Sep. 15 〜 Sep. 21 2008




” バンカー・バッシング ”


今週はアメリカだけでなく、世界中のメディア・フォーカスと話題が ウォールストリート・クライシスに集中していたけれど、 リーマン・ブラザースの倒産、メリル・リンチの買収を受けて、月曜には、NYの株式ダウが504ポイント下落。 火曜には経営難が伝えられていたアメリカ最大の保険会社、AIGを政府が$85ビリオン(約9兆1000億円)を投じて救済することが伝えられたけれど、 その翌日には株価が再び449ポイントを下げ、「ダウが8000ドル代に落ち込むのも時間の問題」という憶測さえ飛び交っていたのが水曜夜のこと。
ところが、木曜、金曜には株価が大きく回復し、週末の終わり値は 1万1388ドル44セントまで持ち直しているけれど、これは 政府が打ち出した $700ビリオン(約74兆9000億円)を投じての 焦げ付きローンの買い取り案に対して市場が楽観的になったため。
これによって、政府はベア・スターンズ、ファ二ー・マエ、フレディ・マック、AIGを始め、その他のインベストメント・バンク、コマーシャル・バンク救済の のために$402ビリオン(約43兆140億円)を投じるのに加えて、それらの銀行からバッド・ローンを買い取るという 史上最大のベイルアウトを行う可能性が出て来た訳であるけれど、その合計は $1トリリオン(1Trillion = 1兆ドル / 約107兆円)以上。 そして 救済資金の主要な出所となるのが、国民の税金という訳である。 なので この案を好感したウォールストリートとは裏腹に、世論は ウォールストリートのバンカー達が欲に駆られて 散々好き勝手な大儲けをした シワ寄せが 一般国民に向けられることに対して大きく反発していたのだった。
まだこの具体案は提示されていないものの、政府がこの救済案を発動すれば 国民年金にも 手をつけることは確実視されており、もし この危機回避が一時的なもので、 救済案が結果的に失敗、もしくは無駄に終わった場合、アメリカの一般国民を待ち受けているのは 重税と不安定なリタイヤメントという 最悪のシナリオなのである。

この救済案提示を機に 市場では10月2日までショート・セリング、日本語で言う「空売り」が禁止されることになっており、 その理由として ショート・セリングが株価操作や市場の不安定要因となっていることが挙げられていたのだった。
市場関係者は この「空売り禁止」の規制に 大反対していることが伝えられているけれど、 私に言わせれば そんなレギュレーションを設ける以前に何とかして欲しいと思うのが、ウォールストリートのサラリー・システム。
アメリカ第4位の規模を誇った投資銀行 リーマン・ブラザースは$60ビリオン(6兆4200億円)の負債を抱えて倒産した訳であるけれど、その同社が 2007年に社員に支払ったボーナスの総額は$5ビリオン(5,350億円)。 しかもアメリカ企業史上最高額の倒産をしておきながら、一部のエグゼクティブは これからも ボーナスと年収10〜25億円のサラリーを向こう2年間、 合計で$2.5ビリオン(2.675億円)を受け取ることになっているという。
とは言っても退職したバンカーが業績にかかわらず 多額の退職手当を受け取るのは決して珍しいものではなく、 通常、退職条件は 業績が良いうちに交渉済みのもの。 このように 業績が悪化する金融機関から辞職、もしくは解雇されたバンカーが 多額の手当てを受け取ることは 「ゴールデン・パラシュート」 と呼ばれているけれど、先ごろ政府が買い取った ファ二ー・マエとフレディー・マックについては、元エグゼクティブ達に このゴールデン・パラシュートとなる手当てを支払わないことになったという。
でも、ウォールストリートのバンクが これだけのクライシスを招くようなリスキーな投資を行ってきた理由は、 そのサラリーが2000万円前後のベースと ”出来高払い”のボーナスによって構成されているため。 すなわち、いつかは破綻することが分っているような リスクの高い投資をしても 一時的に大きな 利益を上げれば、 それが億円単位のボーナスになってバンカーに支払われるわけで、全てが上手く回っている間は 彼らは濡れ手に泡の大儲けが出来るのである。 ところが 一度そのシステムが破綻した場合、 彼らはボーナスを失ったり 解雇されたりする訳だけれど、 だからといって それまで受け取った多額のボーナスを返金する必要は無い上に、上手くすればゴールデン・パラシュートによる 優雅な失業生活が待っているのである。
これまでであれば、こうした馬鹿げたことはウォールストリートの中で行われていること と考えられてきたけれど、 今回のクライシスは国民の税金によって解決されようとしているだけに、見方を変えれば 食費も切り詰めているような納税者が 彼らより遥かに豊かなバンカー達のフェラーリやガルフストリーム(プライベート・ジェット)、ハンプトンのビーチ・ハウスや マンハッタンのコンドミニアムを買い与えていることにもなる訳である。
こうなると、政府からのもっときちんとした説明や、ある程度の責任追求をする姿勢を見せて貰わない限り、 国民の納得がいかないのは当然のことと言わざるを得ないのである。

