Sep. 8 〜 Sep. 14 2008




” ファイナンシャル・クライシス、フィットネス・クライシス ”


先週アメリカを襲ったのハリケーン”ハナ” に続いて、今週も ハリケーン ”アイク” がアメリカ南部、特にテキサスで甚大な被害をもたらしていたけれど、 週末のウォールストリートでは いよいよ以前から噂されていたリーマン・ブラザースの崩壊が時間の問題となったため、 政府の役人とウォール・ストリートのエグゼクティブが救済案を話し合っていることが報じられていたのだった。
金曜の時点では、未だリーマン・ブラザースの決着も付かないうちに、既に「次はメリル・リンチだ!」といった報道が行われていた けれど、実際に金曜のメリル・リンチの株価は過去10年以上で最低の17.05ドルを付けており、 同社の企業としてのマーケット・バリューも1年前の約10兆2400億円の3分の1になっていたという。 私がこのコラムを書いている最中にインターネット上で公開された 日曜午後9時4分現在のアップデイト情報によれば、 リーマン・ブラザースは 政府が税金を投じて買収案のバックアップすることを拒んだために 買い手が付かず、 会社更生法の申請、すなわち事実上の倒産に追いこまれており、既に日曜夜の時点で 同社職員がデスクの荷物を 運び出す姿がニュースで報じられていたのだった。
そしてメリル・リンチは、アメリカ最大のコンシューマー・バンクである バンク・オブ・アメリカに買収されることが決定しており、 証券部門が弱いバンク・オブ・アメリカは リーマン・ブラザースの買い取りを拒否した後、リーマンよりは 経営状態がベターな メリル・リンチの買収にサインしたとのことだった。

これによってニューヨークが直面するであろうと見込まれるのが更なる深刻な財政危機。 この春先にベア・スターンズがJPモーガン・チェイスに吸収合併された際に、7000人の失業者が出たと言われているけれど、 それ以外にもメリル・リンチ、ゴールドマン・サックスなどの金融機関が従業員をそれぞれ1000人単位でレイオフしており、 そのせいで税収が激減していたのは既にこのコラムで以前ご説明したとおり。
158年の歴史を誇るリーマン・ブラザースはニューヨーク・シティ・エリアに1万〜1万2000人の職員を抱えていると言われており、 倒産によってこれらの人々の多くが仕事を失うのは言うまでも無いこと。 メリル・リンチにしても バンク・オブ・アメリカによる買収によって、その体制は維持出来ても ある程度のレイオフは見込まれる訳で、 ニューヨーク州、ニューヨーク市は 失う税収が膨らむ一方で、同時に指摘されているのが 失業手当が底をつき掛けているという実情。 なので、私自身を含むニューヨークの中小企業経営者にとっては 失業保険料の値上がり という頭の痛い重荷が待っているのだった。

リーマン・ブラザースについてはベア・スターンズ崩壊直後に 経営危機の噂が流れていたけれど、 メリル・リンチ買収のスピードには驚くばかりで、このアメリカ金融史上最悪の事態と報じられる 事の成り行きを見ていて ふと思い出したのが 8月2週目の ”Hedge Fund Kind Of Money” の中で触れた ブロンド美女のこと。 彼女によれば 「何時まで仕事があるか分らない人とデートしても仕方が無いから メリル・リンチの人に 言い寄られても 鼻で笑い飛ばしちゃう 」 とのことだったけれど、こんなに早く彼女の言うことが実現するとは思わなかっただけに 改めてもっと彼女に話を聞いておけば良かったと後悔してしまったのだった。

