Sep. 10 〜 Sep. 16 2007
” Things Everybody's Talking About This Week... ”

今週のアメリカでは、9/11のテロの6周年のアニヴァーサリーがあったり、木曜にはブッシュ大統領が主要ネットワークのプライム・タイムに
イラク戦争についてのスピーチを行うなど、政治的、社会的なイベントがあった他に、スポーツの世界では
NFL ニュー・イングランド・ペイトリオッツが先週行われた対ニューヨーク・ジェッツ戦で、コーチのサインをビデオ撮影するというスパイ行為を行っていたことが
発覚。ペイトリオッツのコーチ、ビル・ベリチェックに対してハーフ・ミリオン・ダラー(日本円にして5800万円)の罰金が科せられるなど、
様々なニュースが報じられていたのだった。
でも、人々が最も話題にし、トーク・ショーやエンターテイメント・メディアが盛んに取り上げていたネタと言えば、
やはりブリットニー・スピアーズが9月9日のMTV ビデオ・ミュージック・アワードのオープニングで見せたカムバック・パフォーマンスである。
9月9日、日曜のアメリカ東部時間 午後9時にスタートしたMTVビデオ・ミュージック・アワードのオープニングで、
新曲「ギミー・モア」を披露したブリットニーであるけれど、ポップ・ミュージック史上、最もビッグなカムバック・パフォーマンスを望んだファンの期待は
見事に裏切られ、このパフォーマンス見たさに入手困難なチケットを手に入れた会場の観客、そしてTVでこのパフォーマンスを見守った人々は、
それぞれにシラケたり、唖然としたり、様々な疑問の念を抱くことになったのだった。
では、何がファンや観客、視聴者をがっかりさせたかと言えば、まずすっかり太ってしまったブリットニーの体型とそれを全くカバーしないアウトフィット。
ブリットニーには当初衣装として コルセットが用意されていたにも関わらず、彼女自身が 「セクシーさが足りない」 とその衣装を却下し、
自ら今回ステージで見せたラメのブラ&ホットパンツを選んだことが伝えられている。
しかしながら、ステージに上がる前の彼女は、自分の姿を見て「I look like a fat pig / 太ったブタみたい・・・」と呟いていたというから、
「正当な判断力は未だ持ち合わせているようだ」というのが一部のメディアのリアクションである。
加えて、彼女のやる気の無いリップ・シンキング (録音の歌声に合わせて口を動かすこと ) も非難の対象になっていたけれど、
そもそも、ブリットニー・スピアーズと言えば 歌唱力には乏しいことは折込済みの事実。なので 誰も彼女から歌唱力を期待していないだけでなく、
ライブ・パフォーマンスで生の歌声を聴くことさえ期待していないのである。
実際、ブリットニーのリップ・シンキングはデビュー当時から有名で、本人もヴォーカル・エンハンシングの使用、
すなわちダンスの動きのせいでマイクに歌声が入らなかった際など備えてバックアップのボーカルの録音が
コンサートでプレーされていることは認めていたのである。
それでも、今回のMTVのパフォーマンスでは録音の歌声が流れていても、ブリットニーがそれに合わせて口を動かそうともしない様子が
何度もカメラに捕らえられており、第一線を離れている間にリップ・シンキングまでもが下手になったことが指摘されると同時に、
ジョークのネタになっていたのだった。
でも、ブリットニーのパフォーマンスを見た人を最も失望させたのは、すっかり踊れなくなったことを露呈した彼女の
鈍い身体の動き。かつてのブリットニーと言えば、ブロードウェイ・ダンサーもついていけないようなダンス・ルーティーンを
超多忙スケジュールの中、 短時間でマスターすることで知られており、またローライズ・ジーンズのブームの火付け役でも
あった彼女は、毎日数百回の腹筋運動をしてその体型を保っていたのである。
でも今回登場したブリットニーにはその面影は何処にも無く、ごく簡単なダンス・ルーティーンも驚くほどリズム感の無い動きになっており、
特に厚みと立体感を増した腹部は、多くのメディアからジョークの対象にされていたもの。
このMTVのパフォーマンスは、人々がブリットニー・スピアーズというシンガーに期待するものが、
