Sep. 5 〜 Sep. 11 2016

”Is Fashion Making Us Stupid!? ”
ファッション・ウィークに見る 愚かなファッショニスタ達?


私がこのコラムを書いている9月11日、日曜日は 9・11のテロの15周年の日。 テロ以来、毎年この日には ワールド・トレード・センターのノース・タワーにアメリカン航空11便が激突した午前8時46分から黙祷を捧げ、 その後 犠牲者全員の名前を遺族の代表が読み上げるメモリアル・サービスが行われおり、 その様子をメジャー・ネットワークがこぞって放映するのは例年のこと。その前夜 9月10日には、 ツイン・タワーを光で表現した "Tribute in Light / トリビュート・イン・ライト"が今年もダウンタウンの空で展開されていたのだった(写真上)。
そして毎年この時期がやってくると 誰もが思い出すのが、あの2001年9月11日の”あの瞬間”を、どこでどんな風に過ごしていたかということだけれど、 今朝私が まざまざと思い出したのは、テロ当日の午後6時半のニュースで CBSの当時のアンカー、ダン・ラダーが開口一番に語った 「2011年9月11日、私たちは生きている限りこの日を忘れることは無いでしょう」というセンテンス。 大手ネットワークはワールド・トレードセンターにアンテナがあったことから、テロ後数日間の放映が不可能になっており、 この時、唯一通常通りに午後6時半からのニュースが放映できたのがCBS。 私はダン・ラダーのこの第一声を テロ翌日に書いたコラムに引用したこともあって良く覚えているけれど、 彼の言葉通り テロの衝撃だけでなく、これを境に世の中のすべてが変わったという意味で、 この日のことは生きている限り忘れないと確信するのだった。

そんな9・11の15周年を迎えたニューヨークでは、2011年当時同様にファッション・ウィークが行われているけれど、 2011年のテロ直後には、当然のことながらファッション・ウィークの全スケジュールがキャンセルされており、 この時にデビュー・コレクションをショールームで見せることになっていた私の知人は、 バイヤーのアポイントメントが全てキャンセルになってしまったことから、未だスタートして間もないビジネスを クローズすることになってしまったのだった。
その後も2〜3年ほどは9月11日にファッション・ショーを行うことを嫌うデザイナーが多かったと記憶しているけれど、 ここ数年はそんな問題もなく、今年に関してはヴィクトリア・ベッカムが1分間の黙祷を捧げてから、ショーを行ったことが伝えられていたのだった。




そのニューヨーク・ファッション・ウィークは今週水曜日にスタートしたけれど、 この日にいきなり物議をかもしたのが、カニエ・ウエストとアディダスのコラボレーション・ブランド、Yeezy/イージーのショー。
これが行われたのは イーストリバーに浮かぶルーズベルト・アイランドで、バイヤーやエディターは3時に予定されたショーのために 1時半に送迎バスに乗るように指示され、 1時間以上をかけて現地に到着したけれど、バスの中のトイレの扉が壊れていたことで、既にバイヤーやエディターは大パニック。 加えて、カニエ・ウエスト自身が渋滞に巻き込まれて到着が遅れてしまい、実際にショーがスタートしたのは午後5時近く。
その間、ショーのプレゼンテーションとして、蒸し暑い炎天下の芝生の上にレオタード姿で立たされていたモデル達は、 ただでさえショーに出演するために食事を控え、身体がむくむのを嫌って塩分を取らないようにしていた状態で、 待たされている間中、水分を取ることも出来ず、次々と芝生の上に座り込む有様で(写真上)、 そのうちの1人は完全に気を失ってしまったことが伝えられているのだった。
そして実際にショーがスタートすると、モデルが履いていたヒールが破損するトラブルが続き、 中にはシューズを脱いで歩き出すモデルも居たほど。 この惨憺たるショーの様子は、ゲスト達が逐一ツイートしており、翌日ニューヨーク・ポスト紙は、 その第一面で「Kanye's style show disaster」というヘッドラインで、この前代未聞の悲惨な状況を記事にしていたのだった。

