悪質だと考えるからである。
私は記憶力が良いせいもあって、美しい景色や、迫力ある芸術などを見ると、カメラにも収めるけれど、出来るだけ自分の肉眼で
眺めてそれを鮮明に記憶に留めようとするのである。その結果、脳裏に焼きついた映像の方が素晴らしくて、
カメラに収めた映像を後から見て興醒めしてしまうことも少なくないのである。
すなわち、レンズを通じて眺めるよりも肉眼で眺める方が、脳へのインパクトは遥かに強い訳で、
そのインパクトはプリント・アウトしたり、インターネットのサイトに載せることは出来ないけれど、
CDで聴く音楽とライブ・コンサートの違い同様、肉眼で覗いている人々は それなりのエキサイトメントを味わっているはずなのである。
加えて女性にしてみれば、見ず知らずの男性に性欲に駆られた視線で眺められるほど不愉快で、不気味なことは無い訳で、
カメラに収めていなければ犯罪ではないというのは、私にしてみれば筋違いに思えることなのである。
でもアメリカは 同じ行為でも カメラ等の ディバイスが絡んだ途端に イリーガル(違法)になる場合は少なくないのも事実である。
以前テレビを見ていた際、警察に寄せられたどうしようもない通報の数々が特集されていたけれど、
その中に登場したのが、「隣のアパートのカップルがセックスをし続けていて うるさい。」 というもの。
警察のオペレーターが 「セックスをし続けるのは違法行為じゃないから取り締まれない」 というと、
「でも1日中しているんですよ。」 と通報者。 「1日中セックスをしていて、そのノイズがうるさくても それは合法だから・・・。
もし 彼らがマイクロフォンを使っていたら、それは違法だから取り締まれるけれど・・・」 というのがそのやり取りで、
番組では観客の爆笑を誘っていたのだった。
でもふと考えると、確かにニューヨークでも 個人が聴いている音楽がうるさかったり、
カラオケやバーのノイズがうるさいなど、マイクやスピーカーなどのディバイスが絡むノイズはのは警察に通報できるし、罰金の対象になるけれど、
人の肉声がうるさい場合 ドメスティック・バイオレンスだと見なされるようなケース以外、すなわち 「セックスの声がうるさい」 というのでは 通報など出来ないのである。
こうしていろいろ考えると、違法と合法というのは 非常に微妙なものであるけれど、
そもそも法律というものは、悪人を罰する以前に善良な市民を守るために制定されるもの。
その善良な市民の自由や権利を守ろうとすると、結果的に 悪人が法によってプロテクトされてしまうことは
珍しくないけれど、法の下では人々が平等でなければならないことを考えると、それも止むを得ない場合は多いのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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