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Sep. 3 〜 Sep. 9 2007
” I'm Not Plastic Bottle ”
今週、私にとって最もショッキングだった報道と言えるのは 木曜にルチアーノ・パバロッティが71歳でこの世を去ったというニュース。
パバロッティが、歴史に残る名テナーであることはオペラ・ファンならずとも知っていることだけれど、
私にとってパバロッティというシンガーが特別な意味を持っているのは1989年、私がニューヨークに来た最初の週末に
出掛けたのがメトロポリタン・オペラ・ハウスで彼が出演したオペラであったため。
この時のパフォーマンスは ドニゼッティの ”L'elisir d'amore ( レリジール・ダモーレ/ 邦題 : 愛の妙薬)で、相手役のソプラノは当時、人気絶頂のキャスリーン・バトル
という素晴らしいキャスティング。
このオペラは第2幕目のテノールのアリア ”Una furtiva lagrima / 邦題 「人知れぬ涙」” だけを聴くためにやって来る人が多い
とも言われるものであるけれど、私はこの有名なアリアをパバロッティの生の歌声で 生まれて初めて聴いた時に、まず第一声で全身に鳥肌が立ち、
歌が進むにつれて目から涙がボロボロ 滝のように流れ出てきて、本当にどうしようもないくらいに感動してしまい、
「世界一の街で、世界最高のものに触れるっていうことは こういう事なんだ・・・」 という強烈なインパクトと
カルチャー・ショックを受けたことが 今でも鮮明に脳裏に焼きついているのである。
その後の90年代は パバロッティのパフォーマンスが 最も脂が乗っていたと言われる時期で、私はセントラル・パークでのコンサートも含めて
合計10回以上、 彼のライブ・パフォーマンスを観るチャンスに恵まれたけれど、あれほど観客の期待と緊張、興奮を高めるパフォーマーは
他に居なかった思うし、これからもそう簡単には現れないと思っている。
彼がアリアを歌い終えた時の観客のエキサイトメントはロック・コンサートを凌ぐ迫力があったのは、全盛期の彼をMET(メトロポリタン・オペラ)で観たことがある人だったら
誰もが覚えていることだけれど、私にとってのオペラへの関心は そのパバロッティの歌声が衰えて、
METをリタイヤする前後から急速に冷めてしまったのだった。
今でも、パバロッティは私のアイポッドに入っていて、カーディオ・エクササイズが乗ってきて気分が良くなった時に、
「ラ・ボエム」のアリア ”Che gelida manina” などを聴くと、空気まで美味しく感じられるような ナチュラル・ハイを 味わう事が出来てしまうもの。
パバロッティの死を悼んで、生前彼と共演したロックバンド、U2のボーノが
「オペラ・シンガーは世の中に沢山居るけれど、パバロッティはオペラそのものだった」と語っていたけれど、
私もこのコメントには全く同感なのである。
さて、今週ニューヨークでスタートしたのがファッション・ウィークであるけれど、その中でちょっとした話題になっていたのが、
CUBE New Yorkでも商品を扱っているアヴェダがスポンサーとなったファッション・ショーで、プラスティック・ボトル(日本語で言うペット・ボトル)入りの
ウォーターの代わりにアヴェダのロゴが入ったリサイクル・ウォーター・ボトル(写真左)が配られたというニュース。
エスティ・ローダーの傘下ブランド、アヴェダは 70年代から
動物実験を行わないのはもちろん、環境に優しい原料を用いたプロダクトを生産し、エコ・コンシャスなアイデンティティを
確立してきたブランド。
今回のファッション・ウィークでは、アヴェダがスポンサーとなったテンパーレイ・ロンドン、ロダート、マーク・バウワーなど6ブランドが
同社からのスポンサー・シップと引き換えに、「ファーを一切使用しない」、「プラスティック・ボトルのウォーターを配布しない」、
「バック・ステージではオーガニックのローカル・フードを出す」ことに同意しており、ファッション・ウィークのグリーン化が図られていたのである。
ことにアヴェダが今回のファッション・ウィークでのグリーン化の目玉としたのが プラスティック・ボトル・ウォーターの締め出し運動であるけれど、