歌唱ではなく、ダンス・ムーブとそのルックスであることを立証していたとも言えるけれど、
その後の報道ではブリットニーはリハーサルに酔っ払ってドリンク持参で現れ、2回しかリハーサルを行っていなかったとも言われている。
その一方でミュージシャン仲間や、メディア関係者、そして一般のファンから指摘されていたのが、
ブリットニーが彼女のキャリアに有益な助言をしてくれる人々を次々とクビにしてしまった結果、
彼女の周囲には、彼女が何をしようと「グレイト!」などと言っておだてるだけのYESマンしか残っていないに違いないということだった。
私自身、ブリットニーのパフォーマンスは先週のこのコラムを書きながら TVで見ており、今週は 友達や一部仕事関連の人と会う度に、
この”悲惨”、 ”最悪” と言われたパフォーマンスを話題にすることになったのだった。
でもその結果、分かったのは まだまだアメリカ人、ことに20代を中心とする層はブリットニー・スピアーズが大好きで、
あんなパフォーマンスを見せられた後でも 彼女のカムバックを強く望んでいるということ。
今年、ブリットニーと同じ25歳になるアメリカ人の女友達によれば、彼女は高校時代からブリットニーのミュージック・ビデオを見て、
彼女のファッションを真似て青春を過ごしてきた世代なので、メディアや人々がブリットニーを批判したり、ジョークのネタにするのが
ガマン出来ないのだそうで、彼女の周囲には 同様の ブリットニー崇拝者は多いという。
これを聞いたゲイの男友達が 「自分もメディアがマドンナのことをトラッシュする(俗語で ”けなす”こと)と腹が立つ」 と言って、
彼女に同情の念を示していたけれど、実際MTVのパフォーマンス後のアンケート調査でも、
アメリカ人の70%がブリットニーが新しいアルバムを出したら「興味がある」、もしくは「購入する」と答えていたという。
でも、これが30代のアメリカ人の友人になると、「もうカムバックは無理だと思う」と冷ややかな見解が多かったけれど、
それでも MTVビデオ・ミュージック・アワードのブリットニーのパフォーマンスと言って 誰もが思い出すのは、2001年、
当時の新曲「スレイブ・フォー・ユー」を披露した際の 通称”スネーク・パフォーマンス”(歌の途中で生きた大蛇を手に取ったパフォーマンス:写真上)。
この時のブリットニーがステージ上で輝きまくっていたのは誰もが記憶していることだし、
私の友人たちも口々に 「この頃のブリットニーはホットだった」、「見ていて惚れ惚れした」と語っていたけれど、
ブリットニー崇拝者にとっては、彼女が髪を剃ろうが、下着をつけずにスナップされようが、ウエスト・ラインが2倍に膨れ上がっていようが、
記憶に鮮明なのは こうした輝ける時代のブリットニー。
かく言う私も、デュラン・デュランがアイポッドに入っていたりするけれど、そんな私のアイドル・ノスタルジーなどとは比較にならないような
ブリットニー崇拝が 私の友人を始め多くのアメリカ人に見られたことには、正直なところビックリしてしまった。
事実、ここ数年視聴率の低下が続いていたMTVビデオ・ミュージック・アワードであるけれど、今年はブリットニーのパフォーマンスのお陰で
視聴率が23%もアップしたことが伝えれているのである。
音楽業界では、ブリットニーのカムバックの力になりたいというミュージシャンやプロデューサーは今も非常に多いとのことだけれど、
それが実現しないのは ブリットニー自身にヤル気がないからとも指摘されている状況である。
さて、先週から引き続きファッション・ウィークが行われていたニューヨークで、ファッション業界の人々が
ブリットニー以外で今週 最も話題にしていたことと言えば、月曜に行われたマーク・ジェイコブスのショーの遅れについて。
通常ニューヨークのファッション・ウィークでは スケジュールの時間通りにショーがスタートするということはまずあり得ず、
逆に時間通りショーが始まったら困るバイヤーやプレスは沢山居ると言っても過言ではないほど。
なので、多くのショーは30分遅れでスタートし、ショー自体は15〜20分で終了し、次のショーも30分遅れてくれるので移動時間は十分に取れるというのが
暗黙のスケジュールになっているのである。
