Sep. 6 〜 Sep. 12 2010




” アントラージュの悲劇 ”


今週のニューヨークはすっかり秋めいて、晴天が続く 過ごし易い1週間であったけれど、私がこれを書いている9月12日は午後から雨。
今日、新スタジアムでシーズン・オープナーを迎えたNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)、ニューヨーク・ジャイアンツの試合には 影響は無かったものの、午後4時から行われる予定だった全米オープン・テニス男子決勝、ラファエル・ナダルVS.ノヴァック・ジョーコヴィッチの試合は 雨のせいで明日、13日の午後4時に延期されてしまったのだった。

私は今週水曜に、そのUSオープンに出かけたけれど、 何年ぶりかで訪れた USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターで、 友人とまずビックリしたのが、 同大会が NYのどんなスポーツ・イベントよりも 観客の身なりが良い上に、長身でグッド・ルッキングな男性が多いということ。
友人は、服装については「仕事帰りにやってくるニューヨーカーが多いから・・・」と分析していたけれど、それは平日夜のヤンキー・スタジアムとて同じこと。
ルックスの良さについては、男子プロ・テニス界が メジャー・リーグやNFL、NBAに比べて 遥かにルックスのレベルが高いことを思えば、 USオープンを観に来るレジャー・プレーヤーのルックスが良くても不思議ではないと言えるけれど、 正直なところ、ニューヨークの どんなドア・ポリシーが厳しいクラブよりも グッド・ルッキングな男性を 多数見かけたのがUSオープン。
なので、テニスの練習に熱を入れる よこしまなモチベーションを得る結果になったのだった。

私が観に行った水曜のナイト・セッションは、まず午後7時から女子準決勝が行われて、No.1シードのキャロライン・ヴォスニアキVS.ドミニカ・チブルコバ という 若手ブロンド美女対決。負けたチブルコバの方がミスが多かったけれど、2セット目に入ってから 物凄いパワー・ショットが出てきて、 キャロラインは勝ったものの 打ち負けていたという印象。
でもキャロライン・ヴォスニアキは女子プロ・テニス界で アディダス・バイ・ステラ・マッカートニーのウェアを着用出来る唯一のプレーヤー。 同ラインの広告モデルにもなっているだけあって、遠目でもキュートなのは良く分かる存在。 彼女が今回のUSオープンで着用したウェア(写真右)は、一番スカート丈が短いことで話題になっていたのだった。

とは言っても その試合の後には男子準決勝が行われ、しかもロジャー・フェデラーが登場するとあって、ヴォスニアキVS.チブルコバ戦は どうしても前座というか ウォームアップという印象。 スタジアムが満杯に近い状態になって、緊張感が高まったのは やはりフェデラーと対戦相手のロビン・ソーダリングが登場してからなのだった。

スタジアムで実物を見て感じたのは、ロジャー・フェデラーが単なるテニス・プレーヤーではなくて ”スター”だということ。
なので、試合中は彼のプレー、特にフットワークやバックハンド・スライスに目が釘付けになってしまったけれど、それでも自宅のTVがHDのビッグスクリーンになっているせいか、 何年も前にプロ・テニスを初めて観戦した時ほどは、フェデラーのプレーに 感動しなかったのも事実なのだった。
恐らく彼が全盛期のピークを超えてしまったためかもしれないけれど、いずれにしても フェデラーがストレート・セットで勝利してくれたお陰で、 この日は夜中の12時半には帰宅することが出来たのだった。

