Sep. 7 〜 Sep. 13 2009




” Fashion's Out? ”


今週のニューヨークでは、ヤンキーズのデレク・ジーターがルー・ゲーリックが保持していたヤンキーズ最多安打記録を抜いたことが 最も大きく報じられていたように思うけれど、アメリカ全体で大きく報じられていたのは やはり健康保険問題についてで、 水曜にはまたしてもオバマ大統領が下院を前に演説。このスピーチによって死にかかっていた法案が 息を吹き返してきたと言われていたのだった。

今週は加えて、セプテンバー・イレブンのテロの犠牲者追悼イベントが グラウンド・ゼロの冷たく降りしきる雨の中で行われていたけれど、 このセプテンバー・イレブンのテロの重みが今のアメリカ国民の中に根強いことを 先月8月から9月上旬に掛けて実感することになったのが クレジット・カード会社。
というのも、アメリカでは現在VISA、マスター、アメリカン・エクスプレスの殆どのカードが2年更新となっているけれど、9月一杯でカードが切れる人々に対して、 8月から一斉に送付が始まっていたのが、有効期限 09/11 のカード。 これを受け取った人は、2009年9月まで有効の 09/09 と記載されたカードを持っていた人なので、2年更新のカードが 09/11 になってしまうのは 当然といえば当然のこと。
でもカード会社には 「カードを使う度に、ナイン・イレブン という有効期限を言わされたり、書かせられたり、入力したりするなんて気分が悪い」という 苦情がニューヨーク・エリアを中心に殺到したという。
当初は、「そうは言っても仕方が無い」と 有効期限変更のリクエストを断わり続けていたカード会社であるけれど、 「ナイン・イレブンが縁起が悪いからと言って、利用者がカードを使わなくなったら大変!」 と考えを改めたようで、 苦情を申し出た利用者に対しては、”10/11”、”09/12” といった有効期限のカードの再発行を始めたことが伝えられていたのだった。
私も縁起はすごく担ぐ方だけれど、”ラッキー・カラー” や ”ラッキー・ナンバー”、”ラッキー・チャーム”はあっても、 ”アンラッキー・ナンバー” を始めとする ”アンラッキーXXXX” というのは、自分の運を落とす機会を増やすだけなので 持たない主義。 なので、私だったらそんなカードを受け取っても気にしないと思うけれど、アメリカ人が ”ナイン・イレブン” という数字を 不運の象徴に捉えている様子には、テロの傷跡が良く現れているように思えるのだった。

さて消費が伸び悩み、数字で見るほどに景気が回復していないのは一般消費者なら誰もが感じることだけれど、 その状況を打開するための ファッション消費 カンフル剤として9月10日、木曜夜に行われたのが 既にCUBE New York でもお伝えしている ”ファッションズ・ナイトアウト”というショッピング・イベント。
中には このイベントを メガ・セールと勘違いして、腕まくりをしてバーゲン・ハントをするつもりの人も居たけれど、 同イベントはすっかり秋物に入れ替わったデパートやブティックで、商品を定価で買ってもらうためのイベント。 なので、このイベントのためのリミテッド・エディションの商品以外は 売られている商品は日頃と同じであるけれど、 ストアにセレブリティが訪れ、商品を購入すればサインをして貰えたり、シャンパンやワインが振舞われて、 パーティー気分でショッピングが出来、しかもストアは午後11時までオープンしているというのがこのファッションズ・ナイトアウト。
このイベントを推進したのはアメリカン・ヴォーグの編集長、アナ・ウィンター (写真左)。 3月に行われたパリ・コレの段階で、あまりにファッション消費が冷え切っていることを懸念したファッション関係者のブレイン・ストーミングによって 生まれたアイデアを、彼女が世界13カ国のヴォーグ編集部のネットワークを使って、世界的なグローバル・イベントとして 実現させたものである。

