Aug. 22 〜 Aug. 28 2016

”Who's Pulling Strings of President?”
裏で糸を引く人&企業のための大統領選挙!?



今週のアメリカで最大の報道になっていたのが、食品アレルギーを持つ4300万人のアメリカ人の命綱と言われるプロダクト、 ”EpiPen/エピペン” の価格が大きく跳ね上がったニュース。
エピペンは、アレルギー症状をリバースするカンフル剤で、薬品自体の生産コストは1ユニット当たり1ドルもしないものの、 注射器を使うことなく、安全に誰にでも投与できるペンスタイルの容器が支持されて市場を独占してきたプロダクト。 2007年には90ドルであったこのプロダクトが 10年後の2016年には600ドルとなり、しかも同プロダクトには有効期限があるため、使用しなくても買い替えが必要であることから、 保険でカバーされたとしても アレルギー症の子供を複数抱える親達にとっては かなりの経済的負担となることが大報道になっていたのが今週。
加えて人々の顰蹙を買ったのがエピペンの製造販売元、マイラン社の女性CEO、ヘザー・ブレッシュ(写真上左)のサラリーが、2007年の250万ドル(約2.5億円)から 昨年2015年には1890万ドル(約18.9億円)へと、エピペンの価格同様の上昇を見せていたこと。 この猛批判を受けて、ヘザー・ブラッシュは マイラン社がエピペンのテクノロジーやマーケティングに資金を投じていること、価格上昇はマイラン社のせいではなく、 ヘルスケア・システムの問題であると反論。ダメージ・コントロールの手段として、貧困者に対するエピペンの割引クーポンの支給を約束したものの、 価格はそのまま維持することを宣言していたのだった。

 




エピペンの報道は、2015年9月にAIDS患者が服用している処方箋薬、ダラプリムの製造販売権を取得した ターニング・ファーマスーティカル社が、 一夜にしてその販売価格を1錠13.5ドルから750ドルへと跳ね上げる、5000%もの値上げを行ったニュースを思い起こさせたけれど、 これによって年間13万円程度だったダラプリムの患者負担が、 アメリカ人の平均年収を上回る745万円にまでアップ。 保険が無い場合の年間負担は7,600万円という 億万長者でも複数年を支払いきれない金額になっていたのだった。
その値上げを行った同社の元CEO、マーティン・シュクレリ(写真上左)は、2015年12月に証券取引法違反でFBIに逮捕され、CEOのポジションを追われたのは、 世界各国のメディアで報じられた通り。

ダラプリムもエピペンも市場において独占状態で、開発に巨費を投じた新薬ではなく 以前から存在している製品。 生産コストはどちらも1ドル以下であるにも関わらず、「マーケティングや流通に費用が掛かる」として、メーカー側が一方的に価格を吊り上げた訳だけれど、 こんな製薬会社の非道な行為が成り立ってしまうのは、2003年のジョージ W. ブッシュ政権下で成立したメディケア改革法案パートDが原因なのだった。




メディケア改革法案パートDによって、それまで保険の対象外だった処方薬が、政府の高齢者医療保険(メディケア)の対象になったけれど、 一見、高齢者の医療費負担を減らすかのように見えるこの法案は、実は近年の製薬会社が5倍、8倍と伸ばし続ける利益と大きな関わりがあるのだった。
というのは、この法案には「政府が製薬会社と薬の価格交渉をしない」という条項が盛り込まれているためで、 これは一見、政府が税金で負担する高齢者医療費の出費を抑えるために、製薬会社に不当な圧力を掛けるのを防ぐための条項のように 見受けられるもの。 しかしながら その実態は、この条項のおかげで製薬会社が政府の介入を恐れることなく、企業利益を優先した自由な価格設定が許されるということ。
その結果、製薬会社側は、「後発医薬品(ジェネリック医薬品)が登場するまでに、新薬開発に投じた多額の開発費用を回収する」という大義名分の下、 処方箋薬に高額価格を付けて膨大な利益を上げる結果になったけれど、その売り上げを支えているのが、国民の税金によって賄われているメディケアなのだった。