ところで 私が出かけた水曜夜のアーサー・アッシュ・スタジアムは、セレブリティだらけで、ヴォーグのアナ・ウィンター、グウェン・ステファニといった フェデラーのプレーヤーズ・ボックスの常連に加えて、ドナルド・トランプ夫妻、40過ぎでオリンピック・メダリストになった水泳選手のダラ・トレス、 ホッケー・レジェンドのウェイン・グレンツキー、デヴィッド・デュカブニー&ティア・レオーニ夫妻など、セットの合間のブレークの度に ビッグ・スクリーンにセレブリティの姿が映し出されていたのだった。
でもそれと同時に、私にとって非常に目に付いたのがU.S.オープンのスタジアム・フードの立ち遅れ。 USTAビリー・ジーン・キング・ナショナル・テニス・センターは、メッツの本拠地、シティ・フィールズのすぐ隣にあるけれど、 同スタジアムがグルメ・スタジアム・フードで知られるのとは正反対に、U.S.オープンのフードは年に1度の2週間のイベントであるせいか、 まだまだ未開発状態。
なので観客は当然のことながら、ハンバーガーとフライド・ポテトというメニューに偏りがちであったけれど、 スタジアムのフライド・ポテトは 写真左の ”ワッフル・フライ” と呼ばれる、最も脂が染み込みやすい高カロリー・フード。 観客の多くが これをラージ・サイズで購入して、ケチャップをたっぷりつけて食べるのを 好んでいて、ただでさえ揚げ物は食べない主義の私は 空気中の脂の匂いを嗅いでいるだけで、胸焼けしそうな勢いなのだった。
ちなみに最近の調査によれば、 栄養のバランス上、推奨されている量のフルーツを摂取していると答えたアメリカ人は全体の32.5%。 そして これが野菜となると 僅か26.3%に落ち込むというけれど、その野菜の摂取量の中には ワッフル・フライのような 揚げ物が含まれている訳で、アメリカの肥満に歯止めが掛らない理由を垣間見たという思いなのだった。


話は全く変わって、私は一度も結婚したことが無いにも関わらず、よく恋愛問題の相談を持ちかけられるタイプで、 つい先日もコロンビア大学に通う26歳の男性 というより 男の子に、ニューヨークに来て1度もガールフレンドが出来ないという相談を持ちかけられていたのだった。
アメリカでは一度社会に出てからマスター・デグリーを取得するために大学に戻るというのはありがちなこと。 なので、26歳で大学生でも 彼は頭脳明晰で、しかも長身のハンサム。 服の趣味も悪くないので、大学ではモテそうなタイプだと思ったけれど、彼はキャンパスにいるような ノーメークでガリガリ勉強している女の子には興味はないという。
彼が興味があると同時に、1度デートをしてはそれきりになってしまうのは、ニューヨークのホットなクラブにだけ生息するような長身美女のモデル・タイプ。

ここまで聞いた私が不思議に思ったのは、彼は学費ローンを受けてギチギチの生活費で暮らしているような貧しい経済状態。
服にしても、見た目は悪くないけれど 手触りや仕立ての悪い H&Mタイプのものを着用していて、スニーカー以外のドレスシューズは1足、 ジャケットは2枚しか持っていないようなワードローブ。
なので、典型的な学生 という生活をしている訳だけれど、そんな彼がどうして、ニューヨークで最もドア・ポリシーが厳しいブーン・ブーン・ルームや アヴェニューのようなクラブに足を踏み入れて、そこに来ている女優の卵や、モデルなどを引っ掛けられるのか?ということ。
そのからくりは、彼のサウス・アメリカから来た友人が大富豪の息子なのだそうで、 彼がそんなホットなクラブに出掛けるのは、常にその友人に誘われた時。 まずは男友達同士で どこかのレストランで食事をしていると、そのサウス・アメリカンの友人が調達した 女の子達が合流してきて、その後ストレッチのリムジンでクラブに乗り付けるのがルーティーン。
そしてヴェルヴェット・ロープの前で行列してクラブに入ろうとしている人々を尻目に、あっさり入店して VIP待遇でラウンジ・エリアに陣取り、ボトル・サービスでシャンパンを飲むという 一時のファイナンス業界のバチェラー(シングル男性)か、ユーロ・リッチなヨーロピアンのような遊び方をしているとのこと。
とは言っても、そのコロンビア大学の学生の彼は、レストランやクラブの代金は 一銭も支払っていないのだそうで、 それを自慢げに語っていたのだった。