ことにニューヨークはアナ・ウィンターのお膝元であるだけでなく、ファッション業界が17万5000人の雇用を生み出し、 日本円にして1兆円の年間売り上げを誇る 世界最大のファッション・ビジネス都市。 それだけに 「人々がショッピングをしてくれないことには、この業界を支えられない」 という危機感を持ったCMが サラー・ジェシカ・パーカー、P.ディディ、ドナ・キャラン、アナ・ウィンターらの出演で製作・放映されていたのだった。
この日は私も主要店舗をいくつも回ったけれど、非常に正直な感想としては 深刻なリセッションに突入した昨年9月のリーマン・ブラザース破綻以降の 平日としては、買い物客が多く、ショッピングバッグを下げて歩いている女性を沢山見かけたけれど、 好況時のホリデイ・シーズンのニューヨークといったら、それよりもっとずっと沢山の人が沢山のショッピング・バッグを下げて、 5番街などは歩けないほどの人だかり。それが1日だけでなく、ホリデイ・シーズン期間中、毎日のように続いていた訳であるから、 そういうニューヨーカー&旅行者の パワー・ショッピングぶりを見て知っている人間にとっては、全くの ”迫力不足” という印象だったのである。
ファッションズ・ナイトアウトの様子は 別セクションで詳細をレポートしているけれど、 ヴィクトリア・ベッカムやオルセン・シスターズがバーグドルフ・グッドマンに現れ、ジャスティン・ティンバーレイクがサックス・フィフス・アベニューに登場し、 グウェン・ステファニがブルーミングデールズでパーソナル・アピアランスを行うなどのセレブリティ絡みのイベントで、 ストアでサーブされるシャンパンやスナックを味わって その華やかな雰囲気を楽しんでいる人達が 大勢居たのは紛れも無い事実。
でも肝心の売上については、既に疑問視する声が大手の小売店のエグゼクティブから聞かれており、 そのリアクションは、「サクセス」と「期待はずれ」に分かれているのが実情のようである。

ところで、写真右は、ブルーミングデールズの2階のファッション・フロアでのスナップであるけれど、 メザニン・フロアでパーソナル・アピアランスを行っていたグウェン・ステファニ目当ての 人々が ワインを飲み干して、スナックを食べ散らかして、サッサと居なくなった後のフロアは、 日頃より来店客が少ないくらいのガラガラ状態。 ショーケースの上に置かれたゴミやグラスを片付けるケータラーの姿も見られず、例え欲しいものがあっても 買い物する気になれないような状態に感じられたのだった。
その点、バーニーズやバーグドルフ・グッドマンだと、来店客がブルーミングデールズよりかなり上品でリッチになる分、 ケータラーのオペレーションはずっとちゃんとしていたけれど、最も混みあっていたシューズ・セクションでさえ、 人はたむろしていても 肝心のセールス・パーソンが暇そうにしていたのが気になったのだった。 好況時のホリデイ・シーズンや、バーゲン・シーズンは、彼らが複数の買い物客に頼まれたシューズをバック・ルームに取りに行ってしまうので、 セールス・パーソンを捕まえるのが至難の業。しかも気になっているシューズを纏めて頼まないと、どんどん時間が 掛かってしまうので、誰もが最低3〜4足をセールス・パーソンに「これ持ってきて!」と言わんばかりに渡し、 届いたシューズを一気にトライするので、鏡の前のポジションを取り合いになることもしばしば。
でもファッションズ・ナイトアウトでは、とりあえず人が居るにもかかわらず、そうした 「買っている」、「買う気が大いにある」 という印象がかなり希薄なのだった。