メディケア・パートDの法案を推し進めたのは、医療費の軽減を望む高齢者の声ではなく、それを口実に巨額な利益を狙っていた製薬会社。 これを可決に導いた共和党上院議員らは、軒並み2500万円〜4500万円の政治献金を製薬会社から支払われており、 この時に製薬会社がロビー活動に費やした資金は総額1億1600万ドル(約116億円)。 でもその見返りとして、メディケア・パートDが製薬業界にもたらした利益は80億ドル(8000億円)と言われるのだった。
ジョージ W. ブッシュ政権というと、当時の副大統領、ディック・チェイニーが元CEOで、イラク戦争で約4兆円の恩恵を受けたハリバートン社との癒着ばかりが 報じられていたけれど、実際には同政権下で最も大きな利益の基盤を築いたのは製薬会社。 そのジョージ W. ブッシュを選出した2000年の大統領選挙の際には、2003年のロビー活動同等の選挙資金が製薬会社から ジョージ W. ブッシュのキャンペーンに投入されているのだった。




ジョージ W. ブッシュが任期最後の年であった2008年に、側近に「大統領になって最も驚いたことは?」と尋ねられて、「自分の権限がいかに小さいかということ」と答えたというけれど、 米国大統領選挙とは、言ってみれば大統領の後ろで糸を引く人物や企業の利益に票を投じること。 そのことはオバマ政権下ににおけるグーグルに対する優遇ぶりにも反映されており、オバマ大統領が誕生してからというもの、 グーグルのエグゼクティブが毎週、ホワイト・ハウスでのミーティングに出席していたのは以前のこのコラムでも書いた通り。

したがって今年11月の大統領選挙は、ドナルド・トランプVS.ヒラリー・クリントンの選択というよりも、彼らを動かす人々の利益のために、 アメリカ国民がどんな代償を支払わせられるかの選択。
今週に入ってからはドナルド・トランプが4年以上税金を支払っていない一方で、自己申告している以上の多額の借金を抱えているという報道に加えて、 ヒラリー・クリントンが国務長官時代に個人的に面談した人々の半分が、クリントン・ファンデーションに多額の寄付をした富豪や外国政府の関係者であったことが報じられていたけれど、 それらを考慮すると、今回の選挙はバンク・オブ・チャイナ(=中国政府)やゴールドマン・サックス等に最低6億5000万ドル(約650億円)の借金を抱えて頭が上がらないトランプを選ぶか、 ゴールドマン・サックスから約6000万円のスピーチ・フィーを受け取り、クリントン・ファンデーションを通じて世界のトップ1%の富豪から多額の寄付を受け取る ヒラリーを選ぶかの選択ということ。

その一方で 大統領選出馬宣言以来、マンハッタン5番街のトランプ・タワー内の空室を選挙事務所として使ってきたのがトランプ・キャンペーン。当初は家賃を支払う必要が無いので、 経費削減のための手段と見られ、お金を掛けない簡素なインテリアもその裏付けとして捉えられてきたけれど、2週間ほど前にメディアが着眼したのが 事務所の家賃として トランプ・キャンペーンが毎月4万ドル(400万円)のレントを支払い、先月からはそのレントが約12万ドル(1200万円)という3倍に跳ね上がっていたこと。 この理由としてトランプ陣営は「事務所の面積がこれまでの3倍になった」と説明していたのだった。
そのトランプ・タワーは1983年に建てられた築43年、一部老朽化が伝えられるビルディング。 そのトランプ・タワー内の物件を毎月1200万円のレントを支払って借りようというテナントは、モダンなタワー・ビルディングが近隣に立ち並ぶ現在では そうそう居ないと思われるけれど、トランプ側としては 支持者が寄付した選挙資金を合法的に自分のビジネスに支払うだけなので、 事務所のレントが高額であればあるほど自分の利益。
したがって選挙キャンペーンという名の下で行われているオフィス・レンタルではあるものの、自社利益のために処方箋薬の価格を吊り上げる製薬会社と何ら変わりはないとも言えるのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

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