Sep. 5 〜 Sep. 11 2005




9/11 Random Thought



私がこれを書いている9月11日は、ご存知のように9/11のテロから4周年で、今週のアメリカのメディアでは これを受けて、ハリケーンの被災者のニュースと共に、9/11のテロの遺族のその後のレポートなどが 盛んに報じられている状態だった。
だからきっかり4周年にあたる、今日、日曜版の新聞でも、9/11の関連報道が第一面に見られると思いきや、 ニューヨーク・ポスト紙は、3分割の一面の1部を9/11の話題に割いていたものの、 ニューヨーク・タイムズ紙は、別セクションに記事は掲載されていたものの、第一面には9/11の話題は無しで、 これは個人的にはちょっと意外な展開と言えるものだった。

私はニューヨークに来てからというもの、12月7日の旧日本軍によるパール・ハーバー攻撃のアニヴァーサリーがやってくると 何となく気持ちが重くなっていたけれど、ドイツ人の友人に「ドイツ人なんて、ナチやヒットラーの話が出てくる度に同じ思いをさせられているんだから、 年に1度だけなら、むしろラッキーだ」と言われて、「そんなものかぁ・・・」と妙に同情してしまったことがある。 でも、 9/11のテロが起こった直後の報道では、「アメリカは、パール・ハーバー以来の屈辱を受けた」などと、 パール・ハーバーがテロを語る 引き合いに出されており、ただでさえテロでショックを受けていたところに、日本人として さらに落ち込まされることになったのである。
だから、言うまでも無く、私にとって9月11日というのは、テロ以来、嫌いな日になってしまったし、 そもそもこの日が好きだ言うニューヨーカーなど、今となっては居ないとは思うけれど、 1つだけ確実に言えるのは、2001年9月11日に 何処で何をして、どうこの日を過ごしたかを、 ニューヨーカーの誰もが克明に、まるで昨日の事のように覚えているということである。 ニューヨーカーの誰と この日の話をしても、「何処でコーヒーを買って、何処に向かって歩いている時に1機目が突入して・・・」というように、 分刻み、秒刻みで、テロの瞬間のこと、その後の行動を覚えているのは驚くべきことであるし、それと同時にニューヨーカーの脳裏に 刻み付けられているのが、共通に目にした光景、例えば晴れ上がった真っ青な空と、そこに立ち上っていた黒煙、砂埃まみれになりながら、 歩いて帰宅した多くの人達、そしてマンハッタン中に立ち込めた灰と煙の匂い等である。
私はこの日の夕方のニュースで、今年春に引退したCBSのアンカーマン、ダン・ラダーが 声を震わせながら 「2001年9月11日、私達はこの日を生きている限り、決して忘れることは無いでしょう」というコメントで 番組を始めたのを 今でもはっきり覚えているけれど、4年が経過してもニューヨーカーがこの日の事を克明に記憶しているという事実を 考えるにつけ、この言葉の深さと重みを感じてしまうのである。

私にとっては、9/11のテロと同じくらい鮮明に記憶に残っているのは、その後のニューヨーク、そしてアメリカで、 テロ後のアメリカというのは本当に特殊な状況下の社会と言えるものだった。 だから、その中における人間の様々な側面、メディアが大衆心理に及ぼす影響を見せ付けられると同時に、学ばされた時期でもあったのだった。
テロ後のアメリカは全てが自粛ムードになってしまい、TVの主要ネットワークでは数日間、CMが自粛で、1日中テロのニュースしか流れていなかったので、 テロ後最初に放映されたCMを見た時は、自分でも驚くほど 凄く懐かしい気持ちになったものだった。 でも、その自粛ムードは過剰なリアクションをも生み出し、テロに対するコメントで失言をしたり、非愛国的と取れる発言をするコメンテーターに対して メディアや一般視聴者が猛烈なバッシングを浴びせるため、この時期、トークショーに出演したがるセレブリティは居なかった。 さらに、"Imagine there is no country..."という歌詞が問題になって、ジョン・レノンの「イマジン」が一部のラジオで放送禁止になるなど、 「自由の国アメリカ」 がまるで言論統制の敷かれた社会の様相を呈していたのも不思議なことだった。

そして、自粛の波が行き過ぎた時期が過ぎると、今度は 「Normalcy(通常)を取り戻す」ことが優先課題となり、 自粛をやめて、テロ以前に行っていた生活に戻ることが奨励されるようになっていったけれど、 そんな中で、ニューヨーカーを、テロ後の生活のフラストレーションや、その頃 浮上していた炭疽菌への不安から 救っていたのが、当時、MLBプレイオフで連夜の逆転勝ちを収めていたヤンキーズだった。 この時のプレイオフのヤンキーズの戦いぶり、そしてその後のワールド・シリーズで、当時ランディ・ジョンソン、カート・シリングを擁したアリゾナ・ダイヤモンドバックスに 第7戦で敗れるまでの全試合の様子は、昨年ケーブル局、HBOによって 「ナイン・イニングス・フロム・グラウンド・ゼロ」というドキュメンタリー番組として製作されており、 私も、この時の全試合を、ニューヨークで見ていた1人として、自分の居た場所に引き戻されるような思いで、ボロボロ涙を流しながら 同ドキュメンタリーを見ることになったけれど、この時のヤンキーズは、本当にニューヨーカーの希望を背負ってプレーをしていたと思うし、 当時のニューヨーカーにとって、ヤンキーズのゲームは野球以上の意味があったと思っている。
そして、既に何度かこのコーナーに書いたけれど、私にとっては 96年から見続けてきたヤンキーズの チャンピオンとしての 最後の雄姿を見たのも このシーズンだった。