それも仕方が無いと思うのは、現在のアメリカ消費者の買い控えは、9・11のテロ直後のものとは全く違うのである。
9・11のテロ直後は、アメリカ全体がテロのショックで 消費欲が萎えてしまっただけでなく、「買い物をするのが不謹慎」のような 空気が漂っていたのだった。私のマイアミに住む親友がこの時期、ギャップで買い物をしたところ、店員全員に拍手されてしまったので 理由を訊いてみると、 「テロ以降、過去3日誰1人として買い物をしてくれなくて、貴方が最初のお客さんなんです」 と言われてしまったというエピソードがあったけれど、 当時は、経済状態は以前と同じでも 「買い物する気になれない」 のが買い控えの理由だったのである。
一方、現在のリセッションでは 「買いたいものがあっても、お金に余裕が無い」 ための買い控えが殆どな訳で、 「ショッピングをしろ」と言われても、無い袖は振れない 人々が多いのである。
なので、 ファッションズ・ナイトアウトは 9・11のテロ直後の時のように、心理的な理由による買い控えに対しては 有効なイベントのように思えるけれど、深刻なリセッションを1年以上続けてきた現在のニューヨークでは、 果たして 売上的に どの程度の効果があったのかは微妙のように思えるのだった。
特に 同イベントが最もアピールするのは、現在最もお金に困っている若い層。 本当にリッチな人々は、セレブリティ・イベントが複数組まれた大混雑の日にはあえて買い物などしないものである。
若い層は 「開きたくても財布の口が開けない」、「クレジット・カードは既にマックスアウト(限度額一杯)してしまった」という人が少なくないけれど、 イベントにはデジカメ持参で参上し、友達とタダでワインやシャンパンが飲めて、スナックが味わえる状況を お金の節約に利用しており、 「次のセレブ・イベントは何がある?」と、携帯電話でチェックしているだけだったりするのである。

それでも彼女らとて、どうしても欲しいものがあれば、カード負債を増やしてまで買う訳であるから、 現在の買い控えの一因は、消費者にアピールしない商品やトレンドを打ち出すファッション業界、ファッション・メディアにもあると私は考えるのだった。
更に言うならば、オバマ政権は選挙公約の1つにあったミドル・クラスの生活向上には一向に手をつけていないけれど、 ファッションに限らず消費活性化の鍵を握るのはミドル・クラス。 ミドル・クラスの雇用と生活が安定しない限りは、シャンパンを振舞っても セレブリティを連れてきても、 爆発的に売上が伸びることなど無い訳で、消費者ばかりを突っつかず、ファッション業界も 自動車業界や製薬業界のように、 政府や議会への働きかけを 学ぶべきだと思うのだった。


ところで私が、ここ2週間徐々に行ってきたのが、物を捨てること。
私は人に 「荷造りと収納の達人!」 と自慢している反面、物が増えても何とか収納してしまうので 物を捨てるのが非常に苦手なのである。
でも 上手く収納できていても捨てなければならないもの、捨てた方が良いものは沢山ある訳で、使わなくなったもの、着なくなったもの、古くなったものを、 ”リセール・ショップ行き”、”サルベーション・アーミーへの寄付 (この寄付は所得税申告の際に税金から差し引くことが可能。なのでいらなくなった物は 友達にあげてしまうより寄付の方がベター。) ”、 ”破棄” の3つに分けて、どんどん処分を始めたのである。
その結果 破棄したものは、VCR(ビデオ)、ビデオ・カセット40本、スニーカー3足、サンダル1足、Tシャツ7枚、水着3枚、テニス・ラケット、 古くなったガイドブック等、細かくあげて行ったらキリが無いけれど、一番自分でビックリしたのが、化粧品。 リップ・スティック15本、マスカラ12本、アイシャドウ・パレット7つ、リキッド・ファンデーション5本を捨てることになったのだった。 リップ・スティックの多くは、既につけなくなって久しい 紫がかったピンクとワイン・レッドのものが多く、 マスカラは少し乾いた方が使い易いので 古くても放置していた結果 貯まってしまったもの。 リキッド・ファンデーションは、2001年からずっとアルマーニを愛用してきたけれど、 2年前からベア・ミネラルズに替えてからはミネラル・パウダー一辺倒。でもあまりに沢山余っている上に、 「冬になったら使うかも・・・」と考えて捨てられなかったもの。
いずれにしても、今回 ”破棄”した品物を見ていて反省したのは、「買ったこと」より 「捨てなかったこと」 なのだった。

