Sep 2 〜 Sep 8, 2013

” Olympic Expectation ”


今週のアメリカも、最も報道時間が割かれていたのは、シリアに対する武力行使のニュース。
米国議会での投票前に、ロシアのサンクトペテルブルクで行なわれたG20サミットで、武力行使に対する 諸外国からのサポートを得ようとした オバマ大統領の努力は無駄に終わった印象で、 シリアのアサド政権をサポートする ロシアのプーチン大統領とオバマ大統領の間で交わされた 20秒にも渡る長い握手が メディアの関心をそそる程度に終わっていたのだった。
アメリカ国内では戦争に反対する世論が今週に入ってからさらに大きく高まり、特に選挙を控えた議員達にかなりの プレッシャーが掛っていることから、議会が武力行使を可決するか否かは、混沌とした状態。 そして否決された場合に、オバマ大統領が独断で武力を行使するかについては、ジョン・ケリー国務長官はGOサインが出る 見解を現時点では明らかにしているのだった。


その一方で、多くのアメリカ人にとって今週 最もエキサイティングなイベントと言えたのは、フットボール・シーズンの開幕。
今や、フットボールはベースボールに大きく水を開けてアメリカの人気No.1スポーツになって久しい状況。 そんなアメリカ国民の圧倒的支持の要因となっているのは、ここ数年の女性ファンの急増。
調査によれば、アメリカ国内で 自らをフットボール・ファンであると認める女性の数は 8,430万人で、これはNFLファンの45%を占める数。 今年のスーパーボールには1億1,130万人がチャンネルを合わせているけれど、 その視聴者のうちの4,300万人以上が女性で、アカデミー賞授賞式やグラミー賞授賞式よりも多くの女性視聴者を獲得しているのだった。
この傾向を受けて 今、 猛然と売り上げを伸ばしているのが 女性用のNFLチーム・アパレルの売り上げで、 過去5年間に 148%も セールスを伸ばしているのがこのカテゴリー。 例えば ヴィクトリアズ・シークレットも 2012年から NFLのライセンスを取得して、チーム・ロゴをフィーチャーした アンダーウェアを生産・販売して売り上げを伸ばしているブランドの1つ。
今年は、シーズン開幕に合わせてヴォーグ誌とNFLが協賛でファッション・ショーを行なったり、マリー・クレール誌が その10月号をNFL関連の記事や企画で埋めるなど、女性NFLファンを ターゲットにしたマーケティングが 確実にメディアやファッション業界で拡大していることを印象付けているのだった。



同じく今週のスポーツのニュースとして土曜日に アメリカでも大きく報じられたのが、 2020年のオリンピック開催地が東京に決まったというニュース。
アメリカのメディアの決定直後のリアクションは 「サプライズ・チョイス」というもので、 それというのも 欧米では 最終投票を間際に控えて、 スペインのマドリッドの猛烈な追い上げが報じられていたため。 中には「開催地は マドリッドに決まり!」と土曜の投票を待たずして 伝えるインターネット・メディアさえあったほど。
またトルコのイスタンブールが選ばれて、「イスラム教国家がホストする初のオリンピックが実現するのでは?」 という憶測も飛び交っていて、欧米メディアでは 東京は 有力候補として 名前が挙がらなかった存在なのだった。

それが日曜のペーパー・メディア報道では、「サプライズ・チョイス」から 「IOCによる安全な選択を」というものに変わっていて、 最終候補に残ったマドリッド、イスタンブール、東京の3つの都市のうち、2020年を迎えた段階での 政治、経済状況において 東京が 最も不確定、 及び不安定要素が少ないのことが 選出された最大の理由であると報じられていたのだった。
もちろん、IOCがそんな安全な選択をせざるを得ない背景にあると言われるのが、2016年の開催地として選ばれたブラジルにおける ワールドカップ、及びオリンピックの開催反対&抗議デモや、世界各国の政情不安。