それでも、マーク・ジェイコブスと言えばそのショー・スケジュールが大幅に遅れることで知られる存在で、
今回のコレクションでもショーが1時間遅れてスタートすることを見越して、開始時間の30分後に会場に出掛けるバイヤーやプレスが多かったという。
ところが、行ってみるとショーの開始時間の30分後でも未だ開場もされておらず、
入口の外には人が溢れている状態。私の友人は大手デパートのバイヤーをしているためにマーク・ジェイコブスのショーは
どうしても欠かすことが出来ず、我慢して待っていたというけれど、結局ショーが始まったのは夜の11時半頃のことで、
彼を始め、仲間のバイヤーやプレス関係者達は疲れ果てていたという。
この通常スケジュールより2時間遅れてスタートしたマーク・ジェイコブスのショーについては、ファッションのレビュー以外に、
業界紙がページを割いて記事にしており、多くのファッション関係者が ただでさえ忙しいファッション・ウィークの最中に
2時間も大勢の人々を待たせたことに対し、怒りを露わにしていたのだった。中でも子供が居るバイヤーやプレスは、
彼のショーの遅れのせいで、有形無形の被害を被ったこともレポートされていたけれど、
この批判に火を注ぐ形になったのが、マーク・ジェイコブスがショーが始まる時間にマーサー・ホテルのバーに居たという報道だった。
そしてその翌日になって 業界紙の表紙を飾ったヘッドラインは、 ショーの遅れについて文句を言うプレスやバイヤーに対する
マーク・ジェウコブス側の反論コメント。それによれば、まずマーサー・ホテルはパリを自宅にするマーク・ジェイコブスが滞在しているホテルで、
彼は前日から働き通しに働いて、8時半からのリハーサルが終わった後、ショーの前に着替えとシャワーのために戻っただけで、
バーに居た訳ではないとした後、 「自分はバケーションも取らず働き通しに働いている。ビーチにも行かないし、馬にも乗らない。
バイヤーやプレスの連中は ショーが遅れたことで ”待っている家族が居るから・・・” と 文句を言うけれど、
自分には家族も居ないから、働き通しに働いている。余計な文句を言うなら、次のショーには来ないで欲しい」
とかなり 厳しい反論を繰り広げていたのだった。
さらにマーク・ジェイコブスは、このような批判を受けて 自分がアメリカのファッション・コミュニティの一員という気持ちになれないため、
ショーをロンドンかパリに移すことも真剣に考えているとさえコメント。
結局彼のことは 現在CFDA(アメリカ・ファッション・デザイナー評議会)のチェアウーマンを務める
ダイアン・フォン・ファーステンバーグが ニューヨーク・コレクションに留まるように説得をしたことが伝えられているけれど、
多くのファッション関係者はショーの時間が遅れたことが、「家族か?」「仕事か?」のような 本題とは異なる問題に結びついてしまったことに
腑に落ちない思いをしていたのも事実だった。
それでも、一部のファッション・インサイダーは、携帯電話のテックス・メッセージでマーク・ジェイコブスのショーが
11時頃まで始まらないことを知らされていたとのことで、そうした人々は夜10時半に会場に向かったというから、テクノロジーの進化は
今後ファッション・ウィークにも少なからず影響を及ぼしそうな気配である。
でもMTVビデオ・ミュージック・アワードについては、そうしたテクノロジーが裏目に出ており、会場に居た観客が インターネット上にアップされた
ブリットニーのパフォーマンスをアイフォンなどでダウンロードして チェックするのに忙しく、
必ずしもライブ・パフォーマンスに集中していなかったことが伝えられている。
その結果、今回のMTVビデオ・ミュージック・アワードは 「ブリットニーのパフォーマンスと同じくらいシラケた授賞式だった」
とメディアから指摘されるに至っていたのだった。

執筆者プロフィール
秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に
ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.設立。以来、同社代表を務める。
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