彼は ニューヨークに来てからの 過去約2年で、クラブで出会った100人以上の女の子の携帯番号をゲットしたとのことで、 彼によれば目が合って、相手の女の子が微笑んできたら 声を掛けに行くという。そして少し喋ってからダンスフロアに誘うか、 そのまま話を続けて携帯番号を訊くのが常套手段。 携帯番号を聞いて断られたのはたった1回。その時は「ショックというより、真剣にビックリした」と 女性を引っ掛けることに関しては 強い自信を窺わせていたのだった。
でも、そのうちの半分以上とデートをしたものの、2回目のデートに辿り着いたのは僅か3人、付き合う段階まで至ったケースはゼロという打率の低さ。 相手が2度目のデートに興味を示しても、彼が「話が面白くない」、「よく見たら、それほど好みじゃなかった」という理由で 相手からの携帯メールに返事をしない というケースもいくつかはあったという。

彼が1回目のデートで気に入った女性については、デートの直後に 携帯メールでフォローアップをするというけれど、 それっきり連絡が無くなるのが通常とのことだった。
そこで、彼にデートの場所やデートを誰が支払うのかを訊いたところ、彼が選ぶのはマメにレストランのリサーチをしている私が一度も聞いたことが無いような レストランやカフェ。もちろん彼は生活が苦しいし、最初のデートで3つ星、4つ星レストランに女性を連れて行く男性というのはリセッション以来、 本当に居なくなってしまったので それは構わないけれど、そうしたごく普通のレストランに予約を入れずに 行き当たりばったりで出掛けることが多いと言っていたのだった。
デートの支払いは、払う段階になって女性側が半分オファーしてくれるケースが殆どで、彼自身は「女性に半分払ってほしいなどと 言ったことは一度も無い」 と自負していたのだった。 でも、それと同時に 「女性が社会で同等と見なされる時代なんだから、男が一方的にデートを支払うなんてフェアじゃないと思う」などと、 女性が言うなら納得して聞けるけれど、男性に言われると何故か面白くないコメントが彼の口から聞かれていたのだった。

ここまで聞いた私が、最後の質問事項として彼に尋ねたのが クラブで目が合った女性に声を掛けるタイミングと、 彼の経済ステータスを明かすタイミング。
その答えによれば、彼が女性とアイ・コンタクトがあるのはVIPエリアに座って、友達と飲み始めた時で、声を掛けた女性を VIPエリアに合流させてあげることもしばしば。 その場のクラブでの会話で、彼がコロンビアの学生であることは話しているというけれど、 デートで食事などに出掛けると、もっと突っ込んだ質問をされて、その時に経済状態の話が出ることを認めていたのだった。

ここまで聞いたら、ニューヨークに住む女性の多くが 彼が2度目のデートに辿り着けない理由が ピンと来るもの。
60%以上の女性がクラブには異性に出会う目的で出掛けると答えているだけあって、女性達がVIPエリアに熱い視線を 注いでいるのは、そこに座っているリッチな男性に声を掛けてほしいため。
そうでなくても、リムジンから颯爽と降りて来て、厳しいドア・ポリシーを難なくクリアして クラブに入っていく 彼と友人達の一行を、 クラブの外に並んで待っている時に女性が見かけていたら、彼がたとえ一銭も支払っていなくても、 リッチな友達と同等に付き合える程度にはリッチだと思われても不思議ではないもの。
また クラブでの会話で コロンビアの学生だと話したとしても、大金持ちの息子で学生をしながらVIP遊びをしている男性は 沢山居る訳で、 女性は良く知らないグッドルッキングな男性に対しては、往々にして夢を抱きたがるものなのである。
でも、デートの待ち合わせにクラブで出会った時と同じ服装で現れ、真っ暗なクラブとは異なり、明るい照明のレストランやカフェで女性に 服装の質や 時計などをチェックされる段階に入ると、途端に粗が出てきてしまうのが彼の問題点。
しかも、会話が進むうちに 彼は学費ローンを受けていて、生活が楽ではないことも 明らかにしてしまうのだそうで、 それは相手の女性にリッチだと思われると困るからと語っていたのだった。

