Sep. 14 〜 Sep. 20 2009




” Silence is Golden ”


今週のニューヨークではファッション・ウィークが行われていたけれど、 前回と規模が変わらないとは言え、ファッション関係者の間で指摘されていたのが、 今回の方がファッション業界が沈んでいく悲壮感が 漂っていなかったという印象。
1つには春夏シーズンのショーなので カラー・パレットが明るい ということもあるけれど、 前回の2009年秋冬コレクションで、売れ筋狙いの安全策を取って逆に失敗した デザイナー達が 今回は アドベンチャラスなコレクションを展開していたというのが その要因。
とは言っても、リセッションで女性達のライフスタイルと装いがどんどんシンプルになって来ているだけに、 頭を冷やしてみれば 誰が何時、何処で何のために着用するのか分からないような作品も多かったけれど、 久々に "新しいクリエーション" と呼べるスタイルがランウェイに登場していたのは明るいニュースとして受け取られていたのだった。

その一方で、物が売れないと言われるアメリカで、今週例外的、かつ記録的なセールスを上げたのが 「ダヴィンチ・コード」で知られる作家、ダン・ブラウンの待望の新書、「ザ・ロスト・シンボル」。
今回も象徴学の教授、ロバート・ラングドンがメイン・キャラクターで、ワシントンDCを舞台に フリーメイソンに関する 何世紀にも渡る ミステリーに迫るのがこの作品。 既に発売前から爆発的な売れ行きが予想されていた同書であるけれど、9月15日火曜日の発売日だけで、 売り上げた部数は 何と100万部。
批評家の間でも、英語で "Pageturner" と表現される 「読み出したら止まらない本」 として 高い評価を得ている同書であるけれど、ダン・ブラウンの小説は 「ダヴィンチ・コード」 に代表されるように 多くの人々が映画で見るより原作を読んだ方が面白いと考えているもの。 今年初夏に公開された 「ダヴィンチ・コード」 前作の映画版、 「天使と悪魔」 は世界中の興行成績を合わせても、 制作費の元を取るのがやっとだったと言われるほどで、アメリカでは特に悲惨な興行成績になっていたのだった。
私はどちらも原作を読んでいるけれど、読んだのは英語ではなく日本語。 これは象徴学の単語が難しいので、日本語で読んだ方がすんなり頭に入ってくるためで、アメリカに長く暮らしている日本人でも 「ハリー・ポッターは英語で読むけれど、 ダン・ブラウンは日本語で読む」 という人が少なくないのが実情だったりする。 なので、私が同書を読むのも 日本語版が発売される来年春過ぎになると思うのだった。


さて、昨今のアメリカと言えば、言動が災いする事件の数々が大きく報道されているけれど、 その走りとなったのは、9月9日に下院で行われたオバマ大統領の健康保険案に関するスピーチの最中に 「You Lie! (「ウソを言え!」)」と怒鳴った サウス・キャロライナ州選出のジョー・ウィルソン議員。
もちろん、共和党員であれば オバマ大統領のスピーチをそう思って聞いていても不思議ではないけれど、 大統領のスピーチの最中に 野次を飛ばすという行為は、議員仲間からも国民からも無作法と受け取られたのは当然のこと。 このため、ウィルソン議員がバッシングの対象になったのは言うまでも無いけれど、 今まで誰も知らなかった彼の存在を 多くのアメリカ人が知るようになったのも また事実。
加えて 「You Lie!」は ちょっとした流行語になってしまい、事あるごとにTVのトークショーでも 日常会話でも 頻繁に 「You Lie!」が用いられるようになってしまったのだった。

これに次ぐ、”言動の災い” スキャンダルと言えたのが、全米オープン・テニスの女子シングルス・セミファイナルでのセリーナ・ウィリアムス。
対戦相手のキム・クライシュテル(英語での発音は クライスター) に1セット目を奪われ、2セット目もゲーム・カウント5-6で追い込まれた、 セリーナ・ウィリアムスのサービス・ゲームでのこと。通常プロのレベルになれば、サービス・ゲームはキープするものであるから、ゲーム・カウント6-6になって タイプレイクに持ち込まれると見込まれるのがこの段階。
スコアは15−30でクライシュテルがリードしていたけれど、この時のセリーナのセカンド・サーブにライン・ジャッジが「フット・フォルト」のコールをしたため、 クライシュテルがマッチポイントを迎えてしまい、このコールに対して 激怒したセリーナ が2度に渡ってライン・ジャッジに対して 食って掛かって行ったのだった。 そして この彼女の暴言が「スポーツマンらしからぬ態度」というペナルティとなったために、 セリーナがポイントを失うことになり、その失ったポイントが たまたまマッチポイントであったために、 ゲームは中途半端なまま、 キム・クライシュテルの後味の悪い勝利になってしまったというのがその経緯。