今回のウォールストリート・クライシスはこれから重税が待ち受けている一般国民にとって 気が重いのもさることながら、 多額の学費ローンを抱えてMBAを取得している学生にとってはさらに深刻な問題。 彼らは 暫くは高額のサラリーが見込めないだけでなく、ベア・スターンズもリーマン・ブラザースも無くなって、メリル・リンチも 多数の求人が望めないため、MBAを取得しても 仕事が見つかる可能性が激減しているのである。
良い仕事が見つからなければ、当然 抱えた学費ローンを返済する術(すべ)を失ってしまう訳で、 ウォールストリートのブーム時代に勉強を始めた彼らにとって 現在の状況は 「人生の大誤算」 とも言える一大事になっているようである。

ところでアメリカ、ことにニューヨークというのは そもそも落ちぶれていく者には厳しい社会。
しかもウォールストリートの金融関係者というのは、そもそも あまり社会的に好感を持たれている存在ではないだけに、 今回のようなクライシスが起こって、しかもその救済に税金が使われる・・・ という状態になると、 メディアにも、一般の人々の会話の中にもボロボロ登場してくるのが バンカー達に対するバッシングである。
夏の間、フランス語のクラスをお休みしていたため、すっかりフランス語を忘れてしまった私が 今週出かけたのがフランス語のカンバセーション・パーティーであったけれど、 その席でも 「アメリカ人バンカーが いかに程度が悪いか?」という話題で 皆が盛り上がっていたのだった。
それによれば、ウォールストリートのバンカーは田舎町からアイビーリーグの大学に進学し、 大手の証券会社に就職して ブローカーやアナリストになって 「初めて世の中を見た」 という人間が多く、 「言語は英語しか話せない」、「アートや音楽への造詣が浅いどころではなく、知識や理解力は殆ど皆無」、 「外国のことは自分がバケーションで出かけた国しか知らない」、 「接待ディナーで初めてフォアグラやトリュフを食すまで、その存在を知らずに生きてきた」、 「サルトルとフランシス・ベーコンが同じ時代の人間だと思っている」、 「シャンペンのクリスタルを好むのは、それが唯一自分が発音できるシャンペンの名前だから・・・」、等々 ボロクソ状態で悪口を言われていたのだった。

実際、私が以前パーティーで出会ったアート・アドバイサーは 「ウォールストリートのバンカーは絵画1枚を購入するにも、テイストが無いどころか 自分の好みさえ分らなくて、投資になって部屋のインテリアに合えば良い、もしくは一枚程度 有名アーティストの作品を持っていないと、 ホーム・パーティーをした時に恥をかく 、程度にしか考えていないので アドバイサーにとっては扱いやすいカモ」と語っていたのだった。
加えて、「外国のことは自分がバケーションで出かけた国しか知らない」 というのも 個人的に思い当たるところがあって 以前 ゴールドマン・サックスに務めているアメリカ人男性と友人を交えて話していた際、 ルクセンブルグが話題に上ったけれど、何と彼はルクセンブルグが、オランダか何処かの国の街の名前だと思っていて、 そういう国が存在していることを知らなかったのだった。
地理に全く弱い この私でさえ ルクセンブルグという国があること くらい知っているので、内心ビックリしてしまったけれど、 友人が 「ルクセンブルグは街じゃなくて国の名前よ」 と教えてあげたところ、 彼のリアクションというのが 「そんな小さい 貧しい国のことなんて知らないんだよ」 というもの。 確かにルクセンブルグは小さな国だけれど、経済的には世界で最も裕福なレベル。 その数分前まで彼が「グローバル・エコノミー」について語っていただけに、私と友人は このリアクションに絶句してしまったのだった。
もちろんアメリカ人バンカーでも優秀で、アートやグルメ・フードを理解する人は沢山居るとは思うけれど、 あまり程度が良くないバンカーほど 大きな態度を取ったり、お金があることをひけらかすような派手な態度を取るので、 そういう一部のバンカーが 彼らの総体的なイメージを低下させているというのもまた事実なのである。

ところで、アメリカの国全体が抱える借金は 2008年5月の現在で、$53トリリオン(約6099兆円) 。 住宅ローンに加えて、アメリカでは1世帯当たりが平均で100万円以上のクレジット・カード負債を抱えているという。 これに加えて学費ローンや自動車ローンなど、アメリカは過去20年間、 国民が稼いだ以上のお金を使って景気を盛り立ててきた社会。 その一方で、アメリカの平均世帯が貯蓄に回せる金額は1年で400ドル前後。 すなわち多くの世帯が 毎月の借金の支払いに追われた生活をしている ことになる訳である。
また今年に入ってからは、ガソリン代の値上がりを受けて 家計が苦しいため、 クレジット・カードの負債で食費をまかなわなければならない家庭が増えていることも 報じられており、政府が勝手にウォールストリートに対する$1トリリオンの救済案を打ち出したところで、 たとえ一部でも それを アメリカ国民が支払えるのか?は大きな疑問と言えるもの。
アメリカの独立宣言の起草者の1人であり、私が最も尊敬する歴史上の人物、ベンジャミン・フランクリンの 言葉の1つに 「借金を全て返したら、自分の本当の資産が幾らなのかが分る」 というものがあるけれど、 18世紀のアメリカに生きたベン・フランクリンが このような言葉を残していることを考えるにつけ、 アメリカの借金社会の歴史が 根深いことを 深刻に感じさせられてしまうのだった。





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執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。