Aug. 28 〜 Sep. 3




”テニス、アガシ & ファッション”




今週末のニューヨークは、9月4日月曜のレイバー・デイの休暇を控えたロング・ウィークエンド。
以前にもこのコーナーで書いた通り、アメリカでレイバー・デイと言えば夏の終わりを意味するホリデイ。 アメリカでは、この週末を含む連休を利用して、夏休み最後の旅行に出掛ける人々が多く、 今週のニューヨークは一目見て旅行者と分かる人達で溢れていた。
その一方で、今週のアメリカのメディアと言えば、週明けこそは予想通り不起訴に終わったジョンべネ殺害の容疑者、 ジョン・マーク・カーのことが報じられていたけれど、火曜日、8月29日が 昨年ニューオリンズを中心としたルイジアナ州を襲った ハリケーン・カテリーナの1周年であったため、多くのメディアが 復旧が遅れる現地のレポートに 最も報道時間を割いていたのだった。

昨年のカテリーナの大被害の影響で、今年のアメリカでは 「夏の終わり=ハリケーン・シーズンの到来」という意識が強くなって来ているけれど、 これは、2001年以降 「9月の到来=テロのアニヴァーサリー」と人々が感じるようになってしまったのと同様。
でも、ニューヨーカーにとっては、スポーツの分野で 夏の終わりを象徴するイベントと言えば、 やはりテニスの全米オープンである。
過去2年ほどの全米オープン・テニスは、セリーナ・ウィリアムスやマリア・シャラポヴァのウェアが メディアの注目を集めていたけれど、今年の全米オープンに関しては、その話題の中心は、 何と言っても 今大会で21年間のキャリアに終止符を打って引退を表明したアンドレ・アガシ。 彼の36歳という年齢や、その体調を考慮して、彼の優勝が無いことは 折込済みであるけれど、メディアとファンが一丸となって アガシの功績を称えると共に、彼へのねぎらいと感謝を気持ちを 示すことによって、「アガシに最後の花道を飾らせてあげたい」というムードが最高潮に盛り上がっていたのが 今回の全米オープンなのである。

実際、アガシはそのファンとメディアの期待に応えるかのように、最初の2試合をフルセットの接戦の末に勝ち進んでおり、 ことに木曜夜の対マルコス・バグダディス戦は、深夜12時を回っても続いた大熱戦。試合時間にして3時間48分という長いゲームだったけれど、 アーサー・アッシュ・スタジアムに詰め掛けた約2万4000人の観衆は、誰も帰ろうとはせず、アガシが彼より15歳も若いマルコス・バグダディスを 破った瞬間を見届けてからも、アガシに声援を送り続けたのだった。
とは言っても、痛めた背中に4本も注射を打ってして試合に臨んでいたアガシにとって、2試合連続のフルセットはかなり こたえたようで、 悪天候のために今日、9月3日、日曜に延期された対ベンジャミン・ベッカー戦では、身体のキレの無さを持ち前の精神力で補っている という試合ぶりで、結局セットカウント 3-1で アガシは現役最後の試合を終えることになってしまったのだった。
試合後、涙にむせぶアガシに対しては、スタジアムを埋め尽くした超満員のファンから8分間に渡ってスタンディング・オーべーションが贈られ、 その後アガシは長年彼をサポートしてきたファンに対して、感謝のスピーチを行ったけれど、 これは、多くのネットワークのスポーツ・ニュースがノーカットで再放映するほど 感動的なシーンだった。

私は、今日のアガシ引退の瞬間を、友人宅のTVで数人で観ていたけれど、彼のスピーチには全員でもらい泣きしてしまって、 その後は、アガシ談義に花が咲いてしまったのだった。
私を始め、その場に居た友人の殆どは、若い頃の長髪で、ネオン・カラーのウェアを着用していた頃のアガシのことは、 別に好きでも何でもなく、彼が特出したプレーヤーだとは思っていなかったし、ましてや彼がニューヨーカーから 8分もスタンディング・オーべーションを受けて引退するようなプレーヤーになるとは、誰も思っていなかったのである。
何時から彼のことが好きになったか?についても誰も正確には覚えていなくて、「頭を剃ったあたりから・・・」、とか 「ステフィ・グラフと結婚する少し前くらい」などと言い合っていたけれど、アガシが私達を始め、多くのファンにアピールする理由は、 彼が精神的に起伏が激しく、プレーにも波がある若くて荒削りなプレーヤーから、 テニスにおいてだけでなく、人間的にも成長していった姿をそのキャリアの中で示して、人々の共感を誘ってきたためである。
テニス・プレーヤーとしての実績だけで見れば、ピート・サンプラスの方がアガシよりも輝かしいキャリアの持ち主と言えるけれど、 彼の引退よりもアガシの引退の方が、遥かにビッグなセンセーションとなったのは、 優等生プレーヤーであり続けたサンプラスよりも、アガシの”不完全から成長を遂げていったキャラクター”の方がファンにとって より魅力的で、敬意をかき立てる存在であったからに他ならないのである。