その一方で、9/11後の小売業界は、自粛ムードが一段落しても、先行きの不安が 消費者の買い控えを促し、多くのストアが 9月中から異例のセールを行なわなければならない状況に追い込まれていた。 ブランド物については、ウェイティング・リストに名前を入れた顧客がどんどん購入をキャンセルするため、 雑誌にフィーチャーされるようなシーズンの目玉アイテムも 問題なしに手に入るシーズンとなっていたけれど、 そんな状況でもウェイティングのキャンセルが出ず、バーニーズ・ニューヨークで 店頭に並ぶことなく、入荷予定の20個全てが完売したのが、 バレンシアガのモーターサイクル・バッグである。
2001年秋はモーターサイクル・バッグがデビューしたシーズンであり、当時は生産されている数が少なかった上に、消費側の自粛ムードを受けて、 バイヤーも買い足しをしていなかったので、バレンシアガのモーターサイクル・バッグというのは、殆どの人が「噂は聞いているけれど見たことが無い」という 「幻のバッグ」だったのである。 このシーズンは、ブラックとブラウンの2色のみの展開で、正直なところ、当時私もそんなに自分好みのバッグとは思わなかったけれど、 モーターサイクル・バッグが如何に長寿の人気を保っているバッグであるかを振り返るにつけて 思い出すのがこの「テロ直後に完売したバッグ」という事実なのである。

さて、こうして9/11を思い出しながら、今回のハリケーン災害を見ていると、9/11の時と良い意味で異なるのは、 先述のような愛国的な言論統制がなく、TVのコメンテーターや、セレブリティが、公にブッシュ大統領や、 FEMA (フェデラル・エマージェンシー・マネージメント・エージェンシー / 連邦緊急災害対策管理局 ) に対する非難を行っていることである。
その最たる例と言えるのが、先週行われたNBCの特番に、レオナルド・ディカプリオを始めとする大勢のセレブリティと共に出演したラッパーのカイエン・ウェスト。 マイク・マイヤーと共にカメラの前に現れた彼は、、モニターに映し出されたテロップを無視して、 先ず、メディアが店から食糧を持ち出す人々のうち、黒人層だけを略奪者呼ばわりしていることを抗議し、 その上で、「George Bush dosen't care about Black people (ジョージ・ブッシュは黒人層のことを気にも掛けて居ない)」とブッシュ批判をしたため、 NBCは彼の喋りの途中で、カメラを次に登場予定だったクリス・タッカーに慌てて切り替えることになってしまった。 このシーンは、ウエスト・コースト時間で放映される際にはカットされてしまったが、9/11の際にこのようなことを口走れば、 文句なしに袋叩きにあっているところだけれど、今回は、多くのセレブリティがカイエンのコメントについて「彼は自分の気持ちを素直に語っただけ」と、 彼を支持するコメントをし、世論やメディアからのバッシングも見られずに終わっている。
また同じく、シンガーのセリーヌ・ディオンも、CNNのトークショー、「ラリー・キング・ライブ」に出演して、 涙ながらに救援の遅れを非難していたけれど、 その一方で現在、「マイアミ・ヴァイス」撮影中のコリン・ファーレルは、共演者のジェイミー・フォックスと共に、救援金を集めるためのチャリティ・イベントを 行い、その時の取材に対して、「ハンプトンにホワイト・トラッシュ(直訳すれば白いゴミであるけれど、これは白人層を侮蔑するスラング)を 運んでいるヘリコプターを全部集めて、ニューオリンズに救済に行かせるべきだ」と、救援の遅れと同時に、 被災地の人々に手を差し伸べないリッチ層への非難を口にしていた。
私の意見では、9/11の時の判で押したような愛国コメントに比べると、こうしたセレブリティのコメントからは遥かに人間性と正義感を感じるし、 ことに、「George Bush dosen't care about Black people」ということは、アメリカ人の殆どが感じていても、言わない事であり、 それが、メディアを通じて語られたというのは、非常に新鮮に感じられたのは事実である。
9/11直後に限らず、イラク戦争が始まった直後も、ステージでブッシュ非難をしたカントリー・グループ、ディキシー・チックスのCDの非買運動が起こったり、 2003年のオスカーの際には、指でピースサインをしただけで、スーザン・サランドンらの戦争反対派セレブリティへのバッシングが 起こっていたアメリカであるけれど、今回のハリケーン災害後のメディア報道を見ていると、 久々にアメリカに「言論の自由」が戻ってきたことが感じられて、私はこれは歓迎すべき風潮であると思っている。



Catch of the Week No.1 Sep. : 9月 第1週


Catch of the Week No.4 Aug. : 8月 第4週


Catch of the Week No.3 Aug. : 8月 第3週


Catch of the Week No.2 Aug. : 8月 第2週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。