アメリカの金融業会が、こんな悲惨な状況に陥ったきっかけは言うまでもなく サブプライム・ローンが原因であるけれど、 今や全米の不動産価値が下がり続ける中で、その価値を保っているのがニューヨーク、特にマンハッタンの不動産。
でも、今週に入ってから報道されたのが そのニューヨークの最も高額なコンドミニアムの1つ、 プラザ・ホテルの物件を 購入者の3分の1が 既に手放したがっているというニュース。 400億円以上を掛けて ホテル兼コンドミニアムに改装されたプラザであるけれど、購入者がここを手放したがっている理由は 金策に困っているというよりは、大金を出すに値しない物件であるため。
写真左は、ロシアのヘッジファンド・マネージャー、アンドレイ・ヴァヴィロフが購入した2つのペントハウスのうちの1つの写真。 彼が購入したペントハウスの金額は合計で$53ミリオン(約57.2億円)で、この2つのペントハウスを合体させてトリプレックスにするのが ヴァヴィロフ氏のプランであったという。 ところが写真を見ても分る通り、たとえ$1ミリオン物件でも文句が来るような 枠だらけの窓や、視野を遮る柱、低い天井など、ペントハウスとは 名ばかりで、購入時に約束された問題の改善が全く なされていないため、当然のことながら同氏は訴えを起こしている。 確かに3ミリオンも出せばウィンドウ・ウォールは当たり前のご時世に、 こんなに小さくて オールドファッションの窓が マンハッタンで史上2番目に高額なコンドミニアムに設置されているというのはどう考えても腑に落ちないもの。
売り出し以来、アッと言う間に完売したというプラザのコンドミニアムであるけれど、この状態では マンハッタン 一等地の不動産投資としては 稀に見るハズレ物件 ということにも なりそうな気配なのである。

さて インフレが進んでいることが指摘されるアメリカであるけれど、事実過去6ヶ月でヘアコンディショナー、使い捨てのシェーバー、タンポンが軒並み 8.5%の値上がりを見せており、トイレット・ペーパーとペーパー・タオルは7%、歯磨き粉や食器洗い用の洗剤は4.5%の値上がりになっているという。 また女性にとって深刻なのは、避妊用のピルが2年前に比べて20〜40%も値上がりしていること。
ラグジュリー・アイテムにしてもバレンシアガのモーターサイクル・バッグが2003年に比べて約1.5倍の価格になっていたり、 高額ジーンズの平均的な価格も5年前の150ドルから190ドルにアップしているという。 シャネルのサングラスは 2003年に290ドルであったものが350ドル。クリスチャン・ルブタンのシューズは 5年前からその価格が30%以上アップしているという。
またニューヨーカーの多くが嘆いているのが電気代の値上がりで、この夏は電気代が 昨年の約2倍になっていると言われていたりする。

こうして出費が嵩む一方で、リセッションなので給与がアップするはずが無いのは当然のこと。
ことに、金融業界でこれまで大金を稼いでいた人々やそのワイフが、レイオフやボーナス・カットによる収入激減で、 どういう状況に陥っているかと言えば、さすがに彼らはトイレット・ペーパーの値上がりなどには気付かないくらいにリッチではあるけれど、 確実に減らしているのがパーソナル・ケアのバジェットである。
これまで450ドルのハイライトを月2回入れて保っていたブロンド・ヘアをギブアップしたり、120ドル+タックス&チップの マニキュア&ペディキュア・セッションの回数を減らしたり、パーソナル・トレーナーをギブアップする、 ダイエット・グルメ・フードのデリバリーを解約するなど、既にこれらのパーソナルケア・ビジネスには リッチ・プープルによる バジェット・カットの現象が見られ始めているという。
こうした人々は、ヨガでさえマンツーマンのインストラクターを付けていて、実際その方が自分のニーズやその日のコンディションに合わせた ポーズが学べて効果が高いのだという。 また 「トレーナーが付いてプッシュしてくれないとワークアウトをする気が起こらない」 という人も多いようで、こうした人々は往々にしてルックスの良いトレーナーを付けているもの。 マンハッタンでは女性でも男性でも、ルックスの良いトレーナーほど高給取りなのは 雇う側が彼らのルックスを モチベーション・ソースに使っている ためである。そんなルックスの良い チャーミングなトレーナーが居てくれるから、朝の6時半にセントラル・パークをジョギングしたり、 仕事が終わってからジムでワークアウトをしようという気持ちになる人は非常に多いのである。