スポーツの世界にはアガシのように”記録”より”記憶”に残るプレーヤーというのが存在するもので、 そういったプレーヤーは、実力と共にキャラクターを持ち合わせているものである。 これは日本語では”華がある”と表現されるけれど、英語ではカリスマ(実際の発音は”カリズマ”)と表現されるもの。
ヤンキーズのデレク・ジーターなどは、その典型と言えるプレーヤーであるけれど、 時に、実力が無くても、記憶に残るプレーヤーというのは存在するものである。
この好例と言えるのは女子テニスのアナ・クルニコヴァ(写真左)で、メジャー・トーナメントで無冠でありながら、そのモデルのようなルックスで、 一大センセーションを巻き起こしたのは周知の通り。 彼女は今でも、アメリカではマリア・シャラポヴァよりも一般の知名度が高いのだそうで、 賞金は稼がなかったけれど、CM出演料などのモデル収入で 女子テニス・プレーヤーとして 最高額の収入を上げていたという極めて不思議な存在だったのである。
アナ・クルニコヴァの場合、もしモデルとしてデビューしていたら、「2流モデルで終わっていただろう」と言われるけれど、 テニス・プレーヤーであったから、あのルックスが強力な武器となっていたのである。

全米オープンに話を戻すと、毎年この大会が、テニス・プレーヤーのファッション・ショーのようになってしまうのは、 同トーナメントが、ヨーロッパのトーナメントに比べて ウェアの規制が緩く、しかもメディアが注目する大会であるだけに、 メーカー側も契約プレーヤーにパブリシティ効果が狙えるウェアを提供したがるためである。
今大会で話題となっているのは、映画「ティファニーで朝食を」のオープニング・シーンでオードリー・ヘップバーンが着用した ジヴァンシーのブラック・ドレスをイメージにしたというマリア・シャラポヴァのウェアで、オリジナルのドレスは年内にクリスティーズで オークションにかけられることになっているもの。
でも、女子テニス界にモダンなファッションの息吹を持ち込んだ元祖と言えるのは やはりクリス・エバートで、 70年代に彼女がホルターネックのバックレス・ワンピースでプレーをしたインパクトは、セリーナ・ウィリアムスのデニム・ルックやキャット・スーツ、 シャラポヴァのヘップバーン・ドレスとは全く比べ物にならないもの。
またクリス・エバートは、ダイヤモンド・ブレスレットやピアスを付けてプレーをした最初のプレーヤーで、 彼女がコートにダイヤモンド・ブレスレットを落としたことから、「テニス・ブレスレット」という言葉が誕生し、 ジュエリー界にテニス・ブレスレットのブームを巻き起こしたのである。
ファッションというと、とかく女子プレーヤーばかりに目が行ってしまうけれど、男子のウェアも知らないうちに規定がどんどん緩んでおり、 5年前には、全米オープンでトミー・ハースがノー・スリーブのシャツでプレーをしようとしたところ、大会役員から半袖に着替えるように 命じられたというエピソードがあったけれど、今では優勝候補のラルフ・ナダルが、ノースリーブどころか、アームホールを大きくカットして より露出度が高いシャツでプレーをしても、誰も文句を言わないご時世になっていたりする。

さて、同じファッションでも、全米オープン終了後に始まるのは、ニューヨークのファッション・ウィーク。
現在、会場となるミッドタウンのブライアント・パークでは特設テントの建設の真っ最中であるけれど、 この1週間ほどの間に、”夏の終わり”から”秋の始まり”にシフトすると、 毎年 年末までが、本当にあっという間に過ぎてしまうのである。



Catch of the Week No.4 Aug. : 8月 第4週


Catch of the Week No.3 Aug. : 8月 第3週


Catch of the Week No.2 Aug. : 8月 第2週


Catch of the Week No.1 Aug. : 8月 第1週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。