また他のメディアは触れていなかったものの、ニューヨーク・タイムズ紙の記事で記載されていたのは、土曜日の投票前の 最終アピールの際に、浮上したドーピングの問題。 トルコ、スペインは共に、スポーツ選手やオリンピアンのドーピングが取り沙汰されてきた歴史がある国。 これに対して日本のアスリートは 過去にドーピングの違反記録がゼロであることが その席で取り上げられ、 日本がドーピングという見地からもクリーンな開催国であると アピールされたことが 記事の中で 指摘されていたのだった。

そのオリンピック開催については、「オリンピックをホストしたところで、街や国が経済的に恩恵を受けるとは限らない」、 「オリンピックが利益をもたらすのは一部の政治家と、施設の建設や様々なプロジェクトを高額で請け負う関連業者だけ」といった ネガティブな見解が聞かれるようになって久しいけれど、 事実、ブラジルではワールド・カップ、オリンピックの開催施設の建設資金集めのために バス代を値上げしたところから、前述のように国民の怒りのデモが起こったことは世界中で報じられた通り。 その結果、サッカー王国のブラジル国民が ワールドカップのボイコットを世界に訴えるという 異常事態が起こっていたのだった。
でも 2020年のオリンピック東京開催については、これによって 日本が 消費者の信頼を高めるきっかけを得て、経済立て直しを図るチャンスとなることが 世界各国のメディアによって報じられているのが実情。 長年経済が停滞し、すっかり中国に追い越されただけでなく、大きく水を開けられたイメージが強い日本が、 震災、津波、福島原発事故の後、 国際的イメージアップや 経済の本格的復興の足掛かりとして、オリンピックが必要であったことは、 諸外国のメディアが指摘したのはもちろん、誘致に尽力した日本人スタッフの コメントとしても語られていたことなのだった。

前回 日本で 夏季オリンピックが開催されたのは1964年の東京大会。 そしてこれをきっかけに 盛り上がった日本経済が、”オリンピック景気” とネーミングされているだけに、 そのマジックがもう一度起こるか?は オリンピックが どう企画・運営されるかに掛っている と言えるけれど、 それよりも 確実に 2020年の東京大会で 期待できると 私が考えるのは、オリンピックを通じて日本人の善良で優秀な国民性を 世界にアピールすることが出来るということ。


私は1998年に行なわれた長野冬季オリンピックの際には、既にニューヨークに暮らしていたので この時に、日本開催のオリンピックを 初めてアメリカのメディアを通じて見ることになったけれど、 私が知る限り、ニューヨーク・タイムズ紙にしても、当時のオリンピック放映局であったCBSにしても、 当時の長野大会ほど ホスト国の国民の親切さやモラルの高さ、善良さについてメディアが報じた大会は無かったと言えるのだった。
当時のニューヨーク・タイムズ紙で紹介されていたのが、アメリカのアスリートが携帯電話をどこかに置き忘れ、アメリカだったら絶対に戻ってくることが無いので、 諦め半分で自分の携帯に電話をしてみたところ、移動に使った車の日本人運転手が出てきて、 電話を預かっていたことを伝えてくれただけでなく、 ホテルまで電話を届けてくれたエピソード。 何人ものアメリカ人アスリートが同様の経験をして、「日本人は決して物を盗まない」と 口々に語っていたことや、アメリカのユニフォームを着て歩いているだけで、 見ず知らずの日本人が とても親切にしてくれたことに 感激した彼らのコメントが幾つも フィーチャーされており、日本人としてそれを読んで とても誇らしく思ったのは 今でもはっきり覚えていること。