ニューヨークを皮切りに この秋行われる2017年春夏シーズンのファッション・ウィークでは、 合計521のプレゼンテーションが行われることになっているけれど、 その半数以上に当たる279のプレゼンテーションが行われるのがニューヨーク。それに次ぐのがパリの93、ロンドンの81、4都市の中で 最も少ないのがミラノの68。
ダントツで世界最大規模になっているニューヨークのファッション・ウィークには、世界中からプレスやセレブリティがやってくるだけでなく、 動いているお金の規模も桁違い。数多くのパーティー&アフター・パーティー、プロダクト・ローンチが行われて、 それにタイミングを合わせてソフト・オープニングを行うレストランやクラブが数多いのは例年のこと。 ウーバー、リフトといったカーシェアリングや、アップスケールなAirbnbも、この時期はホリデイ・シーズン並みの掻き入れ時となっているのだった。




前述のようにカニエ・ウエストのブランド、”イージー”の Disaster(ディズアスター/大災害)で幕を開けたニューヨーク・ファッション・ウィークであるけれど、 現時点では今シーズン スナップされているセレブリティや、ファッション・エディター、ブロガーのファッションも同様のディズアスターぶり。
一番左は、”ジジ・ハディド x トミー・ヒルフィガー”のコラボ・コレクションのショーに向かうテイラー・スウィフトとモデルのマーサ・ハントであるけれど、 共にジジに義理立てしてトミー・ヒルフィガーを着用しているものの、サーカスにアルバイトに行くようなアウトフィット。
その隣は、ジュリアン・マクドナルドのドレスでパーティーに登場した女優のエミリー・ラタコウスキーであるけれど、 胸の露出だけにフォーカスされて、スタイル抜群の彼女が着用しても 非常にバランスが悪いアウトフィット。 中央のカイリー・ジェナが着用するバルマンのカクテル・ドレスは、ヴィクトリアン時代のランプのようだし、 その隣のカイリーの姉であるスーパーモデル、ケンドール・ジェナはブーツを履いているというより、ブーツがケンドールを乗せて歩いているようなスタイル。 一番右のヴィクトリア・ベッカムは、今日行われたランウェイ・ショーのフィナーレの際のスナップであるけれど、 ソーシャル・メディア上では「空手の黒帯ユニフォーム」と指摘されたファッション。

これらに止まらず、今シーズンはブロガーやエディターがこぞって 寄付された古着を着たホームレスのようであったり、精神病院の拘束衣のようなシャツドレスを着用していて、 冗談でもファッショナブルとは言いがたいスタイルで歩いているケースが非常に多いのだった。
確かに世の中全体の傾向として、あまりカチッとしたスタイルを着用していると 老けて見えるご時世ではあるけれど、 ファッション関係者のスナップを見て 憧れるよりも、 馬鹿にして眺める人が多いというのは嘆かわしい状況と言えるのだった。

そのファッション業界は、昨年秋から今年の春にかけて一流ブランドのクリエイティブ・ディレクターのシャッフルがあり、 デザイン・ポジションがミュージカル・チェア(椅子取りゲーム)状態と言われる状況。
昨年、ディオールのデザイナーを辞任したラフ・シモンズは、少し前にカルバン・クラインのクリエイティブ・ディレクターに就任し、 そのデビュー・コレクションは2017年秋冬シーズン。そのラフ・シモンズに代わってディオールのクリエイティブ・ディレクターに選ばれたのは、 ヴァレンティノを手掛けていたデザイン・チームの1人であるマリア・グラツィア・ キウリ。エディ・スリマエがあっという間にサンローランの クリエイティブ・ディレクターの座を去った後、今年4月に後任に抜擢されたのはヴェルサスのデザインを担当していたアンソニー・ヴァッカレロ。 ダイアン・フォン・ファーステンバーグも今年5月にジョナサン・サンダースをチーフ・クリエイティブ・オフィサーに選んだばかりで その他、ランバン、バレンシアガなど、新しいクリエイティブ・ディレクターによるデビュー・コレクションを控えているブランドが 何時になく多い状況なのだった。




デザイナーの世界がミュージカル・チェア状態なのに対して、セレブ絡みの世襲制のようになっているのがモデルの世界。
写真上左は、スーパーモデルでビリー・ジョエルの元夫人でもあるクリスティ・ブリンクレーの娘、セイラー・ブリンクレーと、 シンディ・クロフォードの15歳の娘で、今シーズンのブレークアウト・スターになっているカイラ・ガーバー。 カイラに関しては、多くの人々が彼女の中に若かりしシンディの姿を見るために引き合いが多いのは言うまでもないけれど、 カイラのグッドルッキングな兄、プレスリー・ガーバーもやはりモデル。 もちろん、今シーズン最もホットなジジ&ベラ・ハディドの母親、ヨランダも元モデル。 彼女らやケンドール・ジェナと仲が良いことで知られるモデルのヘイリー・ボールドウィンも 俳優アレック・ボールドウィンの娘で、 セレブリティの娘、息子で 長身であれば直ぐに仕事が舞い込むのが現在のモデル業界なのだった。