これを説明された女性が悟るのは、彼が単なる”アントラージュ”、すなわち彼のリッチなサウス・アメリカ人の友人の お取り巻きでしかなかったということ。
彼がデートした女性は、本当にことごとく長身のブロンドで、モデルやTVアナウンサーなどが含まれているけれど、彼女らは 彼よりずっと稼いでいるだけでなく、それまでデートしてきた男性も彼女らのステータスに見合うだけの地位や収入があったと思われる男性。 なので ルックスが良くて 会話が上手でも、学費ローンを抱えた貧しい学生では 自分と吊り合わないと考えて、 デート代を半分オファーして、それきりに連絡を絶ってしまうというのは 私から見ればかなり納得できる事のように思えるのだった。

ちなみに、現在のアメリカ社会で 学費ローンを抱えているというのは、失業しているのと同じくらい イメージが悪いのだそうで、先週のニューヨーク・タイムズにも 学費ローンの金額を知ったフィアンセに婚約を解消された 女性の話が掲載されていたのだった。
実際、高額な学費を支払って弁護士やレントゲン技師のような資格を得ても、仕事が得られず ローンが焦げ付くケースは 現在アメリカで急増していて、学費ローンは次のサブプライムと言われているほど。 こうした学費ローンを受けている人々は、時に1千万円、もしくは それ以上の借金を抱えて キャリア・ライフをスタートさせなければならないのである。
学費ローンの返済が最も確実と言われる職業は医師で、その理由はアメリカでもドクターが不足しているため、 仕事が見つからない、レイオフされる というケースが 極めて稀であるため。
でも、多額の学費ローンを返済している最中に、怪我や病気で仕事が出来なくなった場合や、女性が出産や子育てで仕事を一時休もうとした場合、 そのローンが夫婦間に多大な負担となり、引いては離婚の原因となることが 先述のニューヨーク・タイムズ紙の記事で指摘されていたのだった。

これらの事実を全て総合して言えるのは、彼は本来の姿はアントラージュであっても 第一印象は リッチでグッド・ルッキングな好青年。
でもデートをしてみると、経済的に苦しいだけでなく、借金まで抱えていることが判明するので、女性側が事前に描いたイメージとの落差が 極めて激しい訳で、それでは2度目のデートが無くても不思議ではないもの。
しかしながら彼の場合、自分がリッチになる前に アントラージュとしてVIPワールドのテイストを味わってしまっただけに、 貧乏な学生生活だけをしているのはあまりに退屈。加えて女性の趣味も 理想が先行してしまって、”ブロンド長身以外は論外”という 億円単位のボーナスを貰っている 金融男性のようなレベルになってしまっているのだった。
もちろん金融男性であれば ブロンド長身美女を引っ掛けてデートしても、 ビスポークの 仕立てと素材の良いシャツの袖口から、パテック・フィリップの時計をちらつかせて、 アメリカン・エクスプレスのブラック・カードで レストランの支払いが出来るので、鼻持ちならない態度や退屈な会話でも 女性達が2度目のデートをしたがるのがニューヨークのシングル・シーン。

なので、彼には気の毒だけれど 「モデルタイプのガールフレンドが欲しかったら稼ぐしかない」と解決策を教えてあげることになってしまったのだった。
実際 ここニューヨークでは、男性はお金さえ稼げば 女性とその問題がパッケージになって付いてくるのが常識なのである。





Catch of the Week No. 1 Sep. : 9月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8月 第 4 週


Catch of the Week No. 3 Aug. : 8月 第 3 週


Catch of the Week No. 2 Aug. : 8月 第 2 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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