Aug. 27 〜 Sep. 2 , 2012

” Oversharenting!! ”

今週のアメリカでは ルイジアナ州を中心に大きな被害をもたらしたハリケーン ”アイザック”の上陸が 一週間を通じて最も報道時間が割かれたニュース。 その影響を受けて、今週月曜からフロリダ州タンパで 4日間に渡って行われる予定だった共和党の党大会が、 火曜日から3日間のスケジュールに短縮されていたのだった。

党大会というのは、4年に1度の 大統領選挙の年に行なわれるもので、 言ってみれば 大統領選挙に向けての決起大会のようなもの。 この党大会で何が行なわれるかと言えば、単なる政治家のスピーチの連続で、はっきり言えば 極めて退屈なイベント。 でもそれに対して、会場の支持者が白々しいまでに熱狂的な 拍手と歓声を送るのは毎度のことで、アメリカの党大会の様子は、民主、共和の隔たりなく、共産主義国家の行事のようにさえ見受けられるのだった。

今回の共和党党大会では、ミット・ロムニーが大統領に当選した場合、ファースト・レディになるアン・ロムニーが そのスピーチで如何に 夫の人間性をアピールできるか、そしてポール・ライアンが副大統領候補として、 どんなスピーチを行なうかに注目が集まっていたけれど、 党大会が終わってみれば、誰もが話題にしていたのが、最終日に サプライズ・スピーカーとして壇上に上がった 俳優、クリント・イーストウッドによる 何とも理解しがたいスピーチ。 9月1日、土曜日には、ニューヨーク・タイムズ紙、ニューヨーク・ポスト紙が、共にクリント・イーストウッドのスピーチに対するリアクションについて 第一面で報じたほど、大きな物議をかもしていたのだった。

クリント・イーストウッドのあまりに奇妙なスピーチのせいで、党大会でミット・ロムニーが掲げた政策など、 誰も関心を注いで居なかったけれど、 では、そのスピーチがどんなものだったかと言えば、時間が5分と制限されていたにも関わらず、 彼はそれを無視して12分も喋り続け、しかもその間に彼が語りかけていたのが、誰も座っていない椅子 (写真上)。
クリント・イーストウッドは、その椅子にオバマ大統領が座っているという設定で、”見えないオバマ大統領” に向かってインタビューをする1人芝居を 披露したのだった。 でも、呂律(ろれつ)が回らない、もたついた喋り方も手伝って、彼が1人で椅子に向かって語りかける様子は、 どう見ても 地下鉄の駅などで 1人で喋っている精神錯乱者と変らない状況。
共和党の党大会というアメリカの政界で最も大規模かつ、重要な意味を持つイベントで、こんな奇妙なスピーチが披露され、 しかもそれが全米で生中継されたのは、もちろんこれが初めてのこと。 これを受けて、スピーチが終わらないうちから ツイッター上に溢れ始めていたのが、 このあまりに不思議な光景に関するツイートの数々。
さらにクリント・イーストウッドに話しかけられていた ”Invisible President Obama / 見えないオバマ大統領 (もしくは透明のオバマ大統領)”は、 その翌日には4万人がツイッターでフォローする ”スター” になってしまったのだった。

クリント・イーストウッドの理解に苦しむスピーチは、YouTubeで 公開から僅か48時間に 90万人がダウンロードして閲覧しているけれど、 ポリティカル・トークショーでのリアクションは、「あんな素晴らしい映画を作れる監督、兼俳優が、あんな酷いパフォーマンスを見せるなんて・・・」、 「彼が共和党なのは知っていたけれど、あんなに錯乱した右寄りだとは知らなかった」という声もあれば、 「退屈な党大会を、椅子1つであそこまで盛り上げることが出来るのは 凄い才能だ!」といった皮肉交じりの賛辞まで様々。
中には、クリント・イーストウッドのスピーチがあまりに共和党党大会に大きなダメージをもたらしたため、 「彼が オバマ大統領の送り込んだ 妨害工作員なのではないか?」 という冗談めいた憶測まで飛び交って、 コメディアンのクリス・ロックなどは、「クリント・イーストウッドがスピーチの後、オバマ大統領に電話をして ”大統領、全て計画通り、上手く行きました”と報告していた」 というジョークをツイート。人々の爆笑を誘っていたのだった。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、椅子を使うことは、スピーチの直前になってクリント・イーストウッド本人がリクエストしたそうだけれど、 政界関係者の誰もが驚いていたのが、今回の共和党党大会では、スピーカーが 事前にスピーチ・ライターが書いた通りに演説するよう 念入にリハーサルが行なわれ、全てが時間通り、予定通りに行なわれてきたにも関わらず、 何故クリント・イーストウッドのスピーチだけが、野放し状態で、見事なまでに脱線していったのか?ということ。
この理由としては、「ロムニー陣営が、俳優であり、オスカー受賞監督でもあり、自らカリフォルニアの町の市長を勤めた経験もある クリント・イーストウッドに絶大な信頼を置いていたため」と説明されていたけれど、 イーストウッドを党大会のサプライズ・スピーカーに迎えようというのは、ミット・ロムニー本人のアイデアだったという。