実はこのムーブメントは今年6月にサンフランシスコ市長が ”ボトルド・ウォーター非買宣言” をしたのを皮切りに、ミネアポリス、ソルトレイク・シティ、
そして目下ニューヨークでも 徐々に高まりを見せているものである。
ボトルド・ウォーターが 環境問題の大敵扱いをされるようになった理由は、水の問題というより、オイルの問題によるもの。
世界最大のボトルド・ウォーター消費国、アメリカ人が消費するボトルド・ウォーターの量はアヴェダの調査によれば1時間当たり250万本。
そしてこの量のプラスティック・ボトルを生産するのに、使用するオイルの量は年間に何と1500万バレル以上。
これに、ボトルド・ウォーターを配達したり、時に海外から輸入するために使われる燃料費を
加えると、ボトルド・ウォーターを消費することが いかにオイルの無駄遣いと環境の悪化をもたらしているかは容易に想像が出来るところ。
しかもプラスティック・ボトルのうち リサイクル用に回収されているのは僅か10%にすぎないという。
したがって、ボトルド・ウォーターはスーパー等で買い物袋として使われているプラスティック・バッグが足元にも及ばないほどの環境の大敵であり、
アニア・ハインドマーチが今年春にはイギリスで、夏にはアメリカで 「I'm Not Plastic Bag」を発売し、
行列している人々にボトルド・ウォーターを配布していたのは、環境問題の視点から見れば 本末転倒の行為だったのである。
これまではペプシ、コカ・コーラなど、次々とウォーター・ビジネスに参入した大企業のロビーイングのお陰で、
環境問題逃れをしてきたボトルド・ウォーターであるけれど、問題の焦点にオイルが絡むと途端に状況が変わってくるのがアメリカで、
サンフランシスコやソルトレイク・シティ、ニューヨークなどタップ・ウォーター(Tap Water / 水道水)の水質の良い街が 次々と
ボトルド・ウォーターの締め出しに向けて動き出しているのである。
ニューヨーク・タイムズ紙でも8月1日に「In Praise of Tap Water」という 水道水を奨励する記事が掲載され、その12日後には同紙の
スタイル・セクションが 「Water, Water Everywhere, But Guilt by the Bottleful」 というアンチ・ボトルド・ウォーターの記事を掲載。
またブルームバーグNY市長も タップ・ウォーターを飲むように と プレス・カンファレンスで市民に呼びかけていたのだった。
ところで、ニューヨークというと 「水質が悪い」というイメージを勝手に抱く人が多いようだけれど、
過去に何度かこのコラムで書いた通り、ニューヨークの飲料水は「水のシャンパン」とさえ たとえられるもので、
水質や味の調査でも毎年 全米のベスト3から落ちたことが無いのである。
さらにニューヨークはアメリカ最大のアンフィルタード・ウォーター・システムを誇っており、これが何を意味するかといえば、
フィルターを通さずに使えるほど水質が良いということ。ニューヨークのべーグルが美味しいと言われるのも、
べーグルを焼く前に茹でる水の質が良いからと言われるほどなのである。
でもニューヨークには古い建物が多いだけに、その建物内のパイプが長年交換されていないと、パイプのせいで
水質が濁ることは指摘されており、その場合 飲料水についてはフィルターを使うことが奨励されているのは事実である。
さて 自分自身を考えてみると、生活の中で最も環境問題に貢献していると誇れるのが ボトルド・ウォーターの消費の少なさとボトルのリサイクルである。
私はボトルド・ウォーターは滅多に買わない主義で、ニューヨークに来てからというもの、自宅の水を一度沸騰させて飲料水に使うのが
習慣となっているのである。たまに購入したボトルド・ウォーターは水筒代わりにリサイクルして使うし、もちろんリサイクル・ゴミとして処分するのは言うまでも無いこと。
こうするのは経済的という理由もあるけれど、自宅のタップ・ウォーターの方がエヴィアンやアクアフィーナといったブランドの水より
ずっと美味しいと思える部分も大きくて、 購入したボトルド・ウォーターが室温になると 「不味くて飲めない」と感じることは少なくないのである。
さらに、タップ・ウォーターには歯のエナメル質を強化するミネラル、フロライド / Flouride が豊富に含まれており、