でも通常、暴言を吐いただけであれば ポイントを奪われることは無いのがテニスのルール。 では何故セリーナがポイントを失ったかといえば、彼女は1セット目の最中に フラストレーションから ラケットをコートに叩き付け、フレームを変形させるまでの破壊行為に及んでおり、 この時に ”ラケット・アビュース”(直訳すれば ”ラケット虐待”) というコート・ヴァイオレーションの警告を既に1度受けていたのだった。 そして、ライン・ジャッジへの暴言が2度目のヴァイオレーションであったためにポイントが奪われたという訳だけれど、 試合の現場では ジャッジからのきちんとした説明が観客に対して行われなかったこともあり、 アーサー・アッシュ・スタジアムでゲームを見守っていた多くの人々は、セリーナが怒って途中でプレーを辞めてしまったのだと思い込んでいたという。
本人はその後の記者会見で 「ライン・ジャッジに何て言ったか 全く覚えていない」 と語っていたけれど、 コートサイドに高性能マイクがある ご時世なだけに、彼女の 放送禁止用語を含む 「I'll kill you!」 といったコメントが 明らかになり、試合の終わり方があまりにドラマティックだったことも手伝って、 この様子はありとあらゆるニュース、バラエティ、トークショー番組で繰り返し放映されることになったのだった。
USTA(全米テニス協会)は、セリーナに対して約 1万ドル(約91万円) の罰金を科しており、それ以外にも出場停止などのペナルティを 検討していると言われるけれど、メディアやテニス・ファンの間では このセリーナの暴言を巡って意見 が対立しており、 既に謝罪のコメントを発表したセリーナに対して同情的な声、フット・フォルトのジャッジも機械化するべきとの声が聞かれる一方で、 男子シングルス決勝で、やはり主審に対して放送禁止用語を含む暴言を吐いたロジャー・フェデラーの罰金が1500ドルで、 セリーナ・ウィリアムスの罰金が1万ドルなのはおかしい といった意見、 さらに、「ジョン・マッケンローがもっと酷い態度を取った時でもメディアはこんなに騒がなかったし、USTAの処罰も軽かった」として、 セリーナが女性であるために、その暴言が 男性よりも 酷い行為として裁かれている といった指摘が聞かれていたのだった。
今日、9月20日付けのニューヨーク・タイムズ紙のスポーツ欄にも、読者からの同件に対する投稿が掲載されていたけれど、 大方の意見は 彼女の暴言が行き過ぎたもので、罰金だけでは軽すぎるというもの。
でもセリーナ・ウィリアムスにしてもロジャー・フェデラーにしても、偉大なチャンピオンでありながらも、余計なことを口走ったゲームでは 共に 敗れている訳で、「負け犬は吠える」という印象が無きにしもあらずなのだった。

そのセリーナの暴言の翌日、9月13日 日曜にニューヨークで行われたのがMTVのビデオ・ミュージック・アワードであったけれど、 ここでの暴言で セリーナを遥かに超えるメガ顰蹙を買ったのが カニエ・ウエスト。
最優秀女性ビデオを受賞した17歳のカントリー・シンガー、テイラー・スウィフトがスピーチをしている最中に、 ステージに上がり、彼女からマイクを奪い取ったカニエ・ウエストは 「ビヨンセこそがベスト・ビデオだ」と言って テイラーのスピーチを完全に中断。 この様子は 通常、セレブリティ・ゴシップなど報道しないニューヨーク・タイムズ紙までもが 記事にする大顰蹙事件になってしまったのだった。
当時、酔っ払っていたとも指摘されるカニエ・ウエストであるけれど、彼のこの行為と言動には アワードに参列していたセレブリティやミュージシャンからも非難が浴びせられ、 MTVはこの直後にカニエに対して会場を去るよう要請したという。
翌日月曜に、カニエ・ウエストはトークショーに出演し、テイラー・スウィフトと 彼の行為に腹を立てている人々に対して 謝罪を行っているいるけれど、 彼に対するボイコット運動なども呼びかけられており、 謝罪が不十分と指摘する声も聞かれているのだった。