通常、党大会の直後のアンケート調査では、 大統領候補の支持率がアップするものであるけれど、 今回の共和党党大会については、クリント・イーストウッドの錯乱スピーチのインパクトがあまりに強烈だったせいか、 ミット・ロムニーの支持率は、党大会前と殆ど変わらないことが伝えられているのだった。
またベテラン政治記者の間では、共和党員がミット・ロムニーを支持するのは、「今の共和党に彼しかオバマ大統領を倒せる候補者がいないため」 という 熱烈な支持ではなく、妥協の支持であるため、党大会の熱気が今ひとつだったことを指摘する声も聞かれていたのだった。



ところで、一夜にして4万人のツイッター・フォロワーを獲得した「見えないオバマ大統領」であるけれど、 100万人単位のフォロワーを擁するセレブリティは決して少なくないもの。
中には、ツイッターのフォロワーやフェイスブックのファンの数を、ソーシャル・メディアにおけるパワーの指標と 判断する傾向もあるけれど、実際のところ ツイッターのフォロワーというのは、お金で買えるもので、そのお値段は、 200人で5ドルから、25万人で2500ドルまで様々。 ツイッターのフォロワーを売ることは、今やれっきとしたビジネスとしてネット上で確立されているのだった (写真上)。
これを買っているのは、もっぱら政治家やセレブリティかと思いきや、友達が少ないと思われたくない一般人も 多いとのことで、ツイッターのフォロワーの数は、交友関係やソーシャル・メディアにおけるパワーの指標には 全く役に立たないのだった。

同様のことはフェイスブックにも言えることで、フレンドの数が少ないために 交友関係が狭いと思われることを危惧するユーザーが、 フェイク・フレンドをでっち上げて、フェイク・フレンドを装って、自分のフェイスブック・ウォールに書き込みを行なうというのは 珍しくないこと。8月初旬には フェイスブック自体が、 現在9億5,500万人と謳っている ユーザーの9%に当たる 8300万人が フェイクであることを認めているけれど、これはエジプトの総人口に値する数。 でも実際のフェイク・ユーザーはフェイスブックが発表している以上であるという指摘は多いのだった、


昨年4月のこのコラムで、ソーシャル・メディアが生み出した ”FOMO (Fear Of Missing Out)” という 「自分抜きで友達が楽しんでいることを危惧する現象」 について書いたことがあるけれど、こうしたフェイク・フォロワーやフェイク・フレンズも、 ソーシャル・メディア上で自分を良く見せたい 見栄の張り合いと言えるもの。 でも 見栄とは違うとしても、人に自慢して 見せたくて 仕方がないのが自分の子供の写真。
アメリカでは、フェイスブックを学生時代から使っていたユーザーが、フェイスブック離れを始めているけれど、 その要因の1つが、フェイスブックのページが 友人の子供のデジタル・アルバムと化してしまい、 フェスブックがもはやクールとは思えない存在になってしまうことなのだった。
20代後半から30代前半の世代は、往々にしてベイビー・ブームを迎えるけれど、 そうなると友人のページのアップデートと言えば、子供の情報のアップデート。それも夫が初めてオムツを替えたとか、子供が喋った、歩いた、踊ったという 出来事ばかり。 こうしたベイビー・ピクチャー&ベイビー・アップデイトは、家族であれば楽しめるけれど、シングル族、子供が居ない既婚族、既に子育てにウンザリしているカップルなどにとっては、「いい加減にして欲しい」というボリュームに達しているケースが殆ど。
実の孫の写真を喜んで眺めるはずの祖父母の世代でさえ、「もっと写真の数を絞ってアップしてくれないと、見るのに疲れる」などと 苦情をもらす場合があるという。

アメリカでは、このように子供が生まれたばかりの親達が、張り切って子供の写真や、誕生時のエピソード、体重、 名前の由来など、子供に関するありとあらゆる情報を、フェイスブックやツイッターで公開することを、 ” Oversharenting / オーバーシェアレンティング ” と呼んでいるのだった。 これは過保護、もしくは育児に熱心になりすぎるという意味の ” Overparenting / オーバーペアレンティング ” と、 情報をシェアしすぎるという ”Oversharing / オーバーシェアリング” をくっつけた造語。
この ”オーバーシェアレンティング ” はちょっとした社会問題にさえなっていて、8月初旬には フェイスブック上に 「Unbaby.me / アンベイビー・ミー」という、子供の写真を全てブロックするアプリが登場したほど。
”オーバーシェアレンティング ” の問題点は、親達が自分の子供の写真やビデオ日記を公開して、 それを家族や友人がきちんとチェックしていないと 感情的になったり、 友達がアップした子供の写真やビデオに刺激されて、どんどん情報のシェアリングがエスカレートするのもさることながら、 親達が 子供の人権を無視して、自分達の所有物と考えて、 その個人情報を勝手にどんどん公開してしまうということ。