水道水を飲んでいた方が虫歯になり難いことは90年代後半から専門家から指摘されていたこと。
逆にボトルド・ウォーターで育った子供達に虫歯が多いのはこのためといわれている。
でも、私がそれより危惧するのは、ボトルド・ウォーターを通じて体内に入る有害なケミカルの危険性。
プラスティック・ボトルを生産する際に用いられる ビスフェノールA という物質は、運搬中のトラック内が高温になったり、ボトルが直射日光を浴びて
温まると、飲料水の中に溶け込むそうで、このケミカルは記憶や知能に影響を及ぼすものだという。
通常、ボトルド・ウォーターは腐ったり、傷んだりするものではないので、運搬には冷蔵用のトラックなどは用いないのは当然のこと。
したがって、屋外で直射日光でボトルを温めないように気をつけても、運搬時にボトルが温まって 水にケミカルが混入している可能性は
否定できないである。
もちろん同様のケミカル摂取の危険は、タッパウェアやプラスティック容器に入った食べ物を
電子レンジで温めた場合などにも起こることが指摘されているけれど、こうした日々摂取するケミカルは 現代20代後半、30代で妊娠する女性の多くが
1度は早期の流産を経験する原因にも挙げられており、また科学的根拠は弱いとされながらも これらのケミカルが躁鬱病などの精神の病に
一役買っていると指摘する声もあるほどである。
ファッション・ウィークに話を戻せば、ファッション・ウィーク期間中に消費されるボトルド・ウォーターの量は 毎回1万ダース以上。
これが今回はアヴェダのお陰で若干減るかもしれない・・・という感じであるけれど、アヴェダがショーのスポンサーを担当したブランドは、
それぞれにグリーン化を実践しており、ロダートは化学染料を使わず、スペシャル・プロセスのナチュラル・ダイで素材の色付けを行ったことが発表されている。
また、今年のCFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー評議会)で新人賞に当たるペリー・エリス・アワードを受賞したフィリップ・リムは
自身のブティックで オーガニック・コットンのリユーザブル・ショッピング・バッグを25ドルで販売し、その利益を100%グローバル・ウォーミング対策の
ために寄付することにしているという。
なので、商業目的かつ、名ばかりの「I'm Not Plastic Bag」フィーバーで、軽薄なイメージがついたファッション業界の
エコ・ムーブメントであるけれど、ようやく中身が伴う動きが出てきたのは歓迎すべきことである。
かく言う私も、アンチ・プラスティック・ボトル派であるので、ノン・トキシック・アルミニウム製のマイ・ボトル(写真右)を購入したばかりだけれど、
これはスイスのSIGG社の約20ドルの商品。 長く使い続けるためにはクリーニング・タブレットと洗浄用のブラシを別途購入する必要があるけれど、
ケミカルのトキシック(毒素)を心配せずに水が飲める上に、エコ・フレンドリーであるので、それに見合う出費である。
さらに私の場合、ビタミンをブレンドしたグリーン・ティーなど、不思議な色のドリンクを持ち歩くことも多いので、中身が見えないボトルの方が
都合が良い場合も多いのである。
私の友人もファッション・ショーで貰ったアヴェダのボトルを早速愛用していたけれど、私の購入したブラック・ボトルの方が
クールだからといって、「早速自分もオーダーする」と言っていたのは ちょっと気分が良いもの。
ところで、 このボトルド・ウォーター締め出しのムーブメントは、レストラン・ゴーワーにも評判が良いと言われていて、それというのも
これまでならスノッブなレストランに出かけて、有料のボトルド・ウォーターの代わりに タップ・ウォーターをオーダーすると
「お金をケチっている」というイメージが無きにしもあらずであったため。 でもエコ・コンシャスという
”プライスレス” なスローガンがある現在、 「We Love New York City Tap Water!」 などと 言いながら
無料の水道水をオーダーできるのは 非常に気分が良いことなのである。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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