でも 「暫くは新しいクライアントは受け付けられない」 と言っていたような売れっ子トレーナーでも、 昨今は かつてのようなスノッブな態度は取れなくなったというし、 それは有名美容整形医も同じこと。 これまでは、高額な施術をローンを組んでまで行う女性が居たものだけれど、 今や住宅ローンだけでなく、ありとあらゆるローンを組むのが難しくなっている上に、リセッションというご時世柄、 ライポサクション(脂肪吸引)やブレスト・インプラント(豊胸手術)をしようという女性の絶対数が減り続けているという。 このためニューヨークだけでなく、美容整形のメッカであるビバリーヒルズやマイアミなどでも、今年に入ってからは 「2年のウェイティング・リスト」 と言われたドクターのアポイントメントが数週間で取れるようになったと伝えられているのだった。

ところで、今までパーソナル・トレーナーやニュートリシャン(食事のアドバイザー)などにエクササイズやダイエットを管理されていた人々が、 彼らを失うと どういう現象が起こるかと言えば、こうした人々はそもそも意志があまり固くないようで ワークアウトをしなくなったり、ダイエットの緊張の糸がプッツリ切れて これまで我慢してきたピザやパスタ、フライド・ポテト、チョコレート・ムースなどを 食べるようになってしまうという。
また別の説では、こうした人々は沢山のアポイントメントを入れて、自分を忙しくすることによって 食欲を散らしているもの。なのでネールやヘア、パーソナル・トーレナー、セラピスト等とのアポイントメントがどんどん減っていけば、 その余分な時間に食欲と戦わなければならず、結果的にその戦いに負けてしまうのだそうだけれど、 いずれにしても、リセッションのせいでウエイトが増えるというのは メディアも取り上げる社会現象の1つであったりする。
確かにダイエットやエクササイズというのはある程度 精神的に余裕が無いと出来ないもの。 加えて買ったばかりのイヴニング・ガウンを着用するブラックタイ・パーティーや、 ビキニを着て ヨットでクルージングを楽しむサントロペのヴァケーションの予定等が無くなってしまい、 自分をプッシュしてくれるグッドルッキングなトレーナーも居なくなってしまったら、 自己顕示欲が食べ物の誘惑にあっさり負けてしまっても 仕方が無いようにも思えるのである。

でもこうした人々がリセッションを理由に 自分に甘くなる一方で、 社会全体も彼らに対して甘くなってくるもの。
ビューティー業界では 2009年春夏の目玉トレンドは ”ナチュラル” 、すなわち ボトックスも打たず、ヘアのハイライトも入れない ナチュラル・ビューティー(?) がメイン・ストリームと言われており、パーソナル・ケアを怠ることをまるでトレンドのように演出していたりする。
またリッチな人々の税金を上げると謳っていた民主党の大統領候補、オバマ氏にしても 「アメリカ経済が復活するまでは、裕福な人々に対する税金アップを見合わせる」 と その態度を軟化させており、 これを受けて それまで ”リッチ狩り” を心配していたウォールストリートの金融関係者の間では 徐々にオバマ支持者が増えて来ているとのことだった。
その大統領選にはアメリカ経済の今後の建て直しが掛かっていると言われるけれど、海外先進20カ国のアンケート調査によれば オバマ候補の当選を望む声が圧倒的であるという。 でもアメリカ国内では その戦況は五分五分で 、果たしてどちらが当選するのか?は 現時点では 全く予想が付かない状況なのである。





Catch of the Week No. 1 Sep. : 9 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Aug. : 8 月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Aug. : 8 月 第 2 週






執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。