その一方で、ファッション・ビジネスにおいて現在トレンドになっているのが、”See Now, Buy Now”。
これは これから店頭に並ぶ、もしくは既に店頭に並んでいる2016年秋冬の商品のランウェイ・ショーを ファッション・ウィークで見せるというもので、タクーンや、ジジ・ハディド X トミー・ヒルフィガーのコラボ、 レベッカ・ミンコフ、トム・フォードなどが今シーズン、”See Now, Buy Now”のショーを行っているのだった。 これがビジネス的に意味を成すのは、以前であれば 商品が店頭に並ぶ6ヶ月前にランウェイでコレクションを発表し、 それが3ヵ月〜4ヶ月にファッション誌のグラビアを飾り、ファッション・エディターがその店に並ぶ直前のアイテムを着用して 次のシーズンのファッション・ショーに出かけるというスケジュールで回ってきたけれど、 ソーシャル・メディアが登場してからというもの、コレクションはリアルタイムで一般の人々が見ることが出来て、 実際にそれがストアに並ぶ頃には、その関心が次のシーズンの最新ファッションに移行しているというのが実態。 したがって、ショーの様子がソーシャル・メディアを賑わす段階で、その商品がストアに並んでいる方が 遥かに売上げが見込めるのだった。

そんなファッション・ウィークとは全く別に、今週はデザイン、スタイルが話題となるニュースが2つあったけれど、 そのうちの1つがテニスの全米オープンの女子シングル準決勝で敗れたセリーナ・ウィリアムスのアウトフィット(写真上、中央)。
試合が行われた木曜のニューヨークは非常に蒸し暑く、しかも会場となったアーサー・アッシュ・スタジアムは巨大なスタンドのせいで、 コート上の温度が高いことで知られる悪環境。 にもかかわらず、セリーナが着用していたのはタートル・ネックのワンピースと、両手のアーム・サポーターという 体温が1度は上昇すると思われるアウトフィット。 試合中、セリーナは手のひらの汗を何度もウェアでぬぐっており、解説を担当していた往年のプロ、クリス・エヴァートが ボールボーイはもっと頻繁にセリーナにタオルを渡すべきとコメントしたほどで、 多くのスポーツ・メディアは、セリーナ・ウィリアムスがこのファッショナブルではあるもののテニス向きとは言えないウェアのせいで負けた、もしくは 不利になったという見解を示していたのだった。

また9月7日には アップル社がアイフォン7を発表し、ヘッドフォン・ジャックが無い代わりに エアポッドとネーミングされたワイアレス・イヤフォン(写真上右)を同時にお披露目させたけれど、 その途端にソーシャル・メディア上で展開されたのが エアポッドのデザインに対する猛バッシング。 どう見ても 落としたり、失くしたりが避けられないデザインのエアポッドのお値段は159ドルで、 失くした場合に簡単に諦めがつかないお値段。
加えてカリフォルニア大学バークレー校のジョエル・モスコウィッツ博士によれば、ブルートゥースを用いたエアポッドは 耳に低強度の電波を送信するため、長く使い続けるうちに 脳から化学毒素を締め出すために不可欠である血液脳関門に ダメージを与えると指摘。直ぐに脳腫瘍になる心配はなくても、長年の使用が危険であることを警告しており、 アイフォン・ユーザーの間でも「何故こんなデザインにしてまで イヤフォンがワイヤレスでなければならないのか?」という 疑問が飛び交っていたのだった。

最後にファッション・ウィークのショーのゲストが、どんな顔ぶれで構成されているについて触れておくと、 ニューヨーク・タイムズ紙によれば エディター&プレスが54%、バイヤーが30%、セレブリティが3%、 デザイナー、もしくは企業の関係者や友人が13%。
でも名前が売れていないデザイナーであればあるほど、セレブリティを招待するだけのバジェットが無く、 プレスやバイヤーが姿を見せないケースが多いため、シート・フィラー(席を埋める人)として 関係者や友人をより多く招待する傾向にあるのだった。



執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。 丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、渡米。以来、マンハッタン在住。 FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。 その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。

Shopping

PAGE TOP