裕福な家庭の子供が通う私立学校では、子供のバースデー・パーティーの写真や、スポーツ・イベントの写真を フェイスブック上で公開することが、 校則で禁じられているとのことで、これは写真を見れば子供が何処の学校に通って、何処でスポーツをしているかが分かって、誘拐の危険が高まるため。
なので裕福な親たちほど、 ”オーバーシェアレンティング ” とは無縁であるけれど、 このソーシャル・メディア時代の親バカ行為が、将来どんな形で子供に降りかかってくるかは 経済状態に関わらず 親達が考慮すべきこと。
既に現時点でさえ、デジタル・フォトのテクニックは、3歳で行方不明になった現在17歳の少年が どんな顔になっているかを、体重別、髪型別に具現化できるほど。
ダイエット企業は、同様のテクニックを用いて、 「体重を落としたら、こんな姿になれます!」 というシミュレーションをクリエイトして、 痩せたいという人々の願望を煽るのに使っているけれど、こうしたデジタル技術の進化を考えると、 「子供の写真で、一体何が出来る?」と安心して、何百枚も写真をインターネット上にアップするのは、 あまりに短絡的かつ、無責任であると思うのだった。

ところで、私が7月に一時帰国した際に 日本の友人に 良く聞かれたのが「アメリカに住んでいるのに、どうしてフェイスブックをやっていないの?」という質問。
私はこのコラムで頻繁に書くようにアンチ・フェイスブック派であるけれど、フェイスブックをやらない最大の理由は、私がフェイスブックという会社を信用していないから。 なので パーティーに出かけても、フェイスブックに載せるという人の写真には写らないようにしているし、フェイスブックのページはブラウザで アクセスしただけでフォローされたり、 個人情報を盗まれるので、フェイスブックへのリンクはクリックしないようにしているような状態で、 嫌煙家の私がタバコの煙を避けるのと同様に、フェイスブックに対して警戒心を抱いているのは 親しい友人の間では良く知られているのだった。

私がフェイスブックを信用しない理由は、同社ほど頻繁にプライバシー・ポリシーをユーザーの知らない間に書き換えている会社は無いためで、 自分からフェイスブックに進んでアップした情報は、決して抹消できないだけでなく、その後どんな風に悪用されても、文句が言えないようになっているのだった。 でもフェイスブックさえ使っていなければ、そんなプライバシー・ポリシーの適用外で居られるので、何かあった場合に 法的に保護される可能性が高いというのが私の考え。

インターネット上の情報や、プライバシーについては、まだ法律の世界が追いついていない部分が非常に多いのが実情であるし、 だからこそ親達が、子供が大きくなった時代が どんな世界になっているかも深く考えずに 勝手に子供のプライバシーをネット上で公開しているけれど、 将来的に、子供達がそれを不服として 親を訴えるような事態が起こっても 不思議ではないというのが私の意見なのだった。


ところで、フェイスブック上のオーバーペアレンティングを 有り難く眺めている数少ない層と言えるのが、 今もアフガニスタンに駐留するアメリカ軍兵士達。
生まれたばかりの子供を残して、兵役をこなさなければならない兵士にとって、フェイスブックにアップされる 愛する子供の写真やビデオは、心の支えになっていることが伝えられるけれど、 それ以上にアフガンに駐留する兵士達を落ち込ませているのもフェイスブックなのだった。
というのも、家族や友人達は兵士達にサポートのメールやメッセージを頻繁に送ったとしても、 兵士が妻やガールフレンドのフェイスブック・ページにアクセスして目の当たりにするのが、 彼女らが友達とパーティーを楽しんでいたり、見知らぬ男性と楽しそうに写っている写真。 妻やガールフレンドの立場になれば、兵役を務めている夫や恋人のことを思ってはいても、 時々友達と遊びに出かけて、それをフェイスブックのページにアップするのは、別に咎められるべきではないこと。
でもそれを眺めた兵士達は、距離が離れているだけに、ある事ない事を想像して落ち込んだり、 人間不信に陥るケースが少なくないとのことで、フェイスブックは兵士達にとって毒と薬の双方を兼ねた存在になっているのだった。

そのフェイスブックは、今週もまた株価を下げて、遂に18ドル台に突入しているけれど、 ここへ来て同社の株価が大きく下がった要因の1つは、2週間前のこのコーナーでお伝えした通り、 インサイダーのロックアップ・ピリオドが終了して、株式公開前からの株主のシェアが売りに出されため。
先週にはそれを売りに出したシェア・ホールダーのリストが公開されたけれど、 同社株を売りに出した大手株主の筆頭に名前が上がっていたのがピーター・ティール。 彼は、ペイパルの創設者の1人でもあり、映画「ソーシャル・ネットワーク」の中で、 最初にフェイスブックに 50万ドルの投資を行なったベンチャー・キャピタリストなのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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