また 長野オリンピックに小学生の息子を同行して出かけたCBSの女性ブロードキャスターは、 子供の世代の友好プロジェクトということで、息子を日本の小学校に1日体験入学させる企画を 請け負うことになっていたけれど、アメリカでは 言葉も通じない外国人生徒がやってきたら 無視されたり、いじめられたりするのが関の山。 なので彼女の息子は当然のことながら その企画を嫌がって、 無理やり息子を連れていかなければならなかったという。ところが、いざ出掛けてみたら 息子は小学校で温かく大歓迎されただけでなく、すっかり人気者になってしまい、その様子に感激した 女性ブロードキャスターが 「日本の子供達は素晴らしい!」と 放映中に 涙で声を詰らせるシーンも見られていたのだった。

こうしたオリンピック報道が 当時、日本人の国民性をアピールする 素晴らしいパブリシティになっていたことは、アメリカに住んでいて強く感じたこと。
日本という国は、世界にアピールするのが下手な国であるのは 周知の事実というか、歴史が証明する通りで、 外国人旅行者の誘致キャンペーン等にしても、的を外した物が非常に多いことは アメリカ人さえもが指摘する通り。
その点、オリンピックは 日本にやってきた外国メディアが 日本のキャンペーンをやってくれる有り難いイベントな訳で、 長野大会以外では、 2000年に開催されたオーストラリアのシドニー大会において, その国民性がアメリカ・メディアで讃えられていたのだった。
同大会では 決してブーイング等をしない観客のマナーの良さ、スポーツを心から愛する姿勢に加えて、 オーストラリアの人々のフレンドリーな気質等が、メディアでポジティブにフォーカスされていたけれど、長野大会のように アスリートやメディア関係者達が国民性に感激した細かなエピソードを熱っぽく語るまでの報道には至っていなかったのだった。

逆に開催国に問題がある場合は、それを露呈することになるのも こうしたイベントで、 前回ワールド・カップが開催された サウス・アフリカについては、現地の治安の悪さ、 多発するレイプ等に 試合結果と同じくらい報道のフォーカスが当たっていたのは記憶に新しいところ。


その点、日本という国は 訪れた外国メディアがネガティブ報道をするのは 極めて難しいと言える社会。
治安の良さや 街の清潔さ、人々の善良さは世界でトップクラスであるし、 食べ物が美味しいのも大きなプラス。 日本を訪れた私の外国人の友達が これらに加えて 必ず褒めるのが、街中がオーガナイズされていること、 何処へ行ってもトイレがキレイであること、人が親切であること、チップを払わなくても最高の サービスが受けられること。
でも日本を訪れたことが無い外国人、日本を良く知らない外国人の間では、 1980年代〜90年代前半に 世界に印象付けた 色狂いの悪徳ビジネスマンのイメージが 今も強烈であったり、アジア的な不可解さがあるという偏見が未だ根強いのが実情。 また、昨今では福島原発の問題を「日本」、「日本人」という括りにして扱う傾向も欧米のメディアも 少なくないだけに、新たなイメージアップは不可欠と言える状況なのだった。

その意味では、今や ソーシャル・メディアを通じて、トラディショナルなメディアがフォーカスしないような細かい事までもが 個人レベルで世界中に発信される時代であるのは歓迎すべき風潮。 2020年には どんなソーシャル・メディアが幅を利かせているかは 定かではないものの、日本という国の素晴らしい部分がオリンピックを通じて 様々な角度から世界にアピールされることを 期待しているのだった。

東京に問題があるとすれば、まず公共交通機関の運賃が非常に高額であるということ。 街の規模が大きいので 仕方が無いとは言え、あっと言う間に電車賃で1万円が消えてしまうというのは 諸外国から訪れる旅行者にはかなりの経済的負担。
また電車の乗り換えが複雑なのに加えて、以前よりはマシになったとは言え、まだまだ外国人にナビゲートが難しい街の作りであることは 否定できないのが実情。 ニューヨークでは土地勘が良いと自慢している私でも、日本に一時帰国すると、東京では迷ってしまうことが多いだけに、 外国人として訪れていたら、それは尚のことだと思うのだった。





執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。


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