私の持ち物の中で、”リセール・ショップ行き”、”サルベーション・アーミーへの寄付” が最も多かったのが やはり洋服。
バッグやシューズは、何度検討しても手放せないものばかりだけれど、服に関しては着なくなって久しいもの、もうこの先着ないと思うものが多く、 巨大な紙袋が2つ分がリセール・ショップ行き、3つ分がサルベーション・アーミー行きになってしまったのだった。 中にはグッチやシャネルもあったけれど、グッチの方はホルター・ネックのストラップが首の前でクロスしているデザインで、 その締め付けのせいで 食事が喉を通らない思いをして以来、着ていなかったもの。 一方のシャネルのトップとスカートは、とにかく太って見えるので 着なくなってしまったものだった。
この計5つの紙袋を見て思ったのは、好況時は如何に無駄な買い物をするか ということ。 もちろん好況時に購入して、完全に元を取った服も沢山あるけれど、 私に限らず、世の中一般的に 好況時というのは「深く考えないで物をどんどん買う時代」、売る側に立ってみれば「苦労せずに物が売れる時代」 であることを 痛感してしまったのだった。
考えてみれば、好況時はハリー・ウィンストンがホリデイ・シーズンにウォールストリートに出店を出して、お昼休みだけで億円単位を売り上げたことがあったけれど、 これはもっぱら仕事に追われて妻やガールフレンドや愛人にプレゼントを買う時間が無い金融男性をターゲットにしたもの。 こうした男性達は ものの15分程度で、100万〜1000万単位のギフトを選んでいた訳で、売る側も濡れ手に泡、 買う側も金融ビジネスで濡れ手に泡の思いをして、皆ハッピーの時代だったのである。
私の友人がかつて 「ボーイフレンドが選ぶ ジュエリーは、つけられないものばかり」と愚痴っていたことがあるけれど、 ひょっとしたら、そんなハリ・ウィン、ブルガリ といったジュエリーも、贈られた女性達のジュエリー・ボックスの中で、持っていることさえ 忘れてしまうほど日の目を見ない存在になっているかもしれないのだった。

私が持っている中で最も元を取っている服はドナ・キャランのカシミア・セーター、バナナ・リパブリックのTシャツ、 セリーヌのレザー・スカート、ダイアン・フォン・ファーステンバーグのシルク・ジャージーのラップ・ドレスなどで、 着用している頻度を考えると元を取るどころか、お金を節約しているような状態。
特にバナリパのTシャツは買ってから何と6年も経っているのに、毎年、今シーズン買ったように見えるほどの優れもの。 同じタイプのTシャツが もうバナリパで売っていなくなったのは残念な限りなのである。 このTシャツは 霜降りの何ともいえないブラウンの感じが他には無いので購入したものの、買った時は 「どうして たかだかTシャツにこんなお金を払ったんだろう?」 というようなお値段だったけれど、シンプルなものほどある程度お金を掛けた方が 長く、何度も着られるというのは紛れも無い事実。
ココ・シャネルの語録に 「シックはシンプルに勝てない」 と言うものがあるけれど、 ショッピングをする前に このシャネルの言葉を思い出せば、かなりの無駄な出費が防げると私は考えるのである。

今回改めて見回した私のクローゼットは 1シーズンに ”1〜2回着るもの”、”4〜5回着るもの”、”10回以上着るもの” で構成されていたけれど、 私に限らず、今すぐ買い足さなくても 今年の秋冬が越せるだけの服は 好況時代に十分購入しているのは殆どの女性に言えること。
だからこそ、「お金を節約しなくては」 という時に 真っ先に買わなくなるものの1つが 服 な訳だけれど、 暫く買い物を控えていた人が 「この値段なら 1枚くらい・・・」 と思ってしてしまうのが 安物買い。 でも、これこそが 「貧すれば鈍する」への道なのである。
お金を使わずに、装いを変えるには アクセサリーに投資をして 手持ちの服とコーディネートするのが一番。
オードリー・ヘップバーンは、ブラウス2枚とスカート1枚、あとはベレーのかぶり方と数枚のスカーフの結び方でアクセントをつけることによって、 彼女がそれしか服を持っていないことに 誰も気付かなかったというけれど、 そうしたパリジェンヌ・スタイルの節約ファッションの方が、”安物のトレンディ” よりも 遥かにスタイリッシュで頭が良さそうに見えるのである。







Catch of the Week No. 1 Sep. : 9 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8 月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Aug. : 8 月 第 3 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





© Cube New York Inc. 2009