その2日後、9月15日にはフォックスのニュース・キャスター、アー二ー・アナストスが 放送禁止用語である Fワード を口走ってしまい、自分の言ったことに全く気が付かない彼と、これにギョットした女性アンカーの様子は You Tubeで今週最もダウンロードされたビデオの1本になっていたのだった。
アー二ー・アナストスはその後 謝罪をしているけれど、アメリカではキャスターが時に放送禁止用語を口走ってしまうというトラブルが起こるもの。 それほどに、Fワードというのはアメリカの日常会話に根ざした 放送禁止用語なのである。

でも結末が最もドラマティックだった事件は、先週末に報道されたキャンパスの寮で起こったレイプ事件。
この事件は当初、寮のバスルームで 5人の男性によって女学生がレイプされたと報じられ、事件後、4人の容疑者がすぐに逮捕され、 5人目の容疑者の捜索が行われていると報じられていたのだった。
ところが、週の半ばになって明らかになったのが、「レイプされた」というのは女学生の狂言で、 彼女は5人の男性と合意の上で セックスに応じたという事実。 では女学生が何故レイプされたとウソの通報を警察にしたかといえば、彼女は自分が5人の男性とセックスをしたことで 周囲から売春婦呼ばわりされるのを恐れたとのこと。 でも、レイプで有罪になれば 何年も刑務所で過ごす羽目になる男性側にとっては、とんでもない濡れ衣。
女学生が真相を明らかにせざるを得なくなったのは、逮捕されていなかった5人目の男性がセックスの様子を携帯ビデオに収めており、 このビデオを証拠に弁護士を通じて警察に連絡したのがきっかけ。 この事件は言動というよりウソが巻き起こしたスキャンダルであったけれど、真相が明らかになって釈放された男性は、 安堵する一方で、自分の名前をグーグルする度に 「レイピスト」と報じられた記録が出てくることが、就職などに 影響することを懸念しているのだった。
男性の1人は、「もし携帯ビデオが撮影されていなかったら刑務所から出てきた時は40歳になっているかもしれない」と語っているけれど、 いくら相手が合意していても 5人もの男性が一度に関係すれば、女性がレイプだと言った場合、誰にも真相を信じてもらえないのは当然のこと。 また例え合意でも、果たして それがモラル的に正しいかは賛否が分かれるところである。
更に、5人目の男性がセックスの様子をビデオに収めたことについても、この事件に関しては ”真実を立証する証拠” として使われたけれど、 こんな事件に発展しなかった場合、ビデオがインターネット上に出回って 女性のプライバシーを侵害する行為に 使われていたかもしれないのである。
いずれにしても、5人の男性と一度に関係したがる女性というのは、頭がまとも とは言いがたいので 「関わる男性側もそれなりのことは覚悟するべき」 というのが 大人の良識であるけれど、この事件の男性の年齢は全員20歳前後。 良識が身に付く以前の、セックスに飛びついてしまう年齢なのである。

この5つのケースで、自分の立場を考えた挙句 余計なウソを言うことにしたのが最後の女学生、 自分の知らない間に余計なことを言っていたのがキャスターのアー二ー・アナストス、 衝動的に余計なでしゃばり言動をしたのがカニエ・ウエスト、怒りが抑えられなくて暴言に出たのがセリーナ・ウィリアムスであるけれど、 「You Lie!」と怒鳴ったジョー・ウィルソン議員については 計画的に怒鳴ったのか、衝動的に怒鳴ったのかは本人のみが知るというケース。
でもいずれにしても、人間というのは口を開くことによってトラブルを招くもの。 「Silence is Golden / 沈黙は金」 というのは 本当に 納得の格言であるけれど、 金塊が簡単に手に入らないのと同様、沈黙も 時と場合によっては 非常に守るのが難しいものなのである。





Catch of the Week No. 2 Sep. : 9 月 第 2 週


Catch of the Week No. 1 Sep. : 9 月 第 1 週


Catch of the Week No. 5 Aug. : 8 月 第 5 週


Catch of the Week No. 4 Aug. : 8 月 第 4 週





執筆者プロフィール

秋山曜子。 東京生まれ。 成蹊大学法学部卒業。
丸の内のOL、バイヤー、マーケティング会社勤務を経て、1989年渡米。以来、マンハッタン在住。
FIT在学後、マガジン・エディター、フリーランス・ライター&リサーチャーを務めた後、1996年にパートナーと共に ヴァーチャル・ショッピング・ネットワーク / CUBE New Yorkをスタート。
その後、2000年に独立し、CUBE New York Inc.を設立。以来、同社代表を務める。





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